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空想垂れ流し 愛の病 Cパート

愛の病 Cパート


既に使われていない下水道――汚物は流れていないし、汚水も流れていない。随分前に放棄されたのだろう。流れているのは単なる泥水。精々が雨水程度。
水飛沫を上げながら、走り続ける。
戦闘を走る――いや、飛ぶか――彼の面影を残した少女へと声をかけた。

「彼はもう、逃げたと思うかね、レイ……いや、今はデスティニーか。」
「レイで構いません。それも――私の一部ですから。」

金色の髪の毛と朱く鋭い瞳。女性らしさを強調するが如くに突き出た胸。
瞳の輝きは鋭く女性とは思えないほどで、そこに加わる童女の如き可憐さを忍ばせた横顔が彼女の在り様を揺らがせる。
見る角度によっては幾通りもの表情を見せる。
そんな中で彼の面影など、金色の髪の毛と口調の節々にしか残っていない。
それが少しだけ苦々しい想いを再生し――そんなことを思う自分に苦笑する。
それはギルバート・デュランダルには似つかわしくない感傷だ。必要の無い、と言い換えてもいい。そんなことを思う資格など自分には無い。そう思っているのに、感情とは不思議なモノで勝手にそんな感傷を構成していく。
人であることなど当に捨てたと思っていたが、そんな感傷が浮かぶと言うことはまだ自分は自分のことを人間だと思っているのかもしれない。
それこそ夢幻のようなものだ――そんな馬鹿な考えを仕舞いこみ、語りかける。

「では、レイ、キミはどう思う?」
「恐らくは逃げたと思います。そうでなくては意味が無い。」

下水道を走りながら、後方を振り返る。
こちらの背後には3人の少女が同じく走り続けている。
ティアナ・ランスター。スバル・ナカジマ。キャロ・ル・ルシエ。
そして、自分――ギルバート・デュランダルも同じく戦闘準備を終えている。
同じように、デスティニー/レイも大剣を握り締めたまま、翔け抜けていく。
ハイネは襲撃が起きる前に此処から離脱してもらった。彼と――そして、シンは出会っていないもう一人には別の仕事があるからだ。
視界に入り込むレイの面影を残す彼女に向けて、続ける。

「……主であるシンを危険に晒してまで、君が私達についてくる必要も無かっただろうに。」

金色の髪を揺らして、デスティニーが首を横に振った。

「私がいれば、あいつは迷わず戦って、自分を囮にしてしまいます。」
「確かに……君が言うのならそうなのだろうな。」
「あいつは、役立たずのままでなければ、戦うのを止めはしない。」

酷い言い草だ、とも思ったが、それは真実だった。
デバイスである彼女がいないシン・アスカ。現在の彼ははっきり言えば役立たずだ。
彼の強さとは、デバイスがあってこその強さである。
デバイスを持たないシン・アスカなど精々がAランク程度――それも戦闘能力に限定した場合のみ――の魔導師である。戦闘能力に限定しない場合、彼のランクはDからC程度だ。
それは短期間で化け物の強さにまで駆け登った弊害でもある。
シン・アスカの強さとはデバイスがあるからこそ、デバイスに依存するからこその強さである。
無論、目前のデスティニーとはシン・アスカ専用のデバイスであり、彼以外には扱えないのだから、デバイスも含めた上で、“シン・アスカと言う魔導師”とも言えるが――デバイスが無いと彼が役に立たないことに変わりは無い。
だからこそ、そういった役に立てない状況に立たされれば、シン・アスカとて逃げ出す。化け物じみた強さを持っているからこそ、あの男は迷うことなく命を賭ける訳であって――決して自殺志願では無いのだ。

「まさか、シン君とフェイトさんも自分らを逃がす為に逸れた、とは思わないだろうね。」

後方から、スバルが言った。
デスティニーの朱い瞳がスバルを捉えた――口を開く。

「その通りだ、スバル・ナカジマ。この場で最も戦力となるアイツをあえて外す。そんな自殺行為だからこそ意味がある――もし、そのことに気付けば、あいつは確実にこちら側にいようとするからな。騙すくらいで丁度いい。」
「強いからこそ、か。」

デュランダルの言葉に頷くデスティニー。
その通り、管理局において化け物とも揶揄されるオーバーSランクであっても、一対一では今の“シン・アスカ”と言う化け物を倒すことは不可能だろう。
魔導師と言うより、人間サイズのサードステージシリーズ――デスティニー、インフィニットジャスティス、ストライクフリーダム、レジェンドのモビルスーツのことだ――と同等と言っても過言ではない。
それは明らかに人間の強さから逸脱している。現在の彼の力はそれほどに規格外だ。
だが――どれほどに規格外で強いと言っても、それは無敵と同義ではない。周辺から搾取した魔力だけでは補え切れないほどに戦闘の規模が大きくなれば、彼は命を削らざるを得なくなる。
それは駄目だ。それはいけない。
彼はまだ死んではいけない――シン・アスカという命を使い切るのは、このタイミングではない。
故にデュランダルはシン・アスカを助けた。
本来なら、助ける必要など無かったと言うのに、敵に見つかるリスクを犯してまで。
彼を死なせない為に、そして彼を捕えさせないために、である。
デュランダルにとって、最悪なのはシン・アスカが捕えられること。無限の欲望であるシン・アスカが敵の手に落ちようものなら、羽鯨の受胎は完了したも同然――彼とジェイル・スカリエッティは羽鯨にとって極上の餌なのだから。
だからこそ、最も確実な方法を取ったのだ。
シン・アスカを逃す為の最も確実な方法――即ち、戦うことが出来ないようにした上で、嘘を吐いて。

「けど、本当にあの二人だけで大丈夫なの? 幾らこっちが囮になるからって、シンは魔法もまともに使えないし、フェイトさんだって本調子じゃない……もし、あっちにも敵がいたら、その時点で終わりじゃない。」

ティアナが口を開いた。
走りながらのせいか、息が少し切れている。

「殆どの敵はこちらに呼び寄せている――あちらに行く敵がいるとしても、精々がガジェットドローン数機というところだろう。その程度は、今のシンとフェイト・T・ハラオウンだけでどうとでもなる。」

淡々と言葉を紡いでいくデスティニーに向けてキャロが声をかけた。

「信じてるんですね。」
「相棒だから、だな。 君とて、その竜を信じているだろう? それと同じだよ。」

デスティニーがキャロに向けて返答する。彼女はその言葉を受けて、傍らを飛ぶ小さな竜――フリードに目を向けると、フリードがぐるぅと呻いた。人語を理解しているのか、それとも雰囲気で察したのか、どことなく嬉しそうな雰囲気だった。
光が見える。下水道の終わり――恐らくはどこぞの排水施設か、海に出ることだろう。
デスティニーが呟いた。

「さて……お喋りはこの辺でお終いだな。」

彼女が速度を緩める――後方から、全員が追いついてくる。
出た場所は、昔は使われていたであろう、排水施設。
現在では使われていない――元より使われていたのは相当の昔なのだろう。生い茂る草と遠方に見える管理施設の荒廃がその年月を物語っていた。

「……いるな。」

デスティニーの呟きを聞いて、スバルが辺りを見回す――瞳の色は金色。通常の視覚では“見えない”モノを視る為の視覚へと変化する。
熱源反応は見えるだけで、20を超えている。
人間ではありえないほどに高まった温度を示す人型の熱源は――恐らくはクジラビト。ここ半年で現れた化け物達。数は5人。残りの熱源は、恐らくは聖王教会の魔導師たち。
スバル達3人の顔に緊張が走る。
別に、殺し合いをするつもりではない――それでも、同じ人間を相手にする戦いというものにはどうしても緊張が付き纏う。
シン・アスカがいない間に交戦は何度かあったが、それでも慣れるモノではない。
聖王教会を敵に回すと言うことは、世界を敵に回すと言うことだ――慣れる筈が無い。

「数にして、25人と言ったところか、スバル・ナカジマ?」
「……そうだね。」

スバルが神妙な顔で呟く。これから起こる戦闘を思い描いているのか、その拳がきつく握り締められていく。

「……どっち道、ここを抜け出さないことには何も始まらないしね。」

ティアナが両の手の拳銃型のデバイスを構え、漆黒の暗闇を睨みつける。
そんな彼女達を見て、右手に携えていた大剣を肩に担いだデスティニーが感心するように溜め息を漏らした。
ティアナの目がデスティニーをジトリと睨み付ける。揶揄でもされたように感じたのかもしれない――実際、この場にいる人間の中で自分だけが、直接関わりが無いのだから、そう思われるのもt当然かもしれないが。単なる成り行き――世界が滅びるとか単純に嫌だし、ギンガさんが間違いで殺されるのも嫌だし、何より、それを見過ごしたら、私は一生私を許せなくなる。
ティアナの胸にあるのはそんな気持ちだった。彼女は今そんな程度の気持ちで動き、未来を不意にしているのだから――揶揄すると言うのは分からないでもない。

「何よ?」
「いや、何、流石の覚悟だと思ってな。こんな状況でまだそんな顔が出来る――大したモノだ。」

ティアナの唇がひくついた。
まさか、デバイスにこんな風に褒められる日が来るなどと考えもしなかった。

「……あんたこそ、表情一つ変えないで、シンを騙すとか大したデバイスよ。」
「さっきも言ったが、あの馬鹿はこれくらいしないと騙されてくれないのさ。」
「……あんたが本当にデバイスなのか疑いたくなるわ。」
「ふふ、ユニゾンデバイスの亜種とでも思ってくれれば良いさ。」

笑いながら、呟く、デスティニー。
常識外れもいいところだ。幾ら主の為とは言え――平然と主を騙すようなデバイスはそれほどいない。そんな彼女の口調の節々から感じられるシンへの信頼はどこか家族や相棒と言うよりも――親友に対するモノに近い気がする。
どこか、自分がスバルに向ける態度に似ているような――そんな益体も無い思考が行き過ぎる中で、キャロが一心不乱に前を見ていた。

「……私達がここで目立てば目立った分だけ、フェイトさん達は無事になる、ってことですよね。」

小さく、少女――キャロが呟く。
幼い顔には似つかわしくない決意と覚悟を浮かび上がらせて。
少女には止まっている暇など無い。
彼女にはやるべきことがある。家族を――奪われたモノをこの手に奪い返すと言う願いがある。
少女は気付いていないが、それは酷く傲慢な願いだ。エリオ・モンディアルは自分の意思で――如何なる理由があろうとも選んだのは自分自身である――少女を裏切った。敵に回った。
だが――幼いココロはそんな理由など踏みつける。踏みつけて、踏みにじって奪い返す。
キャロにとって、エリオの意思や理由など関係無い。
彼女は最後に見た、エリオの顔が忘れられない――泣いているような彼の顔がどうしても離れない。
だから、助ける。一切合切を捨て置いて。
こんなところで立ち止っている暇は無い。悲しんでいる暇など無い。怖気づいている暇など無い。
否、そんな暇があるのなら、さっさと突破して、己の願いに突き進む。
フェイト・T・ハラオウンはキャロ・ル・ルシエに置いていかれたと感じていたが――実際は違う。
置いて行かれたのではない、彼女は、断固として“立ち止っている”。
誰をも置いていく訳では無く、全てを連れ戻して、奪い返す為に、彼女は立ち止ることを選択した。
デスティニーはそんなキャロを哀れに思う。
それは少女が胸に抱くべきではない想い。この年齢で、“過去に依存する”ことを選択するなど哀れと言う他は無い。
断固として、それは哀れでなくてはいけない――その身に“マユ・アスカ”の魂を内包するからこそ、彼女は強くそう思う。
子供とは未来に夢を見なければならない。
あの頃は良かった、あの頃は楽しかった、あの頃に戻りたい――そんな過去への想いに縛られてはいけないのだ。
それは感傷だ。
デバイスでしかない――それどころか分類上は文字通り、単なる魑魅魍魎でしかない自分が何を言うのか、とも思うが、人の魂を根幹として想像された以上、人としての感情に支配されるのは抗えない道理である。
だが――

「そうだな、その通りだ。」

デスティニーが呟いた。
小さく、決然と――どこか、女性の声には似つかわしくない少年のような口調で。
一歩、前に踏み出す。無造作に、敵に見つかることなどお構いなしとばかりに。

「先行する気かね?」
「ええ。“俺”が先行し、敵の眼を引き付けます。大規模魔法が使えるのは現状では“俺”だけのようですからね。」

声と共にその背に朱く透き通った翅(ハネ)が生まれる。翅は左右二対の六枚。
それは、凍結した炎とでも言うべき形状。震えるでもなく、羽撃たく訳でも無く、ただその炎(ハネ)は儚くも力強く揺らめき続ける。

「“俺”の魔法に続いて、ティアナ・ランスターとキャロ・ル・ルシエが撹乱を頼む。」
「了解。キャロ、いけるわね?」
「……はい、いけます。」

二人が術式を構築し、準備を進めていく。
デバイスが指揮を取ると言う前代未聞の状況ながら、不思議とデスティニー――レイとも呼ばれる彼女の声には説得力があった。
デュランダルにしてみてもそれは同じだった。
彼女の言葉には不思議な説得力がある。死人が寄り集まって出来あがったモノだとは彼女本人から聞かされてはいたが――死者だからこその説得力、とでも言うのか。
頼り甲斐のある姿。もし、レイが生きていたら、こんな人間になったのだろうか、とそんな無意味な考えさえ思い浮かび――仕舞い込む。
それは、本当に意味の無い考えなのだから。
それもまた感傷。捨て去ったはずの――ギルバート・デュランダルもまた感傷に流されていく。彼もまた過去に囚われることを選んだ人間であるが故に。“愛した女のいる世界を守る為に”、此処にいるのだからこそ――時には感傷に溺れたくもなる。
デュランダルが呟いた。

「殿(シンガリ)は、私でいいかね?」
「ええ、ギルとスバル・ナカジマにお願いします。この中では貴方がた二人が最も適している。」
「私とスバル君か……問題無い。的確だ。」
「……ありがとうございます。」

デスティニーの返礼。デュランダルの頬に僅かに微笑みが浮かんだ。
スバルはそれを横目で観察し、振り切った。
彼女は今も、半年前のデュランダルの言葉を忘れてはいない――シンを使い捨てにしようとした、彼の言葉を、全て信じてはいない。
だが、世界を救うと言う事実は――彼女にとって、姉を救うことをも意味する。
世界を救う生贄――しかもそれは全くの無意味な行為だと言う――に選ばれてしまったと言う姉。記憶を壊され、その人格すらも壊され――凌辱と言う意味ではこれ以上ない凌辱だ。
彼女はそれが許せない。何が生贄だ。何が聖女だ。そんな馬鹿げた勘違いの為に殺されるなんて許して良い訳が無い。そんな馬鹿げた行為の為に、そこまでの凌辱を受けるなんて許せるはずが無い。憤怒の炎が燃え上がる。その憤怒が、今の彼女を支える原動力。
故に、殿(シンガリ)をデュランダルと共に行うと言うことにも異論は無い。そんなところで異論を挟んでいても姉は救えない。

「私とデュランダルさんで、後続を倒していくってこと?」
「ああ。同時に包囲網が出来上がるようであれば、君には突撃手をお願いしたい。」
「……うん、了解。」

言葉の意味を噛み締め、集中を高めていく。
的確な指示だろう。闇夜に紛れた逃走を図ると言う目的に対しては一番問題が無いと言っても良い。

「最後に確認しておく。」

デュランダルが両の拳のデバイスを起動し呟いた。

「私たちは二週間後、聖王教会に向かい襲撃を行う。私たちの最終目標はそこでギンガ・ナカジマと高町ヴィヴィオを奪取することであり、この戦闘に勝利することではない。第一目的は逃げること……それを決して忘れないでくれたまえ。」

右手を開き、握り締め――再度開く。

「準備は良いかね?」
「いつでも。」

ティアナはクロスミラージュを構え、幻術の構築を既に始めている。

「大丈夫です。」

キャロがティアナに向けて幾つもの補助魔法を付与して行く――幻術の威力を高めるのだろう。

「大丈夫、です。」

スバルの返答は少しだけ、間が開いた。それは彼女の心の現れなのかもしれない。瞳に迷いは無いが、人間の好みが現れたと言うそれだけの。

「問題ありません。」

レイが大剣を構えた――肩に担いだだけの、それを構えと言うのなら、だが。

「では……行くぞ。」

デュランダルが右手を振り被り――地面に向けて振り下ろす。感傷をたたきつけるようにして。
ぽん、と軽い音が鳴り響いた。

「……ギル?」
「初撃は派手であればあるほど良い……そうだろう?」
「そうですが、何を……」
「魔法では無いが――可愛い“息子”の手助けになりたいと思うのは親ならば誰でも思う――遅れた息子への祝いと思ってくれ。」

言い終えると同時に左手を振りおろした。右手の振り下ろしとの間隙は僅かに10秒ほど。
左手の振り下ろしは視認することも出来ないほどの超高速。先程のような軽い音では無く、地面を叩き割らんばかりの轟音。

「……今更遅いことだろうがね。」

ざわめきが起きた。轟音が、彼らの所在を掴ませた。デュランダルが行ったことの意味が分からず、デスティニーの頬が歪んだ。此処にいたって初めての驚愕の表情――デュランダルが笑う。悪戯が成功した子供のような表情で。スバル達の表情は変わらない。何が起きるのかを知っているのだろう。

「ギル、何を、」
「遠当て、さ。」

放たれた言葉と同期するように、轟音と地響きが発生した。
遠くを見れば、間欠泉の如き勢いで周囲を囲むようにぐるりと土が“噴き上がった。
放たれる声は全て恐慌を意味している――当然か。いきなり、土が盛り上がり、爆発したならば誰であっても驚くに違いない。

――物質というのは衝撃を受けると必ず“抵抗”する。生物が本能的に衝撃に対して堪えようとするように、無機物も同じく“堪えよう”とする。衝撃に対して抵抗が発生するのは脊髄反射よりも尚早い、何百分の一秒という世界。刹那の瞬間。
ならば――その“堪え”を無効化することが出来たなら、衝撃というものは抵抗を受けずに物質を破壊する。
いわゆる透勁と同じ“技法”である。
同時ではなくほんの僅かにタイミングをズラし――知覚することも無い僅かな隙間。刹那とも呼ばれる単位――いわゆる百京分の一の隙間を開けて重なり合った衝撃は目標地点へと衝撃を余すことなく伝播させる。
それは、打撃の“撃点の操作技術”の集約とも言える。
故に遠方へ衝撃を伝え、それに追随するかのように衝撃を放つことが出来れば――任意の地点へと撃点を移動するなど造作も無い。
衝撃の伝播速度。距離。角度。座標の取得、弾性波探査など行わずとも計算によってそれは“成る”。
デスティニーの驚愕はそれだけを意味しているのではない。何よりも驚くべきは、その技によって誰も殺していないこと。
知覚範囲内での話だが、その全ては敵の数m前での発動。その距離の目算当てずっぽうによるものだろうが――ただあれだけの動作でそれだけの操作が出来ると言う事実にこそ驚嘆する。
それは魔法ではないが、もはや魔法と言っても良いような技術である。

「……貴方がこんなに派手好きだとは知らなかったですよ、ギル。」

呟き、デスティニーが下水道から飛び出す。柄に収納されていた二本の双剣が浮かび上がり、大剣の刀身に亀裂が走る。
縦横無尽――直線によってのみ描かれる幾何学的な亀裂。刀身が分割し、分裂し、浮かび上がる。
デスティニー――レイの瞳が朱く燃える。その色はシン・アスカと同じ色。
刀身の存在しない大剣を握り締めて、指揮者の振るうタクトのように振り払った。
次瞬、分裂した刀身と双剣が瞬く間に上空へ移動。刃の頂点にて灯る朱い光。

「――薙ぎ払え。」

そして朱い光が瞬き、言葉通りに炎が舞い上がり、爆発した。
刃の頂点に灯った朱い光が降り注ぐ雨のように大地に向けて発射されたのだ。
薙ぎ払ったのは木々と建物と地面――人間には当てない。殺すつもりはない。分裂した刀身と双剣は全て彼女の情報取得デバイスであり、彼女自身である。その程度の取捨選択はどうとでもなる――造作も無いことだ。

「……君ほどじゃないと思うがね。」
「どっちも派手すぎるわよ……キャロ!!」
「はい!!」

ティアナが飛び出す。キャロが飛び出す。それらに先んじてデスティニーが飛び立ち、飛来した刀身を自らの元に戻し、再度魔力を充填――そして、発射。足止めを繰り返し、退路を確保することに専心する。
ティアナが幻影を精製する。恐らくは彼女の限界の数量を。キャロのブーストによる限界数量の連続。

「デュランダルさん。」
「……ならば、行くか、スバル君。」

スバルが飛び出し、デュランダルがそれに追随する。
巻き起こる喧騒。聖王教会の魔導師がどれほどの者なのかは分からないが――恐らく幾ばくかの間は止めることが出来る。
問題はクジラビト。奴らには幻影も通用しなければ、喧騒が起きることも無いだろう。無論、彼らと戦う必要などありはしないから適当なところで切り上げればいいだけだが。

まずは撤退戦。そう、これは撤退だ。敗走ではない――勝利を手にするために必要な撤退である。
デュランダルは笑う。
ようやく始まる反逆に心を躍らせて。

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Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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