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空想垂れ流し 魔導探偵シン・アスカ ~はっぴーめりーすちゃらかくりすます~

魔導探偵シン・アスカ ~はっぴーめりーすちゃらかくりすます~

 12月24日―――クリスマスイブ。雪が降っていた。深深と雪が。
 殺風景な部屋。机と小さな本棚とゲーム機、DVDデッキ、そして幾つかのプラ
モデルと雑誌が無造作に置かれた部屋。
 そこに鎮座する蒼い髪の乙女―――訂正、既に乙女ではなかった。女だった――が
ベッドに腰を掛けて一枚のDVDを凝視していた。
トレードマークとも言える蒼い髪をリボンで縛り、一つに纏め、服装は白いタートル
ネックのセーターに紫色のスカート、その上に白いエプロンというオバサンルック―――それが
非常に馴染み似合っている。
 DVDのタイトル―――淫乱女子高生一人の男を奪い合って乱交バトル!!今日は
祭りだ、ワッショイワッショイ!!君は、3Pの涙を見る―――制服姿の女性とかメ
イド姿の女性が男性とこう言葉にするのも恥ずかしいような態勢でくんずほぐれつに
3Pをしていると言うDVD。いわゆるAVである。厳密にはビデオではないので
AVDとでも言うべきか。
 ギンガ・ナカジマはそのDVDのパッケージを“見た”。
 彼女の愛すべき同棲相手にして生涯の伴侶であるシン・アスカの、その趣味を見た。
 ちなみに置いていったのはヴァイス・グランセニックである。数日前、シンの家に
遊びに来た時に忘れていったままなのだった。
「・・・・これが、シンのえ、エロDVD・・・・・・・こ、今度はセーラー服でも着ろって言う
のかしら、シン・・・・も、もうホントにいけない子なんだから・・!!」
 いけないのはギンガの頭だろう。彼女の頭の中では既に凄まじい勢いで、シンとの
熱帯夜の如き暑い夜。無論、むせ返る様な薔薇の香りを完備して、部屋は夜景の綺麗な
ビジネスホテル―――そこだけやけに現実的な妄想を開始する。
 女子高生の服を着て、シンに向かって呟く自分。
『・・・ど、どうですか、この服?は、はやてさんから貰ってきたんですけど・・・・』
 もじもじとする自分。ところどころ――胸とかお尻とかはキツイのに腰周りがスースー
する――サイズが合っていないことを気にしている。無論、こういう時のお約束として―――下着は
“つけていない”。流石はギンガ・ナカジマ。努力をやめず、進化を止めない超天才である。
『凄く・・・似合ってます。』
 そう、シンは朱い瞳を燃え上がらせて、ギンガをベッドに向けて、押し倒す―――半分ル○ン
ダイブである。二人揃って希望の未来へレディゴーな感じである。
「・・・・きゃ、あ、いや、駄目よ、シン。婚前交渉なんて、いけません・・あ、でも既に
何回もしてるって?そ、それはそれです、あ、そ、そんな」
 一人エロDVDを持ちながらゴロゴロとベッドの上で転がるギンガ。
 やー正直怖いです。超怖いです。一人でブツブツ下向きながら、喋り続け、しかも時には
服を脱ぎ出そうとしたり、自分ひとりでそんなコトを自演している様は本当に怖い。ていうかやばい。
 もし、この光景を普通の人―――例えばティアナ・ランスターが見たとしよう。恐らく彼女は
一目散に逃げるだろう。部屋の中でエロDVDをまるでシンのように抱き締めたりしながら、
ブツブツ言いながらベッドの上でゴロゴロ転がるギンガ・ナカジマ――ホラー以外の何者でも
ない。無論、普通の人なら逃げるだろう。普通の人なら。
 だが、生憎なことにその家に住むもう一人の同棲相手は“普通”じゃなかった。
「・・・ギンガ、妄想しすぎだよ。」
「はぎゃあああ!!!!」
 いきなり部屋の扉を開いた女性。輝かんばかりの金髪と赤い瞳、そしてミサイルの如く―――本人
曰くミサイルではなくICBMであるらしい―――突き出た胸。それを惜しげもなく晒し、
そして申し訳程度に隠す白いYシャツと黒い下着。オバサンというかむしろ新妻という感じの
ギンガとは対照的なぶっちゃけ露出狂と言ってもいい出で立ちである。彼女は寝る時以外は家の
中では大抵この格好である。普通逆じゃないか。
 フェイト・T・ハラオウン。金色の女豹。ギンガ・ナカジマの終生の宿敵にして強敵(とも)であった。
「い、いきなり入ってくるとか何考えてるんですか、フェイトさん!!」
「いや、ずっとシンの部屋に入ったままだから何してるのかなーとか思って覗いたら何か凄いことになってたんだけど。」
「ど、どこから見てたんですか?」
「うーんとね、『いけない子ね』くらいからかな。」
「殆ど全部じゃないですかーーーーーー!!!!」
 絶叫するギンガと対照的に「あふぁ」とあくびをするフェイト。目は半分くらい閉じている
――まだ寝ているのかもしれない。
 ここはメゾン・ド・ミネルヴァ。
 一階には、やがみ、という名の喫茶店があり、このアパートの大家はそこの店長で在る。
 シン・アスカとギンガ・ナカジマ、フェイト・T・ハラオウンは現在その場所に住んでいた。
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 ―――これは一人の男を奪い合いながらも、一人の男に愛され続ける二人の女の物語。
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 SOWW ぱられるんるんシリーズ“魔導探偵シン・アスカ~はっぴーめりーすちゃらかくりすます~”
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 テーブルの上に用意された幾つものおかず達――ほうれん草のおひたし、アジの開き、
納豆、味噌汁、白いご飯―――純和風の朝食。ギンガが作った朝食である。
 それをぱくつきながらフェイトは先ほどのギンガの光景を思い出す。彼女は今台所で
食器を洗っている。その後ろ姿に声を掛けた。
「それで・・・ふああ・・なんであんな恥ずかしいことしてたの・・?」
「・・・いつもいつもそんな恥ずかしい格好してるフェイトさんに言われたくないですけど
・・・・何かシンの部屋掃除してたら変なDVDを見つけてですね。」
 そう言われるとフェイトに言い返す術は無い。と言うか初めはギンガに対する対抗意識
――差別化は大事だと母に言われた――から始まったが今では部屋の中ではこの格好で
いないと落ち着かないようになってしまったのだから仕方ない。裸よりはマシだろう、
と彼女は思っていたし何よりも、
(仮にお客さん来てもバリアジャケットを来たら大丈夫なんだし。)
 なんと言うか本末転倒な気もするが気にしない。フェイト・T・ハラオウン。彼女も色々
あったせいで成長したのだ。多分、駄目な方向に。
「・・・DVD?」
「ええ・・・・え、エッチなDVD・・・です。」
 ぴしり、とフェイトの身体が固まる。寝ぼけていた雰囲気が消し飛び、一転して真剣な
目つきへと変化する。
「ど、どんなの・・・?」
「・・・これです。」
「えーと・・・・す、凄いタイトルだね、これ。」
 ―――淫乱女子高生一人の男を奪い合って乱交バトル!!今日は祭りだ、ワッショイ
ワッショイ!!君は、3Pの涙を見る。
 AV的にはそれほど凄いタイトルでもなかったりする。実際、こういうAVはありそうだし。
 しかし、AVなどというモノを知らない二人の乙女―――既に女である――はそんなことを
見たことも無い。
 パッケージの裏には色々と凄い映像があった。
 思わず、ごくり、と唾を飲み込むフェイト。
 はっきり言ってこれは魔的だ。性的な意味で。
(・・・・裸エプロン・・・・・これは、裸メイド?そ、そっか、シンってこういうのして欲しいのかな・・・・)
 思考が潜航する。
 ずぶり、ずぶりと深い海―――無論妄想という意味の海の底へ。
 朱い瞳の青年が自分に近寄って、一着の服を渡す―――カチューシャと白い手袋と白い
靴下だ。肝心の服が無いが気にしない。


 メイドの中に服を着ないで付属物だけをつけるメイドがいてもいい―――裸メイドとはそういうものだ。
『フェイトさんになら、似合うと思って。』
 にかっと、アパ○ードのCMばりに白い歯を輝かせて、笑うシン・アスカ。
『う、うん、私頑張るよ!!とってもとっても頑張ってみる!!』
 そうして彼女は服を着る―――と言うか布切れを装着する。
 着てみればこれはなるほど服ではない。隠すべき場所はまるで隠れていないし、下手を
すると裸よりもよほど恥ずかしい。
「ご、ご主人様・・・・・いけないよ、そんな、そんなことばかり・・・え、毎日してるだろって?
そ、それはそれで・・・あいたっ!!」
 スパン、と音がする。同時に頭に痛み―――ギンガがスリッパを右手に持っていた。あれで
叩かれたのだ。
「・・・・フェイトさんも妄想しすぎですよ。」
「・・・・痛いよ、ギンガ。」
「妄想しすぎなんです!!まったくもう・・・・こんな朝っぱらから何を考えてるんですか!!」
「・・・・いや、ギンガには言われたく無いんだけど。」
 その通りだった。妄想したと言えば彼女もまた妄想している。
「ていうか女子高生とか発想が旧いよ、ギンガ。」
「な、何を言ってるんですか!?それならご主人様とかフェイトさんは少しエッチすぎます!!」
「え、いや・・・あ、そ、それは、別にシンがご主人様で私がメイドとかそんなコトを思ってた訳
じゃなくて・・・・ぎ、ギンガだって、女子高生の制服来て下着つけてないとか殆ど変態だよ!?」
「な、な、何でそれを知ってるんですか!!」
「聞こえてたから仕方ないでしょ!?」
 ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー喚きまくる二人。
 女三人寄れば姦しいと言うが、二人でも十分やかましい。
 さて、ここで状況の説明に入ろう。
 ギンガ・ナカジマ、そしてフェイト・T・ハラオウンはシンの住んでいる部屋に居候している
―――本人たちは入籍と言ってはばからないが未だミッドチルダにおいて重婚は認められてい
ないので、居候となる。
 無論、此処に至るまでに相当の苦難があったのは言うまでもない。
 ギンガ側―――つまりナカジマ家はギンガも既に大人なので好きにしたら良いと言うゲンヤの
お達しにより、ほぼ問題なし。むしろ、そのまま結婚しちゃえよ、お前。母さんも喜ぶぜ?と
クイントの遺影を懐から取り出し、仕舞いには婚姻届をギンガに渡すと言う用意周到さを発揮していた。
 問題だったのはフェイト側―――つまりはハラオウン家である。リンディ・ハラオウンは善人である。
そりゃお茶に砂糖ドッバドバと入れるんだからもんのすごい甘い。甘甘である。ダダ甘である。
 彼女自身フェイトの過去もあり幸せになって欲しいと言う想いが強かった、と言うか強すぎた
せいもあるが、この重婚まがいっていうかむしろ重婚!?みたいな話を聞いた瞬間、とんでも
ない反対した。そりゃもうクロウディア出してきてシン・アスカを消滅させん勢いである。
 血涙出まくりのリンディ・ザ・カーリーとかそんな感じである。可愛い娘があろうことか二股男の
毒牙にかかった挙句に二股貫き通させてくださいとか言ってきたのだ。そりゃ発狂する。ぶち切れる。
 誰だって反対する。誰だってそうする。
 だが、そこで、クロノ・ハラオウン――フェイトの義兄にしてリンディの息子である―――が
フェイト側につき、シン・アスカを弁護し、彼らの二股は真剣な二股だ!とフォローしてるんだか
してないんだか判断に苦しむが、彼なりに真剣に説得し、二股相手の父であるゲンヤ・ナカジマが
リンディを説得したりしたおかげで何とかかんとか、この変則的婚前同棲が確立された。
 ちなみにクロノは後にこのことをこう言っている。
「・・・・死ぬかと思った。」
 ゲンヤはこう言った。
「まあ可愛い娘のためですしねえ。」


 とまあ、そんなこんなで変則的婚前同棲はなし崩し的に始まった。
 ちなみに本編からは大分と後のパラレルストーリーなんでそこんとこよろしくどうぞ。
「・・・・・だから!!私の女子高生の制服の方が可愛いんです!!絶対にシンは並んで座ったら
私にダイブします!!そりゃもう間違えて100%になってゲームオーバーになるくらいに
ダイブするに決まってます!!」
 ギンガ・ナカジマの絶叫―――マイナーすぎてそのゲームは誰も知らない。おばさんちっくな
彼女はワゴンセールから神ゲーを探すのが好きだった。
「違うよ、絶対にそれは違う!!シンは絶対に私の裸メイドにメロメロなんだよ!!だって裸だよ!?
なのに靴下はいてるんだよ!?割とマニアックな趣味のシンはきっと私に飛び込んでくるに決まってる!!」
「くっ・・・!!それは、確かに・・・!!!」
 さりげに酷いことを言っているフェイト。納得するギンガもギンガである。割とマニアックな
シン・アスカ―――プレイ内容については言及出来ません。やばいです。ギャバイです。ヤバ沢さんも
びっくりです。ていうか靴下は大事なのか。
「そ、それでも私の女子高生姿の方が良いに決まって・・・・・どうしたんですか、フェイトさん?」
 じっと、その手に持ったDVDを見つめるフェイト。顔を上げる。そこにはわずかばかりの決意が
灯っている。
「・・・・ふと、思ったんだけどさ・・・・・こんなことで言い争う前にコレ見たら、分かるんじゃないかな?」
 以心伝心。
 然り。然りである。
 シン・アスカが何を望んでいるのか―――それはそのAVの中にこそ潜んでいるのだ。都合よく時は
クリスマス。そう聖夜である。プレゼントの一つや二つは用意しておかねばなるまい。
 ―――故に。
「・・・プレゼントは私のセーラー服姿(ノーランジェリー)で決まりですね。」
 どこから取り出したのか、青いリボンを身体に巻きつけるギンガ・ナカジマ。青い髪の弾丸淑女。
 ―――だから。
「私のメイド姿(ネイキッド)で決まりだと思うけどね・・・・?」
 ギンガと同じくフェイトもどこから取り出したのか、金色のリボンを身体に巻きつける。
 共に、年頃の女性。力(スタイル)のフェイト。技(家事その他全般)のギンガ。ここに両者の戦い
が始まろうとしていた。
 フェイトがDVDを手に取り、シンの部屋のゲーム機―――DVD機能完備である――近づく。
「・・・それじゃ、入れるね。」
「どうぞ。」
 そして、入れた。テレビをつける。画面が暗転。一瞬のノイズの後、“始まった”。
 ―――淫乱女子高生一人の男を奪い合って乱交バトル!!今日は祭りだ、ワッショイワッショイ!!
君は、3Pの涙を見る―――その名の如き3PのAVD(アダルトビデオディスク)が。

 空は既に暗い。
 時刻は既に6時を回っていた。
 雪が、降っていた。深深と雪が。白く染まる世界――白く染まる街。
「・・・・とりあえず、何とかケーキは買えたな。」
 黒いタートルネックのセーターと青色のマフラーを首に掛けた青年が呟いた。
 ぼさぼさの黒髪と朱い瞳―――シン・アスカ。
 クリスマス――街はその姿を変える。色とりどりのイルミネーション。
 誰もが自分の大切な人の為に贈り物をしようと考える聖夜。
 朱い瞳の青年――シン・アスカも例外ではない。
 右手にはクリスマス用のケーキと左手には大きめのバック――二人へのプレゼントが入っている
――を持っていた。


 ギンガへのプレゼント。毎日の炊事洗濯等の家事を取り仕切り、仕舞いには経理までやってくれて
いることへの感謝を篭めて――彼女に似合いそうな水色のエプロンと髪留めを。
 フェイトへのプレゼント。いつもいつも自分の仕事―-主に荒事を手伝ってくれている彼女への感謝を
篭めて―――彼女の髪に似合うような赤色のリボンと毛糸の手袋。
 喜んでくれるかどうかに不安を感じるも、彼はそれでも嬉しかった。
 こうやって自分がプレゼントを贈れるような日が来るとは思わなかったから。そんな時なんて在り
得ないと思っていたから。
 シン・アスカ。25歳。彼は既に管理局所属の魔導師ではない―――魔法を使えなくなった訳ではない。
 彼は今、探偵をしていた。
 他の働き口が無かった訳ではなく、この職業は彼が彼自身の意思で選んだ結果だった――その内容に
ついては今ここで語るべきことではない。
 とは言え私立探偵と言えば、聞こえはいいが依頼がなければ単なる無職も同然である。故にシンは
探偵としての仕事が無い間はいつも喫茶店でコックをしていた。これでも二人の同棲相手を抱える
大黒柱だったりするのだから。
 彼が働かせてもらっているのは喫茶店やがみ。彼が住んでいるアパート、メゾン・ド・ミネルヴァの1階に
ある喫茶店である。この付近ではそれなりに賑わっている喫茶店だった。
 クリスマスと言えばかき入れ時もいいところ。事実、喫茶店やがみはケーキを買い求める客で溢れていた。
本来ならそこを抜け出して家に帰るなど無理もいいところだ。
 だから、無理を言って抜けさせてもらったのだ。今日だけはどうしても帰らなければいけなかったから。
 店長は後から私も寄らせてもらうとか言っていた。
「まあ、こんな日にあの人も一人とか嫌だろうし・・・・あの人も寂しいのかもな。」
 ぽつり、と呟く。脳裏に思い描く女性――彼女が管理局を何故退職したのかは分からない。将来有望で、
輝かしい未来が待っていただろうに、どうしてなのか。
 そこまで思い至ってそれが酷く無粋な考えだと気づく。
 彼女には彼女なりの何かがあったのだろう、と。自分が一緒に住んでいる二人の女性と同じように、
何かがあったのだとすれば、それを邪推するのは失礼な話だ。
「・・・まあ、いっか。」
 口を開き、息が漏れる。白く染まる吐息。肌寒いを通り越して身を切るような寒さだ。
 早く家に帰って暖まりたい、そう思った。
 家まではもうそれほど離れてはいない。元々職場も部屋の下なのだ。徒歩で数分と言う距離である――今は
ただプレゼントを買いに行ったからここまで遅くなったに過ぎない。
「・・・・皆、俺がこんなもの買ってきたって知ったら喜んでくれるかな。」
 微笑みながら、呟いた。明かりが見える。見慣れた風景――見慣れた場所。
 「やがみ」と言う看板が立っている喫茶店。人で賑わっていた先ほどとは打って変わって今は既に人は
まばらだ。そこを通り過ぎて、階段を上る――打ちっぱなしのコンクリート作りの階段。ここに住み出して
既に4年目。目を瞑っていても通れるほどに身に刻まれている風景。
 上りきって、廊下を歩く。子供のように逸る心が鼓動する。
 喜んでくれるのか。それとも落胆するのか。そんな訳がないと確信しつつもその不安は消せない。結局、
このウシロムキな性格は変わらなかったけど、
「・・・ふう。」
 部屋の前に立って深呼吸。
 ドアノブに手を掛け、回した。がちゃり、と音を鳴らしてドアが開く。
 さあ、聖夜の始まりだ。
 そんな大の大人が口にするには恥ずかしい言葉を心の中で呟いて、ドアを開いた。
「ただいまー。」
「・・・・から!!これはこっちにす・・・でしょう!?」
「ち・・・よ!!この星・・・大・・・だって!!」
 途端、耳に入るのはいつものような声では無く怒鳴り声。
「・・・・何かあったのか?」
 訝しげに歩くシン―――彼は次の瞬間、後悔する。もう、なんていうか色々と。


「・・・何、二人して、何怒鳴り合ってるんです・・・・か」
 何かが―――あるいは何もかもが―――音を立てて崩れ去った。目に入った光景は正直目を疑うと
言うか幻想であってくれと願いたくなるような光景だったからだ。
 端的に言って異常な光景ではあった。
 セーラー服の女子高生と殆ど裸の女性が二人で怒鳴りあいながらテレビから漏れるは喘ぎ声。なにやら
くんずほぐれつな光景を演じている――それが演技なのかどうかなど知りたくもないが――画面があった。
 詳細は更に異常だ。
 セーラー服姿の女子高生。ギンガ・ナカジマの出で立ちである。彼女とて既に24歳。はっきり言って
セーラー服など着用する年齢ではないだろう。犯罪である。顔立ちが大人っぽく、可愛いと言うよりは
綺麗に位置する彼女がこんな格好をすると本当に何と言うか犯罪だった。更には何を思ったのか、スカートは
極限上昇!!とでも言いたげに短く膝上20cmと言う恐るべきレベルを維持している。付近に脱ぎ捨て
られた下着を見るにもしかしたらノーランジェリーなのかもしれない。というか多分そうなのだろう。だって、
谷間が見えてます。マスクメロンが潰れてます。ぽよよん、と。イメクラなどシンは行った事はないが、
どう見てもそうとしか思えません。こう、くるりと回るとふわわんと風に揺れて、20cmの絶対領域
制空圏が発動するに違いない。―――私の制空圏は、ここ(膝)からここ(スカート)までです、と言った感じで。
 殆ど裸の女性。フェイト・T・ハラオウンの出で立ちである。“殆ど裸”である。決して裸ではない。恐らく
メイドをイメージしたのであろう、カチューシャと手袋と靴下―――全て白。ホワイトである。本来エプロン
ドレスが隠すべき二の腕も鎖骨も太股もふくらはぎも全てがフルオープンである。そして、それだけ
なら単なる裸だが・・・・一応最低限の慎みなのか、胸の頂点には星型の水着―――いや、これはシールか―――が
設置されており、辛うじてピンク色の突起を隠している。そして、下は黒いビキニ。いつも夏に家の中で
来ている黒ビキニである。要するに布と紐だ。いつ弾け飛ぶか分からない、未来予想図が思い描かれる代物だった。
「・・・・・・・・」
 言葉が出なかった―――否、何を口にすればいいのか理解できない。とんでもない格好した二人が明らかに
AVとしか思えないテレビを見ながら自身の格好と相手の格好に文句をつけて議論している。
 ちなみにシンの予想は普通にギンガが料理を作ってフェイトと一緒にテレビを見ているとかそういう
一般的なイメージである。それが普通だ。ああ、なんて幸せ。ハッピーメリークリスマスってそういうものである。
 誰だって家に帰ったら恋人がいきなりコスプレ――しかも人前では絶対に無理と言うか捕まる――していて、
AV見てるなんて思うだろうか。
 誰だって想像するはずがない。出来るはずも無い。と言うか出来たらそいつの頭は病んでるに違いない。
ぶっ壊れてるのは間違いない。
 シン・アスカは今――――もんのすごい勢いで後悔していた。混乱していた。帰りたくなった―――どこに?
どこだろう?少なくとも此処ではないどこか遠くだろう。
 だって、おかしい。
 何で二人がこんな格好してAV見てるんだろう?しかもあのAVって前にヴァイスが忘れていった彼秘蔵の
3P物だとか――そう言えばあの中には確かにメイドと女子高生のコスプレした女性が映っていたが、だからって
二人がそんな格好をするとか思いつく筈もない。
(夢だ。これは夢だ。夢なんだよ・・・・!!)
「あ、シ、シン!?い、いきなり入ってこないでください・・・は、恥ずかしいじゃないですか。」
 恥ずかしいじゃねえ。
「お、おかえり、シン!!ど、どうかな、似合ってる!?」
 似合ってるじゃねえ。
「あ、あんたら、なにやってるんですか?」
 心の中で顔のデッサン崩れるシン。夢じゃなかった、現実だった。
「え?いや、プレゼントを・・・・」
「そ、そうです、プレゼントを・・・」
 ぽっと赤面しながら共に身体に巻きつけたリボンを指で指し示す二人―――状況を理解する/理解して
余計に頭が痛くなった。



 つまりプレゼント=自分♪とでも言いたいのだろう。
「・・・・それで・・・どうして、それ、を?」
 もうなんか泣きたい、と言うか涙を流さないでいる自分を褒めて上げたい気分で呟いた。
 答えは分かってる。分かってるから聞きたくない―――けど、聞いておかなきゃ打開は出来ない。もはや
それが無理なのも分かっているが。
「・・・・参考になるかなって。」
「シンってこういうこと言ってくれないし・・・・」
 上目遣いでモジモジしながら呟く二人。確かにその上目遣いはちょっと可愛いかなとか思ったりもするが、
如何せん格好がおかしい。異常だ。だって、ノーランジェリーセーラーとネイキッドスターメイドである。
 可愛いとか可愛くないとか以前に頭が痛くなってくる。
「・・・・それで、そんな格好にしたと?」
「え、ええ。」
 ぽっと頬を染めるセーラーギンガ。
「う、うん。」
 ぽっと頬を染めるスターフェイト。
「いつから・・・やってたんです?」
「あ、朝からです。」
「一日、頑張ってみたんだ・・・。」
 駄目だった。シンが思っているよりもはるかに馬鹿だった。
「・・・・・・・。」
 膝を付いて頭を抱え込んで蹲るシン・アスカ。
 彼女たちが面倒な女だとは知っている。
 直ぐに嫉妬するし、直ぐに切れるし、直ぐにぶん殴るし、直ぐに家出するし・・・・けど、それでもそんなところも
ひっくるめて自分は“彼女達”を好きになったのだ。
 確かに二股だ。最低だ。けれど―――この二股は本気の二股だ。本気で二人を好きになった以上は誠意を
通すなら、二人揃って愛するのだ、とシン・アスカは彼なりに壊れてるなとは思いつつも自分の気持ちに正直に
誠実に強欲に生きてきた。
 だが―――こう、なんと言うか台無しだった。結構辛かった。
 シン・アスカのプランとは非常に普通だった。
 クリスマスプレゼントを買って帰る。
 皆でいつも通りに家族団欒。
 その内に店長もやってくる。
 続く家族団欒。
 騒がしくも愉しい一時。
 プレゼントを贈れば喜んでくれるかもしれない。二人の笑顔を見れたら幸福だろう。
 と、本当に純粋にクリスマスを過ごす気だった。事実、去年まではそんな感じだった。
 だっていうのに目前にいる二人は聖夜って言うか性夜である。
「・・・シン?」
 黙りこんで蹲った自分を見て、不安げにしているセーラーギンガ。
「ど、どうしたの?」
 同じく自分を見て、不安げにしているスターフェイト。
 恐らく自分達の格好のことなど気にせずに、自分の体調を気にしてくれているんだろう――彼女達はいつ
だってシン・アスカを支えてくれているのだ。
 だから、そんな彼女達を見て、シン・アスカは、心のマグマに火を入れた。
(・・・皆、俺を驚かせようとか、喜んで欲しいとかそんな純粋な想いからこんな格好したんだ。)
 そう、自分ががっかりしているのは自分が勝手に期待した普通のクリスマスだからだ。
 だから―――シンはとりあえず、この雰囲気に溶け込むことに決めた。
 悲しいクリスマスよりも愉しいクリスマスが一番だ、と。そう想ったから。


 意を決するとシンは手に持っていた袋から綺麗に包装された包みを取り出した。
「ぎ、ギンガさん、フェイトさん!!」
「は、はい!?」
「ど、どうしたの!?」
「こ、これ・・・・プレゼントです。」
 二人の手元にその包みを渡す。
 一つは青い包装で、もう一つは黄色の包装で。
「え、わ、私達にですか!?」
「うわああ・・・・ありがとう、シン!」
「い、いつもいつも世話になってるし・・・ほ、ほら、今日はケーキも買ってきました。チキンもです!折角の
クリスマスなんです。皆で楽しみましょう!!」
「はい!!」
「うん!!」
 と、まあ、無理矢理方向転換したシンだった。
 ――――とはいえ、どこからどうみてもおかしな雰囲気ではあったが。何せ、セーラー服コスプレと
かろうじて裸体じゃない女性と同じ部屋にいて、AV見てるのだ。
 シンだけ見ればかなりいい感じのクリスマスだが、視点を変えればおかしな格好の女性と聞こえてくる
BGMは喘ぎ声。傍から見たら変態の仲間でしかない。
 と言うか傍から見たら明らかにシンが強要しているようにしか見えないと言うこの運命の悪戯。正にデスティニー。
 そう、こんな風に、傍から“見られれば”
「・・・・・なんつーカッコしてるんや、二人とも。」
「・・・・え?」
 在り得ない声を聞いた、気がした。
 そう、この時間、この場所に現れるはずの無い声―――女狸の声。
「そ、その声は・・・・・」
 振り向くシン―――そこには彼が最も“今”会いたくない女性がいた。
 額に青筋を立てて、昔とは違って肩に掛かる程度に伸ばした髪と栗色のストールを首に巻いたそれなり
の年齢の女性――お肌の曲がり角を最近過ぎたと嘆いた――がいた。
「や、八神さん・・・・・お、お早い到着ですね・・・・」
「は、はやてさん・・・・」
「ど、どうしたのかな、はやて?」
 そこにいたのは八神はやて―――喫茶店やがみの店長にして、メゾン・ド・ミネルヴァの大家である。
 唇が引くついているのは気のせいでは無いだろう。見た感じで分かるほどに八神はやてはぶち切れていた。
「・・・・・人が、仕事で忙しい忙しい言うてる時に帰らせてくれとか言う馬鹿がいた。」
 ぎくり、と身体を震わせるシン。
 紛れも無く自分のことだ。
「クリスマスだからと帰らせてくれ――まあ、美談やね。ええ話や。仕方ないから私も許可した。
二人も待たせてるやろうし、プレゼントも今から買いに行くとか言う話や・・・仕方ない仕方ない。」
 口を開くたびに震える空気。声に篭る怒りとか緊張が空間を震わせているのだ。
「・・・・・そして、蓋を開けてみれば、コスプレでくんずほぐれつ3P大会とかどういう了見や!!?大体、
シンもシンや!!プレゼント買いに行ってなんつうもん買ってきてるんや!!」
「い、いや、八神さん、これは誤解で、別に俺は買ってきてないで・・・」
「五回も六回も無いわ!!なんや、セーラーギンガとメイドフェイトで朝までしっぽりか!!ご宿泊か!!
キミの瞳に乾杯とかそうなんか!!うがあああああ!!」
 本当に切なる叫び。自分で言っている内に色々沸き立つものがあるのかもしれない。
「大体、なんや、あの客は!!人の顔ジロジロ見たかと思ったら『この後、暇ですか?』やと!?ああ、
暇や!!なんか文句あるんかとかドス聞かせたら、いきなり逃げ出しやがって、あのクソジャリがあああああ!!!!」
(・・・・それこそキミの瞳に乾杯なんじゃ・・・・)
 心中で呟くシン。フェイトも同じような顔をしている。見れば、ギンガも同じだ。


 つまり、なるほど。彼らの目の前で切れている女性は、その男性からのお誘いに気づくことなく
またもや新たな出会いを棒に振ったと言う訳なのだ。
「ま、まあまあ、とりあえず落ち着いてくださいな、はやてさん。」
 ギンガは錯乱し掛かってるはやてを手で制して、中に招く。テーブルに行けば、フェイトが椅子を
引いて待っていた。シンはしれっとゲーム機からDVDを抜くとケースに収納し、直ぐに懐に隠した。
見られたくないのだろう。当然のことかもしれないが。
 ギンガがいそいそとテーブルに料理を置いて行く。冷蔵庫の中から次々と出してくる辺り仕込みは前日の
内に全て終わらせていたのだろう。というかコスプレ談義をしつつも、家事や洗濯には抜かりが無い――それが
ギンガ・ナカジマ。伊達に主婦を長年やっている訳ではない。同じくシンの買ってきたチキン―――俗に
言うケ○タッキーだ―――や喫茶店やがみ特製ケーキをテーブルに並べて行く。
 フェイトはフェイトで食器を出したり、飲み物を出したり、秘蔵のワインを出したりしている。
ギンガの邪魔をしないように、さりとて仕事が遅くなることは一切無い。流石に長年一緒に生活
しているからだろう。互いに呼吸が異常なほどに合っている。
 ちなみに二人共に格好は先ほどのままである。即ちセーラーギンガとスターフェイト。そこに強化
パーツとして互いにエプロンを装着済みである―――もう、どこから突っ込んでいいのか分からない。
動くたびにひらりひらりと舞い踊るエプロンの裾。隠していない――むしろ隠す気など無い太股。
加えてスターフェイトは鎖骨とか背中もバッチリオープンである。もはや無敵である。彼女もちょっと
考えれば自分の格好が如何にやばいか分かるはずなのだが・・・・如何せんそこは自室。我が家。マイホームである。
雰囲気に酔ってることに加えて解放感も後押しして気づけないでいるのだ。ギンガも、然りである。
 その間で不貞腐れながら、フェイトの渡したワインを飲み下すはやて。気づけばフェイトも既に飲み
出している。白い肌が少し紅潮している。ギンガはその後ろでいそいそと料理を温めている。
(・・・・・ま、まあ、これはこれでいいんだ・・・・よ、な?)
 いまいち自信は無いがシンはそう思うと懐からDVDを取り出して自分の鞄の中に仕舞い込む。
元凶は元から断つべし。
(さよなら、ヴァイスさん。このDVD、俺も好きだったけど危険すぎるんです・・・・今度はクロノさんに
でも渡しておきます。)
 さりげなく義理の兄―――まだなっていないが―――に爆弾を投げ込む覚悟をしつつシンは喧騒に舞い戻る。
 聖夜の帳はまだ下りない。
 夜はまだ始まったばかり。

「やから、私は・・・・うう、何で皆結婚してしもたんやあ・・・・」
「そっか、はやても大変なんだね・・・・。」
「うう、皆、私を置いて結婚していくんや・・・・何でや・・何で売れ残るんや・・・!!いつだってそうや、
女は男の身勝手で振り回されるんや・・・!!」
 日本酒の入った湯呑み片手に涙声で叫ぶはやて。その横にいるのはフェイトである。彼女も片手に
ワイングラスを持ちながらはやての愚痴に付き合っている。顔に張り付いているのは紛れも無く苦笑
――もしくは疲れ。酔っ払いの相手は疲れるものだ。それもいつもとは違うこんな格好――星型の
シールで胸を隠して、黒ビキニを着用し、カチューシャとかつけていれば特に、だ。
「・・・・・確かにそうですね。男の身勝手って女を振り回しますよね。」
 ギンガも同じくセーラー服姿ではやての愚痴に付き合っていた。ちら、と横にいる男を見る。稀に
見る身勝手で自分達の人生を思いっきり振り回した張本人を―――まあ、この状況に納得がいって
いるから、落ち着いている訳ではあったが。
「・・・・・さ、テレビテレビ、と。今日のニュースは何かなー。」
 必死に三人から視線を逸らす件の身勝手な男―――ギンガの隣にいるシン・アスカだ。
 二股貫いてるとか言う時点で身勝手な男だった。どんなに真剣とは言え、振り回されてる方にしてみれば、
面白いものではない―――ある意味この状況を楽しんでるといえば楽しんでるのは確かだが。
「・・・・まあ、いいです。そういうの織り込んでここにいるんだし。・・・・幸せなのは確かですし、ね。」
 ぼそっと呟き、溜め息を吐きながら、ギンガは笑った。シンはその声が聞こえていたのか、顔は
テレビに向けたまま隣にいる彼女の手を握る―――嬉しかったのだろう、その言葉が。心なしか
頬も赤くなっているような気がする。



「・・・もしかして、惚れ直しました?」
 くすり、と笑いながらギンガはその手を握り返す。
「・・・うん。」
 テレビから視線は逸らさず、小さく呟いた。声はか細く、多分他の誰にも聞こえない。ギンガにだけ届く
子供っぽい口調の彼の声。
「・・・・二人で手を繋いで何してるのかな?」
 二人の間に割って入るフェイト。心なしか頬が紅潮している―――口元から漏れる呼吸の香り。アルコールの匂い。
「フェイトさん・・・酔ってますね?」
 瞳を釣り上がらせてギンガがフェイトを睨む。邪魔されたのが気に食わないのかもしれない。
 いつもなら、ここで少しは引き下がるフェイトだが――酔っている状態とは常とはまるで違う
反応をする。
「酔ってるよお・・・・酔ってるのに、これからもっと酔うって言うのにさあ・・・はやてはもう寝ちゃったし・・・
シンとギンガは二人で、何か手とか繋いでるし・・・・・ううう、私だけ除け者って酷いよお。」
 子供のようにたどたどしい話し方でそう言って、フェイトはシンの残っている手に自分の手を重ねて、
握り締める―――手から伝わる暖かさ。人肌の安心感。
「・・・除け者になんてしませんよ。俺たちはずっと一緒って決めたでしょう?」
「え、えへへへへぇぇ・・・・そうだもんねえ、私とシンとギンガはいつまでも一緒だもんねえ。」
 少し不機嫌そうにシンに肩を寄せるギンガ。幸せそうにシンの肩に頭を預けるフェイト。
 二人に身体を預けられて、照れ臭そうにシンは天井を見ていた。
 絡み合う三人の視線―――時刻は既に九時を過ぎている。八神はやては眠っている。
 チャンス到来キタコレ。そんな言葉が二人の女の脳裏を掠める。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
 静かな一時。二人の身体が一人の男に更にしな垂れかかり――――
「あ、ウルフマンや。ひっく。」
 声が、した。予想外の方向から。むくり、と寝ぼけた眼ではやてがテレビを見つめてそう言った。
 途端、二人の身体は全身のバネを総動員して、シンから離れて一気に目線をシンに向ける。
当のシンはドクドクと鼓動する心臓を忘れるようにして、必死にテレビから視線を離さない。
ギンガとフェイトの顔も似たようなものだ。酔いは既に冷めている。というか恥ずかしさとか
雰囲気に流されて何する気だったんだお前らは、とか言いたいことは色々あるがとりあえず焦っていた。
 紅潮する顔。鼓動する心臓。そして対照的にテレビの中では、変な服―――白いマント、肩と
身体を覆うプロテクター、そしてサングラス。首元にはスカーフを巻いた銀髪の男が映っている。
『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ・・・!!悪を倒せと私を呼ぶ・・・!!』
「・・・・う、ウルフマンですね。」
 シンが呟いた。必死に誤魔化そうとしている――幸いはやては気付いていない。
 テレビに映っている漢。彼の名はウルフマン。クラナガンの平和を日夜守る正義のヒーローである
―――その正体はザッフィーである。八神はやてプロデュース「ザフィーラヒーロー作戦」の一環だった。
常々、損な役回りが多いザフィーラをはやては不憫に思い、たまには主人公的な役回りあったって
いいじゃない。ヴォルケンリッターだもの、と、彼女は彼をコーディネイトした。そう、ヒーローへと。
ちなみにモデルは昔読んだ漫画に出てきたキャラだった。
『きゃあああああ、ウルフマン様ああああ!!』
 その直ぐ横で身体に不釣合いなほどに大きな槍のようなデバイスを持った少女―――むしろ幼女と
言ってもいい年齢―――が大きな声で叫んでいた。幼女の瞳は緑と赤のオッドアイ―――稀有な瞳。王の瞳である。
「あ、ヴィヴィオや。」
 ウルフマンの熱狂的なファンであり、ファンクラブ創設者である少女―――年齢は10、11という
ところだろう。彼女の名は高町ヴィヴィオ。そう、高町なのはの養女である。
 テレビの中では何故か巨大ロボットが街を闊歩していた。そういえば、今日ポストに見慣れない
チラシ――ある意味見慣れた――が入っていたのを思い出す。チラシの内容は簡潔だった――というか
いつも通りだった。


【今日襲撃します。お出かけの際には心構えを。貴方の街の次元海賊アルハザード。】
 読んだ人間は全員思った―――なんてはた迷惑なんだ、と。
「・・・・・アイツも懲りない男だな。」
 ぽつりと呟くシン。
 次元海賊アルハザード。それはドクタージェイル・スカリエッティがある事件の後に作り出した
面白破壊海賊団である。
 多次元世界に跨る次元海賊というのは実は少なくは無い。だが、その中にあって彼らはあまりにも
特殊であまりにも迷惑で、そしてあまりにどうでもいい存在だった。
 彼らの特徴――それは“面白破壊空間”という空間内でのみ破壊活動を行うことに尽きる。
 面白破壊空間―――簡単に言えばそれは結界だ。結界内で起きた破壊は全て幻想と化して無に還る。
つまり、どんなコトが起きようともその空間を作っている大本が破棄されれば元に戻ると言う空間である。
 彼らは毎月、気が向いた時にクラナガンの全ての家屋に“チラシ”を寄越す。
 今日、襲撃します、と。
 そして、現れる巨大ロボットとか巨大な怪獣とか色々。
 初めこそ皆驚いた。警戒した。だが、今ではもう誰も気にすることもなくなった―――何故か。
 面白破壊空間内で起きる現実は全て幻想――要するにビルが倒壊しようと家が倒壊しようと、元に戻る。
性質の悪いドッキリのようなものだ。ジェットコースターよりもはるかにドキドキはするが、別に死にはしない。
 被害はゼロ――強いて言うなればその襲撃の間に流れる“ジェイル・スカリエッティ 漢のテーマ”が
非常に煩くて夜中とかだと眠れなくなるとかそんなくらいである。
 迷惑は掛けるが、被害は与えない。ジェイル・スカリエッティ率いる次元海賊アルハザードとは
そんな集団である。一度など破壊の幻影にビックリして、心臓が止まりかかった老人を必死に元気付け、
病院に運び一命を取り留めさせたこともある。そこまでするなら破壊なんてしなきゃいいのに――誰もが
そう思い、口にする人間もいた。
 だが、それに対してスカリエッティの問いは簡潔だった。
「だって、それじゃ面白くないじゃないか。」
 とんでもないはた迷惑な男だった。と、まあそんな日常にもクラナガンの住民は慣れて行く。今では
遊園地のアトラクションに行くならスカリエッティの襲撃にあってみよう、これがクラナガンのオシャレ
トレンドである。それなりに寛大である。というか懐広い。広すぎである。なんだ、オシャレトレンドって。
 ―――さて、余談はこの程度にしておこう。
 既にテレビの中ではウルフマンとヴィヴィオが並んで立っていた。
「ウルフマン様!!」
「うむ!!あれをやるぞ、少女よ!!」
 ウルフマンがマントをばさっと翻す。ヴィヴィオもそれに追随して、槍を高く掲げる。
「あれですね!!了解です!!カレイドスターいくよ!!」
『はっはあああああ!!!ぶっ飛ばせ、ヴィヴィオ!!全部消し炭にして、ぶっ壊して、消滅させ
ちまいなあああ!!!』
 物騒なことを言いまくるそのデバイスの名をレイジングハート・カレイドスター。面白破壊空間展開型の
最新鋭デバイスである。というか何の因果かスカリエッティ製のデバイスが紆余曲折を経てヴィヴィオに
渡ったと言う曰く付き―――ゆえにその破壊力とAIの滅茶苦茶度は相当やばい。消し炭どころか
ぺんぺん草の一片までも残さないほどに徹底的に破壊する破壊魔法しか使えないのだ―――無論、
面白破壊空間展開状態での話しだが。
「とおっ!!」
 返事を待たずにウルフマンが跳躍する。飛行の魔法を使ったその跳躍は最大級。そこに捻りを加え、
螺旋を描くように肉体が捻り唸る。
「グレートウルフ―――!!」
 つま先を先端として螺旋構造を構成していくウルフマンの魔力。その様は正に螺旋(ドリル)。全てを
衝き穿つ極大螺旋蹴撃(スーパードリルキック)。
「卍キイイイイイックゥッ!!」
 爆発。巨大ロボットが四散する。そしてそれを追随するように―――っていうかむしろウルフマン
狙ってるんじゃね、これ?くらいの勢いと精度で高町ヴィヴィオの放つ魔力弾―――付近一帯の魔力を
収束し増幅し、幼い幼女の純粋無垢な愛を込めて、放たれるその一撃。その名を―――


「スターライトブレイカー・・・・・・・・!!!」
 ヴィヴォオが叫ぶ―――力強く、熱く、激しく、情熱を込めて。
『洞爺湖エディション!!』
 デバイスの液晶画面に“洞爺湖”の文字―――回転し加速し無限に収束し極限にまで過熱する魔力――その色は赤。
全てを燃やし尽くす烈火の赤。
「5連!!ゼロ地点突破ああああああああああ!!!!!」
 咆哮(クライ)咆哮(クライ)戦いの咆哮(ウォークライ)―――!!!
 赤い魔力の光が渦を巻き、その“顎”を開いた。連想される姿は龍そのもの。天を貫くが如し赤い光の柱が、
五つの頭を持つ多頭龍と化して、四散した四肢に襲い掛かる。龍の顎が噛み付き、喰らいつき、その全てを
消滅させていく。
「ヒイイイイイトオオ!!!エーーーーンド!!!!!」
 ヴィヴィオが叫ぶ――瞬間、巨大ロボットがその叫び通りに燃え上がって“終了”した。ロボットは
その姿を赤い光の粒子に変換し、淡雪の如く消えていく。
 同時に面白破壊空間の展開が終了する。
「ウルフマン様!!」
「ああ、少女よ!!」
 駆け寄る二人―――お互いの右の掌を互いの掌に向けて叩き付ける。ぱあん、と音がする。俗に言う
ハイタッチだ。仲間同士で信頼を確かめ合う、スキンシップである。
 SLB洞爺湖エディション五連ゼロ地点突破。極端なことを言えば無茶苦茶な威力のスターライトブレイカーである。
 ちなみにヴィヴィオが自分の好きな漫画から取ったネーミングである。名前に意味は無い。語呂が良いのと
何となく格好良いと言う理由が意味といえば意味だった。別に洞爺湖でしか売ってないわけでも修学旅行で
思い突いた訳でもなければ、相手を凍らせるわけでも無いのであしからず。基本的にその場のノリです。
某マシンロボみたいに臨機応変に名前も変わります。
 ぶつん、と画面が暗転する。
《えー、本日未明に発生した襲撃は無事に収束した模様です。死人はいつものようにゼロ・・・・と、そろそろ
時間も圧しているようなのでこのへんで。》
 再び画面が変わる。やけに投げ槍なアナウンスの声がやけに耳に残る。
《この番組は、ロウランブログと時空管理局の提供でお送りしました。》
 流れるCM―――室内には沈黙が流れている。
「・・・・凄い成長したな、あの子。」
 何とも言えない顔でテレビを見つめるシン。
「うん・・・・もう、お茶の間のヒーローだもんね。」
 フェイトも同じく毎度のコトながら何と言っていいのか分かりづらい顔をしている。
 親友の愛娘―――と言うか自分のことを、フェイトママと未だに呼んでくれる幼女の先行きが心配になる
からだが。良い雰囲気が吹き飛んだせいで酔いも醒めました。
「・・・というかヴィヴィオちゃんは本当にザフィーラさんと結婚するつもりなんでしょうか?こないだ
話した時には嬉しそうに将来の夢をウルフマン様のお嫁さんになるとか言ってましたけど・・・・」
 やばい。何がやばいかって相手は一応獣だ。獣人だ。異種間恋愛って言うか形態が違う。
 獣人と幼女とかこう背徳的な匂いがプンプンする。
 皆の何とも言えない顔はそれを如実に表していると言って良い。
 だが、はやてはその場の誰とも違う、平常そのものと言った表情で呟いた。
「まあ、ええんやない?本人の自由意志やし。ザフィーラも喜んでるんと違う?あ、ギンガ、お酒もらえる?」
 自由意志。汚い言葉だ。ぶっちゃけた話それ出されたら誰も何も言えない
 テレビの中のヴィヴィオの笑顔は確かに嬉しそうだったし、ザフィーラもなんかノリノリだったことを
考えれば―――如何せん背徳も止むを得ないのかもしれない。
 シンとギンガとフェイトの3人が目配せする――恐らくあんまりこれ以上突っ込んだこと聞きたくないの
だろう。下手して自分たちが巻きこまれるのも正直勘弁して欲しいし。
 何よりもはやての口からこんな言葉が出てくる以上、確実に酔っていることは間違いないからだ。
 曲がりなりにも八神はやてとはこの場にいる人間の中で最も常識人と言える存在である。間違っても
こんな言葉を言い出すはずも無い―――よく見れば目が据わっているし、顔は赤くなって、熱そうに
着ている上着を脱ぎYシャツの一番上のボタンを無造作に外して、ふんぞり返っている。
 何より右手に持つコップに注がれた透明な液体――日本酒。それをガボガボと擬音が出るくらいの勢いで
飲んでいるのだ。酔っていないはずが無い。
「それにまあ幼女の言うことや。これからの展開次第では・・・・ふっふっふ・・・くんずほぐれつ幼女・・・・
・・・・・なんや、ザフィーラまで私を置いていくっていうんか、ザッフィーーーーー!!!」
 うわーん、と叫ぶとがぼがぼと喉に注がれていく日本酒。左手には手酌用に既に一升瓶が用意されており、
中身は既に半分近く消費されている。
「げっぷ・・・・うう、皆皆私を置いていきよって・・・・・・やっぱりキャラ付け間違えてたんか・・・関西弁の需要は
もう無い言うんか!!関西弁だから言うだけでキャラが立った時代はもう終わったんか!!!」
 とんでもねえぶっちゃけっぷりだった。というよりもキャラ付けの一環だったのか、関西弁。
 うわーんと再び泣きながら日本酒―――いつの間にか焼酎に変わっている――をぐびりぐびりと飲んで
いく。口元から垂れる透明な焼酎。持参して来た芋焼酎である。
「飲むしかない・・・・飲むしかないんやで、フェイトちゃん!!」
「え、いや、私は・・・・・」
「・・・・はっ、なんや、フェイトちゃんみたいな人生勝ち組は私の酒が飲めんのか!?そら、私はフェイトちゃん
よりも胸は小さいし、身長も小さいし、経験の数も少ない・・・・・・・っていうか無い・・・・うっううううう・・
・・なんやろ・・・なんやろ、この気持ち。今なら惑星一つくらいは破壊出来る気がする・・・・か○はめ波か!!
かめ○め波なんやな!!ひっく。」
 据わった眼で呟く。どう見ても本気にしか聞こえそうに無い。
「ちょ、ちょっとはやてさん!?何する気ですか!?」
「離せ、離すんや、ギンガ!!私はこのクリスマスに慟哭する全ての魂(嫉妬)の為にこの星を壊すんや!!
なんや、行き送れて悪いんか!!こちとら独身貴族や!!失うモノなんか何も無いんやぞ!!」
「ば、馬鹿なこと言ってないで、やめましょ!?ね!?ほら、ウルフマンはあんなに幸せそうだったじゃないですか!?」
「あのウルフマン・・・?ザフィーラのことか・・・ザフィーラのことかーーー!!!」
「ああ、もうこの酔っ払い、人の話聞いてください!!」
 ぴんぽーんと言う間の抜けたチャイム音―――来客だ。
 コレ幸いとばかりに立ち上がり、玄関に行こうとするギンガを制して、シンが立ち上がった。
「あ、いいですよ、俺行きますから。」
「ちょ、ちょっと、シン!!こっちを何とか・・・!!」
「さて、お客さんは誰かなー」
「こ、この人でなし!!変態!!」
 変態はお互い様です。
「ええか、そこのセーラーギンガとスターフェイト!!大体、何で星型のシールがそんなところにきとるんや!!
そこはセロハン・・・・」
 喧騒が聞こえる―――というか酒乱と化してしまっているはやてを相手になどしていられない。
 こういうところがしれっと出来るようになった辺りシンも成長したのだろう―――それが良い方向か悪い
方向かは置いておいて。まあ、少なくとも胸を張って二股してる、と宣言できるようになったのは成長は成長だろう。
「誰だ、こんな時間に・・・・」
 チャイムは何度も何度も繰り返し鳴り響く。リズムのついたその繰り返しはどこか楽しんでいるような
伏しさえ感じさせる。
(・・・・・嫌な予感がするなあ。)
 漠然とした嫌な予感―――殆ど確信とも言える。シンの知り合いにこんなことをする人間など
それこそ数えるほどしかいない。
 先ほどテレビに出ていたジェイル・スカリエッティとそのお供であるナンバーズ。
 ギンガ・ナカジマの父であるゲンヤ・ナカジマ。
 以前の上司であるヴェロッサ・アコース。


 そして、もう一人。シンの仕事上もはやいなくては話にならないほど重要な人物にまで成り上がった
情報収集に関しては天下一品と言ってもいいある一人の女性。
 ―――がちゃり、とドアノブを開ける。
「フェスラ?」
 そこにいたのは、金色の髪と紅い瞳の女性―――フェスラ・リコルディだった。
何故かサンタみたいな帽子を被って、服装は赤と白のコントラスト―――ミニスカサンタである。
しかも際どい。かなり際どい。シン・アスカの卓越した視力と空間把握能力がその領域の落差凡そ
20cmと測定―――セーラーギンガと同等の極限上昇である。そんなに上げて寒くないのか、と
思ったがそこは当然黒ストッキングで防御している。足元にはブーツ。細く長く見えるように少し
キツ目に縛ってあるのかもしれない―――はっと一瞬その姿に目を奪われそうになる自分を叱咤する。
 危険だ。背後にいる“彼女達”を考えるとこの状況は限り無く危険だ。危険すぎる。
 だが、そんな危険なお構い無しとばかりにフェスラが口を開いた。
「はろー、シン、今日暇?ていうか暇でしょ?暇だよね?」
 一気にまくし立てるフェスラ。ほんのりと紅潮した頬を見るに少し酔っているのかも知れない。
「いや、暇じゃないから。ていうかお前何しに来たんだ?」
「つれないわねえ。貴方の愛しのフェスラちゃんの登場なのよ?もう少し喜んでくれてもいいんじゃない?
ていうかどう、この格好?可愛いでしょ?」
「誰が愛しのフェスラだ・・・・・ていうかお前その格好でここまで来たのか?」
「そうよ?クリスマスって言えばミニスカサンタって定番でしょ?今日はお得意様であるシン・アスカの為に
膝上20cmの超ミニで決めてみました!」
 結構コスプレ好きなフェスラ・リコルディ。定番ではあるがその定番はキャバクラとかスナックとかの
定番な気もするが――彼女の性格を考えれば割と合ってる様な気もする。と言うかスカートの裾を
ひらひらと両手で摘まみながら、くるくる玄関先で一回転するフェスラはぶっちゃけ可愛い。年齢不詳の
癖にこういう衣装がやけに似合うのは反則だよな、と思いつつ一瞬魅入るシン―――背後に現れた気配に
気づいて緩みかけた頬を即座に締める。
「あら、ギンガとフェイトじゃない。いたの?」
 紅い瞳をにやつかせるフェスラ―――シンの背後にはいつの間に現れたのか、ギンガとフェイトがいた。
「誰かと思えば・・・・・・貴方ですか、フェスラ・リコルディ。」
「うわ・・・・何しに来たの、泥棒猫。」
 いきなり喧嘩腰に殺気立つ二人の女豹。
 二人共に瞳を釣りあがらせ、睨み付けている。対するフェスラは飄々とその視線を受け流す。
「何しに来たとはご挨拶ね・・・・仕事でいつも世話になったり、世話してるお得意様に挨拶に来ただけよ?」
「・・・・そのミニスカサンタで?」
 ぎろり、とフェスラの全身を睨み付けるギンガ―――今にもデバイスを起動させんばかりの勢いである。
「そんなにスカート短いのに?」
 スカートの膝上を目算で計りながらフェイトもフェスラを睨み付ける。
「膝上20cmはクリスマス用のスペシャル仕様よ・・・どう?綺麗でしょ、私の足?」
 そう言って再びふわふわとスカートを揺らしながら太股を強調するフェスラ。
 どこの仕様だ、と思ったがシンは何も口に出さない。背後からぶつかる視線とプレッシャー、そして
前方でそのプレッシャーを跳ね返すが如き視線の間に挟まれたシンの胃がキリキリと軋みを上げる。
(・・・・えーと、もしかして一触即発?)
 視線と視線と視線が拘束する―――朱い瞳の男を中心にして。
 中心にいるシンは溜まったものではない。普通に直立すればフェスラのミニスカサンタが見える以上は
魅入ってしまうのは男の性。さりとて、そんなことをすれば後ろの女豹二人にボッコボコに吹き飛ばされる
のは明白。リボルビングステークとライオットザンバーのコンボはやばいのだ。
 意識喪失―――再起不能(リタイア)、など何度繰り返されたことだろう。
 たまたま―――そう、たまたま。本当に偶然、他の女性を見た瞬間、
『そんなに若い子がいいんですか!?』
『シンの馬鹿あああ!!』


 どぐしゃあっ、と擬音を滲ませてコンボが決まる―――螺旋の左腕と雷の双剣。
『やっだっばああああああん!!!!!』
 吹き飛ぶ自分―――近づく青空―――近づく地面―――ああ、交通事故ってこんな感じなのかな―――意識が
断絶する―――意識喪失(リタイア)
 そう思って骨折したことを思い出す。思い出すだけで怖気が走る―――反応出来ない攻撃って怖いん
だなあと本気で思った瞬間だった。
 起きた瞬間、ベッドの横に置いてあった漫画雑誌で掲載していた劇画調の奇妙な漫画の『⇒ToBeContinued?』
という台詞を見た瞬間、何故か非常に共感した。
「・・・・まあ、上がっららどうや?ほんなところえそんな格好れいらら風邪引くれ?ひっく。」
 その背後―――八神はやてが芋焼酎片手に佇んでいた。全然呂律が回っていない。眼も虚ろで、
足元はふらついている。なのに芋焼酎を煽る速度だけは変わらない。かなりやばい。
「あら、もう出来上がっちゃってるの?」
「出来上がう?出きあがっれなんれないれすよー。ひっく。」
 出来上がってる。物凄い出来上がってる。顔真っ赤にして呂律回らない口調で酔ってないなんて
言うのは酔っ払いだけである。
「ま、とりあえず、私も上がらせてくれない?玄関先でこんな格好は流石に恥ずかしいでしょ?」
 然りだった。ちなみに玄関先にいる全員の服装を言うと、シンは先ほどと同じ。常識の範囲内である。
はやても同じく。ギンガはセーラー服のままだった。フェイトは殆ど裸だった。いい加減着替えましょう。風邪引きます。
「・・・ちなみに・・・もしかして4Pでお楽しみ中だったとか?」
 二人の格好―――特にフェイトの胸の頂点にある星型のシール―――を見ながらフェスラが
呟いた。当然だ。誰だってそう思う。
 だが、その問いはいささか不本意な問いだったらしい。途端に赤面するギンガとフェイト。シンは
赤面しつつも冤罪だ!とばかりに口を開いた。
「ば、馬鹿なこと言うな!!八神さんに失礼だろ!!」
「・・・・ふーん、じゃ、他の二人には失礼じゃないんだ?」
 ニヤついた表情のままフェスラが呟いた。
「え、いや、そりゃ、時々・・・・・はっ!?ご、誤解だ!!」
「・・・・あ、あははは」
「・・・・ぽっ」
 軽く誘導尋問に引っかかるシン・アスカ。頬を引き攣らせ乾いた笑いをするギンガ。否定すらせず
素直にぽっと頬を赤面するフェイト。ピンクだった。桃色サバトです。
 というか世の男が見たら発狂するどころか『ガンホー!ガンホー!』言いながら彼に突貫するに
違いない。誰だってそーする。俺だってそーする。
「不潔やー、この子ら不潔やー。R-18やー。ひっく・・・・・うおい、ギンガさんや、酒切れて
しもたんよー、お代わりあるーーー?」
 やってられるか、とばかりにコップを煽るはやて。既に瓶は空になっている。飲みすぎである。
意識を失っていないのが凄いところだ。
「・・・まあ、いいです。とりあえず、中に上がりなさいよ、フェスラ・リコルディ。聖夜のパーティー
への出席くらいは認めましょう。」
 不承不承―――仕方ないと言う雰囲気ダダ漏れでギンガが呟いた。フェイトもその顔を見て
頷く――同意した。
 少しだけほっとするシン。何はともあれ、これで全員で酒を飲んで潰れてしまえば何事も起こるまい。
 幸いなことに酒乱のはやては真っ先に潰れたし、フェスラに付き合ってギンガとフェイトも
潰れる―――辿り着く果ては二日酔い地獄だ。喧嘩をする気力も残らないに違いない。
 意図したクリスマスとは大分と違うが―――何事も無く万事平穏に終わるならそれはそれで問題は無い。
 何しろ開始当初から予定とは大分とずれているのだ。何でか家に帰れば同棲――と言うか殆ど嫁
状態――の相手がコスプレしてAV見ていると言う異常事態から万事平穏になるならそれはウルトラCである。
もう十分それで満足できる。お腹一杯です。
 部屋の中に入っていく4人を後方から見つめながらシンは、心中でほっと息を吐いた。とりあえず、
何とかなった、と。
 だが、そんなシンの思惑は次に聞こえた音によってぶち壊される――――さて、本日最後の
ゲストの登場です。そんなはた迷惑な声が聞こえたような気がした。
 ぴんぽーん――――再び鳴り響くチャイム。来客の合図。どこに――無論、この家に。
「あ、はいはい、今出ますねー。」
「ちょ、ギンガさん、その格好は・・・・・」
 何の気なしにいつも通りに扉を開けようとするギンガ。停滞無いその動きはシンが止める間も
ないほどに流れるような動作である。がちゃりとドアノブを回す。扉が開く――まず瞳に入ったのは
ギンガと同じ青い髪の色の女性。次に現われたのはオレンジ色の髪の女性。更には後方には緑色の髪で
こちらを睨みつける妙齢の女性―――その横には黒髪で非常に困った顔をしている男性。
 スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、リンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン御一行のご登場だった。
 ―――やばい。何がやばいってギンガとかフェイトの格好が何よりもやばい。
「メリークリスマス、ギン姉―――!!近くまで来たから遊びに来たよ・・・あれ、もしかしてコスプレ中だった?」
 あっけらかんとコスプレとか言い出すスバル。一番長くギンガの乙女ちっくで奇妙な行動や愚痴を
聞かされていた彼女はこんな時でも慌てない。動じない。ナカジマ軍人は動じない。
「ちょっと、スバル!!もう少し落ち着きなさいよ・・・・・ギンガさんにフェイトさん、それに
シンもこんばん・・・・は?」
 固まるティアナ。瞳はギンガのセーラー服に釘付けです。
「あれ、お兄ちゃんにお母さん・・・・どうしたの?」
「いや、近くまで来たから寄らせてもらったん・・・・・・なん・・・だ、と・・・?」
 喧騒に呼ばれるようにしてフェイトも玄関先に顔を出す―――目玉が飛び出るくらいに驚いている
リンディとクロノを見て不思議そうにしている。固まるクロノ。どう反応していいのか分からない。
そんな顔だ。というよりも星に釘付けだ。
「え、あ、い、いや・・・・く、クリスマスだし、顔出しに来たんだ・・・・・ってお前らなんて格好してるんだ!!」
「ふぇ、フェイト・・・・お、お母さんは、フェイトをそんなコスプレさせるために嫁に出した訳じゃ・・・・シン・
アスカアアアアア!!あなた、うちの娘に何させてるんですか!?」
「い、いや、これは別に俺がさせた訳じゃ・・・・」
 真実である。家に帰ったらいつの間にかこの格好だったのだ。その弁解は事実である――だが、
そんな弁解が通じるリンディ・ザ・カーリー・ハラオウンではない。
 愛する愛娘が傷物にされ、尚且つこんな格好をさせている―――仮にこれがフェイトの自由意志であっても
止めるべきだろう、そこは。―――そんなシン・アスカを許せるはずもない。
「や、やっぱり、あの時、デバイスの錆にするべきだった・・・・クロノ!!クロウディアよ!!クロウディアを
出しなさい!!」
 消し炭にする気満々です。
「か、母さん、落ち着くんだ!!何度も言ってるが、彼らの二股は真剣な二股で・・・げぼらっ!?」
 リンディ・ハラオウンの平手打ち一閃―――クロノ・ハラオウンの身体が独楽の様にして回転する。
「二股に、本気もクソも無いに決まってるでしょう!?」
 確かにその通りだ――多分誰もがそう思うであろう共通事項である。
「クロノ!!クロウディアよ!!クロウディアを早く・・・・は、離しなさい、クロノっ!?」
 鼻血をぼたぼたと流しながら―――恐らくは先ほどの平手打ちだろう―――後ろから母を羽交い絞め
にするクロノ・ハラオウン。血涙流す彼女を鼻血出しながら抑える様子はなんていうか痛ましい。
「・・・すまない、母さん・・・・!!クロウディアは、クロウディアはまずいんだ!!僕の立場的にもやばいんだ!」
 切実・・・そう、本当に切実な声でそう言った。幾ら提督とは言え民間人を消し炭にするために次元航行艦
出して撃ちましたなんて洒落にならない。懲戒免職です。家族が泣きます。
 そして、逆側では、
「――――すいません。スバル!!帰るわよ!!」
「へ、い、いや、ギン姉とシン君とフェイトさんがコスプレしてるなんていつものことじゃ・・・・」
 見も蓋もないスバル。シンは泣きたくなった―――俺って本当にどう思われてるんだろう。そんな
聞きたくても怖くて聞けない言葉が脳裏を通る。
「ば、馬鹿!!そういうことは思っていても言うもんじゃないのよ!!
 こっちもこっちで本当に見も蓋も無い。そういうことは思っていても大きな声で言うものではない。
「シン・アスカあああああ!!!!こ、このド変態があああ!!!」
 大きな声で血涙を流しながら叫び続けるリンディ・ハラオウン。その様は正にリンディ・カーリーと呼ぶ
に相応しい。地母神も真っ青なくらいに怖いです。
「す、すまない、シン!!僕たちはこれで行かせてもらう!!あと、コスプレも程ほどにしておくだんだぞ!!?」
「イク!?だ、誰がどうイクっていうのクロノオオオオ!!!」 
 叫び続けるリンディを羽交い絞めにしながら必死に連れて行くクロノ・ハラオウン。去り際にしっかり
注意までしていくのも彼らしいといえば彼らしい。
(・・・・お、俺ってどういう風に思われてるんだ?)
「こ、こすぷれ・・・・?」
 スバルの言葉に弾かれたようにして自分の現在の格好を見るギンガ―――見る間に顔が赤面していく。
「・・・・へ?」
 同じく自分の格好を見るフェイト―――見る間に顔が青ざめていく。
「せ、セーラー・・・ノーランジェリー・・・・・」
「す、スター、ネイキッドメイド・・・・」
 そこで―――ようやく彼女達の“酔い”が醒める。酒に酔っていたのもあるが雰囲気とか欲望とか
その場のノリとか色々なもので酔っていた彼女の理性が正常化する。導き出される結論。奇しくもその内容はまるで同じ。
(へ、変態だ。)
「わ、私なんて格好を・・・・・き、着替えてきます!!」
「わ、私も!!」
 今更ながらに自分の格好がとんでもないことに気付いたギンガとフェイト――幾分というか大分と遅いが。
 流石に肉親の言葉はキクらしい。
「シン君・・・・・程々にね。」
「シン、あんたいくら若いからって限度ってものがあるでしょう・・・・?」
 スバルの方は困ったもんだとばかりに呆れた視線。
 ティアナの方は冷たい視線。絶対零度の極低温。
「・・・・うん、そうだね。直ぐに着替えさせるべきだったよね。」
 あははーと乾いた笑いを浮かべながらシンは一人顔を背けて扉を閉じる―――後日やってくるであろう、
リンディ・ハラオウンのことを考えると気が重かった。
(また、俺の管理局での評判悪くなるんだろうなあ・・・)
 二股男。ケダモノ。ダブルファング。猛獣使いなどなど・・・・シン・アスカは私立探偵という仕事柄、管理局と
顔を合わせることも多い。ちなみに彼のことを知らない人間は管理局にはいない。“あの”機動六課にいた
女性二人を手篭めにした上に今も堂々と二股していると言う管理局の男性スタッフの羨望の的であり
殺意の的でもあり、女性スタッフから最低だの最悪だの人間の屑だの思われている。
 正直、人間的な評判という意味で言えばマントルよりも更に下、中心核に向かって一直線みたいな感じだが、
それでも評判が悪くなるのはあまり好ましいことではない。
 管理局の人間と会うたびに「あ、二股野郎だ」とか当然のように言われると割と凹む。
「・・・・まあ、仕方ないか。」
 ぽつりと呟く。着替えさせなかったのは事実であるし、今更評判が良くなってもあんまり変わらないような気もするし。
「シン!!何してるんですかー!」
 ギンガが自分を呼ぶ声。
「シン、乾杯しようよ!!」
 フェイトが自分を呼ぶ声。
「うっうっう・・・・ティアナとスバルはええ子やなあ・・・こんら売れ残りにも酒注いでくれうとかほんま感動しら・・・!!」
「あ、あははは」
「い、いや、あはははは」


 泥酔して呂律の回らないはやてに酒を注ぎながら苦笑いを浮かべる二人。正直、来るんじゃなかったと言うのが
見てわかる。
「さあ、今日は飲むわよ!!」
 その横でワイングラスに持参してきた赤ワインを注ぎ、準備万端と言ったフェスラ。
「あ、今、行きます。」
 ―――まあ、幸せだしこれでいいかな。
 シンはそう思って部屋に戻っていった。
 直ぐに乾杯の声が聞こえた。
 喧騒が大きくなる。
 夜は終わらない。
 聖夜の帳はまだ下りない。

 数日後。クリスマスも終わり、世間は今度は年末年始に向けて動き出していた。
 人間というのは何かにつけてイベントを探せるものだと思う。
 シンはおかゆを作りながらそんなことを考えていた。
「・・・・ごほっごほっ。」
「・・・・頭痛い・・・・」
 居間――以前彼女達がAV見ながらコスプレ談義していた場所―――に布団を敷いて寝込む女性二人。
 ギンガ・ナカジマ。
 フェイト・T・ハラオウン。
「・・・まったく、あんな格好で一日いるからですよ。」
 そう、言いながら二人の額に冷ピ○クールを張っていくシン。
 あのクリスマスの翌日、彼女達は風邪を引いた。別に驚くことでもなんでもない。
 この寒い冬の時期に片やノーランジェリーセーラー、片やネイキッドメイドの格好のまま一日を過ごすなど
風邪を引きたいとしか思えない所業である。
「うう・・・・すいません・・・シン。」
「こ、今度からはもう少し考えて着るね・・・・」
 二人共に顔を紅潮させ、ごほっごほっと咳をしながら小さく呟く。どうやら反省しているようだ
 まあ、シンもあの格好を少しは可愛いとか良いとか思ってた以上は共犯みたいなものなのでこれ以上
しつこく文句を言う気も無い。
「まあ、もういいですよ・・・・あ、今日の夕飯俺作りますけど、リクエストあります?」
「暖かいものならなんでも・・・。」
「・・・・できればシチューがいいな。」
「―――了解。それならシチューで決まりですね。」
 冷蔵庫を開けて材料を確認する。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、バター・・・大よそ必要なものは揃っている。
「・・・なら、夜まで寝ていてください。何かあったら直ぐに呼んでくださいね?」
 シンはそう言って扉を閉める。懐からデバイスを取り出すとアラームを1時間後にセット――アイスノンの
準備も出来ているし、着替えやタオルは枕元に置いてある。
 再び扉を開ける。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
 規則正しい寝息が聞こえてくる。見ればもう既に眠りに付いたようだ―――少しだけ苦しそうに眠っている。
「さ、それじゃ作るか・・・・とりあえず、これからはああいう格好はさせたら駄目だよなー。」
 そう呟きながらシンは鼻歌交じりに野菜を切り始める。

 こうして、聖夜は終わりを告げ、未来に向かって日々は続く。
 ―――これは一人の男を奪い合いながらも、一人の男に愛され続ける二人の女の物語。

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