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空想垂れ流し 43.Sin in the Other World and World~Injection~(g)

43.Sin in the Other World and World~Injection~(g)


 瓦礫に隠れ、息を潜める。
 自分の身体はそこかしこに傷だらけ。見えはしないが、皆似たようなものだろう。

『スバル・・・生きてる?』

 敵に気づかれないように念話を伝える。返ってくる声はいつものように快活な声では無く――最近はいつもこんな感じではあったが―――疲れ切った老婆のような声。

『・・・・何とか。』

 まだ、生きていることにほっと息を吐き、別の仲間へと念話を伝える。

『キャロは?』
『・・・・・正直、厳しいです。』

 こちらも同じく疲れ切った声。疲労困憊―――彼女の場合はこの戦い以外にも考えなければいけないことがある以上、その疲れは尋常では無いのかもしれない。

『・・・私も正直辛いわね。』

 最後に自分―――全身が気怠い。敵―――自分たちが受け持っている相手はこれまで確認したことの無い鎧騎士。青と緑―――意匠はまるで違う。攻撃方法もまるで違う。そして、何よりも明らかに以前相手取った敵よりも強い。
 ティアナ・ランスターは推察する。彼女の戦闘とはいわば“組み立てる”こと。これに尽きる。彼女自身、自分の能力が特筆するべきものではないと理解している。
 彼女は使う側だ。味方に指示を与え、自分自身が組み立てた戦闘に味方も敵も巻きこんでいかなければならない。
 だからこそ、彼女は常に推察を止めない。考えることを止めない。彼女自身の戦闘における存在意義とは味方を活かす為に頭を使うことに他ならないからだ。
 これまでは、それで問題は無かった―――だが、今回はまるで勝手が違っていた。
 火力に特化した近接型と、速度と火力のどちらをも持ち合わせた近接型のコンビネーション。
 特筆するような強さはどこにも無い。それでも、以前戦ったナンバーズよりも“はるかに”強い。
 単純な理由だ―――単純なたった一つの理由。
 サイズが違うのだ。大きさに差がありすぎると言うその事実。
 敵の攻撃は全て十m以上の巨大な武器を用いて行われる。間合い、そして攻撃力における決定的な差。加えて異常なほどのあの防御力。シンの一撃ですらヒビ一つ入れられなかったと言うほどに硬い装甲。
 何度攻撃してもまるで効いた様子が無い――その癖、こちらは一度でも攻撃を受ければ致命傷は確実。何度も何度も紙一重で攻撃を回避し続け、隙を突いて攻撃――まるで効いた様子が無い。そして、また攻撃を回避し続け、隙を突いて攻撃を繰り返す。
 そんな堂々巡りを既に何度繰り返したのか。時間を見ればまだ十数分程度しか経過していない――だが、その十数分は数時間にも感じられる程に長く感じられた。
 打破しようの無い展開。それを覆す為に一度距離を取ったのだ。
 けれど、それで分かったことは全員体力が既に底を突き、心が折れそうになっていると言う事実だけ。

(・・・・どうしたらいいのかしらね。)

 敵は別にこちらを狙って戦っているという雰囲気ではなかった。あくまで攻撃を加えたモノへの自動迎撃。
 本来なら此処で撤退するのが良策だ。倒せない敵を無理矢理にでも倒す―――部下を殺す愚の骨頂とも言える。

(けど、ここで下がれば絶対にシンが無茶をする。)

 それは確信。あの男はその無茶を喜んでやるだろう。それこそ率先して。

 ―――美味かった。

 在り得ない言葉を聞いた。確認は出来なかったが、恐らくあの男は本当にそう思っていたのだろう。
 自分がやった悪戯など知ることも無く―――味覚を失ってしまったから。
 大切な人を喪って、そのせいで周りから疎まれ出して、味覚を失って―――五感の一つに出る障害。重大な障害で無いはずが無い。
 けれど、あの男にそんな気持ち―――恐怖は無い。逃避しようと言う感情も無い。あるはずが無い。
 大切な人を失った。その責任を全て自分のせいだと抱え込んで、苦しむコトすら出来ずに戦いに没頭する。それでもあの男はそれを喜ぶだろう。
 利用されることを―――殺されることを。
 それを、どうしても許したくなかった。あの日、高町なのはに打ち落とされたこと―――あの日の出来事の全てが自分の非だとは思わない。けれど、歩み寄ることもな
くあのまま訓練に没頭していたなら、自分もああなっていたかもしれない――その可能性は十二分にあった。
 シン・アスカはティアナ・ランスターにとって、ありえたはずの可能性の一つ――だ
 とすれば、そんな自分を認めたくない。この気持ちの根幹はそんな気持ちなのかもしれない。

「・・・・スバル、あんたまだ動ける?」
『・・・ちょっとはね。』

 一番間近で攻撃を回避しながら敵の攻撃を引きつけ、その上で攻撃を繰り返していた彼女の消耗は自分の比では無いだろう。

 ――それでも戦う以上は彼女に頼る以外に方法は無い。

 自分とキャロのサポートがあったとは言え、彼女でなければ、あの鎧騎士の二人を相手に拮抗した上で生き延びることなど出来はしない。

「そろそろ来るわよ・・・・フェイクシルエット、今潰されたから。」

 二人が身構える気配が念話から伝わる。
 近くの瓦礫が弾け飛ぶ。

(来た。)

 視界の端に現れる敵の武装―――高町なのはのブラスタービットに酷似した武装。例えて言うならバケツのような筒――ティアナ・ランスターは知らないがドラグーン
と呼ばれる技術によって無線誘導されている武装である。大きさはおよそ1mにも満たない――サイズが抑えられている。色は緑。光が灯る―――緑色の光が。
 即座にその場から飛び退き、移動。フェイクシルエット生成。続いて、敵の武装に向けて、魔力弾を生成し、放つ。
 衝撃。弾かれたように吹き飛ぶ緑色の筒。大した損害は与えられない。

「キャロ、援護お願い!スバル、そっちは任せた!!」

 口頭で指示。相手に聞かれていようと関係ない。そんな余裕は無い。
 最優先するべき目的は生存―――歯軋りしながら、その事実を認める。目前の敵は自分達よりも“強い”。足りないのは純粋に力。力が圧倒的に足りていない。

(だからって・・・)

 思考を加速。即座に弾き出される回答。自身の能力は戦闘するには物足りない。キャ ロ・ル・ルシエも同じく。戦闘と言う戦闘を行うには少なくともスバル程度の近接能力
は必須だ。事実、ここまでの戦闘では自分は一切前に出ていない。出る事は自殺行為。あくまで後方支援が己の責務。

(諦める訳にはいかないのよ・・・!)

 心中で自身を叱咤し、魔法を発動。クロスミラージュが魔力を編み上げる。
 幻影生成――フェイクシルエット。その数を更に増やす。魔力は度外視。今度は存在濃度を高め、人体と認識できるほどに。生成された幻影の数は5つ。全てを同時に動か
し、散開。狙いを散らし、生存率を少しでも高める。
 その場から移動する――ほどなく幻影が一体消えた。攻撃を食らったのだろう。その攻撃を受けた位置と攻撃が当たった箇所を確認し、敵の現在位置を確認。瓦礫を盾に壁を伝うようにして走る。敵の死角に回りこむ為に。
 走りながら、クロスミラージュにカートリッジを装填。魔力の底上げ。フェイクシルエットの数を更に増やし、散開。更に間髪いれずの魔力装填。両手のクロスミラ
ージュに魔力を収束し、魔力弾を放てるように待機。
 瓦礫の山―――以前は家だったのだろう。クマの人形などが見えた――を抜け、緑の鎧騎士――ウェポンデバイス・カオスの後方に移動する。死角からの射撃。ティアナ・ランスターが力不足を補う為にはそれしかない。少しでも防御力の少ない箇所を攻撃する以外に無い。

(食らえ・・・!)

 瓦礫の山を抜けた。ウェポンデバイス・カオスの背中が見える。カートリッジを五連続装填。膨れ上がる魔力。両手に持ったクロスミラージュを構える。放つ魔法はクロスファイヤーシュート。攻撃力は彼女の使用する魔法の中で最も高い。

「クロスファイヤ――――」

 魔力球が空中に浮かび上がる。一つ、二つと浮かび上がり、瞬く間に現出して行く光球。総数二十五個。現在のティアナ・ランスターにとっての最大放出数。

「シュート・・・!!!」

 静かに呟く。光球は狙い違わず緑色の異形―――ウェポンデバイス・カオスに向けて加速して行く。
 カオスは未だ気づかない。あの鎧がバリアジャケットの亜種だと言うなら少なくともこれで打撃を与えられるはずだ。バリアジャケットは意識方向に対して最もその防御を硬くする。逆に言えば死角――意識方向と真逆部分は非常に弱い。
 光球がその背中に接触。爆発が起きた。続けて残る二十四個の光球がその背中に吸い込まれるように着弾し、立て続けに爆発が起きる。

「まだ・・・よ!!」

 更なるカートリッジ装填。これ以上は自身の肉体への負荷が大きい。クロスミラージュからの警告。同時に肉体が悲鳴を上げる。カートリッジによる魔力の底上げとは自身の魔力を無理矢理に上昇させること―――つまり、自身の魔力量以上の魔力制御を要求される。幻術のような繊細さを必要とする魔法であれば特にその難度は跳ね上がる。
 だが、今はそんな技術は度外視だ。やるべきことは撃ち込むこと。この一瞬で全精力を込めて撃って撃って撃ちまくる――――!
 光球を更に生成――発射。続けて五発。加速し、狙い違わず爆発に向けて吸い込まれていく。銃口に魔力を集中。魔力弾を作成。

「キャロ!!」
「はい!」

 後方より届く声。キャロ・ル・ルシエが魔法を発動する。ティアナ・ランスターが収束した魔力弾にブーストアップ・バレットパワー。射撃の威力――この場合は貫通力を“強化”する魔法。片側5発。総計10発の魔力弾が放たれた。

「ヴァリアブルシュート・・・!!」

 ヴァリアブル・シュート。魔力弾の外殻を膜状バリアで包んだ多重弾殻射撃魔法。以前はAMFを突破する為に使用した――今回は使用方法が違う。外部の膜状バリアが相手の装甲に接触したその運動エネルギーを全て破壊力に変換――つまり外側は柔らかく、内部の魔力弾はキャロ・ル・ルシエの使用したブーストアップ・バレットパワーによって貫通力を強化――つまり内側は硬く。破壊と貫通の二重の意味合いで相手の装甲を穿つ為の弾丸。
 全身から魔力が抜けていく――力が抜けていく。折れそうになる膝を意思の力を総動員して、食い止める。

(お願い、これで倒れて・・・・!!)

 外殻が着弾。運動エネルギーを全て破壊力に変換。刹那の差で内部が着弾。装甲を貫通しようと暴虐的な程に唸りを上げる。
 連続する破壊と貫通。
 塵煙が舞い上がる――敵の姿が隠れた。僅かに緩んだ緊張。思わず膝を付く。

「はぁ・・・・は・・・・は、あ」

 喘ぐように呼吸。額から汗が流れていく―――頬を通り、首筋を通って服にしみこんで行く汗。
 呼吸が荒いのは限界以上の魔力行使の影響だ。心臓が唸りを上げて鼓動し、全身に酸素を送り込む。

「・・・・これで、一人。」

 塵煙が収まっていく。反応は無い。非殺傷設定は継続――気絶しているのだろう。もしかしたら、何かしらの 怪我をしているのかもしれないが、そんなことを気にする余裕は無い。
 まだ、一人、残っている。
 重い身体を立ち上がらせる。出来れば、このままここで寝てしまいたいほどに身体は疲弊している、だが、スバルを一人で戦わせ続ける訳にはいかない。

「・・・キャロ、スバルはどうなってる?」
『何とか、食い下がってます・・・・けど、あとどれだけ持つか。』

 念話による通信。既に彼女はスバルの元へと向かっている。

「わかった。私も直ぐに援護に・・・・」

 呟いた瞬間、緑色の光が一瞬光った。

「まだ、動けた・・・・!?」

 敵を視認する為にそちらに瞳を向ける。瞬間――熱さを感じた。ばつん、と言う何かが弾け飛んだような音。 顔に液体が降りかかる。降りかかる方法は右側―――咄嗟にそちらを見て、見えた光景は理解を超えていた。

「え?」

 紅。出血。血が吹き出る。

 ―――右手が無い。

「え。」

 思考が止まる。手が痛い。手が痛い。神経を焼かれるような激痛。右手を動かそうとする―――無い。神経が伝達する先に何も無い。手が無い。指が無い。
 手首から血が流れている―――全部、弾け飛んだ。

「う、そ。」

 噴煙が晴れる―――緑色の鎧騎士が何事も無いようにして立ちながら、銃口を向けていた。
 銃身の長い拳銃というよりは狙撃銃の見た目。それが自分に狙いをつけている。

(死ぬ。)

 咄嗟に構える――思考を再開。腕の痛みを忘れる/痛覚が神経を刺激。痛みが理性を駆逐する。痛みが本能に訴えかける。
 経験したことの無い痛み。思わず跪きそうになる―――残り少ない理性をかき集めて全身全霊で抵抗する。

「・・・・・あ・・・・く・・・・。」

 叫び出さないだけマシなのだろう。
 耳に聞こえてくるココロは“痛い”と言うそれだけ。風に触れる。ナカミが大気に触れる。それだけで身悶えするような痛み。知らず涙が毀れる。堪える痛みの強さが肉体を侵していく。
 喘ぐように吐息。呼吸を整える為では無い。痛みに折れそうになる自分を抑制する為に。
 死が怖いのではない。痛いことが怖い。
 この痛みが、自分自身の大事なモノさえ折ってしまいそうで、それが例えようも無く怖い。

「・・・・・くろ、す・・・ミラージュ・・・・」

 折れそうになるココロを押さえつけ、左手に握り締めた銃身を敵に向けた。そうしていなければ、涙を零して、子供のように蹲ってしまいそうだった。
 先ほどまで開いていた両者の距離は気づけば、既に触れ合うほどの距離にまで近づいていた。ティアナの瞳の先には銃口。
 彼女はその銃口を見つめた―――“死”が見えた。

「・・・・」

 受け入れるでもなく、死がそこに押し付けられている。
 夢、希望、いつか辿り着く場所。兄と過ごした幸せな日々。失って、失ったからこそ、駆け抜けてきた。その全てが終わる。巡る走馬灯。スローモーションのように世界がゆっくりと稼動して、自分の命を失う瞬間を認識させる。
 ココロが諦観に落ちて行こうとする―――それを痛みで削り取られていく理性で引き戻す。
 たとえ、死ぬことになろうとも絶対に諦めたくはない。
 かちり、と音がした。引き金に手を掛ける音。
 同じタイミングで彼女も銃口を向ける。眼前の緑の鎧騎士(ウェポンデバイス・カオス)へ。

(死んで、たまるか。)

 憤怒と克己で自身を奮い立たせ、折れそうになるココロを叱咤する。けれど、銃口が定まらない。右手を失った痛みに震える左手。肉体は既に痛みに屈服しようとしているのだ。
 引き金を絞る瞬間すら認識出来そうなほど引き伸ばされていく感覚。死への覚悟と現状を打破するための思考―――無駄。世界はそんなにご都合主義では無い。

「・・・・・くそ・・・ったれ。」

 彼女には似つかわしく無い毒のような呪詛を吐いた。こちらが魔法を放つよりも相手が引き金を絞る方が遥かに早い。言葉だけでも相手に届けと言い放った負け惜しみ。
 引き金を絞る音がした――秒を待たずに自分は死ぬ。

(ごめん、スバル、キャロ。)

 心中で諦観を呟いた。せめて、死ぬその瞬間であっても瞳は逸らさない、と相手を睨みつけ―――瞬間、爆音と震動で身体が震えた。
 視界に飛び込んでくる朱い炎のヒトガタ。
 振り下ろされた大剣の一撃を受け止めることも出来ず、緑の鎧騎士(ウェポンデバイス・カオス)が吹き飛んだ。
 轟音。震動。衝撃―――朱い炎が棚引いた。世界全てを朱く染め上げる劫火。焦点を失った無機質な朱い瞳。右手に握り締める大剣。朱いバリアジャケットの所々から上がる煙。口元を汚す紅い血。白い肌は煤で汚れて黒く染まっていく。
 朱い瞳の異邦人。シン・アスカが、そこにいた。

「・・・・・・シ、ン。」
「・・・・・直ぐに治す。だから、死ぬな。俺の前で“だけ”は絶対死ぬな。」

 少しだけ焦燥の混じりこんだ傲慢な言葉。
 けれど、声の調子は以前のように優しげな声―――それともそう演じているだけなのか、それは分からないけれど。
 表情は渋面――そして笑顔を形作る。おかしな笑顔。笑おうとして笑えない。そんな、どこか機械じみた。

「寝てるんだ。起きたら・・・全部終わってるから。」

 その言葉が染み渡る。息を吐く――知らず口から安堵の吐息が漏れた。全身の力が抜けていく。さっきまであれほど煩かった鼓動が収まっていく。頭を撫でられる―――昔、兄がそうしてくれたように。
 硬い手の感触。暖かい、温もりを感じ取る。同時に右手の痛みが消えていく。代わりに全身に“注ぎ込まれる”暖かさ。急速に眠気が襲い掛かって来る。
 その眠気に“反抗”するようにして、瞳に力を込めた。

「・・・・・どう、し・・・て」

 声を出そうとして出せない。眠気に襲われた肉体が急速に閉鎖していこうとする。

(なんで・・・あんたは・・・・・笑ってるのよ。)

 声は言葉にならずに霧散する。意識が消失する―――子供のような寝顔。穏やかな眠りへと落ちていく。
 疑問は届かない。届くはずも無く彼女の意識は闇に閉ざされた。
 ――シンの右手がティアナの額に添えられている。朱い魔力光が輝く。彼女の身体を朱い魔力光が幾何学模様に走り抜ける。数瞬後、彼女の右手を朱い光の軌跡が再現していく。初めに形作られるのは枠組み――ワイヤーアートのような朱い軌跡。それがどんどんと数を多くし、骨格を形成し、神経を形成し、血管を形成し、接続を形成していく。

「デスティニー。あとどれくらいだ。」
『残り5秒です。』

 デスティニーに格納されている魔法。リジェネレーション。その力の一端――復元。失った四肢を文字通り復元する魔法だ。膨大な魔力によって消滅部位を即座に直す――だが、今回は自分では無くティアナ―――他人の身体だ。彼女の身体情報を解析し、その上で再現し、復元し、“治す”。必要となる魔法が増える分だけ使用する魔力は自身に使用するよりも更に大きい。
 敵を見る―――緑色の鎧騎士。見たことも無い新たな敵。残り五人の魔導師の内の一人。

「キャロ、ティアナを保護してくれ。気を失ってる。それとスバルに合流しろって伝えてくれ。」
『え?・・・あ、はい!』

 ティアナの治療が終了/右手は既に元通りに復元。
 ――クロスミラージュの片割れは復元しなかった。元よりシンはクロスミラージュが破壊されたことを知らない。
 デスティニーを眠るティアナの傍から引き抜き、ウェポンデバイス・カオスに向けて視線を飛ばす。
 スバルに自分で指示を出さないのは彼女に煩わしい思いをして欲しく無いと言う考えから――姉を殺した男と共闘するなど普通は嫌なものだろう。彼女達姉妹は仲が良かったから余計に。感傷が生まれる――閉鎖。余計な思考は必要ない。
 状況把握――後方にティアナ・ランスターがいる。エクストリームブラストは使用できない。ティアナ・ランスターに行った復元が相当量の魔力を使用した為に現在は休止している。

「デスティニー、エクストリームブラスト再開まであと何秒いる?」
『10分です。』
「使用可能になったら直ぐに始めろ。ただしティアナ、スバル、キャロ、それに“味方”からは“奪う”な。」
『了解しました。』

 デスティニーを大剣(アロンダイト)に固定。立ち上がったウェポンデバイス・カオスに向けて突進。巨大斬撃武装(アロンダイト)は使わない。ティアナが気を失った現状で使用すれば彼女を確実に巻きこむ―――それにたった一人の敵に使うにはあの武器は消費が大きすぎる/スバルとの位置関係を把握。徐々にこちらに向けて移動を始めている――誘導を開始したのだ/移動目標をスバルの移動方向に向けて設定。
 彼我の距離が近づく。接敵。袈裟懸けに振り下ろす――がきん、と刃金と光刃がぶつかった。アロンダイトで敵の光刃――ビームサーベルに酷似した武装――を押さえつけながら、腰を落とし重心を下げる/足を踏み出す――懐に入り込んで、右手をアロンダイトの柄から離し、押し当てる。至近距離――零距離において最も効果を生み出す近接射撃魔法。魔力収束/朱い魔力光が破裂寸前の溶岩のように半円形を模して精製。弾けて放たれる朱い光の槍。

「パルマフィオキーナ。」

 小さく呟く。肩にパルマフィオキーナの反動。しっかりと身体を固定して、その反動を受け止めた。ウェポンデバイス・カオスが後方に吹き飛んだ。

「くっ・・・!!」

 ウェポンデバイス・カオスが呻きを上げながら、その一撃を自ら後方に後退して和らげ、受け止めた。損傷は軽微。既にドラグーンが戻っている――それをバーニア代わりにして速度を上げて後退したのだ。
 ―――シンはその“呻き”に少しだけ違和感を感じた/無視。敵への違和感など気にするな。殺せ/思考を閉鎖。
 損傷は軽微、とは言えウェポンデバイス・カオスはその体勢を崩している――隙がある。高速移動魔法フィオキーナを背中と足元に生成――その数4つ。大地を蹴って跳躍。地面と水平に加速。大剣(アロンダイト)を振りかぶる/振り下ろす。ビームサーベルで受け止められた。再び鍔迫り合い。

「良い気に、なるなよ・・・!!」

 ウェポンデバイスが言葉を発した。溢れる人間味。これまでとは何かが違う/無視。
 下から押し上げるようにしてビームサーベルを大剣(アロンダイト)で弾き上げる。懐が開いた。振り下ろす大剣と光刃がぶつかり合う。ウェポンデバイス・カオスが右手から光爪を発して腹部に向けて突きだす。予想外の攻撃に反応が一瞬遅れた。肉体の動きでは回避出来ない。右肩、右腰からフィオキーナを発射し、緊急回避。距離が開いた。敵は爪のようにして手からも光刃を生み出せる。
 もしかしたら身体の各部に同じような武装があるのかもしれない―――向こうの世界で戦った、緑色のモビルスーツを連想させる。武装類は全て酷似している。もしかしたら同じ武装を持っているのかもしれない/裏付けの無い想定は無意味だ。考えるな。
 フラッシュエッジを引き抜き投擲。右側から一刀、続いて左側から一刀。二つ共に違う軌道で弧を描きながら両脇から同じタイミングで迫る。

「ケルベロス。」
『了解しました。』

 以心伝心。大剣(アロンダイト)から大砲(ケルベロス)へ形状変化。ケルベロスを発射――朱い光が放たれた。
 その反動を利用して数mほど後退。緑色の円筒――ドラグーンが緑色の光を発射するのが見て取れた。撃たれる前に移動することでそれを紙一重で回避。それまでいた場所を緑色の光が付き抜けていく。放たれるよりも前に知覚出来る――全てを俯瞰したような感覚は今も消えない。
 ドラグーンからの砲撃を回避した瞬間、即座に前進。背中にフィオキーナを生成。地面を頭にこすりつけるほどに前傾し、加速。僅かでも敵の視界から自分の身体を外す為に。
 大剣(アロンダイト)を握り締める。
 敵が気づくのが見えた。だが、遅い。間合いには既に入り、攻撃態勢に入っている。
 その勢いのまま、下から切り上げた。手応えは硬い鋼の感触――鎧自体にはまるでダメージを与えていない。与えているとすれば衝撃によるダメージくらい/問題ない。今するべきことは倒すことではなく、この場から離れることだ―――気絶したティアナから離れ、スバルと合流。そして、鎧騎士をなるべく早く倒す。巨大斬撃武装(アロンダイト)があればそれは容易い。あれはその為の―――大剣(アロンダイト)が穿つことの出来ない敵を倒す為の武装なのだから。
 再度ウェポンデバイスが吹き飛んだ。吹き飛んだ方向を見定め―――エクストリームブラスト“限定解除”。倍率は2倍――ギアセカンド。リジェネレーションは発動しない。単なる“高速行動”。跳躍し、敵に向けて突進。デスティニーは腰のホルダーに固定。
 突然、朱い炎に覆われ加速したシン・アスカは眼が慣れていないウェポンデバイス・カオスから見れば消えたようにすら見えたかもしれない―――吹き飛んだカオスの腰を両手でラクビーのタックルをするように抱え込み、加速。方向は目標地点――スバルの戦闘箇所へと。

「てめえ・・・・離しやがれ!!!」

 ウェポンデバイス・カオスが叫びならが背中を殴る。違和感―――と言うよりも明らかな違い。コイツはこれまで戦ってきた鎧騎士とは“違う”モノだ。今までは喋ることはおろか、呻きや悲鳴すら上げなかった――死ぬその瞬間まで。ならばこいつらは―――無視。気にするな。敵は殺す。それだけだ。
 加速。勢いは収まらない。朱い弾丸と化して加速するシンとウェポンデバイス・カオス。

「こ・・・・の!!!」

 叫ぶウェポンデバイス・カオス。直感が離れろと叫ぶ/肉体はそれに追従。それまでシンがしがみついていた場所を紅い光が突き抜けていく。バリアジャケットが焦げた。一瞬遅れていれば死んでいた――背筋に怖気/無視。
 ウェポンデバイス・カオスの背後に回るように移動。大剣(アロンダイト)を腰のホルダーから引き抜き、敵に向けて叩きつける。
 鈍い金属音を発して、ウェポンデバイス・カオスが地面に向けて、垂直落下。間髪入れずデスティニーを大砲(ケルベロス)に形状変化―――地面に向けて落下した相手に向ける/魔力収束。

「寝てろ。」

 呟き、発射。朱い光がウェポンデバイス・カオスを目標地点に向けて、文字通り叩きつけた。
 爆発。噴煙が上がる。
 これでしばらくは動けないと予想――たとえ動けても関係無い。これだけ攻撃した以上は、奴の攻撃対象は自分になる。ティアナ・ランスターを攻撃対象にはしないだろう。
 上空から戦場を俯瞰。戦況は膠着状態の様相を呈してきている。先ほどヴェロッサとの通信を行った際に彼からの通達によって彼女達を援護しにきたのだが――立ち込める空気に顔をしかめる。
 嫌な予感がするのだ。何がどうという訳では無い。漠然とした言葉に出来ない予感――不安と言い換えても良い。それが戦場に立ち込めている。

「・・・・デスティニー、スバルは・・・」

 言い終わる前に、直ぐ近くで爆発が起きた。確認することも無く即座にそちらに向かう。
 焦燥が立ちこめて行く。嫌な予感が収まらない―――その全てを断絶してシン・アスカは戦い続ける。

 ―――そして、絶望の宴の幕が開く。

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SOWW

Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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