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空想垂れ流し 50.Sin in the Other World and World~Injection~(n)

50.Sin in the Other World and World~Injection~(n)


 黒と青の二色で配色されたレジェンドが右手に持ったビームジャベリンを振り被り、振り下ろす。
 シンはその一撃が振り下ろすタイミングに合わせて右に回避。目前を光刃が通り過ぎた。その熱量は人一人を消し炭にする程度は容易い。
 振り下ろされたビームジャベリンの先端が跳ね上がり、シンが回避した方向目掛けて軌道を変えた。咄嗟に朱い間欠泉―――高速移動魔法(フィオキーナ)がシンの右肩から発射され、左方向に無理矢理、移動し、ビームジャベリンの一撃を回避。間髪いれずに叫ぶ。

「デスティニー!!」
『ケルベロス。』

 デスティニーを大剣(アロンダイト)から大砲(ケルベロス)へ変形。
 ビームジャベリンを振り抜いて生まれた隙―――右脇腹に向けてケルベロスを構える。
 右腕のリボルバーナックルからカートリッジが排出され、蒸気が吹き上がった。
 迸る朱い魔力光を砲身の先端に収束し、放つ。衝撃を左手が掴む刀身部分の取っ手で受け止める。次瞬、着弾――爆発。装甲に傷は付いていない。まるで効果は無い。

「ちっ」

 舌打ちし、その場から移動。
 一瞬後に、それまでいた場所を打ち抜く赤い光――ドラグーンの放つ熱線(ビーム)。
 そのまま、的を絞らせないようにしてレジェンドの周りを飛び回る。
 吹きすさぶ風は荒く、淀んだ空は黒く染まっていく。
 周囲に広がる光景は正に煉獄。紅く染まった瓦礫の群れ。それを掻き分けるようにして歩き続ける黒青の巨人。そして、その巨人とたった一人で戦うシン・アスカ。
 巨人の悪魔と人の悪魔の戦い。それはそんな光景だった。
 装甲の節々に亀裂が入り、内部のフレームや計器類が見えているレジェンド。黒と青という配色は禍々しさを連想させてやまない――それは単純に装甲に回す電力を下げ、ドラグーンなどに電力を回した結果でしか無いのだろう。全身を朱い炎で覆い、その周りを飛び回りながら散発的に攻撃を繰り返すシン・アスカ。虚ろな朱い瞳と表情を失った顔が彼自身を余計に禍々しく見せている。

(レジェンド・・・レイの機体)

 飛び回りながら思考は死んだ友を思い出させていた。彼の乗っていた機体――レジェンド。
 色合いは違うし、恐らくは持っている機能もまるで違う。少なくともレジェンドに破壊された機械を再構成してドラグーンにするような機能は無かった。
 恐らくそれを模して作られたガジェットドローンの亜種――シンはそう当たりをつけていた。

(多分、こいつが、“8人目”。)

 ジェイル・スカリエッティの伝えてきた情報。
 魔導師は8人。ラウ・ル・クルーゼ。エリオ・モンディアル。自分が殺した3人。先ほど戦っていた2人。そして―――モビルスーツ・レジェンド。
 モビルスーツを魔導師と呼ぶなど理解できないが、そう考えると人数の辻褄が合うからだ。

「本当にこんなものを作る奴がいるなんて、な・・!」

 ビームライフルから放たれた赤い光熱波を回避しながら、呟いた。
 シン自身、こういったモビルスーツのことを考えない訳ではなかった。
 モビルスーツの機能を全て維持したまま純粋に魔法の恩恵に預かることが出来れば、それは現行――シンがミッドチルダに来る時点での話だが――のモビルスーツの性能を大きく凌駕したものが出来るだろう、と。

 飛行の魔法を使わずとも重力緩和の魔法を使えば地上では使えないはずのドラグーンも使用できるようになるし、積載できる武装の種類も増加する。推進剤を殆ど消耗することなく無重力の宇宙空間と同じような機動を地上で行えるということだ。
 恐らく数え上げれば切りがないほどのメリットの数々。無論デメリットもあるだろうが―――思いつく限りではメリットの方があまりにも多すぎる。
 管理局が質量兵器を禁止したと言うのも妥当な措置だ。少なくとも質量兵器と魔法という技術の相性はあまりにも“良すぎる”。
 更に最悪なことにこの場にいるモビルスーツは恐らくレジェンドのコピー。つまり、あれがもしシンの知るレジェンドを模して作られた機体だと言うなら動力源はデスティニーと同じくハイパーデュートリオン。つまり核動力機だ。エネルギー切れで行動不能になるということは期待できない。
 それ以前に下手に破壊すれば放射能を撒き散らし、クラナガンを真実、死の街に変えかねない。無論それは極稀に、程度の可能性ではあるが。
 そして、装甲はVPS装甲――対衝撃性能、耐熱性能に関しては折り紙つき。少なくともシン・アスカの放つ砲撃魔法程度で打ち破れるようなものではない。
 これが核動力機でなければ、何百回でも攻撃を繰り返してフェイズシフトダウンを狙うことも出来るのだが、エネルギー切れを核動力機に期待するのは間違いだ。
 最後に魔力についてだが――リンカーコアも無い機械の固まりがどうやって魔力を生産しているのかは分からないが魔力切れなどという甘い期待はするべきではない――それこそ中に乗っている“かもしれない”パイロットが生産しているのかもしれない。

(どうする・・・どうする)

 焦燥を押さえ込み、レジェンドの周辺を飛び回りながら、射程の長いケルベロスによる砲撃を繰り返している。アロンダイト、ケルベロスⅡによる攻撃はこちらに危険があるだけで、効果は期待出来ない。ケルベロスも同じく足止め程度の攻撃だ。あの装甲を貫く攻撃手段が無い以上、どれだけの攻撃を繰り返しても意味はない。
 もし、シンが予想した通りの性能を眼前のレジェンドが保有していると言うならば、倒す方法は皆無に近い。攻防の面で魔導師を大きく上回る性能。あまりにも違いすぎるサイズと重量。モビルスーツが一機でもあれば、答えは違うのかもしれないが、彼が今いる場所はコズミックイラではなくミッドチルダなのだ。存在するはずがない。

(だったら、どうする・・・?)

 実際、方法が無い訳ではない。モビルスーツとて無敵では無いのだ。付け入る隙は必ずある。そして付け入る隙があるのならば倒す方法はそれこそ無限に存在する。

 ―――付け入る隙を“確実に突けるのなら”。
 シン自身、既に一つの方法を思い浮かべ、迷っているのだ。その方法とは―――

「・・・・あれは。」

 ―――視界の端に傷ついた魔導師の集団が見えた。恐らく今回召集された陸士部隊だ。その場所はレジェンドの進行方向に固まり、砲撃魔法の準備をしている―――逃げるつもりではなく彼らは戦うつもりなのだ。
 無言で、飛行の速度を速める。エクストリームブラストは現在も継続中――というよりもこの速度でなければ、戦闘することすらままならない。通常の速度では既に十を越える数量にまでなったドラグーンによる攻撃に捉えられてしまう。

「デスティニー、逃げろと伝えろ!」

 声に少しだけ焦りが混じり出す。あのままでは確実に殺される。予想ではなく確信だ。

『了解。通信を開始します―――前方より攻撃。回避してください。』
「くっ」

 レジェンドの側頭部から放たれる銃弾の雨を右手からパルマフィオキーナを放つことで無理矢理に回避。
 内臓が揺さぶられ、胃液がせり上がってくる――無理矢理それを飲み込む。口内に胃液の酸味と苦味が広がる―――味覚が潰れている以上、そんなものを感じ取ることはない/その事実に安堵――戦闘に集中する。

「お前の相手はこっちだ・・・!!」

 右手からのパルマフィオキーナで回避しざまに左手に持ち替えたデスティニーを操作/ケルベロスに変形し構える。砲口に収束する朱い魔力が発射された。朱い炎熱が大気を切り裂く。
 レジェンドのカメラアイの部分に着弾。レジェンドの頭部で爆発が起き、一瞬レジェンドがよろめいた。一瞬の間隙。そこに砲撃と“同時に”突進しているシン・アスカが迫っていく。ドラグーンが彼を覆うようにして飛来する。その先端に灯る 赤い光。

『回避行動を開始します。』

 デスティニーの呟き。ドラグーンが周囲から自分を狙っていることを連絡する。
 ドラグーンから放たれる赤色の砲撃の雨―――全身にフィオキーナを生成し、その砲撃の雨の隙間に身体をねじりこませる。
 繰り返される回避は全て紙一重。全身を掠める熱線。
 掠めるごとに身体中が削り取られ、同時に再生していく―――致命傷さえ受けなければ自分は戦える。自分の後方で構えている陸士部隊が逃げ出す程度の足止めにはなる。
 デスティニーに念話を繋げる。

【アロンダイト起動、ここで食い止める!】
『後方の陸士部隊については?』
「・・・っ。」

 掠める熱線。直前で回避。

【通信を継続。それとヴェロッサ部隊長にも連絡して部隊長権限で撤退させてもらえ!】
『了解。』

 視界にはドラグーンが今だ十数機――先程よりも増えている。ガジェットドローンの残骸がある限り増加するのだろう。最終的にどれだけの数になるのかは見当もつかないが、長引けば長引いた分だけ彼我の戦力差は開き続ける。

(だったら、これ以上増える前に倒す。)

 逡巡は無い。このまま、砲撃の雨を突き抜けて、レジェンドにまで突貫する。
 デスティニーを大鍵(アロンダイト)に変形。門は既に開き、此方と彼方は繋がれている―――あとはそれを顕すだけ。

『Form Alondite appearance―――Wait.(巨大斬撃武装(アロンダイト)現出――待機。)』

 大剣の先端から半透明の巨大な剣が浮かび上がる。小規模次元世界に格納していた巨大斬撃武装(アロンダイト)を“待機”させる。
 存在濃度は重さが顕在化しない限界で停止。
 要するにただ“見えているだけ”の状態―――小規模次元世界という彼方とこの世界という此方の中間に位置している。

「攻撃時のみこっちに引き出す―――出来るか?」
『問題なく。』

 ジグザク模様に稲妻の如き軌道と速度でレジェンドに近づく―――先端から半透明に巨大な剣が伸びる大剣を構えた。
 シンが今やろうと思っていることは単純明快。
 懐に入り込み、巨大斬撃武装(アロンダイト)による一撃を当てること。
 モビルスーツとは、モビルスーツもしくは戦闘機、ヘリ、戦艦、戦車、歩兵等との戦闘の為に生み出された。当然のことながら魔導師――高速で飛行する人間との戦闘などモビルスーツは想定していない。
 魔導師がモビルスーツに対して勝っている部分があるとすればそこだけだ。
 即ち、小ささ。小回りが利くと言う利点だ。
 攻撃力、防御力は比較する必要もないほどに差がある。
 戦闘速度で飛来する戦闘機と速度で渡り合えるモビルスーツに対して速度のアドバンテージは無いと言っていい。
 だから、利点があるとすればそこだけ。巨人と言えるほどに大きいモビルスーツは巨体であることが武器であり、同時に小回りが利かないと言う弱点ともなる。
ただし、あくまで人間と比較した場合の話だ。“空を飛ぶ”人間がいないコズミックイラで造られた兵器だからこその弱点とも言える。実際、通常の兵器に比べればモビルスーツは非常に小回りの利く兵器なのだから。

 ―――レジェンドの懐に入り込み、右脇腹の横をすり抜けるようにして背後へ回り込む。バックパック――黒色のドラグーンユニットが見える。
 全身を覆う朱い炎が巨大斬撃武装(アロンダイト)を覆い尽し、同時にはっきりと実体化していく。

「食らえ・・・・!!」

 抑揚の無い声に少しだけ硬さが混じりこむ――友の機体を模した敵への怒りなのか、それとも人が戦うべきではないモビルスーツと戦うことへの恐れなのか。その両方なのかもしれない。
 巨大斬撃武装(アロンダイト)が顕現する。重量を取り戻した巨大斬撃武装(アロンダイト)は重力に従いレジェンドに向かって弧を描きながら振り下ろされた。

「ぐ、ぎ・・・・!!!」

 重量と衝撃で意識が何度も途切れそうになる。
 規格外中の規格外とも言える武装――巨大斬撃武装(アロンダイト)。振るうだけで使用者に致命的な障害を与える欠陥兵器である。
 振るった際の衝撃は使用者の血流を破壊して、脳に酸素が行き渡らない事態を引き起こし、ブラックアウトの果てに意識を喪失する。
 たった一撃の為に消費する魔力も絶大。シン・アスカのエクストリームブラストのように自分自身のリンカーコア以外の魔力供給が無ければ使用すること事態が不可能とも言える。
 燃費の悪さは劣悪を通り越して最悪。
 ただ、最悪の燃費に反してもたらされる攻撃力は絶大だった。
 何故なら20m超の大剣――十数tを軽く超える一撃が通常の剣戟の速度――時速で言えば数百kmで激突するのだ。人間―――否、生物が耐え切れるものではない。
 “だが”、それがモビルスーツに通用するかというと答えは恐らく否だ。
 人間がモビルスーツの武器を使って人間を攻撃するから強い威力になるだけで、人間がモビルスーツにモビルスーツの武器を使って真正面から挑んだところで一蹴される。故に不意打ちが最も適当な方法となる。それも誰かを囮にした上での最大威力の強襲以外にありえない。
 シンが先ほど思いついたのもその方法だった。だからこそ彼はその案を迷った末に破棄した。
 誰かを守ることが願いのシン・アスカにとって、誰かを囮に使うなど認められることではないのだから。
 そう、こんな真正面からの攻撃は“通用する訳がない”。背後からとは言え、レジェンドのカメラアイがシンを捉えている以上、この一撃はレジェンドに予想されているのだから。

「くっそ・・・!!」

 毒づく。振り返ったレジェンドの右手のビームジャベリンと巨大斬撃武装(アロンダイト)が接触し、光刃と光刃が拮抗している―――レジェンドのビームが魔力と混ざり合い、本来のモノとは異質となった影響だった。
 予想はしていた。ビームと魔力が混ざり合っている以上、鍔迫り合い程度は出来るかもしれない程度には。
 即座に巨大斬撃武装(アロンダイト)の顕現を解除しようとするシン―――だが、遅い。デスティニーに通達し、彼女からの命令によって巨大斬撃武装(アロンダイト)の顕現と収納を行っているのでは遅すぎる。
 レジェンドの右手が力任せに真横に向かって振りぬかれた。“顕現”していた巨大斬撃武装(アロンダイト)ごと。その振りぬいた勢いそのままに巨大斬撃武装(アロンダイト)が吹き飛ばされる。

「だったら――――!!」

 叫びと共に全身の魔力を最大放出。巨大斬撃武装(アロンダイト)を覆う朱い光をレジェンドの力の向きに合わせて発射させる。

「これで・・・・!!」

 最大放出しながらも精妙に向きを変えていく朱い炎の魔力。
 そうして巨大斬撃武装(アロンダイト)はシンを中心に反時計回りに回転していく。レジェンドのビームジャベリンに弾かれた衝撃を利用して今度はレジェンドの左半身に向けて叩き付けた。
 激突―――今度はレジェンドの左手のビームシールドで受け止められる。
 白熱する火花。
 即座に顕現を解除し、上空へ向けて飛び立ち、振り被る。
 構えは大上段。上空から―――重力と共に叩き付ける。

「うおおおおお!!」

 刻一刻と加速し、速度を増して、巨大斬撃武装(アロンダイト)がその威容をレジェンドに近づけていく――ビームジャベリンで受け止められた。火花が散った。
 弾かれる前に顕現を再び解除。後方へ撤退―――巨大斬撃武装を格納/大砲(ケルベロス)に変形――魔力収束。炎熱変換。発射。迸る朱い赤熱。レジェンドの胸部に命中。煙が少し上がるだけでまるで意味が無い。それでいい。砲撃はただレジェンドの注意をこちらに向けるだけのモノだ。

「デスティニー!!」
『了解しました。』

 通信展開―――今だ砲撃の構えを解かない陸士部隊に向けて。

【さっさと、逃げろ!!】
【だ、誰だ!?】
【頼む、早く逃げてくれ、そんなに長くは持たない!!】

 そう叫びながらシンは縦横無尽に飛び回り、砲撃を繰り返しレジェンドの攻撃を回避する。
 頭部のバルカン。背部のドラグーン。手に持つビームライフル。空を飛ぶ“ガジェットから生まれたドラグーン”。レジェンドの武装がシンの周囲の建物を蹂躙していく。
 身体を掠める物体はビルの破片やガラスの欠片。落下物を回避し、攻撃を回避し、後方へ移動――速度は緩めない。緩めた瞬間消し炭だ。

「ちっ」

 ドラグーンが上空からシンを狙い撃とうとしている。
 両肩前面からフィオキーナを発射/後方へ移動――ドラグーンをケルベロスで砲撃。砲口に狙いを定めた一撃は狙い違わずドラグーンを串刺しに貫いた。爆発―――その後
方から新たなドラグーン。視界の端では今、破壊したはずのドラグーンの破片から這い出たケーブルが破片同士を繋ぎ、再び寄り集まって一つのカタチを形成しようとしている。

(再生してるのか・・・!?)

 思考する暇は一瞬あれば上等だった。
 今しがた現れた新たなドラグーンから砲撃が放たれた。色は赤。当たれば焼失。
 左肩からフィオキーナを発射し右方に移動することで回避――フィオキーナを使用し続けたせいか身体中が痛い/無視――放っておけば直る。
 全身からフィオキーナを発射し、分刻みで放たれる砲撃の雨を回避し、ケルベロスによる砲撃を繰り返す。
 どれほど攻撃してもドラグーンの数は減らない。減ったかと思えば即座に復活し、気付けば先程よりも数は増えている。
 恐らくレジェンドはガジェットドローンの残骸を手当たり次第に自分のモノとしているのだろう。
 1000のガジェットドローンとの戦いで消耗しきった後に、レジェンドによるガジェットドローンの再利用。幾つものガジェットドローンが寄り集まって出来たモノであ
る以上、1000という数量には決してならないだろうが―――放っておけば100を越えてもおかしくは無い。

(ドラグーンをやっても切りがないってことか・・っ!)

 後退から転進し、ビルの物陰に入り込みレジェンドから姿を隠す。

「デスティニー、もう一度だ!」
『了解しました。』

 更に加速する速度―――ビルの隙間を縫うように動き、レジェンドの右側へ移動。
 巨大斬撃武装(アロンダイト)を再び顕現。半透明だった朱く巨大な大剣が実体化しレジェンドに向かって振り下ろされる―――そこに金髪の女性が見えた。
 空に浮かび、こちらを見上げている―――まるで、レジェンドを守るようにして。
 金色の髪。服装は“あの日”と同じくキャミソール。露出の多い服だとギンガが怒っていた。同じくフェイトも。浮かび上がる名前―――今頃はどこかに、“疎開”してい
るはずの女性。

「フェスラ・・・!?」
「・・・・・だから、馬鹿だって言ったのよ。」

 女の右手が開いた。そこに灯る朱い光―――砲撃魔法の光。シンの魔力光に酷似した色。

「お前、まさか―――」
「諦めた方が良い事の方がこの世界には多いんだから・・・・適当にしてれば良かったっていうのにね。」

 瞳が、金色に染まり、そして紅色に染まっていく。
 同時にその姿が、“揺らいでいく”。幻のように、陽炎のように。彼女の姿が本来の姿に舞い戻る。
 くすんだ茶色の髪の毛。艶かしい体つき―――それを覆うラバースーツが余計にその艶かしさを強調する。右手には爪――40cmほどの長さの爪が伸びている。

「さよなら―――シン・アスカ。」

 朱い光が放たれた。咄嗟に身を翻してそれを避けるシン―――そして、それが致命的な隙となる。巨大斬撃武装(アロンダイト)の一撃は、難なくレジェンドの左手のビー
ムシールドに阻まれた。

「しまっ・・・・・」

 一瞬の驚愕。その一瞬で、レジェンドは無造作に力任せにビームシールドを“払った”。巨大斬撃武装(アロンダイト)のバランスが崩れる。続いて、レジェンドの巨大な右足が槍の如く巨大斬撃武装(アロンダイト)を蹴り抜いた。

「がっ―――!?」

 初めに感じたのは衝撃。その一瞬、意識が断絶した。気を失っていたのは僅かに数秒。だが、その数秒が致命的だった。
 意識を取り戻すと同時に反射的にフィオキーナを全て吹き飛ばされる方向と逆に設定し、全力で放出。
 顕現を解除/遅すぎる――意識を取り戻した瞬間、今だ原型を残しているビルの二階と一階の中間に向かって、背中から突き刺さるようにして激突した。

 ばき、ばき。
 ごき、ごき。

 身体中から、嫌な音がした。
 頭の中で、ばき、と音がした。
 視界が赤く染まった。

「・・・・あ・・・か」

 視界が紅く染まった。
 どくどく、と血液が頬を伝って落ちていく。
 後頭部に熱と、そして異物感――― “何か”が頭に突き刺さっているような――を感じる。
 瞳を動かした。
 全身がコンクリートにめり込み、ビルの表面に深さ1mほどのクレーターを作っていることを視認する。
 吹き飛ばされる瞬間にフィオキーナで減速したせいか、即死ではない―――それほど違いはないかもしれないが。
 身体中の力が抜けていく。指を動かそうにも、神経が断線してしまったのか言うことを聞かない。
 めり込んだコンクリートから、滑り落ちていく身体――抗うことが出来ない。
 意識が朦朧としている。視界が霞んでいる。頭を強く打ち付けたのが拙かったのかもしれない。めり込んだコンクリートから頭が外れた。
 ずぶずぶ、という音が聞こえた。刺さっていた何かが抜けた音。
 コンクリートの欠片、もしくは鉄筋か。どちらかは分からないがそれが刺さっていたのだろう―――頭蓋骨を砕く程度に深く。
 ずる、と身体が滑り落ちた。

「あ、ぎ」

 衝撃。視界で火花が飛んだ。額が硬いものと激突――それが地面だと気付くまでに数瞬かかった。目の前には黒いヒビだらけのアスファルト。

「・・・うぶ・・・・あ。」

 喉元からせり上がってくるどす黒い血液を吐き出した。鼻からも血が流れていく。通常の鼻血とは違うどす黒い色合いで。
 眼が痛い。眼から何か涙以外のモノが流れていく。
 落ちていく雫の色は同じく赤。血の涙が流れている。
 顔中がどす黒い血液で汚れた。
 何も考えられない。
 地面が揺れた。地響き―――巨大なモノが動く振動/レジェンドが近づいている。
 身体が動かない。視界が赤い。吐血は続く。
 脳や内臓に致命的な損傷があったのかもしれない。
 朦朧とした意識に介入するデスティニーの声。

『修復まで数分かかります。』

 淡々とした声にどこか焦りが混じっているのは気のせいだろうか。
 ここまでの致命傷を負ったのは初めてだった。死ぬか生きるかの寸前。身動き一つ取れない虫の息。
 死の息遣いを感じ取る。視界には何も映らない。暗い真っ暗闇。
 意識が白い―――何も無い。

「あ、あ・・・?」

 何も考えられない。意識が残っているのに脳に致命傷が与えられたからか何も考えることが出来ない。
 地響き。レジェンドが近づく。
 身体が動かない。瞳が閉じる。瞳を開けておく力がまるで無い。目を開けているのさえ億劫だ。
 瞳が閉じていく。落ちていく瞼―――瞳があるモノを捉えた。
 この朦朧とした意識の中であってさえ、その姿だけは決して間違えることはない。

「・・・・ぎ、んが・・・さ、ん・・・?」

 青い長髪と気の強そうな瞳。
 殺されたはずの、ギンガ・ナカジマがこちらに歩いてきている。

「な、ん・・・で」
「シン。」

 嗤いながら歩いてくる。亀裂のような微笑み――彼女が、ギンガ・ナカジマは決して浮かべない嘲笑。
 揺らぐ―――顔どころか姿形が一変する。金髪の女性――フェイト・T・ハラオウンへと。
 嗤いながら歩いてくる。同じく亀裂のような微笑み。フェイト・T・ハラオウンの微笑みを穢す嘲笑。

「シン。」
「フェイ、ト・・・さ、ん。」

 呆然と、シンはただそれを眺めていた。
 刻一刻と変化する。
 ギンガからフェイト、フェスラ、そして先ほどの女性へと。
 顔だけではない。雰囲気や姿、体型―――それこそ、存在そのものが変化している。
 冗談にしか思えない。幻覚にしか思えない。

「この姿では、はじめまして、ね。シン・アスカ。そして―――」

 顔が先ほどの女性へと再び変化した。右手をシンに向ける。先ほどと同じ朱い光が輝き出す。

「ここが貴方の終点よ。」

 ―――女の右手が朱く輝いた。

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Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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