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空想垂れ流し それは舞い散る桜のようにフェイトEND

それは舞い散る桜のようにフェイトEND


「・・・・全くどこほっつき歩いてんだろうね。」

唇を引くつかせながら、呟いた。

「フェイトさんには何て言ってたんです?」

コンロの前に立って、鍋を掻き混ぜながら、青い髪を同じく後方で纏めた白いエプロン姿の女性――ギンガ・ナカジマ。
私の来ている山吹色のエプロンとは同じデザインの色違いだ。ちなみに私――フェイト・T・ハラオウンも料理の時は髪を後ろで纏めている。

「夜には帰るって聞いてたんだけどねー。」

テーブルの上に身を乗り出して、寝そべった。
外は快晴。綺麗な月が輝いている。
こんな日は夜道を散歩でもしたい――そんな気分の良さそうな月夜の晩だった。

「・・・・まあ、その内帰ってきますよ。」
「まあ、そうなんだけどね。」

時刻は10時20分。
今日の料理は自分が作ると言って譲らないギンガに全てを任せて、私は料理の手伝いだけはしつつも、殆ど何もせずにずっとテレビを見ていた。
多分、ギンガはギンガでこの間のことを悪いと思っているのかもしれない――誰も気にしてないって分かっていても、気になって仕方が無いのだろう。生真面目な彼女らしい、と思う。
気になるのは――シンが今も帰ってこないこと。
どこに行ったのかも分からないし、何をしているのかも分からない。
別に初めてのことではない――私立探偵なんて言う仕事をしていれば、連絡を入れられない時なんて、無い方がおかしい。
けれど――何かが引っかかっていた。
こんな、何かしらのイベントがある日は、必ず帰ってくる人だから余計にそう思ってしまう。
そうやって、私が物思いに耽りながらクイズ番組を見ていると――ギンガが声をかけてきた。

「あ、フェイトさん、ちょっとお使い頼まれてくれません? お醤油切らしちゃってて・・・・」
「ああ、それじゃ行ってくる――コンビニで良いよね?」
「時間が時間ですし。」
「うん、分かったよ。」

答えて、コートを羽織る。最寄りのコンビニまでは歩いて5分の距離――綺麗な夜空を見たいと思っていたから、散歩がてらにちょうどいい。
靴を履いて、ドアノブに手を掛け、外に出る――身体がぶつかった。誰かが扉の外に立っていた。
目を向ければ、そこには、朱い瞳と黒い髪。シンがそこにいた。

「・・・・シン?」

声をかけるも返事は無い。
見れば、その姿はいつもとはまるで違っていた。
どこもかしこも傷だらけの黒いコート。
頬には切り傷――頬だけでは無く全身に残る傷痕。
表情は――陰鬱そのもの。まるで昔に戻ってしまったみたいに。

「・・・・何かあったの?」

返事は無い。
言いたくないのか、言えないのか――目を合わせ、その瞳を覗き込む。
瞳孔が開き釣り上った眼。何かを堪えるような、耐え忍ぶような――誰かを守れなかった時に、彼が良く見せる表情。

「言いたく、ない?」

首を振って彼は否定する――子供のような動作。何か辛いことを背負っているのが丸分かりの表情。
隠しているつもりなのだろう。けれど――私たちにはそんなのは通用しない。
多分、私たち以外の誰かなら、シンはきっと仮面を被って隠し通せる――それこそ、誰にも気づかせずに普通に生活を送れるだろう。
けれど――私たち相手にそんなことはできない。そういう関係を育んできた。そんなことは許さないと何度も伝えてきた。
彼に近づき、その頬に手を当てる。

「・・・・そっか、シンは相変わらず、意地っ張りだね。」
「・・・・っ。」

涙が――毀れていく。
その朱い瞳から、大粒の涙が、流れていく。

「・・・・シン?」
「っ・・・・っぐ、・・・・えっぐ、う、あ。」

嗚咽を鳴らして、涎を垂らして、鼻水を垂らして――子供みたいでみっともなくてカッコ悪い――けど、世界中の誰よりも愛おしい泣き顔。

「・・・・馬鹿。」

シンは嗚咽を漏らすだけで何も言わない。それどころか俯いて涙を流す顔を逸らして見せようともしない。袖で涙を拭い、それでも涙が止まらずに――だから私はその背中に手を伸ばした。
見せたくないと言うのなら、見せなくてもいい。
ただ、彼に自分の体温を重ねたくて――泣きじゃくる彼を包みこんであげようと、そう思って。
抱き締める。私の胸に埋まるくらいに力強く。
君は一人じゃない。君には私とギンガがいる――それだけを伝えたくて。幸せを伝えたくて。

「フェイ、ト、さん・・・・!?」

シンが私の肩に手を当てて、離れようとする――そんなのは許さない。
力強く、その身体を抱き締める。
鍛えられた身体――だけど、こんなにも小さな背中。
一人で泣くには少し小さすぎる背中。

「駄目、離さないよ。」

背中に回した手を後頭部へ――涙で身体が汚れるのなんて気にならない。優しく彼の頭を撫で上げて――少しだけ、強く身体を押し付けた。
互いに顔は見えない。吐息が絡み合うような近さなのに――見られたくないならそれでいい。だけど離さない。そんな意味合い。

「・・・・このまま、ね?」
「・・・・っぐ、く・・・・うっ、く・・・・!!」

彼の手が私の背中に回り――強い力で抱き締められた。
そして、堪えようとして、それでも止められなくて溢れだす涙。

「あっ・・・・えぐっ・・・・あ、あああああ」

25歳と言う年齢にしては余りにも幼い泣き方――いや、違うか。どれほどに年を取ろうとも、男の泣き顔なんて一生変わらない。
少なくとも――この人は一生変わらない。
何となく、そう思った。
聞きたいことはある。
何をしていたのか、どこに行っていたのか、どうしてそんなに傷だらけなのか、どうしてそんなに泣いているのか。
どうして、何も言わないのか――けど、きっと、この人は言わない。
この人は誰よりも馬鹿みたいに意地っ張りで、一度決めたことは何が何でもやろうとして、失敗しても、諦めきれずに、何度も繰り返す――そんな分別の無さこそを私とギンガは愛しているのだから。

「よし、よし。」

かける言葉は何も無い。
けれど、それでいい。
そんなことを思って――私はずっと彼の頭を撫で続けた。慈しむように、愛おしむように、守るようにして。

――そうして、全てが、日常に収束する。

「・・・・美味しいところ取られちゃってるなあ。」

シンの泣き声が聞こえた――反射的に、玄関を覗くと、泣いているシンがフェイトさんに抱きついていた。
子供のように、嗚咽を鳴らして――何となく入り込めそうに無い雰囲気があった。
溜め息を吐いて、呟く。決意――というよりも、少しだけ悔しさがあって。

「・・・・これからは、遠慮せずに私も潜り込んじゃおう。」

そんな風に呟き、私は料理に戻った。

――そうして彼らは日常に舞い戻る。


「・・・・咲いたのか。」

満開の桜がそこに咲いていた。
一つだけ外れたところに植えられた――仲間はずれのような桜。
小さな子供が、そこにいた。
桜を見上げて、不思議そうに眺めている。

――桜が舞う。散っていく。その命を散らして消えていく。

子供はその場で不思議そうにその光景を眺めている。
桜が命を使い切るその瞬間を。

「・・・・じゃあな。」

呟く言葉は一言――別離(ワカレ)の言葉。

「シン? どうしたんですか?」
「ギンガー!シンー!早く早くーー!!場所とれたよーー!!」
「今、行きますよ―――!!」

立ち止まるのは少しの間だけ。
シンにとってその場所はそんな程度――別に、大切な思い出では無い。けれど、忘れてはいけない想い出。
過ぎ去っていく想い出。けれど、此処を通る度に自分は何度でもそれを思い出す。
人生なんて後悔ばかりだ。後悔ばかりを積み上げて人生は連なっていく。
想い出にはいつも後悔ばかりが混じっていて――後悔の混じらない想い出なんてどこにも無い。
季節が過ぎても忘れられない後悔。それでも積み上げることを止めないまま、自分は明日を行きていく。
多分、それはシンの胸に今も――そして、ずっと刻まれ続けていく。
桜は咲き誇り、その下に眠るアイツは今も笑っているのだろうか。

悲しさも後悔も全ては辛い想い出。
けれど、やらなければ良かったと言う後悔だけはそこにない。
どんな結末であろうとも――選んだ選択に背を向けずに生きていく。

また、新しい季節が始まる。

――それは、誰かの涙を止める為に走り続ける、ある一人の男の物語。

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こっちはこっちの良さがあっていいです!!
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