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空想垂れ流し 魔導探偵シン・アスカVol.2 ~アスカ家の日常後半

魔導探偵シン・アスカVol.2 ~アスカ家の日常後半


「今月・・・・うわあ、やっぱりシンがギャラ貰わなかったのがまずかったのか
な・・・今月も微妙に赤字だ。」
 コタツに足を突っ込み、毛布で下半身を覆っている。上半身にはチャンチャ
ンコ。服装は下半身はジャージで上半身は黒いタートルネックのセーター。コ
タツの中に電気は入っていない。節約の為だ。ちなみにコタツもフリーマーケ
ットやディスカウントショップを回って購入したものだった。家計を握ってい
る以上は少しでも安く、が基本だからだ―――その影響でゲームのワゴンセー
ルに出会ったりしたのだから、悪いことばかりではないが。
家計簿をつけながらギンガ・ナカジマはレシートと電卓を片手にうんうんと唸
っていた。
「・・・・フェイトさんの無駄使い無くして、シンがまた喫茶店やがみに復帰したら・・・・・」
 カタカタカタと電卓を叩く。
「それでこれだけ・・・・一応、黒になるんだ。」
 アスカ家の財政状況は生活に困窮するほど逼迫もしていないが、楽観出来るほ
ど優しくもない。毎月毎月、家計簿と格闘するギンガにとってはシンが働く時
間を減らした今の状況はそれほどよろしいものではない
 だが、シンがそこまでして調理師免許を欲しいと言うのなら、仕方が無いこと
だろう。何かしらの考えがあって、彼もそう言ったのだろうし、別にギンガはそ
のことに文句を言うつもりは無い。そんなつもりは無いのだが――気に入らない
ことだってある。つい、こないだフェイトとシンがベッドの上でイチャついてい
たのも多分それが原因の一つだろう。
 彼女もフェイトと同じく、シンの変わらなさっぷりが気に入らないのだ。
 別に、自分達は聖女でもなんでもない一人の女だ。そして、シンだって神様で
も何でもないどこにでもいるような男だ―――欲望は並み外れているかもしれないが。
 無理をして、無理をして、無理をして・・・・本人はそれが無理だと気付かないま
ま倒れるまで走り抜ける。
 いつだってそうだった。
 自分達のことなどお構い無しに突っ走っては倒れて、突っ走っては倒れてを繰
り返す大馬鹿野郎。良く言えば一途。悪く言えば単細胞(バカ)。
 何度死に掛けたのかなど分からない。手が吹き飛んだことだってあれば、味覚
を失ったこともある。それだけ繰り返せば誰だって多少は自分がどれだけ無鉄砲
なのかを理解するものだろうが―――それでも彼は変わらなかった。今更なこと
だがシン・アスカとはそういう人間だ。
 誰かが手綱を握っていなければ、どこに飛んでいくかも分からない暴れ馬と同じ。
 けれど、自分はそれを止めるどころか支えようとしている。フェイトも同じく、だ。
 自分達が彼の手綱を握るよりも、彼に自分達の手を引っ張っていって欲しいの
かもしれない。
 実際、現状はそうなっている。彼が行きたい方向に自分達も続いていくカタチ
だ。でなければフェイトはどうか知らないが、自分が二股を許容するなどありえ
ない話なのだから。
 本当にこんな関係に自分がなったことは今でも信じられない。
 浮気は男の甲斐性などという論理は唾棄するべきモノだと思っていたし、今で
もそう思っている。
 なら、公然と二股をすると決めたあの男はその論理に該当しないのだろうか?
「・・・・それこそ、まんま該当してるじゃない。」
 
 然り。どちらも選ばないでどっちも選ぶなんて言うのは子供の論理であって、
大人が受け入れるべき論理ではない。浮気は男の甲斐性などとシンは思っていな
いだろうが、女を振り回していることには代わりは無い。
 だが、それを自分は受け入れた挙句に、割りと楽しんでいる。世間一般から見
たら自分達はどう見えるんだろう?なんて考える程度には余裕もある。
 無論、これは商店街の人々の厚意もあるだろうし、シンが色々と頑張った結果
でもあった。普通なら、奇異の視線や好奇の的になるに違いない。常識外れとい
うものはとかく非難されるものだから。
 そんな常識を殴って切って壊して、無理矢理認めさせたシン。そんな男に惚れ
た自分やフェイトもそんなに変わりは無いのかもしれない。
 この間のフェイトとシンが自分に隠れてイチャイチャしていた所に押しかけた
のを思い出す。普通はああなったらお終いだ。包丁を投げといて何だが刃傷沙汰
になったっておかしくない。常識とはそういうものだ―――だけど、フェイトも
シンもあれでいいのだと思っている。
 おかしな話、あれはじゃれ合っているのに近いのだろう。道化のようにああや
って三角関係兼二股という関係を楽しんでいるのかもしれない。
 そんな関係を許容して、尚且つ自分もそれで良いと思っている辺り重症だ―――二股を
許容した時点で大分と重症なのだろうけど。
「・・・惚れた弱みって奴かしらね。」
 最終的にたどり着く解答を口に出して呟き、溜め息を一つ。そして彼女は家計
簿を閉じた。時計を見れば、まだ9時を少し過ぎたくらい。
 喫茶店やがみでのバイトが始まるのが11時。シンは今事務所の方でフェイト
と一緒に応対しつつ、合間を縫って勉強。正午近くになればフェイトも喫茶店や
がみに現れバイトを始める。
 家の中の家事は既に済ませてある。
 残っていることと言えばベランダに干してある洗濯物を片付けることくらいだ
が、これも洗濯物が乾いた頃に帰ってくるであろうフェイトが片付けることにな
っているから問題ない。
 大体2時間ほどの暇―――ふと、思い立ったようにギンガがテレビの横の棚を
漁り出し、黒いゲーム機とソフトケースを取り出す。
「・・・あ、あったあった。これまだクリアしてなかったのよね、フェイトさんが本
気で怯えてたし。」
 ソフトケースには赤い文字でアルファベットが書いてあった。フェイトが第97
管理外世界の高町なのはの兄の嫁からもらったゲームらしい。
偶然なのだが、その女性もゲームをするらしく、以前やったRPG―――ワゴン
セールで見つけたゲームである――のことを知っていた。会ったことはないがそ
のRPGのことが分かる人間がいるのは正直嬉しいと言うのがギンガの本音だっ
た。そのゲームは、難度が高いので面白いのに誰もやらないと言うかワゴンセー
ルのレギュラーメンバー(日本円にして280円~480円)だ。ちなみに何だ
かんだでそのゲームの場合、彼女を筆頭にシンやフェイトもエンディングでは号
泣していた。
 あのラストは汚い、と3人で頷いていた。
(あれ、ラストの空は本当に綺麗なんですよね・・・。)
 今回のゲームはその女性が「あれより段違いに難しい」と言う触れ込みでフェ
イトにあげたらしい。実際やってみると半端じゃないほどに難しかった。まだ、
ゲーム初心者に近いギンガには明らかに荷が重いゲームではあった。
 ゲーム機にソフトを入れる―――起動し、画面が現れた。真っ黒な画面。ちな
みにこのゲーム、どんなゲームかというと始まった瞬間に死ぬような半端じゃな
い難易度のADVである。2になったら難易度選択出来るようになったと言うことだ
から、メーカーも反省したのかもしれない。
 
 コントローラーを手に取り、眼鏡をかけるギンガ。別に視力が悪い訳ではなく、
なんとなくだ。こうした方がシンのウケが良いとゲンヤは言っていた―――最近
どうにも父のアドバイスが変な方向に進んでいる気がするが、まあその時はその
時だ。シンも可愛いって言ってたし問題は無いだろう。
ゲームを始める。血塗れになった屍人がいる。操作キャラを動かして、その視界
から逃れるようにして移動―――攻略メモを見ながら、進めていく。生肉を見て
クケケケケケとか言ってるゾンビの視界―――とりあえず、こいつは肉に集中し
て気付いてない。コントローラーを操作し、その背後を通り抜ける。
 ―――以前、ゲンヤに幸せか、と聞かれたことがあった。
 幸せか、と聞かれれば、多分幸せだ。
 好きな人と一緒にいて、結婚―――ではないが似たようなものだし、重婚して
ると思えば分かり易い。
 勿論、本当なら世間一般の常識に則った結婚がしたかった。好きな人と一生を
共に過ごして、子供を作って一緒に老いて、一緒に生活して、一生を共に過ごす。
 ―――余談だが戦闘機人はスカリエッティの母体として機能する為に基本的に
女性としての機能は全て備えている。故に子供を作ることも可能だ。これはスバ
ル・ナカジマも同じく。彼女はスカリエッティの作り出した戦闘機人に匹敵するよ
うに“作られた”からだ。
だが、ギンガは違う。彼女はI・Sすら持たない本当のテストタイプだった。ただ、
その技術が使えるかどうかの確認の為の存在。彼女には生きていく以外に無駄な
機能など何も存在していない―――つまり、女性としての機能など存在している
訳も無い。見た目が女性だったのはただクローン元の遺伝子が女性だっただけで。
 だから、本来なら彼女は子供を作ることなど出来はしないのだが、“現在”の
ギンガ・ナカジマは戦闘機人でありながら戦闘機人では無い、限りなく人間に近い
“存在”となっている。これを語るべき場所はここではないが。
少なくとも自分はその道にいる。それは、十二分なほどに幸せと言えるだろう。
無論、旦那に自分以外にも嫁がいると言う異常な状態ではあるが――そのもう一
人は知らない人ではないし、彼女ならシンを任せられるとも思っていたから、別
に構わない、とさえ思う。
 それこそ惚れた弱みなのだろう。
 家計簿とシャーペンが置かれているコタツ。DVDやビデオ、ゲームと繋がってい
るテレビ。生活感が溢れた部屋。
管理局にいた頃はこんな風な生活をするとは思いも寄らなかった。パートしたり、
家計簿見ながら四苦八苦したり、食材の無駄なく料理を作ることに執心したり、
残り物で料理をすることに拘ってみたり―――みすぼらしい、と人は言うかもし
れない。管理局に残ったままならそんな生活はしていなかった、と。シンもそん
な風に考え、申し訳ないと思っているのかもしれない。
 けれど、管理局にいたままではそんな幸せは多分自分には手に入らなかった、
と思う。
 ギンガ・ナカジマは戦闘機人――人間ではないし、子供を作ることも出来なかっ
たし、多分恋なんてすることもなく、生きていた。別にそれは初めから分かって
いたことだった。だから、こんな風に今、幸せに生きているなんていうのは多分
“奇跡”なんだと思う。
「幸せ、か・・・・」
 言葉にするとたった4文字の言葉―――それがどれだけ大切なのか誰よりも自
分は知っている。失った幸せは取り戻したとしても、きっとそれは元々在った幸
せとは変わってしまっているのだから。
 ひょいひょいっとコントローラーを操作し、屍人の背後を次々と通り過ぎてい
く。何百回とゲームオーバーになったからか、操作にも大分と慣れてきた。
 
「・・・・・多分、私って凄い幸せなんだろうなあ。」
 そんな風にぼんやりと呟きながら、ギンガはバイトの時間までゲームをしていた。

 勉強自体は数年以上やっていなかったが、料理の経験や衛生管理の経験等は日
ごろからシンは八神はやてに叩き込まれている。
 読み進める内にその経験と参考書がしっかりと符合していき、勉強すること自
体は苦では無かった。
 何よりも自分と自分の―――嫁さんみたいな人間の今後がかかっているのだ。
それも二人分も。辛いとか辛くないとか言っている場合ではなかった。
 今、シンがいる場所は喫茶店やがみのテーブル―――仕事を終えて、ギンガを
待ちながら一心不乱に勉強していた。
「けど、まさかこんなに継続して勉強するとは思わんかったわ。」
「・・・・いや、参考書くれたの八神さんじゃないですか。」
 喋りながらも手は止まらない。勉強方法は以前と変わらず暗記のみ。
 書いて書いて書き続ける―――と言うよりもそれ以外にすることもない。
 実地試験は料理を作るのではなく、記述式の文章問題。
 つまり実地はマークシートではなく記述式である―――極論を言えばマークシ
ートは問題と解答の組み合わせを覚えておけば問題は無く解ける。最悪、4択で
あれば明らかに違う問題が二つあって、残り二つのどちらが解答か分からないと
言う場合、勘で何とかなることもある。
 だが記述式は違う。問題と解答そのものをしっかり覚えておかなければならない。
 そうしないと答えを書くことが出来無いことがままある。答えを選ぶだけのマ
ークシートと答えを書かなければならない記述式の違いとも言える。
 故に記述式問題に対しては地道な暗記に勝る勉強方法は無いのだ。
「けど、フェイトちゃんがそんなこと言うてるとはね・・・・まあ、言いたいことは
分かるけどな。」
「八神さんもそうなんですか?」
「うん?わたし?」
「はい。」
 カリカリカリとシャーペンがノートを走る。既に店内はガラガラで誰もいない。
閉店間際だから当然か。ギンガは今片付けをしている真っ最中だ。手伝おうとし
たら、勉強してくださいと叱られた。
「私は・・・そうやね。少なくともあっちにいた時よりも楽しいっちゃ楽しいかもし
れへんね。」
「・・・へえ、皆そうなんですか。」
「いや、これは私達だけやと思うけど・・・・基本的に純粋培養やん?私らって。」
 八神はやて―――その履歴はシンが家族を失った年齢よりもはるかに若い時に遡る。
 魔導師として管理局と関わりだしたのがシンの妹――マユと同じくらいの年齢の時。
 それから10年以上を管理局にて勤めてきたと言う。
 純粋培養という意味では確かにそうだ。
「で、中学まではとりあえず行ってたけど、それかて魔導師との二束の草鞋や。
せやから、他の世界って言うのを全く知らんのよ。部活が出来る訳でも生徒会活
動出来る訳でもない。で、気がついたらこの年齢――意味分かるやろ?」
「・・・まあ、何となく。俺も似たようなもんでしたし。」
 うんうんと頷いて話を続ける
「やから、いざこういうことやってみるとなあ、えっらい新鮮やねんて。多分フ
ェイトちゃんもギンガもそうやと思うけど。ちなみに私は毎日帳簿つけるのが楽
しみでなあ・・・今日はこれくらい儲かった、昨日はそれほど儲からんかった、資格
がいるわ、法改正が怖いだとか・・・・まあ、話し逸れたな。」
 
 こほん、と咳払いし、シンの向かいのイスに座る。どことなくメイドを連想させ
る制服を着た彼女が箒を持っていると、やけに様になって見える。
「そんなもんですかね?」
「そんなもんやって・・・・あ、そや。」
 何かを思いついたようにはやてが呟いた。
「何かあったんですか?」
 シャーペンを動かすのをやめて、傍らのコーヒーに口を付ける。コーヒーの苦
味が文字の読みすぎでぼんやりとしていた頭をはっきりとさせていく。
「こないだ、グリフィスと、ミサイルがどうとかメロンがどうとかスイカがどう
とか。あれって何の話やったん?マイアミボルケーノとかいつか辿り着く黄金の
丘とか蒼穹に吹き荒れる柔らかさとか言ってたけど。えらいデカイ声で話してた
から・・・・・って、シン、どないしたん?」
 口元を押さえボタボタとコーヒーを零すシン。辛うじて参考書にかかっていな
いのが救いかもしれない。
 呆れた目ではやてはシンを見つめ、懐からハンカチを取り出すとシンに手渡す。
 それを受け取って、こぼれたコーヒーをハンカチで拭いていく。
「き、聞いてたんですか。」
「そりゃな・・・・あんなデカイ声で話してた嫌でも耳に入るし、周りのお客さん何
かキミらテンションにドン引きやったし。」
「え、いいや、あれはですね・・・・そうそう、クラナガンにおける政治経済の金の
流れを果物とか兵器に置き変えて話をしてたんですよ。こう、ミサイルはやばい
とかマイアミってボルケーノしたっけ?とか」
 苦しかった。苦しすぎる言い訳だった。ぶっちゃけるとおっぱい談議だった。
 ただ、まともにおっぱい談義をすると周りからの視線が痛すぎたりするので隠
語を使っていたのだ。
 ミサイルはミサイル型。メロンは巨乳。スイカは超乳。
 ちなみにマイアミボルケーノとかはコードネームである。訳すとマイアミボル
ケーノ=シグナム、いつか越える黄金の丘=フェイト、高き蒼穹の双丘=ギンガ。
全てグリフィスのネーミングである。変態ではない職人芸である。シンやヴァイ
スはいつもグリフィスの言語変換能力に舌を巻くほどだったのだ。それが、テン
ション高くなりすぎてそんな風に見られていたとは思わなかった。
(な、何でだ!?俺たち確かあの時精々ちょっと叫んだくらいだぞ!?)
 喫茶店で叫んでる時点でおかしいのだが――世の日陰者であるおっぱい星人は
いつだってそんなことには気付かない。無茶を道理で蹴っ飛ばす―――それが彼
らオッパイ星人のやり方なのだから。
 とは言え、はやてに気付かれていないのなら問題はない。気付かれていた気ま
ずすぎる。
「結局ギンガくらいのサイズが一番美乳だって言うんで話おわったんやったね。
揉みやすいとかうんたらかんたら言うてたな。」
(気付かれてるーーーー!!!?)
 ニヤニヤしながら言われた。バレバレだった。何か泣きたくなった。
「な、何のことやらさっぱり分からないんですが・・・」
「フェイトちゃんがいつか越える黄金の丘やろ?ほら、シン達って、まだそうい
うのしてないしソレでピンと来てな。」
 なんて勘が良い人なんだろう。この人絶対直感A持ってるよ。未来予知にも匹
敵する直感だってそれ。ていうかなんでそのこと知ってるんだ。あれか、ネット
ワークか。絶対情報網とかそういう凄い魔法ネットワークなのか。
「な、何でそのことを?」
「フェイトちゃんから聞いた。あとギンガも時々愚痴ってるなあ・・・・・果報者やな、
キミは。」
 
「・・・さ、最悪だ。」
 必死に誤魔化したのが余計に羞恥に加速をかける。
 泣きたかった。本当に泣きたかった。
 はやてはそんなシンの様子を苦笑しながら見つめ、後方の更衣室を指で指し示
し、呟いた。
「・・・・まあ、それはいいとして・・・ギンガ、終わったで?」
「待たせてすいません、それじゃ帰りましょうか・・・・ってどうしたんですか、シン?」
 制服ではなく、私服で現れたギンガ。首元に白いマフラーを巻いている。
 うな垂れているシンを見て訝しげな視線を向ける。
「・・・はやてさん、またシンからかってましたね?」
「え、いやな、こないだシンがグリフィ・・・」
「い、いやいやいや、言わなくていい!!言わなくていいですから!!」
 慌ててはやてを止めるシン。知られてツッコまれようものなら自分が死にたくなる。
「・・・・怪しいですね、何かあったんですか?」
「え、えと、あのですね・・・・・」
「シン?」
 ギンガの眼がシンの目を覗き込む。
 背筋から冷や汗が垂れていく。どうする―――いっそ、言ってしまえ。そんな
声が聞こえてくる。
 その場合は洗いざらい全部言わされることになる。別に問題はない―――ごめ
んなさい、嘘です。
(そ、そうだ、これだ!)
「ぎ、ギンガさんの、眼が綺麗だなって話をしてたんですよ!こ、こう、キミの
瞳に乾杯って言いたくなるような眼だって!!もうメロメロなんですって!!」
 一瞬沈黙―――場が止まった。
「うわ・・・さむ。」
 眼を細めてシンに向かって小さく呟くはやて。視線は極寒、絶対零度である。
 言ってるシン自身死にたくなるような薄ら寒い台詞だった。薄ら寒いっていう
かメロメロって実際に喋ってる人間見たことがないくらいに死語である。という
かキミの瞳に乾杯の時点で相当やばい。今時キャバクラでもそんなことを言う奴
はいない。いたら、ある意味凄い空気読んでると思う。
 しかし、誤魔化す為とは言えこんなことまで言う自分はどうなのだろう。どう
考えてもこれ引っかからないから。引っかかったらおかしいから。
「ま、まあ、そういうことなら・・・・は、はやてさんの前でなんてこと、言うんですか、シン。」
(ま、まさか、誤魔化せたのか!?)
 引っ掛かった。思いっきり誤魔化せた。
 赤面するギンガ。モジモジしながら恥ずかしそうにしている。
 緊急回避達成。言った本人が一番ビックリだ。ウルトラCどころかウルトラソウルだ。
「そ、それじゃ、ギンガさん、行きましょうか!?」
 この場の流れに遅れるなとばかりにシンは立ち上がると机の上のモノを全て鞄
に無造作にぶち込んで、ギンガの手を取ってシン達の部屋に繋がる階段とは反対
側にある喫茶店としての出入り口に向かって、走り出す。
「し、シン!?」
「そ、それじゃまた明日――!」
 すったかたーと去っていくシンとそれを追うギンガの背中を見ながら、はやて
は呟いた。少しだけ羨ましそうに。二人の背中が本当に楽しそうで。
「・・・・妬けるくらいに幸せそうやなあ、あの二人。」
 苦笑しながら、そう呟いた。
 

「ありがとうございましたー。」
 よく響く店員の声。コンビニの自動扉が開き、そこを通り抜けた。
 今、彼らは家に帰る前に寄ったコンビニからの帰途の途中だった。喫茶店やが
みの周りにはコンビニが無く、歩いて15分ほどの場所に一件あるだけだった。
 買ったものはノートと缶コーヒー。シンにとっての勉強道具だった。
「で、さっきは何を話してたんですか?」
 手を繋いで歩いている最中にギンガがそう言った。
 空からは雪が降っている―――真っ白い空。今夜は大雪らしい。
「だ、だからですね、ギンガさんの瞳が綺麗だって・・・」
「・・・・本当に騙されたと思ったんですか?」
 白い息を吐きながらギンガが呆れたように呟いた。
「あ、あははは、やっぱり・・・・そうですよね?」
「・・・・・大体そういうことを言う時って何か誤魔化してる時ばっかりですし。」
 ギンガ・ナカジマの予想を掻い潜るにはシン・アスカの行動パターンはあまりに
も単純すぎたのだった。
「・・・・・い、いや、別に俺は・・・」
「ま、いいですよ。何話してたか、はやてさんがその内教えてくれるでしょうし
・・・・別に気になることでもないですし。あ、ちょっと袋いいですか?」
「え?あ、はい。」
 シンが持っているコンビニ袋に手を突っ込み、その中の缶コーヒーを手に取る
ギンガ。無糖と書かれている。
「・・・・けど、シン、毎日毎日こんなの飲んでたら身体壊しますよ?」
「でも、何かソレ飲むと集中するんですよ・・・何でかはわかんないんですけど」
「まあ、今日はともかく、コーヒーくらいなら私淹れますから・・・・本当に身体壊
されたら困るんですからね。」
「・・・いや、分かってますって・・・・なんか積もりそうですね、これ。」
 深々と降る雪を見てシンがそう言って空を見上げた。空から舞い降りる雪。白を
基調に各々の灯りで染め上げられた雑多な町並み。綺麗な景色だった。
「積もりそうですね・・・・明日の朝は除雪かな。」
 喫茶店やがみの倉庫に少し前に買って仕舞い込ませて貰ったママさんダンプと
スコップのことを思い出した。
 喫茶店やがみと同じ建物の中に住み込んでいるシン達3人は建物の雑事も受け
持っている。電球の交換や大掃除の際の手伝い、週に一回の掃除などなど。その
中に降雪時の除雪というのも含まれている。勿論、豪雪地帯ではないからどんな
に積もったとしても10~20cm程度のもので、本格的な雪国の如き除雪とま
では行かない。ママさんダンプで30分もかからずに終わることだろう。
 降る雪を眺めながら二人で空を見ながら歩いていく。言葉は無い――けれど、
心地良い、無理に何かを話す必要もない、沈黙が気にならない沈黙。外気の冷た
さが余計に彼の手の温もりを強調して、触れ合う手と手がこそばゆい。繋いだ手
が、自分と彼の心を繋げている。そんな錯覚を持ってしまう。
 ギンガが口を開いた。
「別に・・・申し訳ないとか思わなくていいんですからね?」
「へ?」
「もし、私達が管理局やめたことでシンが申し訳ないとか思ってるんだったら、
そんなこと思わなくてもいいって言ってるんです。免許取るとかそういうのいき
なり言い出したから、もしかして、と思って。」
 真剣なギンガの瞳がシンを射抜く。眼と眼が合う―――図星を突かれたせいかシ
ンが目を逸らした。
 
「俺は、別に・・・」
「・・・図星なんですね?」
「・・・・・まあ、そりゃちょっとはそう思ってます。」
 手を繋いだまま空を見た。雲の切れ目から見える夜空から見える月。そこだけ
何かでくり抜いたように円を描き、中心に座する月――半月。
「ギンガさんとフェイトさんは・・・本当にこんなことやって良いのかって。」
 ギンガは何も喋らない。聞きたかったことでもあるし、それ以上にシンがそれ
を言いたかっただろうことを察して。
「俺とか八神さんは自分で選んだから良いと思うんです。やりたいことがあって、
此処にいる。でも、二人は俺に着いて来た・・・ていうか、俺が連れて来たようなも
んじゃないですか。だから、やっぱり」
「・・・・シンって本当に馬鹿ですね。」
 溜め息を吐くギンガ。額に手を当てて呆れながら呟いた。
「私やフェイトさんは、こうやってシンといるのがやりたいことだったんです。
管理局を辞めたことも別に後悔なんてしてません。私らは、管理局にいることよ
り、“こっち”にいることを選んだんですから。」
 言葉は続く。滑らかに。
「私達はシンに連れて来られたんじゃありません。シンに着いて来たんです。ここ
にいたかったから――ここのいるのが私たちの幸せだから。だから、シンがそん
なことを思う必要なんてないんです。」
 ギンガの言葉に押し黙るシン。そんなシンを見て、ギンガは苦笑する―――多分、
それが分かっていてこんなことを言っているのだろうから。
「納得、出来ませんか?」
「いや、納得は・・・・」
「・・・・でもね、それでいいんです。」
 ぎゅっと手を握った。シンはギンガの方に眼を向ける―――口元に緩めて、苦笑
気味に微笑んでいるギンガがそこにいた。
「ギンガさん・・・?」
「シンはそうやって、いつまでも変わりませんから―――今もあの日と同じように
猪突猛進の大馬鹿野郎のまま。だけどシンはそれで良いって思うんです。私たち
はそんな貴方に付いて行きたいと思ってここにいるんですから。」
「・・・それ、褒めてるんですか?」
「・・・・半々くらいですかね?」
 はにかむように笑ってギンガがシンの手を引っ張った―――気がつけば家が近い。
「さ、行きましょうか、シン。早く帰らないとフェイトさんがまた拗ねちゃいますから。」
「・・・・・いや、ギンガさんも十分拗ね・・・」
 握り締める手に更に力が籠った。
「何か言いました?」
「イエナニモ。」
「よろしい。」
 脊髄反射でシンは答えた。
 見事な調教っぷりです。
 ナガジマ家の家訓その一。『かかあ天下なくらいがちょうど良い。』
 そんなゲンヤの言葉が耳に痛い―――同時にその後に続く光景を思い出す。
『でも、クイントって怒ると可愛かったんだぜ?この写真とかな・・・』
 そう言って、懐から数種類の写真を取り出してきたゲンヤの顔は心なしか嬉し
そうだった。よほどベタ惚れだったのだろう。というか常に写真を携帯しつつ、
遺影も持ってるっておかしいから。どんだけ写真持ってんだ。
 そんなことをつらつらと考えていると、上から声が掛かった。
 
「おかえりー。」
 フェイトが窓から身を乗り出して手を振りながらこちらに声を掛けている。さす
がに夜風に当たる状態でいつも通りの格好は風邪を引くからだとでも思ったのか、
上にはバリアジャケットを羽織っていた。白Yシャツ黒下着の上にバリアジャケ
ット――――絶対バリアジャケットの使い方間違ってる気がするのは気のせいだ
ろうか。
 ギンガが手を離しフェイトに向かって手を振っている。
「さ、行きましょ?今日も寒いし3人でくっつかないと眠れないだろうし。」
「・・・そりゃそうですね。」
 歩く速度を速めて家へ向かう。恐らく、フェイトは律儀にギンガの言った「燃費
節約」を守っていたのだろう。
(まあ、それなら寒くて眠れないかも。)
 いつもこういう日は3人でくっついて眠る――別に色気のある理由では無いし、
裸でどうこうとか3人でチョメチョメとかそういうのでは断じて無い。
 単純に寒いからだ。冬の燃費節約→ストーブはなるべく焚かない、コタツは3人で
くっついて入る、寒い日は3人で同じ布団で寝る―――さすがにそこまでやる必要は
あるのかと思ったが、ギンガに毎月の家計簿を見せられて、承諾せざるを得なかった。
(・・・灯油って案外高いからな。)
 世知辛い。やっぱり何だかんだで世知辛い。
 ―――調理師免許取って独立したら、部屋にエアコン入れたり出来るだろうか。
 そんな、考えが頭をよぎった。
 降り積もる雪の勢いは変わらない。明日は朝から除雪だろう。
 
 ―――その後のことを少しばかり語ろう。
 調理師免許試験についてはつつがなく終了した。
 試験より一ヵ月後の合格発表において、二人の女性に抱きつかれ、周囲の手厳し
い視線を受けシン・アスカは苦笑していた。
 勿論、それで彼らの生活が劇的に変化した訳でも無い。資格手当てと言うことで
給料が少しあがった程度。探偵業との兼業である以上、正社員待遇では無いが、悪
くはないと言える。
 八神はやては変わらず、彼女は彼女の願いを叶える為に喫茶店やがみとアパート
経営を続ける―――彼女の願いについて語るのはまた別の物語。
 
 ―――続く生活は世知辛く、けれど世界はそれでも回り続ける。
 これは、二人の女性を幸せにする為に全身全霊を掛けてその生涯を駆け抜けた一人の男の物語。

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Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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