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空想垂れ流し MRS-D PHASE04『ファントムペイン』

MRS-D PHASE04『ファントムペイン』

『まだ、殺し足りないのか、アンタ達は!』
白熱し、刃を赤く染める高熱。
目前のライダーがシンに眼を向ける。突如として現れた新たな、自分たちとは違う姿のライダー。
銃を向ける。あの時と同じ。違うのはその手に持つ得物が以前よりも明らかに大仰になっている。向けられたグレネードランチャー、ミサイルランチャー。それらが咆哮し、一斉に火を吹いた。
火線は全てシンに向けられた。シンは咄嗟のことで反応出来ない。素人、訓練されていない人間ならば当然の反応。だがその反応は死を呼び込む死神の魔笛。
咄嗟に両の手を交差させ防御する。けれど遅すぎる。
シン・アスカは自分の迂闊に愕然とし、ルナはその迂闊に笑みを浮かべた。
爆発音と爆風と衝撃。
ところどころにクレーター状に陥没した穴。爆発の跡だ。
一人のウィンダムがそれで終わりだと、標的をそこから外した。それに倣い次々と照準を外し出すウィンダム。
だが、
《そんなもので傷つけられると思ってるの?》
軽やかなルナの声が響いた。ウィンダムが煙に向かった振り向いた。そして、爆発音と同時に煙が吹き飛ぶ。
『うおおおおお!!』
シンの叫び。跳躍し、二本の大剣を振りかぶり、並ぶ二体のウィンダムに向かって叩き付ける。技術など関係ない力任せの一撃。鉄球を叩きつけたような音と共にウィンダムが真っ二つになり、瞬間、爆発。
それを見て間合いの外のウィンダムが銃―--大型の重機関銃のような形のレーザーライフルを構える。
《危険よ、回避して!》
叫ぶルナ。シンはその叫びに応じて、横に転がるようにして跳躍。空気を焼き一筋の光がそこに飛来し、着弾、爆発。
《あれだけは当たらないようにして。幾らなんでも防ぎきれない。》
意識に直接語りかけてくるようなルナの声にシンは「ああ」と声を返し頷く。
シルエットシステム。前大戦で作られたライダーシステムの強化外骨格。走行中にルナから教えられたことはそのことについてだった。
ルナもシンと同じく改造人間であり、通常のライダーを強化・支援に特化した補助兵装なのだと。先程のベルトとPDAによって対象を特定し、用途に応じてその姿を変形させる状況対応に特化したライダー。前大戦の遺産である。
握り締めた二本の大剣を構える。身体中に漲る力。走るどころか翔ぶことすら出来るのではないかと誤解しそうなほどに身体中に力が漲る。
残存するウィンダムの数、5体。シンは足を動かし、走り出す。シルエットシステムが拘束強化した肉体が爆発的な加速を生み出す。
レーザーライフルを持ったウィンダムが構える。その数3。一斉射。光刃が煌く。
《シン!!》
ルナの声。シンの脳裏に『情報』が流れ込む。これも運転中に教えてもらったこと―――ルナの能力の一つである知識の共有である。
ルナの知る知識を任意に選択し、ルナが強化保護するライダーに譲渡する。ライダーはそれによって自身の知らない知識を自身のモノであるかの如く使用出来る。
説明や経験を必要としない習熟。それはシルエットシステムの核とも言える技術。
『分かった!!』
受け取った情報をシンは即座に理解し、使用する。先程と同じように横に跳躍、右手に持った大剣を左側に回し、叫ぶ。
『フラッシュエッジ!』
瞬間、大剣の刃が中ほどで折れ、変形。そのまま引き抜くようにして、ウィンダムに向かって投擲する。大剣はブーメランのような形になり、回転し、ウィンダムに向かって飛んで行く。
最も前衛にいたウィンダムにブーメランが激突。銃を巻き込み、ウィンダムは真っ二つになり吹き飛び、爆発。煙が上がる。
煙が辺りを覆い隠し、一瞬、シンの姿がウィンダムから見えなくなる。
その隙を突いてシンが突撃する。残った一本の大剣を振りかぶり、後衛のウィンダム二人の内、一人に叩きつけた。
爆発音と共にウィンダムは照準を合わせる間もなく、両断される。
残りは一体。シンは振り向き、そちらに顔を向ける――――だがもう一方のウィンダムは眼前で味方が倒されたことなど意に介さず、一歩引き冷静に照準を合わせ、シンに向けていた。
引き金が引かれる。
《避けて!!》
ルナの叫び。だが、間に合う訳もなく、瞬間光が煌いた。肩、太股、右腹部に着弾。弾ける痛みにシンが呻きと共に顔を歪め、膝を落とし・・・・・・無理矢理、握り締めた大剣に力を込める。倒れこむようにして、足を踏み出し、大剣を振り上げた。
『うおおおおおおおおお!!!』
痛みを叫びで覆い隠し、シンはそのまま力任せに降り抜く。その一撃は第2射を許すことなく、ウィンダムに大剣が叩き付けられた。
断ち切るのではなく、ただただ力任せに叩き付けるソレは剣というよりも鈍器―――ハンマーと言うべき使い方だ。
『はあっ、はあっ、はあっ!!!』
レーザーが当たった場所が痛い。ズキリと腹部が痛む。
《肋骨くらいは、いってるかも。大丈夫、シン?》
『く・・・・くそっ』
地面に跪くシン。シンが纏う装甲―――VPS装甲と呼ばれるその装甲は堅牢な装甲である。現行の技術では傷をつけることも難しいほどに。
ライダーシステム。とりわけオリジナルと呼ばれるライダーに装備された装甲はそれまでの技術とは一線を画していた。
PS装甲。電力を流すことで相転移を行い、それによって装甲の強度を大幅に増加すると言う特殊な装甲である。ヒヒイロカネと言う金属と鉄との合金である。ヒヒイロカネという金属については未だ未知の部分も多い。ブルーコスモスが作り出したとも囁かれているが、正確なところはわからない。
とにかくこの装甲に弱点というほどの弱点は無い―――強いて言うなら極端な熱量の増加に弱いと言うことくらいだ。
VPS装甲とはその亜種であり、電力の供給量を抑えつつも、部分部分の強度を上げることで全体としての強度低下を抑えた装甲である。故に先程のミサイルやグレネードに対しては圧倒的な防御力を誇る。ミサイルやグレネードのような面の衝撃ならば完全に防御し、損傷などしない―――だがレーザー等の収束された衝撃、そして熱量に対しては無力ではないにしろ、無敵ではない。
事実、レーザーが当たった箇所からは煙があがり、傍目にも損傷しているのが分かる。前述した弱点である極端な熱量の増加。それに当てはまる武装―――つまりレーザーライフルによる攻撃だからだろう。
息が荒い。ルナの見立てでは肋骨にヒビくらいは入っている。だが、それでも初陣でこれだけのウィンダムをものともせずに倒した。それは驚嘆に値する事実だ。そう、能力だけでいえばあの『フリーダム』や『ジャスティス』にも匹敵するかも知れない――――ルナがそう思い、労いの言葉をかけようとした、その時、声が響いた。よく通る声。
『流石に驚いた。まさか一人にここまでやられるとは』
シンと同じように拡声器越しのような声。
《誰!?》
『誰とは酷いな。今、君が壊した奴らの仲間だよ。』
レーザーライフルを持ったウィンダムがそこにいた。それまでのウィンダムと違い、紫を基調としたカラーリング。その後方に控えるのは3体のウィンダム。それぞれが手に持つ武器は肩に取り付けたミサイルランチャー、グレネードランチャー。
不味い。咄嗟にルナはそう思った。
通常なら紫のウィンダムが持つレーザーライフルだけを注意していれば良い。他の装備など物の数ではないことは先程の一戦で証明済みだ。・・・・・だが、それでも今は不味い。装甲が損傷している。現状、もう一発でも同じ箇所に喰らえば致命傷を負いかねない。ただでさえ、シンは現在負傷している。下手を打てば死ぬことになりかねない。
緊張が空間を包み込む。シンは大剣の柄を握り締め、力を込める。奥歯を噛み締め、敵を注視する。
『行け。』
紫のウィンダムの言葉が沈黙を破る。それを合図にミサイルが放たれた。続いてグレネード。爆発が起き、煙が舞い上がる。
『うわおおおおお!!!』
先手必勝。シンは紫のウィンダムに向かって、駆け抜ける。
《馬鹿、そんな不用意に突っ込んだら・・・・!!》
ルナの叱責などもはや耳に入っていない。残された大剣を振りかぶり、シンが紫のウィンダムに迫る―――だが、それを嘲笑うようにウィンダムが後方に跳躍。跳躍しながらレーザーライフルの照準を合わせ、発射。身体を捻り、紙一重でそれを避けるシン。もう一度、近づこうと体勢を整え―――そこを襲う衝撃。そちらを振り向けば、無視したミサイルランチャーを装備したウィンダムが構えているのが見える。
『くそっ!!ちょこまか・・・・』
《シン、前!!》
その隙を逃さず、紫のウィンダムがレーザーライフルを放つ。咄嗟に尻餅をつくようにして倒れ込むようにしてそれを避ける。そこを今度はグレネードが襲う。
『か、はっ!?』
吹き飛ばされるシン。腹部を庇うようにして、痛みを堪え立ち上がる。幾ら装甲に対して問題ないと言っても衝撃はある。それも先程までならば防げていたが、負傷しているシンには堪え難い痛みをなって襲い来る。
近づかず、近づけさせず、一定の距離を保ちながら攻撃を加え続ける。嬲り殺しと言ってもいい戦法。だが、多対一では最も効果的な戦法でもある。
『確かに装甲は硬いし、一撃の威力も強い。けど近づかなけりゃ関係ないだろう?』
軽い口調で紫のウィンダムはレーザーライフルを発射し続ける。その合間を縫うように降り注ぐグレネードとミサイルの雨。
ジリ貧の展開。致命的な一撃は未だ喰らってはいない。けれど・・・それもいつまで保つか。紫のウィンダムに近寄ろうとすればグレネードとミサイルが降り注ぎ、逆にその他のウィンダムに狙いを付ければ、レーザーライフルが襲いかかる。手元にある大剣は一本のみ。ブーメランとして使ってしまえば丸腰になってしまう。それ以前に当たるかどうかは定かではない。
『くそ!!何だってんだよ!!』
焦燥に駆られたシンの声。ルナは思考する。どうすれば良いか。
手はあるのだ。シンには言っていないがもう一つだけ晒していない一手はある。だが、それはエネルギーの消費が大きい大技。当たれば形成の逆転も可能だ―――だが、裏を返せば、外したら絶体絶命に陥ると言うことを意味する。
どちらにせよ、今のままではいつか死ぬ。つまりは切っ掛けが必要だった。この均衡を破る切っ掛けが。
『だったら!』
シンが覚悟を決めて、敵に突っ込もうとする。
《だから、不用意に突っ込むのは・・・》
『援護する。』
聞き慣れた声が脳裏に響く。同時にウィンダムの一体が爆発四散する。上空からミサイルの雨が降り注ぐ。同時にけたたましい破裂音。何事かとそちらを向くシン。そこには白い装甲に赤い一つ眼が特徴的なライダーが巨大な銃を持ち、構えていた。銃と肩に取り付けられた小型のミサイルランチャーからは白煙が上り、今の攻撃の主がそのライダーだとシンに理解させる。
《レイ!》
『レイ!?』
『ちっ、新手か?』
一体破壊されたことで包囲が一瞬途切れる。均衡が崩れた。
《シン、今よ!》
再びルナからシンへと『情報』が流れ込み、展開する。
シンの右手の大剣が赤く輝く。大剣を両の手で持ち、シンは『情報』で理解した通りに叫ぶ。
『エクスカリバー!!』
叫びと共に走る赤い稲妻。稲妻は投擲したもう一方の大剣からも発生。二筋の赤雷が結びつき、二本の大剣を結び付けた。投擲した大剣の柄と握り締めた大剣の刃が赤い稲妻によって結びつき、正に一本の巨大な剣のような姿を形成。シンはそれを両の手で握り締め、振り被り、
『・・・・行けえええ!!』
叫びと共に剣を降り抜く。
一閃。軌跡が赤い円を描く。紫のウィンダムを除いた二体が赤い軌跡に断ち切られ爆発した。紫のウィンダムだけはシンの一撃よりも一瞬早く飛び退き、回避していた。
『くそっ、全滅かよっ!?』
毒づき、後方に跳躍。
『仕方ない、撤退する!』
そう、言って紫のウィンダムの腰からミサイルが発射される。まるで狙いをつけないただ撤退する為だけの射撃。
シンは大剣を盾にして防御。レイも同じく盾を前面にかざして爆風と破片から身を守る。
・・・・気がつけば、そこには既に誰もいない。
『逃げられた・・・?』
呟き、膝を付くシン。初めての実戦。初めての戦い。何もかもが初めて尽くしの中、シンの体力は既に底をついている。
『そのようだな。』
レイが装着したライダーシステム―――ザクファントムの内部のレーダーには何の反応も無い。逃げられたのは間違いないだろう。
《被害は無し。死人もいない。・・・・正直捕まえられなかったのは少し痛いけど、上々の成果よ、シン。》
『そ、そっか。よかった・・・誰も、死な、なく、て』
呟き、限界を迎えたのか、前のめりに倒れこむシン。
大剣とシンの身体が光に包まれる。光はシンの直ぐ傍に集まり、回転しながら人型を形成し・・・・一際強く輝き、そこにルナが現れた。
「ホント、初めてなのに良く頑張ったわよ。」
労うようにシンの頭を撫でるルナ。けれどその呟きはシンには届かず―――シンの瞳は既に閉じ、眠りに落ちている。
レイも変身を解き、PDAを取り出し、本部に連絡する。
「レイ・ザ・バレルです。戦闘の終了を確認しました。」
「分かったわ。後の始末はこちらに任せて、貴方達は帰還してちょうだい。」
「了解しました。」
通信を切る。
レイはルナに通信の内容を伝え、気絶したシンを無理矢理ルナのバイクに乗せ、自身もそこを後にする。
空はいつの間にか赤みがかっていた。

結局敵の狙いは判明しなかった。
何がしたかったのか。何を求めてそこに来たのか。
ウィンダムと呼ばれたライダー達。そして指揮官であろう紫のウィンダム。ただの破壊にしては部隊の規模が大きく、目的があるとするなら見えてこない。何故わざわざ墓地を選んだのか?
「本当に何でなんだろうね。」
そう言ってルナはパスタにフォークを絡ませ口に運ぶ。
ここは喫茶赤福。あの後三人は帰還し、幾つかのチェックを受け、夕飯をここで食べていた。
ちなみにメニューはルナが特盛ミートソーススパゲッティ二人前、シンがチャーシューメン、レイが掛け蕎麦である。
何故ルナが一人で二人分食べているのかは謎だが、ルナ曰く「育ち盛り」だかららしい。もはや育ち盛りというレベルをはるかに超えているような気がするのはシンだけではないだろう・・・・一瞬だけだったが運ばれてきた特盛スパゲッティ二人前を見てレイも顔をしかめていたのだから。というか親の仇のようにかける粉チーズを見て、流石にシンも気分が悪くなり、胸やけにしそうなる。
「・・・・・・」
そちらから顔を外し、シンはなるべくルナの方を見ないようにしながら―――というよりもチャーシューメンに意識を集中しながらルナに話しかける。
「・・・・・・け、けど、この店って変わってるよな。どうしてこんなにメニューがあるんだ?」
それは先程からのシンが抱いた素直な思いである。
あの後目が覚めてここに連れて来られて、夕飯をご馳走しようと言われた。一人暮らしをするシンにとってそれを断る理由は無い。むしろ嬉しいくらいの申し出だった。
そして三人でカウンターに―――ルナを挟んでレイとシンは対面するように―――座り、目の前のメニューに手をかけ、そして―――メニューを見た瞬間、シンは驚いた。
まず目に付いたのはサンドイッチ、クラブハウスサンド、スパゲッティ、ドリア、ピラフ、紅茶、コーヒー・・・・それは良い。そこまでは良い。
だがそれに続くメニューがおかしいのだ。
まずは中華。
ラーメン、チャーシューメン、タンメン、味噌ラーメン、塩ラーメン、エビチリ、餃子、炒飯、シュウマイ。
続いて和食。
親子丼、カツ丼、掛け蕎麦、天ぷら蕎麦、山菜蕎麦、果ては炊き込みご飯、焼き魚定食、煮魚定食、刺身定食まで完備してある。
更にはチキンのオレンジソース、蕎麦粉のクレープなどどう考えても喫茶店においてあるような料理ではないものが多数。
更には甘味に進み、お汁粉、パフェ、ティラミス、羊羹、ザッハトルデ、アップルパイなどなど。飲み物に至っては、オレンジジュース、アップルジュース、メロンソーダなどの定番から、烏龍茶、アイスティー、ロシアンティーなどなど。そして最後はココナッツミルクに終わると言う品揃えである。節操が無いにも程がある。
「別にいいじゃない。美味しいんだから。」
「そ、そういうもんか?」
「そうよ。」
言ってルナは再びスパゲッティに口を付け出した。気がつけばいつの間にか半分は一皿空になっている。
悪い夢でも見てるのかもしれない。シンはそう思い、ラーメンを啜った。
「・・・・・」
確かに美味い。下手なラーメン屋よりも美味いラーメンを出す喫茶店。かと言って値段が高い訳でもなくむしろ安い―――案外とこれは穴場なのかもしれない。
隣を見れば、レイが蕎麦を啜っている・・・いや、既に食い終わりそうになっている。
「・・・・くっ!」
シンは急いでラーメンに箸をつける。
――――負けるか。
子供じみた、いつものやり取りが始まった。
ルナは横でそんな二人を見つめていた。男の子って馬鹿だなあと思いつつ、ほほえましい顔でスパゲッティをもしゃもしゃと貪りながら。
結局、既に食べ終わりそうになっていたレイに、シンが追いつくはずもなく、シンは口内を火傷だらけにして惨敗。人知れず始まった二人の勝負は人知れずレイの勝利で幕を閉じる。
閑話休題。夕食を食い終わり、席を立とうとするシンにデュランダルが声をかける。
「明日からは放課後は必ずここに集合しなさい。いいかね?」
「あ、はい。分かりました。」
デュランダルの言葉に頷くシン。シン自身は部活動をやっている訳でもない上に一人暮らし―――自身の保護者であるトダカさんはいつも出張でいない―――ので構わないのだが・・・・問題はメイリン―――いつも一緒に帰っている幼馴染にどう説明するのか。
考えると少しだけ憂鬱になる。それにヨウランのこともある。
明日、学校での雰囲気を考えると陰鬱になる―――それはシンも例外ではなく。
「・・・・じゃ、俺帰ります。お疲れ様でした。」
頭を下げて一礼。ドアに手を掛け、出ようとするシン。
そこにルナが何かを思い出したように呟いた。
「あ、ちょっと!」
「・・・・・何だよ、ルナ。」
「何かあったら直ぐに連絡入れること。それで・・・・これが私の連絡先。」
手近にあったメモ用紙にすらすらと番号を記入し、シンに渡す。
「どこに行く時もさっき渡したPDA持って行きなさいよ?」
「分かった。」
「あと一人じゃ絶対戦わないこと。分かってると思うけど。」
「・・・・分かってる。」
頷くシン。今日の戦い。あれは殆どルナと・・・そしてシンにしてみれば不本意だがレイ、この二人のおかげで勝利できたようなものだと、シン自身、身に染みている。
ルナがいなければ戦うことすら出来なかった。レイがいなければ恐らく死んでいた。
それが分からないほどに増長出来るほどシン・アスカは傲慢ではなかった。
神妙な面持ちのシン。ルナは気にせずに続ける。
「あと私も明日から学校に行くからよろしく。」
「は!?いや・・・・何ソレ聞いてないんだけど。」
「何よ、文句あるの?学校で襲われても、シン一人じゃどうしようもないでしょ?」
確かにそうだ、とシンは思った。
以前も学校の帰り道で襲撃だったのだ。学校に襲撃してこないとは限らない。
「い、いきなりだな。」
「仕方ないじゃない。あなたが私のパートナーになるってことも急遽決まったんだからさ。学校でもよろしくね?」
そう言って、ルナが手を差し出してくる。
「・・・・・ああ、よろしくな。」
その手を握り締めて、シンは自分が踏み込んだことを実感した。
いきなりの学校への転入など一介の一般人がおいそれと出来る訳が無い。こんな喫茶店が本部というあたり胡散臭さを感じていたが―――こうやって事実を見せられることで実感がそれを埋めていく。
自分は戦いの渦中に飛び込んだのだと。

二人の話し合いの後ろ、デュランダルが神妙な顔をして液晶を見つめている。
「墓地・・・か。一体、彼らは何をする為に現れたんだろうね。」
現れたウィンダム。その目的。墓地に一体何があったのか。記録ではあの周辺に価値のあるようなモノは何も無い。
つまり無作為な破壊工作ということになる。・・・・・だが、それにしてはあまりに意味が無い場所である。
「・・・・・・破壊以外の目的があると言うことか。だが、それは何だ?」
紫色のウィンダムの映像を見ながら、デュランダルは呟いた。そこにピピピと味も素っ気も無い着信音が響く。それはデュランダルの胸の内から響いている。
懐から携帯を取り出す。液晶に映った名前を見て、デュランダルは思わず微笑みながら通話ボタンを押した。
「もしもし。久しぶりだな、ハイネ。その後首尾はどうかな?」
「予定していたモノは全て滞りなく。支部長こそ相変わらずお元気そうで何よりです」
聞こえてくる声。もう、随分と任務に出ている部下の声だ。
「はは、ありがとうハイネ。では、もう直ぐ戻ってくるのかね?」
「ええ、近々」
「そうか。では楽しみにしているよ。その後、音楽の方はどうだね?」
電話の相手はその言葉を聴いて、嬉しいのか、いきなり声が大きくなった。
「そう、それなんですがね、支部長!実はこの間俺の歌をCDで出したいって言う人が現れて、自費出版の音楽版とかなんとかで、もう既に契約も交わしちゃって!いやーもしかしたら俺もとうとうトップミュージシャンの道に進むことになりそうな気がしてですね!実はもう一万枚くらい既に作ったんですよ、印税ってやっぱり凄いんですかね!?・・・・・あれ、支部長?支部長ーーー?」
電話を切る。
デュランダルは頭の手拭いを外しため息一つ、呟いた。
「・・・・それ騙されてるぞ、ハイネ。」
詐欺とは怖いものだ。デュランダルはそう思いお茶をすする。
月がやけに綺麗に輝いていた。

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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
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