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空想垂れ流し MRS-D PHASE03『ZAFT』

MRS-D PHASE03『ZAFT』

 5年前のことだ。
 5年前といえば第3次世界大戦の真っ最中。
 人の命が羽のように軽く、路傍の石のように簡単に弾け飛んでいった時代。
 オーブは最後の最後まで戦争には参加しようとしなかった。だが、その結果としてユーラシア連合に攻撃され、オーブは戦火に見舞われた。
 幸いにも俺のいた地域はそれほど酷い戦災には巻き込まれず(それでも生活の制限等は行われ、毎日空襲に怯えていたのだが)、戦争は終結。
 ユーラシア連合はオーブ軍の二枚刃であるフリーダムとジャスティスを初めとするライダー部隊の力で撤退した。
 そうして世界が平和に向こうとした矢先、突如俺たちが住んでいた地域を奴らが襲撃した。戦争が終わった時分のことだ。皆、緊張感が抜け安堵していたからかもしれない。
 何にしても俺たちはその正体不明のライダー達に襲撃された。
 何人も死んだ。俺の家族も、メイリンの家族も、ヨウランの家族も。そしてもう一人の幼馴染ヴィーノの家族も。
 俺たちは皆、家族が盾になってくれて逃げ延びた。けれど無傷という訳にはいかず、皆、怪我をしていた。特に俺の怪我は酷かった。火傷と全身の打撲。意識があったのが奇跡なくらいだった。
 きっと助からない。自分達はそう思った。助かることは無い。ここで死ぬ。それが現実だった。
 そこに赤いライダーが現れた。新たな敵の出現に俺たちは絶望に打ちひしがれ、この世界の不条理を憎んだ。何故ならそのライダーはそれまでのライダーよりもはるかに恐ろしい外見をしていたからだ。
 赤い艶めいた甲殻。全身から生えた何十という刃。地獄の赤鬼。そんなフレーズが浮かぶ姿。
 だが赤鬼は怯える俺達に眼もくれず、こちらを狙うライダー達との間で立ち止まった。沈黙が辺りを支配する。赤鬼とライダー達の間に空気が凍るような緊張が走り抜ける。
 赤鬼が身体に生えた刃を引き抜き、それは程なくして赤い棒のような―――太鼓を叩く撥のような姿に変化する。鬼の身体が赤く発光する。全身を覆う刃が輝き、鬼の身体から抜き放たれ空中に浮遊する。
 それは鬼の身体の至る所で起こり、数瞬で周囲を覆う刃の数は数十を超え、その数は数百、数千へと。
 だが鬼の身体の刃の数が減ることは無い、何故なら引き抜かれては生え、引き抜かれては生え、果てなど無い無限の刃の如く、鬼の身体から発生する刃は途切れない。そして鬼が撥を振り抜いた。
 刃が、輝く。無数の、空気を切り裂き疾空する刃。無限の刃は数十のライダーに降り注ぎ、一瞬で屠り尽くした。
 残された青いライダーの刃金が輝き、後方に生み出される夥しい数のガラス細工のような剣。だが、それは剣ではない。刃の頂点に四角い穴が開いた剣など存在しない。穴とは出入りを行う為に作られるモノであり、つまり、それは砲身。剣のような形状の砲身だ。
 砲身が輝いた。閃光。爆発。自分達は何が起こったのかも把握出来なかった。怯えて何も出来なかった。けれど閃光は赤い鬼だけではなく、自分達までもを巻き込んで殺そうとしたに違いない。 白い光。あの前で自分達は一瞬で死ぬ。耐えることなど出来るはずが無い。そう思った。
 だが、爆発もそれによって発生した飛礫も、爆風でさえ、自分達には届かなかった。無限の刃が陣を組んで盾となり自分達を守っていた。
「キラ・・・・お前は・・・!!」
「アァァァスラァン!!!」
 激突する赤と青。無限の砲撃と無限の剣。戦いは苛烈を極めた。
 だが、最後に立っていたのは赤い鬼。赤鬼はその姿を人に変え―――そこで赤鬼もライダーなのだと知った―――どこかに連絡するとその場を直ぐに去っていった。


 俺たちはその後、軍に保護され、適切な処置を受け、傷を癒した。俺は唯一の重傷者だったので一人だけ退院が長引いた。その間に皆、一人また一人と引き取られていった。
その後、俺は軍に入りあの青いライダーへの復讐を誓っていた・・・のだが俺の保護者であるトダカと言う人がそれを絶対に許してくれず、俺は学校に入学することになる。
 ヨウランやメイリンとは学校で再会した。二人とも新しい家族とは上手くやっていけていると言っていた。
 その後復讐のチャンスは訪れなかったけれど、楽しい学校生活を送ることが出来た。そして、今に至る。復讐なんてくだらないことだ、と。思い続けて、もう五年。けれど胸に残るしこりはいつまでも消えない。
 自分は本当にこれでいいのだろうか。もっと自分には出来ることがあるんじゃないだろうか。そう、ずっと思い続けていた。あの日の赤鬼の背中。今もそれが眼に焼きついて離れない――――




 気が付けば、そこはどこかの部屋だった。
「ここ、は・・?」
 シン・アスカの横たわっていた場所。保健室のような―――暫しの黙考、そこが医務室だと理解する。自分がどうしてこんなところにいるのか怪訝に思いつつも、シンは立ち上がろうとベッドの布団をどかす。自分では着た記憶は無い―――つまりは誰かに着せられた服だろうか。それはどこか病人が着るような服をイメージさせる。
 とりあえず、ここにいても仕方が無い―――そう思って立ち上がった瞬間、胸に激痛が走った。
「・・・・な・・・!?」
 痛みは直ぐに―――僅かに一瞬ほどで治まった。だが、胸の辺りに生まれた疼きが生まれた。熱い、そして違和感。シンは上着を脱ぎ、部屋の中に据えつけられていた洗面台の鏡の前に立つ。
「何だよ、これ・・・?」
 シャツの中、自分の胸の中心に生まれた赤い痣を見つける。その痣をなぞる・・・まるで何かの傷痕のような――その姿はどこか植物の種子を連想させる痣。
「・・・・・そうだ、俺は」
 記憶を呼び起こす。自分はここに来る前、何をしていたのだろうか。自分は―――
 沸き起こるフラッシュバック。
 胸に突き刺さる剣。燃え盛る灼熱の怒り。霞がかった、どこか自分のものではないような記憶。夢のような感覚。自分は殺された。ライダーに殺された。そして、自分は、
「なんで俺は生きてるんだ・・・?」
 そこから先の記憶が無い。何も思い出せない。ぷっつりとその部分だけを切り取られたように記憶が無い。コンコンとドアを叩く音。
「・・・・はい?」
 がちゃりとドアが開く。
「こんにちは、よく眠れた?」
 入ってきたのは赤毛の少女。赤い制服。肩に「ZAFT」と書かれた腕章が付いている。
 髪が肩に届かない程度に短く切り揃えたショートカット。それは、あの日、死んだはずのメイリンの姉。ルナマリア・ホーク。
「ルナ、姉・・・・?」
 そっくりと言うレベルではなかった。少なくともシンの記憶に残る彼女と瓜二つ。その瞳も、その髪も、その声も。何もかもが。
「あ、私のこと知ってるんだ?誰か、ここに来てったの?」
 要領を得ない問答。シンはさっき起きたばかりで誰かに会うなどあるはずがない。シンはそこで思い返す。自分がルナマリアと最後に出会ったのはもう5年も前の話。もし、彼女が生きているとしてもその頃と同じ姿のはずが無い。それに―――自分は見たはずだ。
 彼女の、ルナ姉の死ぬ姿を。死骸を前にメイリン、ヨウランと共に涙を流した。あの涙は、今でも記憶に残っている。焼きついている。だから、違う。目の前のこの女性は自分の知るルナマリア・ホークとは違う、ただ似ているだけの人に過ぎない。
(――ヨウラン、メイリン・・・・?)
 自身が心中で呟いた言葉で気付く。自分が失念していたことを。慌てて、少女の肩を掴み、問いかける。
「ほ、他の奴らはどうなったんですか!?メイリンは!ヨウランは!!皆生きてるんですか!?」
 その問いに少女は沈痛な面持ちで返す。
「・・・・ごめんなさい。まだ何も分かってないの。」
「そ・・・そう、ですか。」
 その言葉に落胆し、シンはうな垂れベッドに腰掛ける。メイリンとヨウランはどうなったのか。無事だったのか、それとも・・・シンはその考えを振り払いつつも、不安で胸が押しつぶされそうだった。
 沈黙が場に立ち込める、およそ3分ほど。うな垂れるシンに赤毛の少女が言葉を掛ける―――沈黙に耐えられなかったのだろう。
「私のことルナ姉って言ってたけど・・・・あれって何のこと?」
 シンは顔を上げて少女に呟く。
「あ、いえ、昔の知り合いとそっくりだったから。だから、その人が生きてたのかと思って、驚いて。」
「生きてた?」
「ええ、もう・・・・あの戦争で死んでしまったから。」
 シンはそう言って、起き上がろうとする。兎にも角にもこのままでは何にもならない。そう、思い、身体に力を込め立ち上がる。
「・・・く、」
 頬を歪め、シンの動きが止まる。再び胸に激痛。思わず呼吸すら忘れるほど。けれどその痛みを堪える。きっと直ぐに終わる。さっきと同じく直ぐに終わると。
 だが
「だ、大丈夫?」
 収まらない痛み。脂汗すら流し、顔を硬くするシンに少女は声をかける。少しずつ少しずつ痛みの波は小さくなっていく。
「だ、大丈夫です。大丈夫・・・・」
 そう呟いて立ち上がろうとした瞬間、再び激痛。シンの身体から力が抜け、彼の前に立つ少女に向かって倒れこむ。
 倒れこむシンを慌てて少女は抱きかかえるようして支える―――だが少女の腕力ではシンを支えることなど出来ず、二人して倒れこんでしまう。
「あ・・・いって」
「いたた、ほら言ったじゃない、大丈夫かって・・・・・って」
「す、すいません・・・・あれ?」
 彼が顔を上げるとそこには、青と白のストライプが―――ちょっと皺も寄ってる。
 マジマジと見つめてしまう―――股間と。
「ちょ、どこに顔突っ込んでるのよ!!」
 シンは倒れこんだ勢いそのままに少女を押し倒し、あまつさえ少女のスカートの中に顔をうずめてしまっていた。
「え、あ、え?」
 状況が分からず―――と言うよりも慌てふためいて、シンは顔を上げようとする―――がスカートが邪魔して顔が上がらない。一度顔を下げれば良いと言うのに、慌てふためいたシンはそのまま無理矢理に顔を上げようとする。
「顔をグリグリ、動かすなあ!!」
 スカートを押さえつけ、シンの動きを止めようとする赤毛の少女。気付いていないが確実にそちらの方がスカートの中はのぞかれ放題である。シンの心は目前にある初めて見た生のパンツと女性のスカートの中と言う神秘の密閉空間での息苦しさから、思春期にありがちな思考―――俗に言うピンク妄想すら通り越し、混沌の極みに達していた。
「す、すいません!俺は、別に・・・・」
「どこに向かって謝ってるのよぉ!」
 パンツに向かって謝っているようなシンに向かって少女は泣きそうな声を上げる。彼女にしてみれば殆ど痴漢だ。いや、痴漢より性質が悪い・・・・そう少女が思った瞬間、がちゃりとドアを開ける音。
「ルナ、奴は起き・・・・」
 そこに入ってきたのは少年だった。流れる長く美しい金髪。眉目秀麗とはこのことか、と思いたくなるほどの美少年。美少年は目前で繰り広げられる競演に眼を向ける・・・・・そして凍結。
 彼の瞳は海よりも深く、そう何かを悟ったような輝きを発して、回れ右をして踵を返す。何故か靴のカカトの部分が回れ右をする際にカツン!と音を立ててやけに格好良い。
 ルナと呼ばれた少女は呆けたようにソレを見つめ、シンはシンでようやくスカートの中から顔を出し、顔を真っ赤にして呼吸を行う。押さえつけられていた為かやけに苦しそうだった。
 振り返りもせずに美少年が呟く。
「気にするな。俺は気にしない。」
それはシンにとって聞き慣れた声。シンが顔を上げる。そこには、
「恋愛は自由だ。いつ、どこで睦み合おうとも俺は気にしない。」
 レイ・ザ・バレル。彼がそこにいた。
「ちょっと、何勘違いしてるのよ、レイ!!」
「何でお前がここにいるんだよ、レイ!!」
 二人同時に叫ぶ。それほど広くも無い部屋で二人揃って大声を上げれば、普通は耳でも塞ぎたくなるものだが、レイはそんなことを意にも介さず、また振り返りもせず呟く。
 そう言ってレイはドアを開けようと手を掛けたところで立ち止まる。
「・・・避妊はしておけよ。」
 呟き、ドアを開けてレイは部屋から出て行く。
「だから話を聞けよ!」
「だから、誤解だって言ったでしょ!?どうして私がこんな子供相手に・・・・」
 同時に叫び、そして同時に顔を互いに向けいがみ合うシンとルナ。シンは既に痛みが無いのか、先程のようなそぶりはまるで見られない。
「誰が子供だ!」
「あんたがいきなり人のスカートに頭突っ込むのが悪いんでしょ!?」
「子供なのはそっちだろう!?あんな青と白の縞パン履いてる奴が言うな!」
「し、縞・・・・く、熊さんパンツでもないのになんてこと言ってんのよ!もう、最悪よ、この痴漢魔!!」
「ち、痴漢魔?」
「大体いつまで私の上にのしかかってるつもりなのよ、早くどきなさいよ!」
 そう言ってルナがミノムシのように身体を動かし、シンから逃れようとする。その動きでシンの身体のバランスが崩れる。
「ちょ、そんな動かすなと!?」
 むにゅ、という擬音を立てて、シンの右手が誘い込まれるようにルナのパンツの触れる―――正にそこは秘密の花園。
 自身の右手をその場からすぐさま引き抜く。
 何か、何か危うい。何が、どう危ういのかは分からないが確実に危険だ。シンの心が、身体が、理性が、本能が、警鐘を鳴らす。
 逃げろと。
「ち、違う!誤解だ!!俺は別にアンタにそんなことをしようなんて、これっぽっちも・・・・」
 愚かにもシンはそこで弁解を始める。大振りなジェスチャーを交えて、自分は違う。誤解だと。だが、
「・・・・・こ、」 
 ルナにそんなことは関係ない。乙女の純情は苛烈なのだ。その苛烈さの前では弁明などまるで無意味。
 無言でルナの右足が跳ね上がる。それは絞られた弦の如く、限界まで張り詰め放たれた矢の如き蹴り。それは、シンの顔面に正確に迫り―――
「この痴漢魔が――――!!!」
 顎を貫いた。
「ごべらっ!?」
 顎を中心に脳を局所的に揺らされ、シンの意識は断絶する。意識を途絶する瞬間シンの視界に映ったもの。それは青と白のストライプ。やはり縞パンだった。
 金的じゃ無いだけマシかもしれない―――そんな的外れの思考が浮かんで消えた。

 数時間後、シンはどこかの喫茶店のような場所に通された。
 あの後、シンはルナと呼ばれていた少女に顎を蹴り抜かれ、シンは意識を途絶。慌てたルナが助けを求め、シンは諸々の検査や処置を受け、それが終わったのは約3時間後。
 その後、シンはルナにこの場所に案内された。
 あたりを見渡せば幾つかのテーブルと壁で仕切られた奥には台所。奥には座布団が敷かれた座敷。
 全体的な内装が全て日本風―――極東にあった小国家だ―――で統一されている。
 どことなく、というよりも、何と言うかこれは俗にいう甘味処では無いのだろうか、とシンは思っていた。
 正直な話、招かれた部屋が意外すぎる場所だったことにシンは驚きを隠せなかった。そしてそれは目の前に現れた男が更に予想外の格好をしていたことにも起因する。
「はじめまして、シン・アスカ君。よく眠れたかね?」
 柔和な微笑みとウェーブがかった長い黒髪。手拭いで髪を纏め、作務衣を着こなすその姿は正にどこぞの職人そのもの。手元には茶碗と湯のみを乗せたお盆を持っている。
「・・・・」
 本当はルナの一撃に対する恨み言の一つでも言ってやろうかとも思っていたが、眼前の作務衣姿の男を見て、そんな気は無くなった。
 意味が分からない。何故、作務衣なのか。何故甘味処なのか。そして―――それがどうしても先程までいた施設と結びつかない。
 困惑するシンを余所に男は柔和な笑いを浮かべながら口を開く。
「ははっ、元気そうで何よりだ。」
 男は手に持っていたお盆から茶碗と湯のみをシンの前に差し出し、自身もその前に座りこみ、頭部にかけたままの手拭いを取り去り、長い黒髪が露になる。
「私の名はギルバート・デュランダル。この店の店長であり・・・それ以外のことはおいおい話そう。甘いものは大丈夫かな?」
「・・・・・」
 座敷の座布団の上で差し出されたお汁粉とお茶を見つめるシンにデュランダルは微笑しながら話しかける。
「ああ、毒など入っていないから安心したまえ。それにお汁粉は私の自信作でね。これは中々のものだと思っている。ご婦人方の反応も良く、この店の看板メニューになりつつある。よければ食べてくれたまえ。」
「・・・・はあ。」
 実際シンも空腹なことは確かだった。何しろ、起きてから何も口にしていない。
 手を合わせ「いただきます」と呟き、お汁粉に口を付ける―――汁を飲み・・・そしてシンは絶句する。
旨いのだ。思いのほか、ではない。圧倒的に。
 重厚な甘味。それでいて爽やかな後口。
 中に入っているのは餅ではなく・・・・プチプチとした不思議な感触。それが刺激となり全体の味を引き締める効果になっている。
「美味い・・・これ、何が入ってるんですか?」
「そう言ってくれるとこちらとしても嬉しい。中に入っているのはタピオカだ。中々良い食感だろう?さあ、熱い内に召し上がってくれたまえ。」
「そ、そうですね。」
 答え、シンは目前の汁粉に熱中する。汁を啜る。透明な球状の物体を口に含む。
 プチプチとした食感が舌の上で踊り、餡の甘さを引き締め、絶妙のハーモニーを醸し出す。
 一心不乱に食すシン。物の数分で彼は平らげる。
「・・・ふう」
 空腹が多少なりとも満たされたからか、先程までの苛々はもう消えていた。
 お茶を冷ましながら飲み、シンは覚悟を決めたように、デュランダルに顔を向ける。
「・・・・一つ、教えてもらえますか。」
「何かね?」
「俺と同じ学校、同じクラスのメイリン・ホークとヨウラン・ケント。この二人の無事は確認されたんですか?」
 先程ルナと言う少女に聞いたことと同じ質問。あの時はまだ分からないと言われた。
 だが、あれから既にかなりの時間が経過している。恐らく、結果はどうあれ既に判明しているはずだ。
「メイリン・ホークについては確認されている。彼女はこちらで保護し、既に親元に帰している。だが・・・・ヨウランと言う少年については確認されていない。恐らくは・・・・」
「・・・・そうですか。」
 半ば分かっていたことだっただけに、シンにも覚悟は出来ていた。出来ていたが、それでもそうやって聞いて、シンは実感する。ヨウランは死んだのだと言うことを。
 うな垂れるシン。毀れそうになる涙を歯を食いしばって堪えている。
 デュランダルは何も言わず、俯いたシンを見つめ続ける。暫しの沈黙。
 シンが口を開いた。瞳は涙で滲むも、毀れてはいない。
「・・・・もう一つ。あなた達は何者なんですか。」
 そんなシンにデュランダルは声を掛ける。あくまでも柔和な口調を崩すことは無い。
「・・・・君はブルーコスモスと言うのを聞いた事はあるかね?」
「・・・前の戦争を裏から糸引いてたって噂は聞いたことあります・・・それが何か?」
 けれどそれは噂だ。この時代、そんな世迷言を誰が信じるだろうか?階段と同じ類の妄想に過ぎない。シンも、そして彼の周りの誰もがそう思っている。
 だが、デュランダルは真剣な眼差しでシンに呟いた。
「もし、それが真実だとしたら?」
「え?」
「もし、この世界が少数の人間の上で踊らされている盤上に過ぎないとしたら?軍産複合体が世界を裏から牛耳り、戦争を起こし、私服を肥やす。そうだな。眉唾物だ。今時三流小説でもそんなことは書かない・・・・だが、それがもし真実だとしたら――――君はどうする?」
「・・・・ば、馬鹿じゃないんですか!?そんなことある訳無いでしょう!?」
「・・・・・これを見たまえ。」
 備え付けられた液晶型テレビのスイッチを入れる。和風で古めかしい店内の中でそのテレビだけが異彩を放っている。
 映し出された映像は・・・・自分達を襲ったあのライダー達だった。
「こいつら、あの時の。」
「君を襲ったあのライダー・・・あれはファントムペインと呼ばれるブルーコスモスの遺産を継ぎし者であり、ライダーは『ウィンダム』と呼ばれるタイプだ。そしてこれが」
 端末を操作し、画面が変わる。そこには別のライダーが映っている。シン、そしてこの世界にとって 忘れることの出来ないその姿。世界を蹂躙した機械仕掛けの悪魔。
 全身に張り詰められた白い装甲。頭部は味も素っ気も無いバイザーのような仮面。
「ダガー・・・・」
「そう、ブルーコスモスが主力とし、世界中を荒らしまわったライダー・・・・君も良く知る『ダガー』だ。」
 その二つは確かによく似ていた。全身のフォルムは基本的に同じ。ダガーを細く、鋭角的なデザインにリファインしたもの―――それがウィンダム。確かにそう言われれば納得してしまいそうなほど両者のデザインは似通っている。
「だ、だけどそれだけでそんなこと・・・」
「そうだ。これだけで決定付けるようなら、稀代の妄想家だ。しかし、だ。」
 デュランダルはそこで一息置き、続ける。
「ライダーシステムとは基本的にもう存在しないものだ。ユニウス条約によってね。」
 ユニウス条約―――第3次世界大戦後に作られた条約。
 細かい条文は多くあるが基本的には以下のことを述べている。ライダーシステム、そしてエネルギーユニットであるSEEDの作成の禁止である。つまり現行の世界にて新たなライダーは存在するはずがないのだ。
 もし、ライダーが存在しているならばそれは各国政府の糾弾の対象となる。
 現在世界で許されているライダーはユニウス条約が締結される前に生まれたライダー、つまり前大戦を生き残ったライダーのみ。
 けれどその殆どが戦争によって大破、もしくは二度と変身できなくなっている。
「だが、このライダーは明らかに大戦後に作られたものだ。エネルギーユニットであるSEEDの作成は禁止されており、その大半は大戦で破壊されている。なら、どうして彼らはそこにいるのか。」
 それはつまり、もう一度作り出したということ。
 5年という歳月を懸けて。
 ブルーコスモスはもう一度世界を燃やす為に禁忌を破って現れたのだ、とデュランダルはシンに向かってそう言っている。
「・・・・・・」
 押し黙るシン。困惑しているのだろう・・・・自身の想像の範疇を超えた会話なのだから。
 だが、デュランダルはそんなシンには眼もくれずに話を続ける。
「さっきの質問に答えよう。ああ、タリア、すまない。」
 タリアと呼ばれた金髪の女性がデュランダルの前に湯飲みと急須を置いていき、再び厨房に帰っていく。
 デュランダルは目の前の湯飲みに急須からお茶を注ぎ、再び話し出す。
「我々はZAFTと言う組織に属している。ブルーコスモス、または人類に敵対する組織から人類を守るために作られた対抗組織・・・・組織というよりもむしろレジスタンスの意味合いが強いがね。」
 そう言って彼は自分の前のお茶に口を付ける。湯飲みを机に置くと再び話し始める。
「私の肩書きはZAFTオーブ方面支部長であり、ここはそのオーブ方面支部の本部でもある。」
「・・・・でも、ここってどう見てもただの喫茶店じゃないですか。」
 訝しげに辺りを見回し、指摘をするシン。デュランダルは軽く笑いながら再びお茶に口を付ける。
「なにぶん、予算の都合でね。趣味と実益を兼ねて、こういう形にしたに過ぎない。それに、いざと言う時こういう場所の方が良い事もある。」
「いざと言うとき?」
「そんなあからさまな秘密組織など見つけてくれと言っているようなものだろう?」
「そ、そりゃ、そうですけど」
 口ごもるシン。理屈の上では確かにデュランダルの言うとおりだろう。そんな秘密組織は秘密ではない――――だが、だからと言って喫茶店である必要もあるのだろうか。
(いや、それは無いだろ。)
 どうにも納得できなさそうな―――むしろ納得できる方がおかしいが―――シンを尻目にデュランダルは真剣な眼差しを向け、再び口を開く。
「では、本題だ。シン・アスカ君。単刀直入に言おう。その力を貸してくれないか?」
「・・・力?」
「そうだ。先程言ったファントムペインと戦うには戦力は幾らでも欲しい。そこで君の力を貸してもらえないか。」
「俺の、力?」
 シンは何を言っているのかと言いたげな視線でデュランダルを見つめる。それも当然だ。この男は自分にファントムペイン―――あのライダーと戦えと言っているのだ。
「何を言ってるんですか?」
「なるほど・・・・どうやら気付いていないのだね、君は。」
「だから、何のことなんですか。」
「これを見れば分かる。」
 デュランダルが端末を操作し液晶テレビの画面が変わる。画質が悪い。かなり遠方から録画しているのだろうか。
「これは・・・・」
 そこにはシンがいた。立ち尽くし、そして震えと共に変貌して行く。
 身体を覆う甲殻が赤から黒へ変化。そして顔面を覆う黒い血涙を流す仮面。
 ・・・・それはシンがあの“悪魔”のようなライダーへと変貌し、周辺全てを蹂躙した姿を映した映像だった。
「俺・・・・?」
 呆然と画面の中で繰り広げられる殺戮を見つめるシン。あり得ない光景。理解できない。自分の記憶の空白の中で、こんなことが起きているなどと誰が思うだろうか。
「キミは何の補助もなく、変身したのだよ。ライダーへと。」
「な----!?」
「君は気付いていないようだが、君は紛れもなくライダーだ。それもこの世界のどれとも違う特殊な。そして、恐らく―――勿論これも予想でしかないのだが―――君のシステムは未だ不安定なのだろう。いつ、暴走するか分からない・・・例えて言うなら不発弾のようなものだろうな。今回はライダーを殺すだけだっただが、次も同じで済むとは限らない。次は、身近な誰かを殺すかもしれないな。」
「そんな、馬鹿なこと・・・・・・」
「無い、と君は言えるのかな?」
 デュランダルに視線で射抜かれ、シンは言葉が詰まる。眼を逸らす――――液晶に眼が移る。そこには今も蹂躙を続ける黒い悪魔の姿があった。
 ごくりと唾を飲み込む。
 これが――――自分だと言うのか。
『ハッハッハッ』
 発情期の獣のような荒い息。
 どこか昆虫のような鎧―――むしろ甲殻と言った方がしっくり来る。
 赤い瞳。血涙を流しているような瞳。手は手甲のような鎧に覆われ、指先は細く先細り、まさに獣の爪。
 爆ぜる頭部。吹き飛ぶ首。引き千切られる体躯。
 あまりにも現実離れした光景。それが自分だと言われても現実感などまるで存在しない。存在しないはずなのに――――手を開き、自身の掌に眼を向ける。あの化け物を握り潰した手・・・映像でしか見てはいないのだけどそこに確かな実感があった。
 記憶にまるで残っていない。だけど、どこか感覚だけが残っている。パズルのピースがはまるように、それを素直に、どこかで納得している自分がいる。
 あれは俺なのだ、と。もし、あの時メイリンやヨウランがいたなら、自分は殺していたのだと。
 身体が震える。そんないつ暴れるか分からない化け物が自分の中に眠っている。
(俺が・・・メイリンたちを、殺す・・・?)
 あり得ない話だと思った。あり得ない話だ。自分にとって彼らは何よりも大事な友達。親友と言っても良い。それを殺すのなどあり得ない。
 けれど、それは本当なのか?あれを起こしたのは自分では無い何かだ。そこに自分の意思は欠片も関係していない。幾ら自分が殺さないと息巻いたところで無いとは言えない。・・・むしろ在り得る可能性の方が高い。
 怖い。怖気を振るうほどに怖い。
 シンは映像を凝視する。自分では無いと言う証拠を探すように必死にその映像を見つめ続ける。だが、証拠など見つかるはずが無い。
 変身とその解除。その瞬間に写る人間の顔は何度見てもシン自身でしかない。落胆と焦燥がシンの顔に浮かぶ。
 そこにデュランダルが呟いた。
「だが・・・・・・君が戦ってくれると言うなら、君の内に眠るライダーシステムを安定させる方法を用意しよう。二度とあんな暴走は起こさないと確約する。どうだね?」
「・・・・・・出来るんですか、そんなこと。」
 力無くシンは呟く。
「可能だ。シン・アスカ君。私はね、ヒーローが欲しいのだよ。」
「ヒーロー・・・・?」
 デュランダルは、シンの湯飲みにお茶を注ぎ、続ける。
「人類の為に戦うライダー。悪を挫き正義を行うヒーロー。混迷するこの世界における英雄・・・・君にはその力がある。ヒーローとなる力が。」
「・・・・アンタは一体俺に何をさせたいんですか?」
「ヒーローだよ。君は私の元でその力を振るう場と安心を得る。私は君の力を借りて、ファントムペインを駆逐する。どうだね?良い交換条件だとは思わないかね?」
「・・・・・・」
 押し黙るシン。素直にデュランダルの言葉を信じることが出来ない。
 けれど、選択肢が無いのも事実だ。そして、それ以上に心の中で思うことがあった。
 シン・アスカには望みがある。
 全てが奪われたあの日から燻り続ける一つの想い―――自分はこのままでいいのか、と。
 殺されたのだ。家族を。友を。大切な人々を。その復讐をしなければいけないなどと誰も言っていない。だが、だからと言って納得など出来ない。
 突然、現れた『ダガー』達。蹂躙された町。殺された皆。
 それを許すことなど出来ない。出来る訳がない。
 死んだ者は復讐など望まない。そう言う人もいる。だが、死んだ者は喋らない。そんなものは生者が死者の言葉をでっち上げたに過ぎない。
 シン・アスカには望みがある。
 奪われたから奪い返す、ではない。奪われたのなら、二度と奪えないように殺してしまえ。
 シン自身気付くことはないが、それはあの化け物を縛り付けた思考と同じモノだった。
 顔を上げる。シンとデュランダルの視線がぶつかる。
「もう一つだけ教えてください。」
 シンが呟く。
「なんだね?」
「そのファントムペインというのは人類の敵で、ブルーコスモスの持っていた技術を全部持っていて、・・・ブルーコスモスのメンバーも中にはいるってことですか。」
「確証は無いが、恐らくそうだろう。」
 逡巡など、無い。自分はその目的の為に生きてきた。
「・・・・やります。戦わせてください。」
「死ぬかもしれないが、それでも構わないのかね?」
「構いません。」
 この時、少年は選んだ。
 限られた選択肢の中から、復讐者と言う道を。


 先程のデュランダルとの会話から数分後、シンはデュランダルに言われ、そのままそこで待っていた。
 数分後、現れたのは三人。先程の赤毛の少女―――ルナと呼ばれていた―――とタリアと呼ばれていた金髪の妙齢の女性。そしてシンも良く知る同じクラスのレイ・ザ・バレルが現れた。
「では、紹介しよう。ザフトオーブ方面支部通称「ミネルバ」のメンバー達だ。」
 デュランダルの言葉に続き、金髪の女性がシンの前まで歩いてくると右手を差し出し自己紹介を始める。
「タリア・グラディスよ。貴方たちへの通信と指示は私が出します。あとこの喫茶店のコックも私がやってるわ。」
「よ、よろしくお願いします。」
 差し出された右手を握り握手するシン。
「タリアには厨房を任せている。この喫茶店の料理は全て彼女が切り盛っている。」
「そ、そうですか。」
「では次は・・・ルナ。」
 デュランダルが呼ぶと赤毛の少女が「はい!」と元気よく返事するとシンの前まで歩き手を差し伸べる。
「さ、さっきはごめんね?あ、私のことはルナでいいから!」
 元気そうな少女の声。シンは先程と同じように差し出された右手を掴み握手する。そして、手を話すと無意識に顎をさする。微かな痛み。あの一撃は容易に忘れられそうにない。
 続いて、その後ろの金髪の少年――――レイ・ザ・バレルが。
「レイ・ザ・バレルだ。」
 レイもルナやタリアと同じくシンの前まで来て右手を差し出す。
「・・・・・」
 シンはその手を握り、無言で握る。
「シンはレイと同じ戦闘班所属となる。」
 デュランダルが話し始める。レイの右手から手を離し、話に耳を傾ける。
「これからのことについてはレイとルナの話を聞いてくれたま・・・・・」
 言葉を切るように鳴り響く警報。
「来たか。」
 デュランダルの視線が一際鋭くなる。液晶に写る画面が変化する。そこには特徴的な前髪をした女性が写っていた。
『支部長、コンディションレッド発令です。場所はA-04地区。ファントムペインの襲撃だと先程と通信が入りました。』
 シンの顔が強張る。A-04地区。そこはシンにとって、そしてこの付近の住民にとって最も大事な場所。集団墓地。あの戦争で亡くなった皆を埋葬した・・・・自分とメイリンとヨウランが墓参りに行こうと思っていた場所。
 直ぐに立ち上がり、シンは喫茶赤福の入り口のドアに手を掛け、飛び出した。
 その後ろ姿を見てルナは唖然としながら呟いた。
「支部長・・・・行っちゃいましたよ。」
「・・・・・まだ、説明の途中なんだがね。まあ、良い。ルナ、練習無しで不安ではあるが、出来るかね?」
「はい!」
 ルナは威勢よく返事をし、店の奥に向かって駆け出していく。
「では、自分も行きます。」
「ああ、頼んだよ、レイ。」
 敬礼を一つ。レイはそのまま喫茶店を出て、表に止めていたバイクに飛び乗る。キーを差込み、エンジンを掛け、走り出す。


「はあっ、はあっ、はあっ、くそっ!!」
 道行く人が振り返る。中には知った顔もある。だが、シンにそれを見る余裕はなかった。
 A-04地区。
 戦時中になくなった人々を埋葬した簡易墓地であり、シンの家族、メイリンの家族、ヨウランの家族、そしてあの時戦争で巻き込まれた全ての人々が眠る場所。
 そこにライダーが現れた、とデュランダルは言った。シンにとってそれは決して看過出来ることではなかった。いや、家族を失くした者にとってそれは誰でも同じなのだろう。
 そこに爆音が響く。何事か振り向いたシンの耳に女性の声が届く。
「シン・アスカ、乗りなさい!」
 振り向くシンの眼に入ったもの、それは大型の白色に青いラインの入ったバイク――両脇に取り付いた突起のせいか、むしろバイクと言うよりもどこか飛行機めいた姿に見える―――に乗るルナの姿だった。
「ル、ルナ、さん?」
 息を切らしながら呟くシン。何も考えずに全力疾走したせいか気が付けば息は上がり、身体中に汗をかいていた。
 だがそんなシンを意にも介さずルナは話し始める。
「いい?貴方は私とペアで戦ってもらうから。だから、こういう時はこれから絶対に私と一緒にいなさい!いいわね!?」
「そ、そうな・・・・」
「いいわね!?それと私のことはルナって呼びなさい!分かった、シン!?」
「あ、ああ、分かったよ、ルナ。」
 シンの返事を聞くと即座にエンジンを始動。重く大きい音が鳴り響く。シンは思わずその音の大きさに顔を歪める。
 ルナは後部座席にセットされていたヘルメットをシンに投げ渡す。
「乗りなさい!」
「いや、俺、バイクなんて乗ったことな・・・・」
「適当に後ろに座って、しっかり捕まってなさい!早く!」
 恐る恐ると言った感じでシンはヘルメットを身につけ、その後ろに乗り込む。
 スロットルを二度三度回し、エンジンを吹かす。シンからは見えないヘルメットの中、そこでルナはその音に舌なめずりするように、唇を釣りあがらせ、さも楽しそうに微笑みを漏らし、
「・・・・・行くわよ。」
 呟き、思いっきりスロットルを回す。続いて襲い掛かる暴力的と言ってもいいほどの爆発的な加速。
「・・・・・・おおおお!!!?」
 思いもよらないほどの加速を受け、シンは慌ててルナの身体にしがみつく。
 加速は止まない。どんどん、どんどん、と。
 その速度はシンがこれまで乗ったどんな乗り物よりも速かった。何しろそこは街中なのだ。未だ人もいれば、車もいる。なのに、ルナの操るそのバイクはまるで気にすることなくスイスイと泳ぐ魚のように間隙を縫うようにして追い抜いていく。その後ろに座るシンにしてみればジェットコースターをはるかに凌ぐ、暴走特急―--この場合は暴走二輪か―――になっている。
「・・・・・」
 言葉一つ出す余裕もなく、殆ど生存本能のみでルナの身体にしっかりとしがみ付く。脳には何度も警告が鳴り響き、バイク一台が通れる程度の隙間を縫うようにして追い抜く度に鳥肌が起こる。
 だが、それも限界に辿り着く。幾らか進んで、前方に渋滞が起こっている。パトカーが何台か出張っている状況から交通事故でも起こっているのだろう。
 助かった―――とシンは思い、ほっと息を吐こうとした瞬間、何を思ったのか、バイクは転進し、いきなり脇道に入っていく。
「ど、どこ行くんだ!?」
「こういう時はね、この道で行くのが一番早いの。」
 そう言ってスロットルを回し、アクセルを全開にするルナ。
「---!」
 いきなりの加速にシンは何か言おうとした口を閉じて、しがみ付く腕に力を込める。
 そして突然ヘルメットから声が聞こえる―――それはルナの声。恐らくヘルメットには通信機でも仕込まれているのだろう。
『このバイクね、シルエットフライヤーって言う私専用のバイクなの。』
 バイクの速度は衰えない。いや、むしろどんどんと加速している。シンの脳裏に怖気が走る。
 元々この地域に住んでいるシンには大通りに出たことで大まかな今の居場所が理解出来ていた。それもこれも全て土地勘の為せる技だ―――そのシンの土地勘が言っているのだ。この先はヤバイと。
 ここには運河・・・と言うほどでもないがそれなりに大きな川が流れている。どこにでもある川だ。国際河川と言うほどのものでもない。だが、そこに脇目も振らずに一心不乱に真っ直ぐ突き進んでいるのはどういうことなのか。
 シンの心から嫌な予感が消えない。
『シルエットフライヤーのフライヤーってね、飛ぶ物とかって言う意味なの。分かる?つまりね・・・・』
 ルナの右手が動き、スロットルを回す。最大速度。前輪が跳ね上がる。そして、跳躍―-シルエットフライヤーが空を舞った。
「うわあああああああああ!!!!」
 シンの予想通り、そこは川だった。
 あろうことかルナは堤防に向かって真っ直ぐ突き進み、加速によってウィリー、そして川に向かって飛び込んだのだ。
『飛べるってことなのよ!!』
 叫び、ルナの左手が動き、ボタン操作。シルエットフライヤーの両脇の突起が、グライダーのような翼に変形する。そして自動で翼の角度が調整され、翼が風を掴む。墜落と言う速度から、滑空と言う速度へ変化。
 十数秒間の滑空。そして、着地。速度を殺すために、そこでターン。道路に黒いタイヤの跡。
「し、死ぬかと思った・・・・・」
 疲れきったシンの声。いきなりの光景の変化・・・・と言うよりも純粋に死の危険を感じたせいだろう。心臓の鼓動がとんでもないことになっている。
『じゃあ、行くわよ。』
 だが、ルナはそんなシンの状況に気付いているのか、気付いていないのか、それともあまり何も考えていないのか、スロットルを回しアクセル全開。目的地に向かってシルエットフライヤーは加速する。
シンは無言でルナの身体に回した手に力を込める。気分は殆どまな板の上の鯉だった。


 数分後、A-04地区が見えてきた。
 予想通りにそこではあのライダー達――――ウィンダムとデュランダルが言っていた―――が暴れている。墓地に一体何があるのか。それは分からない。
 煙が上がる。爆発が起きる。逃げ惑う人々がそこにいる。
「・・・・っ!!」
 身体中に力が篭る。奥歯をきつく噛み締める。疲れや、不安は瞬間シンの脳裏から吹き飛び、怒りが燃え上がる。
 シルエットフライヤーの加速が緩み、敵まで凡そ50mと言うところで停止する。奇しくもそこは墓地の入り口。
『シン、行くわよ。』
『ああ!!』
 ルナがバイクを止め、降りる。シンもそれに倣い降りる。目前には敵。知らされた敵。ファントムペインという化け物の組織。そいつらを倒して行けばいつかあの青い羽金のライダーに出会える。そう、信じて。
 一歩、前に踏み出す。後ろからルナの声が届き、振り返る。
「シン!」
 ルナからベルトと、そしてPDAのような端末を投げ渡される。
「言った通りよ!分かってるわね!?」
 頷く。自分がこれからどうすればいいのか。ここに来るまでの間に既にルナに教えられている。
 投げられたベルトを腰に巻きつけるようにすると、ベルトは殆ど自動的に腰に巻きつき、装着された。
 ザフトの技術力の賜物である。
「す、凄いな、これ。」
「無駄口は良いから早く!!」
 ルナに促され、シンは渡された端末を右手で握り締める。
 ――――ようやく、ようやく、この時が来た。
 知らず、唇が釣り上がる。喜ぶべきことではない。けれど、5年間望んで望んで望み続けた復讐の衝動。
 胸の高鳴りに任せ、その『言葉』を叫んだ。
「変・・・・・身!」
 ベルトに向かって渡された折り畳み型の端末をセットする。そしてベルトの左部分の赤いキーを左手で押し込む。液晶に浮かび上がる「IMPULSE」の文字。
 瞬間、ベルトから赤い放電が始まり、直ぐ近くのルナが瞳を閉じる。同時にルナは腕時計の横の小さなボタンを押し込む。彼女の身体が同じく赤い稲妻を放って輝き出す。
「シルエット展開」
 ルナの呟き。瞬間彼女の身体がそれまでにないほど大きく光り輝き――――掻き消える。残されたのは赤い光の渦。刹那、赤い光はシンの周囲に殺到し、全身を覆い尽くし、そしてレイのモノとは違う形の装甲へと変化する。
 赤い光が頭部を覆い、仮面へと変化。続いてそれに連なるように全身を装甲を覆っていく。そして風船が膨らむような音がその内より響き、筋肉が膨張し、装甲がそれを拘束する。
 赤い装甲と背中に背負った二本の大剣。
 赤と白のコントラストが織り成すフォルム。腕、肩、腰は明らかに通常よりも太く、逞しくなっている。
ソードインパルスと呼ばれるその姿。背負った大剣を手に取り、構える。目前に現れた新たなライダーを見て、敵が――――ファントムペインがシン達に眼を向ける。
 シンは叫んだ。思いの丈を振り絞り、心から。
『まだ、殺したりないのか!!アンタ達は!!』
 刀身が白熱し、赤い線を描き出す。シン・アスカは目前の敵に向かって駆け抜けた。

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