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空想垂れ流し とりあえず、更新します。

とりあえず、更新します。

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SOWW前日譚です。
本来やっておかなければいけなかった中編で、おおよそ3~5話くらいで終わると思います
本編更新はお待ちを。ちょっと変えました。
夢を見る――誰もが笑い合っていた夢。
どこにでもある現実。
どこにでもある空想。
夢で終わるには生々しすぎ――現実で取り戻すにはあまりに困難な夢。

ルナマリアがいた。
ヨウランがいた。
ヴィーノがいた。
レイがいた。
アスランがいた。
メイリンがいた。
タリア艦長がいた。
仲間がいた。戦友がいた。大切な仲間がいた。
誰もが時に笑い、時に怒り、ぶつかり合いながら何度も何度も一つの目的に向けて戦っていた。手を取り合って戦っていた。

それは――いつの時代のことだろう。
多分、戦争が始まってそれほど時間は経ってない。ガルナハンの戦いが終わった直後。
一番、何もかもが上手くいっていた頃。
手を伸ばす――無意識に、焦燥すら感じながら手を伸ばす。

ぴしり、と亀裂が入った。
世界が歪む。歪んで曲がって壊れておかしくなって消えていく――ああ、これは夢なんだと理解する。
楽しげな時間は終わる。
終われば、始まるのはいつも通りの現実。
ぴぴぴ、と鳴り響く甲高い音――その音源に手を伸ばし、慣れた手付きで操作。音を切る。ついでに電源も切る。何度も繰り返し鳴り響けば苛立ちが生じて今日の作業に支障が出かねない。

「……支障、なんて、出やしない、けどな」

小さく呟く。
眼に映るピンク色の携帯電話――“音源”だ。
見る度に何かを思い出しそうになって――思い出す必要が無いと唇が笑みを形作る。
起き上がって、顔を洗う。洗面所に据え付けられた鏡に眼を向ける。
透けるような白い肌と朱い瞳。少しだけこけた頬。目つきの悪さは昔からだが――今の彼の目つきは悪いと言うよりも何も感じられない。
無気力そのもの――考えることすら億劫とでも言いたげな陰鬱そのもの。

タオルで顔を拭き、着替える――準備に必要な時間は僅かに数分。栄養はチューブ型の栄養食で補い、水分はドリンクで補充する。ここ数カ月彼はこれ以外何も口にしていない。
食欲が無い訳ではない――何かを食べる必要性が感じられなくなっている。
全身の感覚神経は澄み切っていて、調子の悪さなど全く感じられない。
着替えて部屋を出る。ブリーフィングが始まるまではまだ1時間ほどある――シミュレーターで訓練をするにはちょうどいい時間だ。
男の名前はシン・アスカ。
10cmほど伸びた身長と適当に切り揃えた髪は少年だったころの面影を残しつつも、大人に近づいていることを実感させる。
けれど――朱い瞳は淀んでいた。ただただ静かに淀み、その奥に澱を溜め込んでいた。

時代はCE76。
戦争は終わった。でも、戦いは終わらなかった。
クライン政権に反感を持つ者はどこにでもいたし、戦争の火種はどこにでも存在した時代。
ラクス・クラインは当初の予想とは裏腹に信じられない治世を行い、火薬庫でしかなかった世界を少しずつ少しずつ平穏に戻していく。平和の歌姫と言う二つ名通りに。
キラ・ヤマトはそんな自身の伴侶を支えながら歌姫の騎士として相もも変わらず不殺を貫き戦い続けていた。
アスラン・ザラは、オーブの復興に尽力し、その隣にはカガリ・ユラ・アスハとメイリン・ホークがいた。
時代の歯車が回り、復興と平和に向けて加速していく時代――恐らくはヒトが平和と呼ぶ時代。

一人の男がいた。男は全てに裏切られ――また全てを裏切って、一人になることを選び、戦火の中で生き続けていた。

これは――そんな時代の中で、状況に流され続ける、ある一人の男の物語。

Sin in the My World

1. クラインの猟犬

――宇宙には風が無い。真空の世界の中で風が吹くはずが無い。そもそも風がある訳が無い。
けれど、風は吹いていた。乾いた風。ただ胸の奥を吹き抜ける風。
空は漆黒。そこかしこに見える星々が位置感覚を狂わせようとする――視線をディスプレイから計器類に移し、自身の位置関係を把握する。
基準となる点は少し前まで自分がいた場所――マティウス・スリーと呼ばれるコロニー。
位置関係の把握及び基準の設定を終わらせ、搭乗している機体――ザクウォーリアカスタムのカメラアイを“目標”に向ける。

「……こちら、シン・アスカ。目標を確認。」

両機に通信を送る。

『こちら、アリエスト・ミラー。こっちでも確認した。カウント後に突撃。いいな?』
「了解。」

返答。胸の奥で吹き抜ける風の音が強くなった気がする。
フットペダルに足をかけ、いつでも突撃出来るように準備する――僚機からの声。
今回の目標はこの宙域を荒らし回っていたザラ派残党――未だに現れる、その名に僅かな苛立ちを覚えるも押し留める。気にするな。

『5』

レバーに右手をかける。
一つ深呼吸――瞳が鋭くなり、同時に心も尖っていく。
戦いが始まる。心の奥で迸りそうになる喜びを抑え込み、集中――ようやく“真っ白”になれることに安堵を覚えた。

『4』

カウントを酷く長く感じる。
いつも通りの日常。いつも通りの行動。
緊張感など最早無い。何百回と繰り返されたルーチンワーク。
敵機を破壊し、捕縛する。繰り返されることで緊張は慣れへと変わっていく。それでも警戒が緩むことは無い。死んではいけない――そんな無意味にしか思えない言葉が脳裏を反芻し、方向性を定めて行く。即ち、生き残ると言う方向性へと。
戦闘の度に真っ白になる脳髄。思考を捨てることの出来る唯一無二の瞬間――生きていることを忘れられる場所。
全身の細胞が騒ぎ出していた。今か今かと“その瞬間”を待ち侘びている。

『3』

敵機を破壊する瞬間を、待ち侘びている。
知らず、頬が歪む。唇が歪む。整った顔立ちが壊れ、現れたのは醜く下卑た笑み。
そんな表情をしていることすら、自身では気付いていない。
感情とは独立し、肉体が稼働する。
この一年間で培った戦闘技術。その賜物――人間としては間違った傾向。けれど、兵士としてはあまりにも正しい傾向。

『2』

心臓が高鳴る。緊張ではなく昂揚によって心臓の鼓動が大きくなる。
レバーを握り締める。フットペダルに足をかける。
周辺のデブリの数を把握。敵機との位置関係を把握。使用する武器を選択し、順番を脳裏に設定。
敵機は自分と同じザクウォーリア。数は5機。たった2機で落とすには難しい数だが――問題は無い。

『1』

始まる――敵機の武装を確認。行動予測を開始。分裂する思考とそれを統括する思考。幾つもの思考が束ねられ、一つの意志表示の為に連結していく。
意志表示――即ち、戦うこと。その為だけに。

『0』

始まった。
レバーを倒し、フットペダルを押し込み、速度を一気に最大にまで上げる。
加速。景色が流れる。星が流れる。気にしている余裕は無い。
敵機がこちらに気づく――距離は遠い。
ザクウォーリアに装備されている近接武装――ビームトマホークの間合いには程遠い。
右手に持ったままのビーム突撃銃を構える。
速度は緩めない。緩めてしまえば蜂の巣にされるだけ――何よりも動き続けることで翻弄する。一対多数における必須条件。そのルールに従い、ビーム突撃銃を放つ。
閃光が残像を残して突撃する――弾幕の形成。そのまま、自分自身も突撃。敵機の動きを観察/ほぼ全てが未だに困惑している。強襲を予想してはいなかったらしい――問題無し。
速度を維持し、突撃。敵機がこちらに向けてビーム突撃銃を向けた。構わず突撃。狙われる前に近づく。

「……」

敵機の攻撃は全て外れた。こちらは既に最高速に達しているのに、敵機は未だ動けていない/遅い。
言葉は無い。無言。口を開くことに意味は無い。口を開けば呼吸を乱し、心を乱していく――ビーム突撃銃を両手で構える。
発射――外れた。突撃しながらの射撃に命中精度を期待する方がおかしい。
敵機が一斉にこちらを向いた――瞬間、背部のファイヤビー誘導ミサイルを一斉発射。敵機の情報は既に入力済み。ミサイルが一斉にその群れに突っ込んでいく。
敵機の構成はガナーザクウォーリアが1機、ブレイズザクウォーリアが1機、スラッシュザクウォーリアが3機。優先的に狙いを定めたのは、ガナーザクウォーリアとブレイズザクウォーリア。遠距離武装を持つ機体を優先的に攻撃。

ミサイルが突撃する。爆発。漆黒を染め上げる閃光――背部のスラスターを再度最大噴射。
閃光によって、視界が阻害され、一時的にレーダー類にも乱れが生じ、行動に支障が出る/お構い無しとばかりにフットペダルを踏み込む。速度を緩めるつもりは無い。敵機の位置は発射する前に既に頭に叩きこんである。“見えない”程度で攻撃を行えなくなる道理は無い。
閃光と爆炎に紛れ込み、敵機の群れに近づく。ビームトマホークを構え、一機を切り裂いた。コックピットから狙いを外し、頭部とスラスターを破壊し、無力化――敵機の状態の確認をする暇も無く即座に移動/視界の端で僚機がガナーザクウォーリアと戦っているのが見えた。直ぐにそちらに向かわなければいけない――焦燥/沈黙。

「……っ」

アラート音。スラスターを吹かし、機体を反転。肩部のシールドでビームを受け止める。
衝撃がコックピットを揺らす。視界が揺れる。コンソールパネルを操作し、敵機を確認。こちらと同じブレイズザクウォーリア。
攻撃は背部右方向から。先ほど放ったファイヤビー誘導ミサイルによって、右肩と左足が破壊されていた――ビーム突撃銃を発射し、右手に握っていた敵機のビーム突撃銃を破壊。爆発。残っていた右腕も破壊。そのまま背部のファイヤビー誘導ミサイルが点火し、誘爆。僅かな安堵――遠距離攻撃で狙い撃ちされる心配は無くなった。

残っている敵機の数を確認する――確認する必要など無く、こちらに突撃してくる3つの閃光。

(……3機のスラッシュザクウォーリア)

心中で呟き、己に言い聞かせる――僅かな安堵。
スラッシュウィザードに関しては近接戦闘に特化した装備である為、それほど注意は必要ない――少なくとも自分にとっては、最も与しやすい相手だ。
こちらのファイヤビー誘導ミサイルの残弾数を確認。残り8発。問題ない。十分だ。

「……行くぞ」

呟いて突撃。一斉にスラッシュザクウォーリアの背部に設置されたハイドラビームガトリング砲が火を噴く――寸前で残ったファイヤビー誘導ミサイルを一気に発射。
同時に、現在からみて相対下方に加速。爆炎に紛れての突撃を敢行――同じ攻撃は二度喰わないとばかりに、スラッシュザクウォーリアが散開する。

――唇が知らず歪んだ。

4機のスラッシュザクウォーリアが各個でこちらに突撃してくる――ビームトマホークを構える。
1機に接近する。敵機が両手で握った大型の戦斧――ファルクスG7ビームアックスを振り被っていた。
フットペダルを小刻みに操作し、スラスターを操作/振り下ろす瞬間に合わせて、右方に回避。
握り締めたビームトマホークを振り下ろし、振り上げ、叩き斬る――頭部、ガトリング砲、ビームアックスを破壊。機体の各所で小爆発が起こる――右足を振り抜き、吹き飛ばし、デブリに激突させる。沈黙。
一切の停滞無く、スラスターを吹かし、反転。
残った2機の内、1機がこちらに向けてビーム突撃銃を向けている――ビームトマホークを投げつける/頭部に刺さり、爆発。ビーム突撃銃の銃口があらぬ方向に向き、光条が放たれた。その間隙を逃さず、接近、頭部に刺さったビームトマホークを引き抜き、コックピットに向けて直接前蹴り――吹き飛んだ機体がデブリに激突し、沈黙。
間髪いれずに、そのまま“全速前進”。後方から放たれたビームアックスの一撃を紙一重で回避――しようとするも、回避しきれずに、背部のブレイズウィザードが切り裂かれた。
コンソールを操作し、ブレイズウィザードパックを切り離す/爆発――肩部のシールドを向けて僅かなりとも損傷を軽減しようとする――衝撃、爆炎、閃光、揺れる揺れる世界が揺れる視界が揺れる内臓がシェイクされ、今日一日口に入れた全てが吐き出される――全てチューブ食ばかりで、吐き出された吐しゃ物は面白みの無い液状物質のみ――固形物はどこにも無い。その事実におかしな安堵を覚えた。
ぐるぐると回転する視界。全身のスラスターを操作し、調整。態勢を整えることに専心する――今しがた攻撃を食らわせた敵機がガトリング砲を放ちながら、ビームアックスを構えて突撃してくるのが見えた。

「ぎ、ぃっ……!!」

言葉にならない呻きを上げながら、右手に握ったビームトマホークを構える。右方に移動。ガトリング砲が着弾よりも早く――紙一重の回避。次いで振り下ろされるビームアックス。こちらに追尾するように動くソレを避けることは出来ない。
間合いで言えば、こちらの得物よりもはるかに長い――後退も回避も不可能。活路はどこにある――懐に飛び込む以外には無い。
判断は一瞬。逡巡は刹那よりも尚短く――フットペダルを踏み込み、全速で接近。敵機は既にビームアックスを振り下ろし始めていた。こちらは未だにビームトマホークを握り締めているだけで構えてもいない。ビーム突撃銃は先ほどの攻撃で手放してどこに行ったのか分からない。

フットペダルから足は離さない。踏み込む。全速で前進。敵機の攻撃が迫る。

「――」

ドクンと心臓が鼓動し、心臓の鼓動が停止する。そんな錯覚を覚えた。
不思議な感覚ではない。いつもだ――いつも何かの拍子に覚える感覚。
元々少なかった感情が掻き消える。

振り下ろされるビームアックスが見えた。ザクウォーリアの左肩に装備された対ビームシールドを向ける/全身のスラスターを操作し、機体そのものを右方向に平行移動。
肩が抉られた。対ビームシールドで受け切れるはずも無く、小破。爆発。
爆炎と閃光が視界を染めた。
そのタイミングで――手首だけを動かし、ビームトマホークを投擲。目標はコックピット。この期に及んで捕縛だのと言っている余裕は無い。

「――」

狙い違わず、ビームトマホークの刃がコックピットに到達。コックピットが紅く染まっていく。熱量によって装甲が解けていく。死の瞬間。命が弾け飛ぶ瞬間。胸のどこかが痛んだ/痛みは直ぐに消えた。

――爆発。漆黒の空に紅い花が咲いた。

爆圧に逆らうことなく、吹き飛ばされる――距離が開く。
全身の損傷を確認――右腕は動かない。背部のブレイズウィザードは大破。それ以外にも小破程度の存在が機体のそこら中に存在していた。まず間違いなく戦闘不能。これで増援が現れればその時点で終わりだ。
だが――それも問題は無い。どうとでもなる――ならなければ死ぬだけだ。特に不都合など存在はしない。
敵機の位置を確認しようとする――僚機からの通信。

『……相変わらず、化け物みたいだな、お前は』

呆れたような同僚の声。

「……倒したのか?」
『ああ、こっちはガナー1機だったからな。距離さえつめれば何とかなった』
「そっか……終わったのか」

ほっと息を吐く――どこか残念そうな声。
これで終わる。真っ白になれる瞬間が終わりを告げる。それがどこか寂しい。

『大丈夫か、シン?』
「……ああ、大丈夫だ。」
『それじゃ戻ろうぜ、俺はともかくお前の損傷は結構やばい』

同僚がそう言って、マティウス・スリーに向けての進路を定め、動き出した。
速度は遅い――多分、こちらに合わせてくれているのだろう。
一瞬、振り向いた。

「……もうちょっと、戦っていたかったんだけどな」

呟く。寂しげな輝きを灯す瞳。どこか祭りの終わりを悲しむ子供のような瞳。
始まりは遠く、終わりは見えない、戦いの日々。

物語は――未だ始まらない。


ラクス・クラインの治世。
そんなモノ、誰も始まるとは思っていなかった。
戦時中、ラクス・クラインが行ったことは、はっきり言ってしまえばテロリストと何ら変わらない所業である。
強引な力技。本来な糾弾されて然るべき状況――けれど、彼女は皮肉なことに糾弾されることは無かった。
彼女は女神だ。平和を謡い、平和を願い、平和を掴み取る――本当に彼女はそれだけで平和を手に入れる。少なくとも、彼女の声は、人望は、カリスマは、戦いを終わらせる。
戦争の無い世界が平和だと言うのなら、なるほど彼女は真実、平和の女神だろう。自由を脅かす理不尽を、更なる理不尽な力によって駆逐する。
それがラクス・クライン――そして、キラ・ヤマトの平和の作り方だ。
そうやって彼らは“平和を作り出してきた”。

だから、ラクス・クラインがプラントの議長になった時、治世が起こるなど誰も思わなかった。想うはずが無い――だって、彼らは蛮族だ。蛮族が自分自身にとっての平和を謡って押しつけて、奪い去っただけなのだから。
治世などが期待できるはずが無い。それ以上にその頃のプラントは荒れ果てていた。二度にわたる戦乱に疲れ切っていた。火種はそこら中にあった。
ただ戦争をしていないと言うだけで――幸福などとは程遠い状況だった。

だが、彼らは――周囲の予想を裏切り、治世を行った。
至極常識的な判断を下しプラントを復興し、他国への援助を行い、他国からの援助を受けて――共に助け合う世界。そんな理想を構築していった。
プラントの女帝ラクス・クライン。
オーブの女王カガリ・ユラ・アスハ。
この二人を中心に世界は平和に向けて加速していく。
ギルバート・デュランダルを嘲笑うように――戦後に行われた治世はギルバート・デュランダルを紛れも無い暗君として確定していった。
それに従った者たちも同じく、暗愚として定められていった。それはレッテルに過ぎない。けれど、誰もがそれを否定できなかった。
ラクス・クラインが行った――行い続ける治世に比べれば、ギルバート・デュランダルが行ったことなど暗愚の愚行に過ぎない。
まるでピエロだ――それがその当時、ギルバート・デュランダルに従った誰もが思った感想だった。
そして、それは彼も――シン・アスカも同じだった。

平和を創ると信じて従った。
世迷言かもしれない。馬鹿げたこともかもしれない。それでも平和を作るのだと信じて、突き進んだ。戦った。剣を手に取り、誇りを胸に戦ったのだ。
なのに――それら全てが嘘だと明かされていくように感じた。
自分たちがやっていたことは全て一切合切紛うこと無く間違いなのだと突き付けられた――そんな気持ちを抱いた。

虚無があった。敗者として、頭を垂れて恭順した。その時に砕け散った何か。その時流した涙は、後悔と怒りと悲しみで彩られた血潮だった。
その全てが壊れて行く。

最初は溺れることで忘れることが出来た。
ルナマリア・ホークとの傷を舐め合う関係――女に溺れることで、暗がりで肢体を絡めることで忘我に至り、何もかもから目を背けることが出来た。
けれど、それも長くは続かない。
目を背けるだけに続けていた関係――そんなもの初めから何も始まっていないも同じこと。
そんな関係を延々と続けられるほど、二人は――というか、彼は――自分自身に嘘を吐けなかった。
彼女がオーブに行こうと言った。静かに暮らそうと言った。
その言葉が引き金だった。その日の内にザフトに再入隊することを決め、彼女とは別れた。
静かに暮らす――暮らせるはずが無い。
何も清算せず、何も拭うこともせず、ただ生き続ける。静かに生きて忘れる――出来るものか。出来る筈が無い。やっていいはずが無い。“許されるはずが無い”。

強迫観念――お前は静かに暮らしてはいけない。幸せになどなってはいけない。お前は何様だ。そんな幸せがお前には許されるのか?ラクス・クラインがあれほどに世界を平和に導き、カガリ・ユラ・アスハが平和を構築し、キラ・ヤマトとアスラン・ザラが平和を守り続ける。
ならば――お前は何をするのか。何もしなくていいのか?そこで寝そべって女に溺れるだけでいいのか?
――そんな訳が無い。だから迷いは無かった。

ルナマリアは泣かなかった――どこかホッとしていたように見えた。きっと彼女も疲れていたのだろう。互いに溺れることで、傷を舐め合っていた。けれど、彼女は自分のように、何かに縋り付かなければ生きていけない人間ではない。彼女は本当に至極真っ当な人間なのだから。
別れたのが今からおよそ半年ほど前。
もう彼女の肌の感触を思い出すことは無くなっていた。

テレビをつければ、世界は平和に向けて突き進んでいることが良くわかり惨めになる。
ラジオをつければ、世界は平和を手にしようとしていることが良くわかり無様な道化は恥ずかしささえ覚える。
街を歩けば、全ての人間を自分を嗤っているような気になって――気にしないようにする為に色んなモノを切り捨てた。
兵舎に行けば、自分を嫌う者達が自分を囲み、殴り、罵倒し――出撃すれば、今度は敵に罵倒される。そんな日々の繰り返し。

敵ではなく味方にロックオンされることも一度や二度ではなかった。勿論、それは全て冗談の類であったが――冗談で許されるようなモノではない。本来なら軍法会議物だ。
――今ではもうそれも気にならなくなっていった。気にならないのだから無視をし続けた。そんなことされていないと装っていた訳ではなく、本当にどうでも良かった。

死に場所を求めている訳ではない。だが、生きていてもどうにもならない――そんな想いは確かにあったから。だから、味方から銃を向けられても抵抗する気は無かった。本当に、何もかもがどうでもよかった。

本当はどうでもよくは無いのかもしれない。ザフトに再入隊し、モビルスーツに乗って、戦場に赴く。それも以前のような赤服ではなく、緑服――下っ端として働き続ける。
そんなことをする必要は全く無かった。けれど、どうしてもそうしなければいけないという気持ちがあった。抗いきれない切迫感が存在した。
だから、それに従った。そうすると気持ちは楽になった。
戦うことで、使われることで、気が楽になった。少なくともこうしていれば“平和”の礎になれる――シン・アスカにとっての平和とは戦争が無い状態のことを指す以上、それは本当の意味での平和では無いが――縋り付いた。平和と言う聞こえの良い言葉に――平和の礎になるという自分自身に。

そうすることでしか生きていられなかった。だから、これは――そう“仕方ない”のだ。
惨めな思いをして生きていくのも“仕方ない”。
罵倒されながら生きて行くのも“仕方ない”。
味方に銃で狙われるのも“仕方ない”。
敵に罵倒され殺されそうになるのも“仕方ない”。
何よりも――自分自身がソレを望んでいるのだから、本当に“仕方ないのだ”。

陰鬱が世界を染めて行く。
見える空は黒ではなく灰色。見える風景に色彩は無くただの灰色。
ヒトの識別が困難になるほどに、自分自身を撤去していく。

戦い続け、自分自身が何者なのかも定かで無くなっていく日々。
どうして、昔の味方を捕縛するのか――或いは殺すのか。
どうして、一年前までは笑い合っていた人に殺されそうになるのか――或いは殺し返すのか。
答えなどは存在しない。そんな時代なのだから――“仕方ない”。

そんな魔法の言葉を呟きながらシン・アスカは日常を繰り返していた。
生きていることが苦痛を通り越して、単なる繰り返しに成り下がって、それでもまだ生きて行く。
無意味に無意味を重ねて男は生き続ける。いつかそこに意味を見出す日は来るのか。
少なくとも、シンには何も分からなかった――今は、まだ。



「毎回思うけど、お前壊しすぎだろ……」
「……悪い」

申し訳なさそうに呟くシン。
機体の各所をチェックしながら、溜め息を吐く少年――前髪だけを一房紅く染めている。名前はヴィーノ・デュプレ。シンとは付き合いの長いメカニックだ。
溜め息の理由は目前で跪く緑色の巨人――ザクウォーリアによるものだった。
背部のブレイズウィザードと左腕は大破。全身の至るところに損傷があり、動いていたのが不思議に思えてくるほど。
機体の修理に費やす時間を考えると、やる前から気分が鬱になる――が、仕事なのだ、と頭を切り替える。実際、悩んでいても始まらない。メカニックが修理するのは大変だと頭を抱えていても何もならないのだから。

「……まあ、次の出撃までにはしっかり直しておくから、お前はもうちょっと戦い方を考えろよ? こんな戦い方してたんじゃ、命なんて幾つあっても足りなくなるんだぞ?」
「……ああ、これからは壊さないように気をつける」

シンの顔に浮かび上がる苦笑――申し訳なさと後悔と自責の念。
かみ合わない話。いつものこととは言え、こうまで噛み合わないのはどうかと思う。

戦い方を考えろと言った。死ぬような戦い方はするな、と。
その返答は、“これからは壊さないように気をつける”。

まるで意味の噛み合わない会話。はあ、と溜め息を吐き、作業を始める――シンは邪魔してはいけないとでも思ったのか、少し後退し、自機であるザクウォーリアを見上げ出す。
モビルスーツを見上げるその姿は戦時中とは違い既に大人の様相を生み出しつつあった――身長が伸びて、顔からは表情が薄れていく。それが果たして大人として成熟していくことに繋がるのかどうかは分からないが。
変わった、とヴィーノは思う。
昔はここまで無口では無かったはずだった。ルナマリアと共にザフトを除隊し――その後、二ヶ月もしない内に舞い戻ってきた。
おかしかったのは――多分その時からだ。
おかしくなった、と言うのも嫌な言い草だが、今のシンを見ればそんな想いを浮かべたくなるのも道理ではある。特に、ヴィーノのように昔からの付き合いがある者であれば、特にそう思うだろう。
昔のシンは何だかんだと言いつつ、友達だった。
嫌なところ――短気で直ぐにムキになるところはあったが、それだって“普通”の範疇ではあった。逆に面倒見の良いところや、友情には案外厚いというなどの良いところもあった。本当に、どこにでもいるくらいに普通の青年だった。
それが――戻ってきてからは、ずっとこうだった。
ルナマリアと何かあったのかもしれない。だが、それだけではこんな風にはなりはしないと思う――それほどにシンは劇的に変わっていた。

どこがどう変わったかと言えば――単純に喋らなくなった。人の輪に入ることが無くなった。
そして、以前よりもはるかに戦い方が“怖くなった”こと。命知らずと言うほどではないが――時々、彼が同じ人間には思えないことがあった。
普通、人間と言うのはどれだけ強がっていても、死を前にすると緊張する。だからこそ、矢面に立つモビルスーツパイロットと言うモノは緊張を強いられることになる。操縦する際の肉体的負荷もそうだが、生死の境目に居続けることによる精神的負荷こそがパイロットを蝕むのだ。だから、通常は戦場に行くことを喜ばない。中には喜ぶ人間もいる――戦うことが好きな人種だ。そういった人種は自分から進んで死地に向かう。狂戦士と言えば恰好は良いが――実際は単なるキチガイだ。狂人でしかない。
シン・アスカと言う人間はそんな人間ではなかった。並外れた操縦技術と、環境に適応する能力――インパルスのパイロットに抜擢された理由の一端だ――を持っていたが、精神構造は普通の人間だった。
けれど、今のシン・アスカは違う。どこか戦場に行くことを求めている。戦うことに“安堵している”ようにさえ見える。昂揚では無く安堵――つまりは戦場に安らぎを感じているということ。
戦いに狂った人間でも安堵を覚える者はいない――少なくともヴィーノはそんな人間に出会ったことが無い。彼らは大抵、命のやり取りに興奮と充実感を覚え、“生きている実感”が欲しいからこそ戦うのだ。曲がり間違っても、命のやり取りに安堵を覚え安らぐ――そんな人間ではない。
ヴィーノは時折シンがそんな風に思っているのではないか、とそんな風に考える。
だからこそ、変わったと評するのだ。或いは変わり果てたと言うべきなのかもしれない。
それは――この一年間もっともシンと近い場所にいたヴィーノだからこそ気付いたことなのだろう。
シンは今もザクウォーリアを見上げている――その姿が何故か無邪気な子供のように見えた。親の迎えが来て、遊び足りないのにつれて行かれる子供。物足りなさそうな子供の姿が重なる。

「……シン、お前さ」
「ん……どうかしたのか?」

疲労や睡眠不足から窪んだ眼窩は髑髏を彷彿とさせる――整った顔つきと相まって、おぞましいモノに見えた。

「大丈夫、なのか?」

発せられた言葉。
シンはその言葉を受けて――一瞬の停滞。言葉の意味を確かめているのかもしれない。
大丈夫――何が?身体が?調子が?機体が?それとも……心が?
彼がそのどれのことだと思ったのかは分からない。分からないが――彼は返答する際に“微笑った”。酷く無邪気で楽しげに。

「“大丈夫”さ」

その言葉と微笑みが――やけに怖いモノに見えた。

「……そうか」
「そうだよ」

ヴィーノはそれ以上何かを言うことは無かった。
言う必要も無かった。
そのやり取りはもう――何度も何度も繰り返したやり取りなのだから。



薄暗い空間。
場所は――マティウス・スリーに存在する場末のショットバー。そのカウンターだ。
喧騒に満ちた空間の中で男が二人並んで、酒を飲む――安物のブランデー。ロックで飲むにはいささかキツい代物だった。

「で、あの男は味方にならない、と?」

褐色の液体を口に含みながら、黒髪の男が呟く――にやついた表情。亀裂の入ったような微笑み。生理的な嫌悪感を催させる笑い――見る者すべてに不快感を与える微笑み。
その男の呟きに、黒髪の男――アリエストが返答する。

「無理だな。アイツは金とか名誉とかでなびく男じゃない――下手にそんなことやってみろ。誰だろうと関係なく、ズドン、だ」
「信頼されてない同僚だな、アリエスト?」
「……俺だけじゃなく、全員さ。アイツは誰も信用しちゃいない――そんな真っ当な人間じゃないんだよ、シン・アスカってのはさ」

黒髪の男の返答に黒髪の男が顔を歪めた。
男が瞳が危険な色合いを帯びていく――グラスを煽り、ブランデーを口に含む。

「……邪魔になるか」
「間違いなく、な。“こんなこと”をする時に本当に気をつけなければいけないのは、キラ・ヤマトでもアスラン・ザラでもない――シン・アスカだ」

アリエストと呼ばれた男がブランデーを口内に流し込む――喉が焼けるように熱を帯びた。身体が中心から火照り始めた。
黒髪の男が、呆れたように口を開いた。信じられない、とでも言いたげに。

「……それは初めて聞いたな。エースだったと言っても過去の話だ。今では専用機すら無い、落ちぶれた男――“あの”キラ・ヤマトやアスラン・ザラよりも警戒しなくてはいけないというのか?」
「……だったら、俺の言うことを聞かずに真正面から戦ってみればいい。アイツがどれだけ化け物なのか身に染みて分かるさ」

アリエストは背中を向けたまま、残りのブランデーを放り込むようにして、飲み干す――後方に眼を向ける。ラウンジに座る男は不敵な微笑みを浮かべたままだ。

「なんだ?」
「言うべきことは、教えた………だから」

アリエストが、黒髪の男を睨みつける。

「……“約束”は守ってくれるんだろうな」
「当然だ。お前が途中で怖気づいたりしなければな」
「怖気づくかよ」

アリエストがグラスに残った氷を眺めながら、吐き捨てるように呟いた。

「……俺にはやらなきゃいけないことがあるんだから」

アリエストの呟き。その彫りの深い顔にはただただ苦渋だけが満ちていた。
黒髪の男はそれに対して返答することなく――夜は更けていく。


昔、両親が死んだ。戦争で死んだ。残されたのは自分と妹。必然的に自分が働いて妹と生活していかなければならなくなる。
家族が戦争で死んだ=兄である自分が妹の面倒を見なければいけない――至極当然の帰結。
生きて行く為には何でもする必要があった――子供が就くことのできる職業などは限られている。仕事を選り好みする余裕は無かった。
結果として、自分の未来はその時点で確定していった。
そして、新たな戦争が起きた。妹をプラントに残して自分は戦場に行くことになった。戦場にいたのは一年間。生き残れたのは奇跡だった。そして、“あの敗北”をこの目で見た。
敵と味方が反転し、何もかもが、眼に映る全てが反転しひっくり返り裏返ったあの敗北を。
そして、戦争が終わり、全てが終わり、家に帰れば――誰もいなかった。
待ってくれているはずの妹がいない。どこにもいない。家にいない。どうしていない。何でいない。
いないいないいない、と叫んでみても、どうにもならない。
手紙があった。迷わず開いた。
そして――


白い室内。壁は真っ白いリノリウム張り――建物自体はかなり古いのだろう。所々に汚れがあり歴史を感じさせる。
その汚れが、少しだけ心を落ち着かせる。病的な白さは不安を想起させるのだから。
完全に純粋に無垢なる純白など、精神的な健康にはまるで意味が無い――心を乱す効果しかない。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

傍らのベッドに横になっている少女が声をかけた。
少女の名前はレミング・ミラー――いつも自分はレミと呼んでいる。
少女の腕には点滴が差し込まれており、一目見ただけで病人と分かる姿だった。
腕だけではない。顔色も――そして、纏う雰囲気も。
戦争に行く前とはまるで違う姿。
戦争から帰ってくれば、妹が病院で死にかけていた。
笑えない冗談だとその時は思った。
――それでも生きていてくれたことに喜ぶべきなのだろう。

「何でもないよ、レミ」

出来る限り優しく声をかける。
弱々しげな姿を見ていると自然と口調もそうなってしまう。少女はそう言ったことを嫌がる節があるが、それでもそれは変えられない。

「レミ……?」

レミの顔が少し俯いた――どうしたのだろう。
そう思って口を開こうとした、瞬間

「……私っていつになったら退院出来るのかな?」

悲しげな声で、彼女はそう告げた。

「今度の手術が終われば――退院出来るよ。先生もそう言ってる。大丈夫だよ、レミ」
「……そっか」

レミは――妹は悲しげに呟く。

「レミは……」
「お兄ちゃん?」
「レミは、退院したら、何がしたい?」

紡ぐ言葉はいつも通りの繰り返し。
質問の内容も、返事の内容も、そのどちらもが決まり切った定型句。

「私は――」

妹の言葉を胸に、自分はただ微笑み続ける。
それが幸せだった――それだけが幸せだった。
何を犠牲にしようとも、何を売り払おうとも、何を失ったとしても、これだけは守らなければいけない。
信念や決意と言うモノが自分にあるとすれば、それは妹を守ると言うそれだけだ。ただそれだけの為に自分は生きているのだ。

アリエスト・ミラーは揺らがない。
ただ誰かの為にと決めて生きる人間。その決意を――どんな人間が揺らがせることが出来ようか。
誰にも揺らがすことは出来ない。例え同じ境遇にあった人間がいたとしても――きっと彼の心を動かすことは出来ない。

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