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空想垂れ流し 48.Sin in the Other World and World~Injection~(l)

48.Sin in the Other World and World~Injection~(l)

 対魔働兵器戦闘用13㎜“自動式拳銃”「オルトロス」
 全長410mm。重量18kg。装弾数6発。使用する弾丸は専用弾である13㎜炸裂徹鋼弾。装薬に関してはミッドチルダでは作られていないので第97管理外世界にて製作されているものを元にスカリエッティが作成。銃身の下部に取り付けられている厚さ3cmほどの刃は肝心の刃を潰され切ると言うよりも殴る用途を想定して作られている。剣、というよりは鉈、もしくは鈍器に近い。 色は黒色。見た目の印象は、黒い棍棒。長すぎる銃身とそれに不釣合いな――それでも通常よりは大きい――銃把と銃身のバランスの悪さが銃というよりも棍棒のような印象を与える。

 対魔働兵器戦闘用16mm“回転式拳銃”「スキュラ」
 全長501mm。重量24kg。装弾数5発。使用する弾丸は「オルトロス」と同じく専用弾である16mm炸裂徹鋼弾。装薬も「オルトロス」と同じくスカリエッティが作成。銃把に添って真下に向かって伸びるように取り付けられた刃は「オルトロス」と違い、“突き刺す”用途を想定している。色は銀色。こちらの印象も同じく銀色の棍棒と言った印象。
 口径で言えば、かたやオルトロスが50口径、スキュラが60口径という常識外れの弾丸を、初速846.3m/sという常識外れの速度で撃つ為“だけ”に作られた拳銃である。
 どちらも魔力を使用しない質量兵器。だが、質量兵器が禁止された理由――即ち誰でも使える兵器という側面はそこには無い。むしろ、この二挺の銃は“人間には使えない”兵器だと断言できる。
 通常の拳銃の重さはどんなに重くもとも3kg程度。オルトロスはその6倍。スキュラに至ってはその8倍。対戦車ライフルクラスの威力を実現する為に巨大化した拳銃である。轟音と衝撃は人間の身体に損傷を残すだろうし、下手をすれば撃った本人が吹き飛ぶような代物だ。とても実戦で使用できる兵器ではない。
 だが―――そんなことは“彼”には関係ない。彼はただ与えられた武器だからという理由でそれを使う。
 主武装はオルトロスとスキュラ。そして、身体中に仕込まれた数々の質量兵器。単身で拠点に潜入し、制圧することを目的として装備されている。胸に埋め込まれている高密度魔力結晶(レリック)は彼に魔力を供給するのではなく、魔法を掛け続ける――即ち、“動け”、と。

 彼の名は、ティーダ・ランスター。既に廃棄された第2世代戦闘機人(ネクストナンバーズ)の試作型であり、ジェイル・スカリエッティが死体から蘇らせた“元魔導師”であり、脳髄以外の全てを機械で補う改造人間(パーフェクトサイボーグ)である。その中に蠢く機械の量はモビルスーツ一機分に匹敵するほどに膨大。小規模次元世界を体内に展開することで無理矢理に人間のカラダに詰め込んだツギハギのカラダ。
 その姿はウェポンデバイスの如く鎧――というよりも角張った装甲版に覆われ、顔は仮面で覆われている。その仮面の中腹で瞳のように吊り上がった二つのカメラアイが青く輝く。一歩歩く度に地面に足がめり込む――重量を地面が支えられないのだ。

 右手に握り締めたオルトルスを無造作に発射。発射時の音は轟音というよりも鼓膜を叩き潰すほど。十数m離れた距離でこの轟音なら撃っている当人の鼓膜は既に破れていてもおかしくはない―――訂正。鼓膜は無かった。衝撃が左手を走った。肩でそれを受け止める。地面に足元が食い込んだ。命中したガジェットドローンⅠ型が爆発。
 今度はスキュラ。別のガジェットドローンⅠ型に命中――爆発。
 残骸を観測/装甲は思っていたよりも薄い。AMFを展開していることを考えれば、魔法防御に特化している以上は質量兵器への対策はそれほど取っていないのだろう。
 ガジェットドローン一体に付き弾丸一発の判断/“肯定”。
 オルトロスの残弾は5発。スキュラの残弾は4発。
 一度に制圧出来る機体は9機。
 見えるガジェットの数は視認出来るだけで数十機。弾薬の補給が必要/“承認”。

「・・・・あ、あんた、一体何者なんだ・・・?」

 屈強な筋肉とアゴヒゲが特徴的な大柄な男を視認―――質問には答えなければいけない。

「ティーダ・ランスター。お前達の援護を行う為に来た。」

 喋りながら上空から急降下し襲い来るガジェットドローンⅡ型―――その数4機に向けて連射。
 シリンダーが回転する音を、鼓膜を破りかねない轟音が掻き消すこと4回。60口径という常識外れに巨大な弾丸はガジェットドローンの装甲など存在しないかの如く貫い
ていく。スキュラの残弾が無くなった。
 間髪いれずに地上部隊であるガジェットドローンⅠ型が自身に向けて接近。機銃を展開する個体/確認、ミサイルを展開する個体/確認、熱線を放つ個体/確認。襲い来る数は十を越える。残弾が足りない。補給開始/“開始”。
 右手のオルトロスを敵の群れに向けて発射。轟音。空気が振動する。
 同時に左手のスキュラを操作し、シリンダーを開放。蒸気を上げる空薬莢が排出される/“弾丸補給”。
 空間がぐにゃりと歪み、そこに車のシガレットの先端に弾丸が円形に配置された物体――スピードローダーが顕現する。

「リロード。」

 ティーダの呟きを合図に、スピードローダーからスキュラのシリンダーに向けて16mm炸裂徹鋼弾が吸い込まれるようにして、納まっていく。弾丸の長さは約6cm。弾頭が2cm、炸薬が4cm。明らかに拳銃で使用する弾丸ではない。
 再び、轟音。ガジェットが吹き飛んだ。男が耳を塞ぎながら、小さく呟く。

「ティーダ・ランスター・・・・・・?」

 呆然とした呟き。聞こえていないだろうと言う予想―――確かにティーダ・ランスターに鼓膜は無い。だが、機械の身体の各部に設置されている索敵機能は鼓膜の代わりを最大限に果たしている。
 顔をそちらに向けたまま、通信を念話に切り替える。

『こちらを知っているのか。』

 そちらを見る―――アゴヒゲの男。記憶との照合/存在しない。記録との照合/リチャード・アーミティッジ。陸士108部隊所属。
 期待――自身の記憶の在り処かもしれないと言う予想。
 会話しながらも発砲はやめない。会話と同程度のレベルで行われる乱射/轟音の連鎖――地響きのように。

『い、いや、俺は会った事は無いんだが・・・・同僚の後輩の兄貴がそんな名前だったから、な。』
『そうか。』

 その会話の隙を突いて、甲殻類のようなガジェットドローン―――ガジェットドローンⅢ型が突撃してくる/足裏から刀身の長さ40cmほどのナイフを飛び出させ、足裏に固定したまま蹴り上げた―――バターを裂くナイフのようにⅢ型の装甲を切り裂く。刀身は赤熱し、切れ味を大幅に上昇させている/自身が稼動する際の発熱を利用した機構。そのまま左側に足を伸ばし赤熱したナイフを射出/射線上のガジェットに接触。装甲を食い破り、内部に突入―――爆発。
 後方から音声を受信/後部カメラから視界情報を取得。
 後方にガジェットが展開している/残弾を確認―――オルトロス/3発+スキュラ/2発=弾薬の補給を要求/“承認”。
 膝を曲げ、体重を後方に掛ける。
 先ほどナイフを射出した足裏の“穴”から圧縮空気を発射―――後方へと跳躍。
 魔力ではなく、機械による跳躍。
 空中で両手を回し身体を回転させ後方へと振り向いた/視認。
 視界の中央に位置する陸士108部隊の集団を円を描くように取り囲むガジェットドローンⅢ型。19機。
 弾丸が不足している/それ以外の戦闘手段を全て使用しリロードの間隙を作る必要性――確認。
 機銃及び刃による攻撃の角度・間合いを算定/射角の割り出し――完了。
 接敵。発射。轟音が両脇から/陸士108部隊の上空で―――皆が自身の耳を塞いだ。撃発轟音。襲い掛かろうとしていた2体のⅢ型が吹き飛んだ。
 着地と同時に発射/Ⅲ型が2体吹き飛んだ。
 残弾を確認―――オルトロス/1発+スキュラ/0発。
 全方位から機銃及び刃、熱線による攻撃が開始される/回避行動開始。
 コンマ5秒ごとに変化する射角を予測演算し、歩き、飛び、回転し、転び、縦・横・高さ/三次元空間全てを使い切って敵の射角から身を外す。
 両手の拳銃の内、スキュラを腰のホルダーに納め、右肘に取り付けられている黒い円盤を左手で掴み取る。
 残存するⅢ型の数量――15機。右側前方に固まる4機に向けて、黒い円盤を“投擲”/視界に現れる二重の四角形のレティクル―――精密射撃モード。レティクルの中心は黒い円盤。右手を伸ばし、オルトロスを構える。
 画像を拡大し、タイミングを計る/身体は停滞することなく、射角を避けて踊り続ける。
 オルトロスの角度を微調整/残弾は1発。

「・・・・」

 コンマ1秒程度の誤差で想定通りにオルトロスを発射/狙いはガジェットドローンⅢ型の直ぐ上空の黒い円盤―――超小型ナパーム弾。
 轟音の一瞬後に着弾/爆発――弾殻の中に押し込められていた焼夷薬に着火。着火した焼夷薬は一瞬で2000℃の高温にまで駆け登り、ガジェットドローンⅢ型に向けて“降り注ぐ”。小さな姿と同様に炎は小さく、Ⅲ型の装甲全てを融解させるほどではない―――だが、2000℃という高温はⅢ型の装甲を簡単に食い破り、内部機構にまで浸透/超高温は内部の機構を融解し、破壊し尽くしていく―――4機ともが程なく爆発/確認。
 スキュラをホルダーから引き抜き、今破壊した4機の射線に身体を移動する。

「リロード。」

 呟きと共にマガジンとスピードローダーが顕現。
 オルトロスが銃把の下部からマガジンを排出/手首を返し、上空から落ちてくるマガジンを内部に挿入――完了。
 スキュラのシリンダーを開放/空薬莢排出―――スピードローダーから弾丸が挿入されていく/完了。
 Ⅲ型の残存数量=11機。
 射角が自身に集中する/足裏から圧縮空気を噴射し地面を“滑る”ようにして跳躍――あるいは滑降。射角を外す。
 両腕に設置されているFCS(射撃管制装置)が自動追尾。両腕が交差するように動き、滑降の勢いを殺すことなく跳躍し回転する/フィギュアスケートのジャンプと同じ動作――けれどまるで似ても似つかぬ暴虐そのもの。予め定められたタイミングで唸りを上げる二挺の拳銃。オルトロス6連射。スキュラ5連射。残弾はゼロ。Ⅲ型を11機撃破―――Ⅲ型の群れを滑降しながら駆け抜けた―――殲滅。

「・・・・・なん、なんだ。」

 リチャードの声が、身体が震えている。同じように小隊全員の身体も震えている――幸いなことに誰も死んでいない。負傷程度はあるものの、死に至る致命傷などは誰も負っていない。
 彼らが震えているのは一重に安堵によるものだった。生き残ったことへの安堵、と、そして、“巻き込まれなかった”ことへの安堵。
 質量兵器という存在はミッドチルダにおいて禁忌であり、それが故に質量兵器は彼らの目に触れることは極端に少ない。彼らにしてみれば、今しがたティーダ・ランスターが使った武器の数々はその全てが理解を超えたものに見えたことだろう。
 ティーダ・ランスターの瞳が何も無い虚空に向けられる。

「リロード。」

 再度、マガジンとスピードローダーが現れる。
 両手に握り銃にそれらを挿入―――弾薬の補充を完了/確認。
 そして、その呟きと同時に、空間が歪む。ぐにゃり、と湖面に波紋が広がるようにして、同心円を生み出しながら、女性の足が、何も無い空間から現われた―――透明なドアを通るようにして、女性が現われてくる。
 現われたのは眼鏡を掛けた栗色の髪の女性――ナンバーズの一人。青紫色のラバースーツの上から白いケープを羽織っている。

「何者かと思っていましたら・・・・貴方でしたのね、ティーダ。」
「クアットロか。」

 小さく名前を呟くと、クアットロは忌々しげに返答を返した。瞳に映るのは侮蔑の色。

「・・・・・出来損ないが今更何の用なのかしら?」

 右手に握るオルトロスをクアットロに向ける。

「命令だ。お前達を倒せ、と。」
「貴方にそれが出来ると思っているんですの?“人殺し”が出来ないって言う致命的な欠陥品の貴方如きが。」

 “欠陥品”。その言葉が、唯一つ残された脳髄(ニンゲン)を震わせる。
 エラーメッセージが繰り返し鳴り響く。エラーの原因は不明。
 延々と繰り返されるエラー。原因は不明。考えるだけ意味が無い/“肯定”。
 クアットロの瞳を見た。金色が紅く染まった血色の目。こちらを侮蔑する嗜虐思考(サディスト)の瞳。
 ―――エラーを無視する。問題は無い。

「・・・・問題は無い。お前たち第2世代型戦闘機人(ネクスト)は“人間”ではない。」

 オルトロスの銃口を向けたまま呟く。クアットロは避けるそぶりすら見せようとしない/違和感。如何に彼女達が人間を超えた力を持っているとしても肉体強度にそれほど変化がある訳では無い。オルトロスの一撃は彼女を易々と肉片(ミンチ)に変える/記録を検索――クアットロの能力を確認。彼女の能力は、自身の血液を原材料とした“霧”による幻影作成。その精度は精巧な機械であろうと騙す完全虚偽作成能力。
 ―――“詐欺師”というその能力は文字通り、全てを騙す。有機無機を問わない文字通りそこに存在する全ての現実を。体内を流れるレリックブラッド―――微細なナノマシンサイズのレリックを溶かし込まれた血液である―――を体外に放ち、大気と混ぜ合わせ、血霧とし、空間に溶け込ませる。映る光景そのものを完全に騙す、血霧の結界。機械による索敵ですら彼女の位置を測ることは出来ない。視覚だけでなく、聴覚嗅覚触覚等の五感そのものを血霧の結界によって騙すのだ。
 彼女がそこにいるのかどうかなど“定か”ではない。身体各部のセンサーを稼動し、文字通り、周囲を索敵する。熱、音、振動―――確認。彼女は視覚通りにその場所にいる。
 けれど、それすらも信憑性がある情報では無い。彼女の能力が未だこの身体を騙していないなどと言う保障は無い/“肯定”。

「言ってくれますわね。」

 クアットロが右手をティーダに向ける。赤い光が収束する/熱線の発射の兆候。
 拳ほどの太さの熱線―――光を操り収束した熱線。
 支配した空間を利用して彼女は武器を作り出す――がその胸を貫こうと輝く。オルトロスの引き金を引いた。大気を震わす轟音。
 クアットロの胸を貫く――――すり抜ける/幻影であることを確認。
 身体中のセンサーが恐らくは騙されている。彼女の血液による霧はこの付近全て―――少なくとも、この身体の索敵範囲全てを覆っている。
 索敵機能が全て使用不可/危険性が高い―――意識領域の開放を要求/“限定承認。展開限界の50%を最大値に設定”。

「・・・・躊躇い無く撃ちましたわね。」

 少しだけ驚いた調子――クアットロが今度はティーダから見て左側に現れた。そちらに向けてスキュラを引き抜き構える。

「問題はないといった。」

 答えを返しながら、後方でこちらを見続けるリチャード達、陸士108部隊へ念話による通信。

『そこから動くな。』
『ど、どういうことだ?』
『お前達が今見ている地形が幻影では無いと言う保証が無い。死にたくなければその場を動かず障壁を張り続けろ。』

 死にたくなければ―――その言葉に彼らが身構える気配を感じた。即座に魔力障壁を展開。
 緊張が彼らの間に満ちていく。修羅場を潜りぬけてきているのだろう。こういった場で迂闊に動くことがどれだけ危険か理解しているのだ。
 スキュラの銃口を外すこと無く、静かに構える。クアットロが口を開く。唇を吊り上げて、薄く笑う。朱色の唇が淫靡に嗤う。

「そんな時代遅れの武器でこのクアットロを殺せますこと?」

 ティーダ・ランスターはその言葉に答えることなく、引き金に掛けた指に力を掛けた。
 世界が歪んだ/前面に向かって飛び込んだ―――瞬間、それまでいた場所を紅い熱線が貫く。地面に穴が開き、煙が上がった。
 自らが生み出した血霧をレンズとして光の角度を操作し収束した熱線―――平たく言うとレーザー。
 状況を確認。
 索敵は不可能。ティーダ・ランスターの身体に備わる全ての索敵機能は“騙されている”。
 攻撃は不可能。索敵が不可能である以上は当然。
 防御も可能。ただし、相手にとっては“彼我の距離”などは関係無しに攻撃が可能である以上回避は不可能。
 導き出される結論/“現在の状況”では戦闘行動は出来ない。現状では戦闘ではなく蹂躙されることしか出来ない―――状況の打破を思考/“推奨”。

「・・・・クアットロ、だと。テメエが、ナンバーズって奴か・・・?」

 障壁から抜け出る男―――リチャード・アーミティッジ。アゴヒゲを生やした屈強な大男。どこかゴリラのような印象―――その顔が怒りに歪む。クアットロの顔が盛大に歪む。嗤う。亀裂のような微笑み/醜悪。

「あら、私のこと知ってるんですの?」

 妖艶に薄く嗤いながら、挑発するように口を開くクアットロ/恐らくは幻影。攻撃する意味が無い――リチャードにはそんなことはどうでもいい。
 デバイス―――俗にスタッフ(杖)と呼ばれる類のデバイスが向けられる。その姿はスタッフという名前が似合わないほどに機械的で攻撃的な外観―――どこかチェーンソーを思わせる厳しい外見/彼の屈強な体格によく似合う武装。

「テメエが、ギンガを、殺した奴か・・・・?」

 リチャードが踏み出す。スタッフの先端に収束する魔力。色は青。それが彼の魔力光なのだろう―――周辺の“自分自身”への“接続”を開始。

「・・・ああ、あの色ボケ女のことを言っているのでしたら・・・・その通りですわよ?“私”が“この手”で消し炭にしてやりましたわ。」

 くすくす、と人差し指を唇にくっつけながら笑うクアットロ/花のような笑顔――食虫花の如き毒々しい毒婦の笑み。

「ぶっ殺す。」
「やれるものなら。」

 リチャードが魔力弾を放つ――収束された多重弾殻魔力弾による砲撃。その威力は彼が歴戦の勇士であることを示す通り、速く、重く、強い砲撃。続いて跳躍。その一撃が当たるとも思っていない。デバイスの先から魔力刃が突き出て行く/収束された魔力刃はガジェットの装甲を易々と切り裂いていくだろう。事実、先ほどまでの戦いは劣勢ではなく互角だった―――差があったのは数の差のみだ。如何に個人の力が強かろうとも数の暴力の前では無力に過ぎない。
 クアットロがその砲撃を“防御した”。そこに“いる”という事実/即座に彼女が行おうとしていることを看破―――左手のスキュラを構える。視界に四角形のレティクルが出現―――精密射撃モード。引き金に手を掛ける。狙いはリチャードの展開した魔力刃。撃鉄を落とす。

「らあああああっ!!!!」

 リチャード、渾身の一撃――――それを、スキュラで撃ち抜く。発射/銃口を抜けて弾丸が螺旋の回転を受けて、直進する―――空気を切り裂き、魔力刃に到達する。時間にして刹那。
 リチャードの手からデバイスが弾き飛ぶ。その場から一息で10mほど後方に下がり、デバイスを取り落とし、膝を付くリチャード。凄まじい衝撃を受けた手が痺れているのだろう――クアットロの顔が嗤っていた。
 リチャードはそれに気付いていない。

「てめえ、何しやが・・・・」
「死にたいのか。」

 言葉を遮って、銃口をクアットロに向ける/発射―――クアットロの身体をすり抜けていく弾丸/同時に爆発。
 地面が半球状に抉られる―――クレーター。煙が黙々と上がる。
 クアットロは変わらずにそこにいる

「な、に・・・・?」
「あぁら、残念。死んでくれると思ったのに。」

 呆然と、その爆発を眺めるリチャード。死の実感―――今、銃で撃たれなければ自分は死んでいた。

「・・・・動くなと言ったはずだ。この場の全てがこの女の支配下である以上は五感など飾りに過ぎない。」
「あ、あんたは・・・・」
「それが分かっていて、貴方は私を殺せると言うのかしら、出来損ない(スクラップ)?」

 呆れたように呟くクアットロ。

「肯定だ、毒婦(ヴァンプ)。」

 何事もないように呟き、両手の拳銃を声に向けて発射/マガジンに残っていた弾丸を全て消費。間髪いれずのリロード。そして連射―――マガジン全てを消費するそれはむしろ掃射だ。続けてリロード。そして、同じく掃射。再びリロード。そして掃射。延々と繰り返される銃撃の輪舞。自身を中心にしてありとあらゆる箇所―――地面、壁、瓦礫、樹木、全てを抉り、砕き、引き千切る銃弾の蹂躙―――陵辱。狂ったように掃射し、狂ったように破壊する。上下左右前後、全ての方向に向けて掃射し蹂躙し陵辱する―――だが、クアットロは変わらずそこにいる。つまり、当たっていない。

「・・・ふん。当てずっぽうの乱射で命中するような、馬鹿だと思っているのかしら?」

 クアットロの呟きと同時に熱線が膝を貫く。虚空から挙動無しで放たれる焦点温度、数千度のレーザー。続いてそれが連射/身体を僅かに後方に動かす―――右腕上腕部が抉られた。左下腹部を掠めた。右肩が貫かれた。
 バランスを崩して膝を付く/そこを更にレーザーが狙い来る。咄嗟に前方に身体を動かす―――今度は全て掠めただけで一発も当たらなかった。

「あら。」

 クアットロはその程度、気にも留めない。自身が圧倒的有利であることを疑いもしない。
 熱線が掃射――今度は全方位から。右手の中腹が貫かれ、孔が開いた。咄嗟にオルトロスを弾き飛ばし、武装を保護する/それ以外の部位に命中しなかった。掠めることもない。オルトロスは既に自身から数mの距離に離れていた。

「・・・・・・ティーダ・ランスター、貴方、今・・・・」
「肯定、と言った。」

 周囲の空間が歪む。これまでに無い規模の掃射と予想。

「戦闘行動を開始する。」

 独白と共に回避を開始し、戦闘を開始する。
 付近に散りばめた“自分自身の欠片”―――弾丸の破片から情報抽出/転送――取得。
 地面に散らばった弾丸から情報取得/X-Y座標軸構築―-完了。
 建物の壁、瓦礫に食い込んだ弾丸から情報取得/Z座標軸構築――完了。
 三次元座標構築開始――完了。
 データ取得開始――変化を観測/先ほど記録したレーザー発射時の気流変化と温度変化のデータと照合――射角演算開始。
 視界に予想されるレーザーの射角、速度、場所が表示される。全身のセンサーをそれに連動。機械仕掛けの身体が動き出す。無造作にすら見えるその動きは予想されるレーザーの発射を最小限の損傷で回避し続ける精密行動。
 全身を掠める熱線。時に抉り、時に掠め、時に外れる。戦闘行動が不可能なほどの損傷はそこには無い。
 全てを騙す虚偽発生能力―――それがクアットロの能力である。それに対してティーダ・ランスターが行ったコトは単純なコトだった。
 ティーダ・ランスターにとって、自身の核ともいえる“脳髄”以外は全て同一同位の存在である。指も手も足も全身のありとあらゆる部位や各種センサー、そして、その“武装”に至るまで、その全てが“ティーダ・ランスターの身体”であり、“ティーダ・ランスターそのもの”と言ってもいい。
 無論、弾丸とて例外ではない。
 地面に散らばった弾丸の破片から上空を俯瞰し、壁にめり込んだ弾丸の破片から地上を俯瞰する。その他あらゆる場所に打ち込んだ弾丸の破片から全てを俯瞰する。
 地上の弾丸から平面座標を取得し、壁にめり込んだ弾丸の破片から立体座標を取得し、あらゆる場所から平面、立体を問わず座標を取得し続ける。
 これによって狂わされた距離の精度を校正し、同時に、レーザー発射時における、気流の乱れ、温度変化、音、振動等のの変化を観測し記録する。
 絶対的な虚偽を絶対的な現実で塗り潰す。
 どんなにクアットロが全てを騙そうとも“レーザー”を発射することだけは騙せない。レーザーを射出すると言う事実には変化が無いのだから。
 クアットロのレーザーを致命的な損傷だけを避けながら回避し続ける――その様を見て、彼女の顔に微笑みが浮かんだ。

「なんだ、避けるだけですのね。」

 くすくすと嗤いながら彼女が掃射の度合いを強めていく。
 状況は劣勢。現状は彼女の攻撃を回避し続けることが可能だがこれ以上損傷を押し留めることは難しい―――だが、どれだけ自身の身体が損傷しようともティーダ・ランスターにとってクアットロの攻撃は“必要不可欠”なものだった。
 レーザーを回避する度に、レーザーが命中する度に、その発射地点を記録していく。
 視界とは別に脳内に作られた黒い画面――画面には赤線でドームが形作られており、その中心点の赤い点が示すもの――ティーダ・ランスターを表している。この画面は彼が今しがた取得した座標によって作り出した画像である――に立体的にレーザーの発射地点が白い点として描画(プロット)されていく。
 初めは単なる点が幾つかあるだけでしかなかった画面は、秒を追うごとにその数を増やしていく。
 攻撃が加速する。身体中が削られていく。繰り返される回避。描画(プロット)が進む。その内に目に見えて変化が現われてくる。
 画面の中に描画される点の位置が、“偏っていく”。
 黒い画面と白点によって染められた部分が明確に別れていく。
 秒を追うごとに明確化する黒と白のコントラスト。
 黒はティーダの左前面に集中している。無論、白点は全体的に満遍なく分布しているのだが――それでも、明確にティーダの右背面に集中している。
 恐らく、クアットロすら分からないであろう自身が無意識に集中し狙っている部分――それがティーダの右背面。
 描画(プロット)は止まらない。より明確に、鮮やかに画面を白に染め上げていく。
 ―――射角記録と照合/ティーダ・ランスターの左背面から右前面に抜けるようにして放たれている。
 左背面から右前面に抜けていくように発射している―――着弾箇所が偏ると言うことは着弾箇所が視覚的に見やすい場所であることを意味する/位置情報を特定開始。
 情報が不足している。位置を特定できない/回避行動に専念する――情報の取得を繰り返す。着弾箇所と声の位置、地面に散らばった破片の位置。ありとあらゆる情報を取得し、演算し、位置関係を修正していく。

「大体、あなたがどうしてデュランダルに与しているのかしら?出来損ない(スクラップ)で廃棄されるだけの貴方にとってはどうでもいいことでしょう?」

 情報の取得に肉体を専念/会話によって情報を引き出す――“推奨”。描画(プロット)が更に加速する。位置情報が絞り込まれていく。

「記憶が無いからだ。」
「記憶?貴方にそんなものが必要ですの?」

 一際大きなレーザーの発射。太股が貫かれた/回避行動に支障。足裏から圧縮空気を噴射し、その場を離脱/レーザーを回避――回避行動の継続が難しい/情報の取得を繰り返す。描画(プロット)が加速する。絞り込まれていく位置情報――殲滅可能範囲が近い。

「確かに必要は無いだろう。記憶を消失した現状がこの身体の行動を妨げることは無い。だが、」

 ―――浮かび上がる涙を流すオレンジ色の少女の幻影。人を殺そうとした時に必ず生まれる幻影。その幻影が彼を欠陥品に貶める。
 
 ―――にいさん。
 エラーメッセージが繰り返し鳴り響く。エラーの原因は不明。
 
 ――――にいさん。
 エラーメッセージが繰り返し鳴り響く。エラーの原因は不明。

 ――――にいさん。
 エラーメッセージが繰り返し鳴り響く。エラーの原因は不明。

 その子の涙が、消えない。

「“ティーダ・ランスター”はそれを“看過”しない。」

 唯一残った脳髄(ニンゲン)が震えている。
 少女の涙に震えている。

「少女が、涙を、流すからだ。」
「・・・・少女?涙?・・・・訳が分かりませんわね。」

 呆れたように呟き、クアットロは再びレーザーを照射/身体中を貫く。膝が地面に付いた。これ以上の回避行動は不可能/同時に情報取得完了―――クアットロの位置を特定/殲滅可能。
 瓦礫塗れのコンクリート舗装の地面に転がったままのオルトロスから情報伝達―――その距離およそ5m/内部機構に異常は見当たらない―――攻撃可能/殲滅開始。

「それについては同意見だ、毒婦(ヴァンプ)。」
「―――っ!!」

 クアットロの声に緊張が混じり込む。
 右手をオルトロスに向ける。右手の甲部分が変形。小さな四角形上の穴が開く/ガコン、と言う音を出して、圧縮空気が噴射する。右手と右手首が“分離”し、右手がオルトロスにむけて、“発射”された。
 右手と右手首を結ぶモノは太さ3cmほどの炭素鋼繊維を配合し編みこまれた特殊なワイヤー―――オルトロスを掴んだ。右腕内部で稼動する歯車(ギア)がワイヤーを高速で引き戻す。がちん、と音を立てて、右手と右手首が“結合”する――オルトロスの引き金に手を掛け、何も無い虚空――クアットロがいると予想される地点――に向けて狙いをつける/誤差は大きい。命中率は恐らく5割程度―――虱潰しに連射すれば問題ない/即ち殲滅。

 ―――現実(ダンガン)が虚偽(セカイ)を塗り潰す。
 オルトロスを構える。スキュラを構える。即時リロードの準備/“承認”

「喰らえ。」

 抑揚の無い声/引き金を引く。掃射掃射掃射。
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 全く同じ場所ではなく1cm刻みで移動、文字通り虱潰しに蹂躙陵辱薙ぎ払い
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 リロードを繰り返しながら間断無く撃ち続け撃ち続け撃ち続け撃ち続け撃ち続け
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 一発ごとにその場にあった何もかもの原形が無くなり抉り取って喰らって千切って粉微塵になるまで、
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って撃って、
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
(ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ。)

 掃射が終わる/殲滅が完了する。
 ティーダの足元には夥しい数の空薬莢が散らばっている。

「・・・・そ、そこまでやるのか。」

 リチャードが唖然とした顔でティーダが掃射した場所を見ていた。
 その視線の先、クアットロがいたと思われる場所には文字通り、“何も無かった”。
 建物。コンクリート舗装。アスファルト舗装。ガードパイプ。縁石。排水溝。マンホール。およそ都市に存在するであろう、ありとあらゆる建造物、構造物、その全てが弾丸によって抉られ、削り取られていた―――クアットロが存在すると予想される地点全てを文字通り虱潰しに薙ぎ払った。

「逃げられた、か。」

 撃った弾丸から伝わる情報にはクアットロの肉体情報は無い―――恐らく、掃射を始める寸前に逃げられたのだろう。戦果は乏しい――だが、こちらは誰も“死んで”いない/任務完了――問題は無い。

「どうやら始まったな。」

 その甲殻で覆われた仮面が今クラナガンで最も燃え盛る場所を見る―――黒と青の巨大な悪魔のような巨人がそこにいる。そして、そこに向けて突進する朱い炎に包まれた“巨大な剣”。それが真っ直ぐ、巨人に向けて突き抜けていく。

「・・・・なんなんだ、あれは。」

 訳が分からない事態が立て続けに起こり、リチャードの顔が困惑に歪む。後方で立ち尽くす陸士108部隊の隊員も似たようなものだ。
 これまで全く想像したことも無い状況に困惑し、恐慌しているのだ。

「死にたくなければアレに近づくな。」

 そんな彼らに構うことなく、ティーダ・ランスターは相変わらずの抑揚の無い声で呟き、立ち上がった。いつの間にか、傷だらけになっていた彼の身体が復元している。

「・・・・あ、あんたら、一体何するつもりなんだ・・・・?」

 リチャードが声を掛けた。
 その問いは、出撃前に仮面の男―――デュランダルが予想していた問いだった。
 その言葉には必ず、この言葉で答えるように、と彼は敵を倒す、死ぬなという以外にもう一つ“命令”を受けている―――意味は分からないが、問題ない。命令は実行する。それが彼の機能なのだから。
 だから、答えた。命令通りに―――人差し指と中指を立てて、抑揚の無い声で。

「“誰も死なせるな(ラブアンドピース)”だ。」

 その威容にまるで似合わない言葉を。
 呆気に取られるリチャードを尻目にティーダは足裏から圧縮空気を噴射し、その場から跳躍し、離脱する。
 戦いは終わらない。

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