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空想垂れ流し 世界の敵になるということ(Bパート)

世界の敵になるということ(Bパート)

起きて直ぐに目に入ったモノは、彼女――フェイト・T・ハラオウンの瞳。
痛みは無かった。あるにはあるが、行動を阻害する程でも無い。
彼女は自分の寝ているソファーとは別の場所からこちらを見ていた。

「フェイト、さん?」
「……起きたんですか、アスカさん。」

こちらを見る彼女の瞳に映る色合いは――警戒、だろうか。
堅い口調。記憶の中の彼女とは重ならない、いつも通りの口調。
夜は明けている。
時刻を見れば、8時過ぎ。
長い――長い一日だったような気がする。
ギンガと再会し、フェイトと再会し、デュランダルやハイネと再会し、スバルやティアナ、キャロとの再会、そしてデスティニーの離脱――本当に目まぐるしく動き続けた一日だった。
懐をまさぐっても、そこにある筈のモノ――デスティニーは無い。念話を繋げようと試みるが――繋がることも無い。眠る前と同じく切断されたままだ。
身体の調子は良好。腹部の痛みは既に無い――僅かに疼きはするが、それだけ。
彼女がかけ続けてくれていた治癒魔法のおかげだ。

「……治癒魔法、ずっとかけてくれてたんですか?」

フェイトは首を振って否定する。

「気付いたら途中で寝てました……全部治ってるとは思いませんでしたけど、寝ながらやってたのかもしれません。」

フェイトがどこか訝しげにシンを見つめる。

「怪我、治るの早いんですね。」
「そ、そうですか?」
「……そうですよ。」

呟いてそのまま彼女はこちらを見つめる。

「な、何ですか?」
「別に……見てるだけです。」

言って、彼女はこちらを見つめ続ける。
不思議な感じだった。
彼女は自分を嫌っている。これは確実だ――エリオのことやギンガのこと、そして彼女自身のことがある上に、二股云々までも、バレている。ついでにギンガにキスしたこともバレている。
隠すつもりは無いし、隠すことでも無いのだが――じゃあ、語りたいのかと言うとそんなことは一切無い。
正直、これ以上嫌われる要素と言うモノを増やしたくは無いと言うのがシンの本音だった。
彼女の視線は冷たい。目を逸らしたくて仕方ないというか、気付いたら逸らしていた。
昨日の晩に彼女は、自分のことをシンと呼んだ。そのことからもしかして記憶が戻ったのかも――などと期待はしていたのだが、この状況を見る限り、違うのだろう。
視線は冷たい――少なくとも、そんな甘い期待は全て吹き飛ぶような視線である。ちょっと泣きそうだ。

「……あの」
「何ですか?」

間髪いれずの返答。
鋭い視線。昨日よりも鋭いかもしれない。

「いや、あの……これから、どうしようかなって。」
「……アスカさん、昨日言ってたじゃないですか。」
「あ、いや、そ、そうじゃなくてですね。」
「……何ですか?」

視線が冷た過ぎて死にそうです。
機嫌が悪いと言うよりは、最悪だ。
昨日の方がはるかにマシだと言える――訳が分からない。嫌われるようなことをしたつもりは無い――と言うよりも、好かれるようなことも嫌われるようなことも何もした覚えは無い。
そんな時間はありはしなかった。ただ、ここまで一緒に逃げてきただけだ。その過程で何かをするような暇など無い。
あるとすれば、それはギンガのことだろうが、正直――彼女が怒る理由にはならないと思う。多分。

「……あ、あの、怒ってます?」
「……何で、私が怒るんですか?」
「ですよねー。」

あははーと、愛想笑いを浮かべて、話を濁す。
確実に怒っていた。怒髪天を突くとは正にこのことだろう――暴れる、と言うよりは静かに沈澱する怒りだが。

(……な、何でいきなり怒ってるんだ?)

自問するも分からない。かと言って彼女に聞くのは明らかに失敗な気がして仕方が無い。
訳が分からない上に、かなり辛い。
今も彼女はただこちらを見つめて――というか睨みつけている方が正しい。

――フェイトがどうして怒っているのか。シンには分からない。
それは当然のことだった。
前述したが、シンにとっては長い一日ではあったが――あくまで一日でしかない。
再会した時、その後のフェイトがシンのことを嫌っていたことを考えれば――フェイトが自分を嫌っていると考えるのが当然である。一日足らずで人間の感情が変化することなどありえないのだから。
だからこそ、ギンガのことで自分を嫌うことはあっても“怒る”ことは無い、と思っていた。それこそ、都合のいい話ではあったが。
だから――これは前提がまるで違う。
シンの頭の中には、フェイトが自分に好意を持っていると言う考えが全くない。
たかだか一日で好意が芽生えるはずが無いと言う常識故の結論なのだが――現実とは小説よりも奇なりと言うが、正にその通り。

それこそフェイト自身は否定するだろう。
シン自身も信じることは無いだろう。

だが――元々、好意はあったのだ。フェイト・T・ハラオウンからシン・アスカへの好意は存在していたのだ。
記憶を失くしても尚――その身体に残っている“記憶”が。それは残滓程度のモノだが、記憶は彼女の身体に紛れもなく刻み込まれている。
シンはそれを知らないし、知る由も無い。
フェイトはそれを認めないし、伝える義務も無い。

だからこそ、前提がズレる。
フェイトのシンへの態度は――彼女は気付いていないかもしれないが――嫉妬する女性のソレであり、シンのフェイトへの態度は好きだと気付いて踏み込めない男子のソレである。
どこにでも存在する恋愛風景のヒトコマ。恋する男女のすれ違いにすぎない。
そのまま睨みあうこと数秒――シンはフェイトがどうして怒っているのかを理解出来ず、愛想笑いを浮かべ、フェイトはそんなシンに苛立ちつつも――溜め息を吐いて、口を開く。怒っているのが馬鹿らしいと思ったからだ。
彼女が言わない限りは、彼は気付くことは無いだろう――きっと、気付きはしない。自分がどれだけ侵されているのかなど、気付く訳が無い。
そんな状況で彼に苛立ちを持ち続けるのに意味は無い――本当に、全く以て意味が無い。

「デュランダルさんを、追いかけるんですよね……?」

それまでとは少し色合いの違う声音に気付き、シンが返事を返した。

「はい。あの人達を追いかけて――」

一つ、息を吐く。
深呼吸――瞳を閉じて、右手を開き、顔の前に持ってくる。
朱い瞳に映り込む掌。中心に見える瞳の紋様――羽鯨の眷属の証。
如何なる理由によるものかは分からないし、知る由もない。
だが、ギンガ・ナカジマは選ばれた。羽鯨をこの世界に生み出す滅びの聖女として。
それがどういう事態を示すのかは、正直なところ理解できていないが――分かっていることがある。
彼女はこのまま放っておけば死ぬ――生贄となって殺される。それだけは紛れもない真実だ。
昨夜のこと。一昨日のこと。こちらに戻ってきてまだ二週間も経っていないが、事態は一刻の猶予もないほどに急変している。

「――全部、奪い返して、借りを返す。それで、全部終わりです。」

シンの声に熱が籠る。
隠しようの無い熱――欲望。正義でも自由でも無いシン・アスカの行動する根源理由。
狂人じみた強欲を滲ませながらシンは微笑った。

「……それがアスカさんのやるべきこと、ですか?」
「やるべき、じゃなくて、やりたい、ことですね。とりあえず、今はあの人を取り戻したい。そうじゃなきゃ何も始まらない。それに――」

瞳をフェイトに向ける。
朱い瞳と紅い瞳が絡み合う――絡み合った時間は僅かに数秒。
その瞳が以前自分に想いを告げた“彼女”と重なる。

――貴方が好き。

そう言って泣いていた彼女はもういない。寂寥を伴うその事実をひっそりと胸に沈め、シンは瞳を逸らした。ただの感傷に過ぎない。
“あの彼女”は取り戻せないとしても、彼女は取り戻せた。
それは喜ぶべきことだろうから。

「アスカ、さん?」
「あ、いや、何でも、無いです。」

何でもないはずがない――が、その気持ちを知られる訳にもいかない。今は、まだ。
そう思ってシンは言葉を濁した。
胸に渦巻くのは、酷く臆病な気持ち。怖いと言う感情。それも戦闘で感じるような死の恐怖では無く、拒絶されるのではないのかという恐怖。
恋愛関係において誰もが陥る疑心暗鬼の恐怖――疑っているのは、相手でもあり、自分自身でもある。
無論、シンの場合は、一筋では無く二股なのだから、拒絶される可能性は大きいどころか、間違い無く拒絶される。

(……考えてると気が滅入るぞ、これ。)

その恋慕のカタチは、思いつきで考えた訳ではない。気持ちは本気の本気で、シン・アスカという男は、フェイト・T・ハラオウンとギンガ・ナカジマの両方を本気で好きになった。だからこそ、彼は二筋に本気なのだ――世間一般ではそれを二股と呼ぶのだがそれはこの際置いておこう。

実際、こんなことを告白しようものなら、平手で叩かれてフラれてお終いである。
決意もした。覚悟もある――それがどれほどの苦行なのか、本当に理解しているかどうかはさておいて、覚悟はした。どんなに周りに侮蔑の眼差しで見られても良いと言う程度の覚悟は。
だが、覚悟したから、決意したからと言って、何もかもが解決する訳でも無い――それはあくまでシンの気持ちであって、彼女たちの気持ちとはまるで関係の無いモノなのだから。

「そこまで行く方法としては――クラナガン以外の都市から出てる電車に乗っていくのが一番でしょうね。」
「……でしょうね。飛行機とかはまず無理だろうし」

自分の返答にフェイトが頷く。
どれだけ、敵が――聖王教会が根回しをしているかは不明だが、迂闊な動きは出来ない。
もし、捕まってしまえば、その時点で全てが終わりだ。
だから、行くならば陸路。彼女の言うように電車で目的地にまで行くのが一番適当と言えるのだが――

「問題は、どうやって気付かれずにクラナガンから出て、電車に乗り込むか。俺はともかく、フェイトさん、有名になっちゃいましたもんね。」
「……そうですね。」

シンの言葉に渋面を作り、溜め息を吐くフェイト。

フェイト・T・ハラオウン。
時空管理局切っての才媛である彼女は有名だ。
以前ならば、知っている人は知っている程度のレベルだったが、彼女は一度死に、大々的に葬式を行われている。それはプロパガンダの意味合いが強い――その際に、元々有名だった彼女の知名度は一気に跳ね上がった。
それこそ巷で知らない者はいないというほどに――無論、それは一過性の知名度で在る。時が経てば誰もが忘れる程度のものだ。
けれど、たかだか、半年程度しか経っていないと言うのに、迂闊なことは出来ない。

「……教会の監視は厳しいです。デュランダルさんがどうやって此処を脱出するつもりなのかは分かりませんけど――この半年間、クラナガンから余所の街へ行く際には検問を通る必要がありますから。」
「検問、か。」

検問――その言葉にシンが瞳をフェイトに向ける。

「逆に言えば検問さえ乗り切ってしまえば、それで何とかなるんですけど――」

フェイトが言葉を切って、溜め息を吐いた。

「フェイトさん?」
「……正直、私とアスカさんだとかなり難しいって思います。」
「俺と、フェイトさんだと?」

鸚鵡返しに応えたシンにフェイトがジトっと眼を向けた。

「アスカさん、お金ありますか?」
「あ」

間抜けな声を上げて、それまで失念していた事実に気付く。

「ベルカ自治領バルドセルクまでの渡航費いるんですけど……私、この半年卸してないから全く無いです。」
「……同じく、俺も。」

そう、今まで気にしたことなど無かったから、忘れていたが――そう言えば、自分達には“金が無い”のだ。

クラナガンからの脱出――その為に必要なモノは幾つかある。
例えば陸路から行くのならば、最悪でも変装くらいはする必要があるし、移動手段の確保も必要になる。
陸路――車で行くにしろ、電車で行くにしろ、どちらにせよ何らかの処置は講じる必要があるだろう。
だが、問題はその処置を行う準備。というか平たく言えば金が無い。
カツラを用意するにも、電車のチケットを買うにしても、何をするにも金は要る。文明社会に生きる以上、金は天下の回り物であり、必須事項の一つである。

無論、二人共貯金はたんまりとある。
シンは元々金を使うことがない。服などは支給品を使うのが殆どで、仮に買うとしても機動六課隊舎内に出店をしていた服屋からTシャツとトランクスを買う程度。わざわざ街に繰り出して何かを買おうと言う発想がそもそも無い。

フェイトはフェイトで、非常に多忙であり、服を買いに行く暇などありはしない。母親が時折送ってくる彼女の若い頃の服を着たり、通販で買ったり――それも友達に促されて――する程度だ。彼女にいたっては、そもそも街に繰り出す暇が無いのだから、当然と言えば当然だ。

だから、彼女たちの貯金はそれなりに大きな額となっている。
フェイトなどは高級車の二台ほどは簡単に買える程度の貯金がある。
流石に管理局から給料をもらい出して日が浅いシンはそこまでではないが、それでも新車を楽に買える程度の貯金はある。金に無頓着なせいで、給料明細など彼は見たことも無いが、基本給はそれほど高くないが、現場手当てに、危険手当、資格手当などで結構な給料を毎月貰っている。

だが――シンもフェイトも現在死人ということになっている。フェイトにいたっては既に葬式まで挙げられている。
そんな死人が、もし、どこかのATMで金銭を卸せば、目立つことこの上無いどころか、大騒ぎになる可能性が高い。

シンが懐から財布を取り出し、中身を見る――行きがけにヴァイスからもらった数枚の紙幣と一昨日の買い物のお釣りが残っている。大体日本円にして、2万円ほどである。

「……ちなみにどれくらいかかるんですか?」
「……バルディッシュ、どれくらいになる?」
『It is an expected amount of money in case of the cheapest method how it used a coach for(長距離バスを使用した一番安価な方法の場合の予想金額です。)』

バルディッシュが空中に路線図と金額を提示する。
フェイトとシンの唇がひくついた――それは日本円にして10万円ほどの額である。
二人で10万――高くないと言えば高くないが、この場合、高い壁である。
シンの財布の中には渡航費の3分の1も無く、フェイトは財布すら持っていない。

「うわあ……」
「アスカさん、幾ら持ってますか?」
「……全然ないですよ。今のところ全財産でこれだけです。」

そう言ってシンは財布の中からありったけの紙幣を取り出し、テーブルの上に並べる。

「……全く足りてないですね。」
「……足りて、ないですね。」

暗澹たる現実を見ると、気分が暗くなってくる。
シンはそのままソファーの背もたれに体重をかけて天井を見上げた。

――まずい。どうする。

口調はいつも通りだが、内心かなり焦っていた。
何をどうしようとも、金はいる。
ここから、バルドセルクに行く為に金は必要だし、それまでの食費だって必要になる。あくまでここに出ているのは電車のチケット代でしかないから、実際はこれ以上の金額が必要になる。
少なく見積もっても15万――下手をすれば20万程度になってもおかしくはない。
手元にあるのは2万程度。10分の1程度しかない。

溜め息を吐いた。見れば、フェイトも椅子に座って、バルディッシュを見つめながら空間に投影した画面を見ながら、溜め息を吐いている。画面には格安ツアーと書かれた華やかな画面が出ていた。どう見ても胡散臭さ抜群なのだが――ぶっちゃけ、そんな怪しげなツアーでも自分の全財産では及びもつかないほどの費用が必要となっている。

(……ヴァイスさんに借りるか?)

それは、一番手っ取り早く、最も現実的ではあるが、同時に“最も危険”な方法でもあり――正直、それに頼るのは本当にどうしょうも無くなった時にしたい。

借りようと思えば借りれるだろう。
現在の自分は陸士108部隊の命令で動いている。
今財布の中にある金も滞在費として、ヴァイスから渡されたものだ。
どれだけ滞在費をヴァイスがもらったのかシンは知らない。財布は全てヴァイスに渡してあるし、興味も無いのでシンは聞きもしなかった。
だが、幾らなんでもシンがもらった分で終わりと言う事無いだろうし、最悪ヴァイス自身に借りると言う方法もある。貯金の問題が何とかできれば、その程度、後から簡単に返せる――ヴァイス自身が金を貸すのを嫌がる可能性もあるが、その場合は何が何でも拝み倒すしかない。その光景を思い浮かべると、かなり嫌な気分になるが、この際背に腹は代えられない。
もっとも、拝み倒す以前に聖王教会に見つかって捕まるリスクが著しく高いが――最悪の場合、それは眼をつむるしかない。

(……どうしようも無くなった時に、ってところか。)

現実的な方法としては、バイト、くらいしか思い浮かばない。
実際、二十万円(日本円換算)もの大金を数日――実質的に5日ほどで稼ぎ出すなど殆ど不可能には近いが。

「とりあえず、求人探しに行くか……って、フェイトさん、何やってるんですか?」

前を見れば、フェイトが一心不乱にバルディッシュを介してネットの海の中で路線図巡りをしている。
空間に投影されたデータ量は膨大な量だった。彼女はそれらを左手で振り払うようにして、消し去り、映像を投影する相棒(バルディッシュ)に指示を出す。

「バルディッシュ、検索キーワードを“ヒッチハイク”に変更して。」
『Yes,sir.』

検索キーワードを変更し、再度空間に現れる検索結果。
それらを一つ一つ選り分けて、望む検索結果を出そうとする――ヒッチハイク。そんな検索をかけている状況から考えれば、彼女自身手詰まりに近いのかもしれない。幾らなんでもヒッチハイクは無理だろう。長距離バスで数日かかる道程をヒッチハイクとか無理があり過ぎる。

「……フェイトさん?」

シンが声をかけた。
聞こえていないのか、フェイトは構わず一心不乱に検索を続ける――ヒッチハイク関連の検索結果は、どうみてもお粗末なものだった。

“ミッドチルダヒッチハイク紀行”
“AINORI!! バスの出演者募集中”

(……いやいやいや、無理だろ、これ。)

シンが心中で呟く。
同じことをフェイトも思ったのか、眉間に皺を寄せて、その検索結果の画面を右手で振り払い、掻き消した。

「……バルディッシュ、キーワードを“激安ツアー”に戻して、もう一回検索し直そう。」
『Yes,sir.』
「……あの、フェイトさん?」
「アスカさん……何ですか?」
「……いや、激安ツアーって何するつもりなんですか。」
「ああ、これですか?」

フェイトが空間に投影されたA4サイズの画面を指を使って手元に手繰り寄せる。
そこに書いてあるのは路線図――金額や時刻も共に書いてある。
最も安価な長距離バスで、おおよそ10万円(日本円換算)程度。恐らく先程バルディッシュが提示したデータの情報ソースだろう。

「激安ツアーとかだと、たまにこういった正規の金額より安くなる場合があるから、今それを探そうかと思って。」
「……正規の値段より安いなんてあるんですか?」

不思議そうにシンが呟く。
さもありなん。こういった小旅行プランの値段などシンは知らないが――それでも正規の値段より安くなることなど在る筈が無いと思いこんでいた。
不思議そうに見つめるシンを余所に、どこか得意げにフェイトが呟いた。瞳は空間に投影された画面に固定されたまま。

「こういうサイト覗いてると、どう考えてもおかしなくらいに安いツアーもたまに存在してるんです。どうやってるのは知らないですけど……駄目で元々で検索してみたんですけど……」

フェイトがその画面を指で押して、目の前からずらして消し去った。
そうしてシンに向き直り、肩を竦めた。

「……どんなに安いって言っても、流石に私たちの全財産で行けるようなツアーはありませんけどね。」

そりゃそうだ、と心中で呟きながら、シンが口を開いた。

「まあ……やっぱり、金稼ぐ以外には方法無いと思うんですよ。」
「……ですよね。」
「貯金卸すとかは無理だし……日雇いのバイトでどこまで出来るか分かんないですけど。ちなみに“当日”までに行くには、最悪何日に乗ればいいんですか?」
「えーと、バルディッシュ、お願い。」
『Yes,sir.』

バルディッシュの電子音が響く。
空間に新たな路線図が投影される――そこに記された日付は、3月7日。今日が3月の2日なので、実質5日ほど。
残り5日で二十万円を稼ぎ出す――非現実的な数字だ。

「……とりあえず、行きましょうか、フェイトさん。」
「へ? 行くってどこに?」
「コンビニですよ。昨日から何も食べてないんだから、ちょっとくらいは食べとかないと。」
「えーと……」

フェイトが何事かを言おうとする瞬間――ぐう、と腹の音が鳴り響いた。

「……」
「……」

フェイトの顔が俯いた。
シンは罰が悪そうに目を逸らす。
鳴ったのはフェイトの腹部。

「……行きましょうか、フェイトさん。求人情報誌とか見ましょうよ。」
「……はい。」

繋いだ手を引っ張られて、廃墟を出て街へ向かう――フェイトは正直顔から火が出るほど恥ずかしかった。

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再開キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
二人のアルバイトかあ
ここまで怒涛の展開続きだったからいい小休止になりそうですね
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とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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