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空想垂れ流し 34.慟哭の雨(e)

34.慟哭の雨(e)


 爆音。スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。スターズ分隊の前衛と後衛。普段から訓練も共にしている以上彼らの連携は完璧と言っても良い。だが、彼らの顔色は思わしくない。彼らの敵は一人。ナンバーズ・セッテのみである。
数的有利というメリットさえある以上は能力で言えば決して負けるはずが無いのだ。だが、今戦闘している者の中で一番苦しんでいるのもまた彼らであった。ナンバーズ・セッテ。その異能の前に。
「・・・・・」
 無言/虚ろな瞳。
 人でありながら機械めいた動作。感情を感じられない冷徹さ。
 右手を伸ばす――何も無い虚空に。
 ずぶり、と入り込む。空間に生まれる波紋/同心円状に広がっていく。
 ―――引き抜くと、右手には大振りの剣。そして、彼女はそれを投擲する。
 同じように左手を伸ばして虚空から武器を引き抜く――今度は小型のナイフ。銘は無い。投擲する。
 淡々と繰り返される動作。流れ作業のように淀みなく淡々と進む行動/攻撃。
 ただ、引き抜いて投げると言うそれだけの攻撃。
 本来ならそんなものは戦力にすらならない。
 戦闘における行動にはすべからく意味がある。
 “ただ、引き抜いて、投げる”と言うだけの攻撃にどれほどの意味があるのか。
 普通ならそんな攻撃は全て避けられて終わりである――普通なら。
 だが、彼女の投擲は違っていた。
 投げた―――どん、と空気を突破する爆音。爆風が生まれる――音の壁を越えた衝撃波(ソニックブーム)。
 彼女の髪が揺れる――表情は変わらない。機械の如く冷徹にただ対峙する敵に狙いを定める。
 音速で迫るその投擲。
 その一撃はまるで戦車の砲弾の如き威力を伴い、間を置くことなく何度も何度も何度も何度も何度も何度も
何度も何度も―――繰り返されている。
 あたりの地面は既にクレーターのように抉り取られている。
 それまであった街の原型などもはや無い。あるのはただ瓦礫の山だけだ。
「行きなさい。」
 ぼそり、と呟き投げる。
「行きなさい。」
 投げる。投げる。投げる。
 呟きながら間髪いれずに何度も何度も。
 呟きは命令。支配した対象の全てを決定出来る絶対強制権――無機物であるなら、何であろうと支配する力。
 それが彼女のI・Sだった。
 本来なら移動しながらの攻撃がセオリーである。サポートも無い状況で止まり続けるなど場海外の何者でもないからだ。
 だが、彼女の能力はそれを可能にする。
 元々彼女のI・Sは単純なモノだった。投擲したものを操作すると言うただそれだけのI・S。希少価値もなければ、利用方法も戦闘くらいしかないと言う使い道の少ないもの。
 スローターアームズ。
 本来は固有武装ブーメランブレードの扱いと制御をする為の能力である。この為、ブレードを投擲し使用した際に軌道を自由に変化させる程度の能力である。使用の際にブーメランブレードを手元に転送すると言う簡易転送も含まれているのだが。
 本来、その能力はあくまでもブーメランブレードありきの能力だ。
 だが―――それは違っていた。彼女の能力は、そんな生易しいものではない。
 投擲したものを操作する。そこに武装の種別は無い。つまり、“どんな武器であろうと投擲しさえすれば操作できる”のだ。
 もっと言えば、投擲とは“狙う”と言う意思を武器に込めて投げることを言う―――つまり意思を込めるのは投げる前だ。
 握り締めたモノ―――無機物であるならば何であろうと“支配”する。
 己が握り締めたと認識出来るなら何であろう彼女は支配する。
 ビルを握ったと認識すればビルを支配し、ミサイルを握り締めたと認識したならミサイルを支配し、世界を握ったと認識すれば世界ですらも支配する。
 それこそが“支配”の能力。彼女のI・Sが発展した能力。「支配者(オーナー)」である。
 その能力の前で移動する必要などない。
 移動する、というのは相手からの攻撃を警戒して。
 だから、サポート無しで戦う場合には相手に的を絞らせない回避行動が必要となるのだ。
 だが、彼女にはそんな回避は必要ない。敵に攻撃を行わせる間など与えない連続投擲の嵐。その一撃一撃は差こそあれども全て一撃必殺の威力を有しており、その速度は音速の領域に到達している。その弾数は無限では無いが、小規模次元世界を利用することにより、限りなく無限に近い数量―――凡そ2000を越える物量である。
 連携や人数を完膚なきまでに押し潰す圧倒的な物量と威力。
 ナンバーズ・セッテ。
 その前にティアナとスバルは満足に戦うことすら出来ないでいた。
「・・・・悔しいけど強いわね。」
 冷静に、ティアナは呟く。
 凍るような冷徹さ。ティアナ・ランスターの生命線にして、最大の武器。
「ティア!!このままじゃ負けちゃうよ!!」
 迷いの無い瞳でスバルが呟く。
 僅かに焦りが見て取れる――だが、そんなものはいつものことだ。
 この相棒が冷静沈着で戦うなんて考えたこともない―――
「相棒、か。」
 その考えに思い至り、ティアナの頬に笑みが浮かぶ。自然と相棒と言う言葉が出てきたことが嬉しくて。
 スバルとのコンビがいつまで続くのかは定かではない。だが、そう遠くない未来自分達は別々の道を歩むことになる。
 それは間違いないことだ。
 だが、今は相棒なのだ。自分にとって掛け替えの無い相棒―――決して面と向かっては言わないけれど。
『ティア!!どうしたらいい!?』
 その声が現実に引き戻す。顔から笑みが消える。切り替わる思考―――戦士から司令官へ。
「・・・・能力面では絶望的に負けてる。」
 見れば分かる通りに絶望的だ。
 音速を超える投擲など聞いたことも無い。
 道路を抉り取って生まれたクレーターを見て、その威力に背筋が寒くなるのを感じる。
「こちらが勝っているのは人数だけ。」
 ティアナは今、幻術を用いて身を隠している。
 セッテの周りに存在する多数の影―――ティアナ・ランスターのフェイクシルエット、その劣化版である。
 完全なフェイクを作れば、如何なナンバーズの索敵システムといえど、今のティアナならば騙し通す自信はあった。
 だが―――
 爆音。再びクレーターが生まれた。瓦礫が舞い飛んだ。
「・・・こんな威力の攻撃をバカスカ撃てるなら幻術なんて真面目にやるだけ無駄よね。」
 その通り。
 相手は殆どタイムラグ無しで必殺の一撃を連続で放ち続けられる。その前で幻術などまともにやるだけ無駄。
 故にティアナは魔力消費を押さえ込む為にフェイクシルエットを劣化させ、一目でそれと分かるようにぼやけ
させていた―――存在と言う気配だけを感じ取れる程度には存在密度を維持したままで。
 結果的にこの策は功を奏している。でなければ今頃スバルもティアナも瓦礫の一部になっていたことだろう。
 だが、このままではジリ貧もいいところ。自分達の役目は囮となって単身戦っているあの男――シン・アスカと戦っている敵を挟撃することだ。
 曲がり間違ってもここで敵に倒されるなどあってはならない。
「スバル、アンタ、調子はどう?」
「て、ティア!?いきなり何!?」
「調子はどうって聞いてるのよ。“いつもみたいに走れるのか”ってね。」
 “いつもみたいに”。
 その言葉を受けて―――スバルの顔に花が咲く。満面の向日葵のような笑顔が。
「うん!!」
 即座に返される返事。
 そのやり取りで次に自分が何をするのか、理解したのだろう―――スバルが構える。
(相棒ってのはこういう時、楽よね。)
 心中で呟き、ティアナも準備を始める―――この逆境を跳ね返す準備を。
「行くよ、マッハキャリバ――!!!」
『All right buddy.』
 言葉と共に急停止。そして、螺旋状に、次々と生まれて伸びていくウイングロード。捻じれ、曲がり、上下左右の全ての空間――三次元を囲い込んでは伸びていく無数の路。
 瞳を閉じる―――彼女自身のデバイスの言葉を待って。
『Ignition!!!』
 開く瞳。金色の色――戦闘機人の色。切り替わる視界。切り替わる肉体。
 生命活動をする為の器から、戦闘行動をする為の器へと。
「ギア!!!エクセリオン!!!」
『A.C.S. Stand by!!』
 マッハキャリバーの両脇から生まれ出でる二枚の羽根。爆発的に増加する魔力。
 セッテの顔色が変わる―――敵に変化が起きたためだ。
 それまでのような逃げ続けるのではなく、あろうことかこちらに向かってくるような気配を見せる。
「来る。」
 抑揚の無い声。それでも声に滲み出した緊張は拭い去れない―――両の手を虚空に突き刺す。引き抜く。
 現われ出でる自身が最も親しんでおり、最も強力な得物。
 ブーメンランブレード。味も素っ気も無い見たままの通りの名前の武器。
 意識を徹す――それまでのような“支配”ではなく、馴染んだ武装とのみ出来る“協力”へと。
 これより彼女が放つ一撃は最速にして最強。音速を突破し、空気を切り裂いて、射線上の全てを断ち切る刃。
 仮に回避されたとしても、彼女はその軌道を変化させて、追尾できる。
 音速で追尾するミサイルのような武装―――それがブーメランブレード。
 それを宙空に固定し、再び引き抜く。現れるは小刀。刃が煌めく。大きさなど関係なく殺傷能力は問題ない―――音速を突破するというそれだけで十分すぎる。
 投擲のタイミングを計るセッテ―――少しだけ前傾する構え。
 そこから遠く離れた場所。瓦礫の影。構えるセッテと構えるスバル。
 ごくり、と唾を飲み込む。相棒の命を天秤に賭ける勝負――祈るように、願うように、瞳を閉じる――開く。
 桜色の唇が動く。
「――フェイクシルエット。行くわよ。」
 ティアナが呟く―――反撃の狼煙。クロスミラージュのディスプレイが輝く。
 次瞬、スバルの周辺に出現する数限りないスバルの姿―--それは先ほどと同じくぼやけた姿で。
『・・・・スバル、いいわよ。』
 伝わる念話/信頼。スバルが叫ぶ/セッテが身構える――突貫開始/投擲開始。
「うおおおお!!!!」
 絶叫。突貫するスバル。マッハキャリバーが唸りを上げる。
「喰らえ。」
 抑揚の無い声で、セッテが投擲を繰り返す。一つだけだったソレは瞬く間にその数を増やしていく。
 1,2,3,4,5・・・・そこでスバルは数えるのを止める。そして、覚悟を決める。
 ティアナが、相棒がやろうとしていることは単純明快な一つのこと。
 ―――幻術でサポートするから近づいてぶん殴ってこい。
 それだけのこと。
 だから、自分は余計なことを考える必要は無い。考えるべきは一つだけ。
(一度も当たらないで、一発当てる!!)
 加速する。螺旋模様に縦横無尽に世界を拓く翼の路(ウイングロード)。それに身を乗せ、第一陣を回避し、続いて第二陣。
 考えている暇など無い。考えていれば、その瞬間、死に至る音速の投擲が自身を殺す。だからそれを避ける。
 先読みでもなんでも無い。当てずっぽうの直感で。
「うおおおおおおお!!!!!」
 絶叫と共に、それまで奔っていた路から飛び降りる―――ウイングロード展開。地面まで一気に加速――もはや落下。
 がつん、と言う鈍い音と共にアスファルトにローラーが切れ目を入れる。膝に多大な負荷――膝を曲げて衝撃を逃す。
 加速する。
 迫り来る衝撃すら伴った超高速の武装の数々。槍、小刀、剣、大剣・・・etcetc。彼女にはそれを見る暇すらない。
 だが、そんなものは必要ない。見る必要など無い。予測など必要無い。ティアナがいいわよ、と言ったのだ。
 準備は出来ているから、行って来い、と。
 こめられた言葉の意味。それを取り違えるはずなどない。取り違える訳が無い。
 何故ならば―――
(だってねえ。)
(あったりまえじゃん!)
((相棒なんだし))
 ―――そう。それゆえに相棒と一緒に戦うのは楽で良いのだ。言わなくても分かるのだから。
 ティアナとスバルが胸中で同時に同じ言葉を呟く。
「・・・・当たらない。」
 回避されている。音の壁をも突破する投擲が。
 それも何発も連続で。
 その様子に不思議なモノを感じながらも、セッテは投擲を止めない。
 彼女の能力「支配者(オーナ-)」とはその名の通りに最強。攻撃こそ最大の防御を具象化したような能力である。
 故に彼女は投擲を止めない。止めないことが一番の防御だと知っているからだ。
 ―――何故スバルがここまで回避に成功しているのか。その秘密はティアナの行った幻術にあった。ティアナが使ったのはフェイクシルエット。それも高速移動用に調整した結果、見事なまでに劣化した、本来なら使い物にもならないような幻影である。スバルと幻影の差は目を凝らせば分かる程度の差異。
 通常なら既にスバルは死んでいる―――だが、彼女は突貫を止めない。生きているからだ。
 ティアナは、本物のスバルにも幻術をかけている。そう、偽物だと偽装する為に。奔るスバルの身体。本人は気付かないが傍から見ると他の幻影と同じく、ぼやけている。木を隠すなら森の中。それと同じように幻影の中にスバルを紛れ込ませているのだ。ご丁寧に輪郭のはっきりしたスバルを僅かな数だけ作り出し、走らせている。
 その結果がこれだった。目論見は成功している。この方法ならば本物のスバルに向かう攻撃の数はかなりの確率で減らしていける。
 彼女達の距離は既に50mを既に切っている。当初は200m以上はあったことを考えると既に3/4ほど近づいたことになる。
(行ける・・・・!!!)
 胸中で歓声を上げるティアナ。だが、それはまだ早い。
「・・・幻影に紛れ込ませているのか。」
 目論見を看破するセッテ。ここまで破壊した幻影の内、本物と思わしきものは全て破壊した。
 だが、それでも突進を止めない――生きている。
 ならば、本体は幻影の中に紛れ込んでいる。そういうことだ。
 セッテは迷わない。躊躇わない。驚かない。冷静沈着が彼女の自負であり、彼女にはそれしか“無い”。
 だからこそ彼女は自身の判断に絶対の自信を持っている。
「なら、幻影を全て破壊する。」
 当然の判断―――最良の判断。
 投擲を行う。先ほどよりも投げる速度を速める。精度ではなく速度―――撃ち続ければいつか死ぬ。そんな消去法。
 ―――投擲される武装の数が増えたように感じた。
 弾幕が目前に現れる。頭を地面にこすりつけるようにしてその下に滑り込み、突破する―――残る距離は凡そ30m。
 スバルの脳裏でアラームが鳴り響く。避けろ避けろ避けろ避けろ、と。
 だが、スバルはその全て一切合切を無視する―――何故ならば、
「ティアが、行けって言ったんだ・・・・絶対に私は死なないに決まってる・・・!!!」
 静かな叫び。
 躊躇いなど一切無く加速。
 その様を見て、ティアナがにやりと笑う。その加速を当然のように受け入れ、その上でその信頼が心地よくて。
 彼女にとってこの状況は予測済み。それゆえに危惧していたのはこの状況。つまり“状況が変わった瞬間”が最も危険だったのだ。ティアナ自身が幻術でそれに対応出来ないからだ。だが、あの相棒はそんな難関をいとも簡単に乗り切った上に更に加速した。
 通常ならば狂気の沙汰とも思える所業。だが、ティアナにだけはその意図が理解できる。
 彼女は、スバルはただティアナを信じているのだ。行けと言ったならば必ず何かしらの策がある。なら、自分はそれを信じるだけだと、余計なことを考える必要は無いのだと。
 だから、胸中で彼女は叫んだ。
(それに応えなきゃどうするのよ!!)
 ティアナが物陰から飛び出す―――クロスミラージュを構え、叫ぶ。
「―――弾けろ!!!」
 瞬間、それまでいた全てのスバルの幻影が爆散する。
「くっ・・・!?」
 閃光と爆煙。セッテの身体が一瞬硬直する。
 ――ティアナはそれまで作り出した全ての幻影の中に魔力球を仕込んでいた。最後の瞬間にセッテの注意を一瞬だけ引き付ける―――そう、ただそれだけの為に。
「・・・っ!?」
 硬直は一瞬。だが、それほどの高速域において、一瞬の硬直とは致命的と=で繋がれる。
「―――振動、集束。」
 左腕/左足を突き出す―――右手を弓を引き絞るように溜め込む
 左足を踏み込む。連動する下半身。腰を回し切る。
 突き出した左腕を“引き込む”/右腕を“突き出す”/滑車のように連結して同時に稼動する両の腕/同時に重心の移動。平行四辺形が崩れる動き/拳はただひたすらに前へ前へと突き抜けることを意識―――拳がそのまま跳んでいくような錯覚。
「・・・・ハアアアアアッ!!!」
 叫びと共に右拳が“発射”される。
 振動破砕というナンバーズの天敵を纏った拳。そこに加速の勢いとスバル自身の筋力と全身の動きを捻じり込んで、突き出す一撃。
 ―――振動拳。
 右ストレートという打撃を極限にまで強化した一撃が、今、到達する。
「くっ・・・ぎ、ああ!!!」
 セッテらしからぬ叫び――両手に既に握り締められていたブーメランブレードによって振動拳の軌道を無理矢理逸らす。
 接触は一瞬。だが、それは致命的な一瞬。
「あ・・・が」
 全身に伝わる振動。骨格が軋む/全身が啼き喚く=膝が折れそうになる→胸のレリックが加速する。
 全身を流れる高純度の魔力を纏った血液――レリックブラッドが沸騰する。
 ナンバーズの劇的な成長――進化の原因。血液状に変換したレリックを肉体に流し込み、肉体を作り変えると言う狂気の業。
 いわば、彼らは戦闘機人でありながら、既に戦闘機人の域を超えている。ジェイル・スカリエッティ曰く―――名をつけるとするならば次世代型戦闘機人(ネクストナンバーズ)。言葉そのままの意味の名称。無論、リスクはある。多大な力の行使にはそれに伴う責任が付き纏うのと同じように、強大な力の行使は、それに見合った負荷が必要となるのだが――それは今、ここで語るべきことではない。
 レリックブラッドが全身を駆け巡る。
 アドレナリンの分泌。赤血球の増大に伴い、臓器に送られる空気量が増加。意識が無理矢理覚醒する。
 覚醒する意識。全身の痛みは治まらない。痛い。痛い。意識が覚醒したことで痛みまでも覚醒したかのように痛みが走り抜ける。
 一瞬ごとに意識が途切れそうになる。起きていることが“痛い”。だが―――
「ああああああああ!!!」
 その痛みを渾身の意思によって“捻じ伏せた”。そして、スバルの拳を受け流し、逆の手に持ったブーメランブレードを振りかぶる。
「くっ・・・!!!」
 当たれば死ぬ一撃。それを回避する為にこちらもその時点で放てる最大の威力の一撃を放つ。
「うおおおお!!!」
「はああああ!!!」
 ブーメランブレードとディバインバスターがぶつかり合う。
 爆発。立ち昇る爆煙。
(外れた。)
 心中で呟くスバル。
(外した。)
 心中で呟くセッテ。
 互いが互いの必殺の一撃を至近距離で放った。唸る豪腕と喚く轟刃。その間隙はおよそ紙一重―――恐らく髪一本ほどの距離でしかない。
 放った体勢のまま互いに硬直する二人。硬直は一瞬。
 錯綜する思考と展開予測。スバルは直感で、セッテは予測で。
 両者、同時にその場から離れる――彼我の距離は約3m。互いに一足の間合いである。
「・・・・」
「・・・・」
 硬直状態。どちらも動けない――否、スバルが動いた。その直感が叫ぶ――行け、と。
 その気配を感じ取り、セッテもまたブーメランブレードに力を込める。こと此処に至れば余裕など一切無い。
 セッテが瞳を閉じる――開く。金色は血色の紅へと変化する。スバルの動きが止まる。それまでとは比較にならないほどの危険信号が鳴り響いた。
「・・・これは。」
 声には僅かに恐れ。それはあの時味わった感覚――鎧騎士との戦いで感じた畏れ。
 増大するプレッシャー。
 セッテの口から紅い蒸気が昇っていく。
 魔力の残滓。
 レリックブラッドの活性化の証拠。
 強大な力が更に強大な力へと変貌する。野犬が孤老となる――そんな変化。
「離れなさい、スバル!!」
 声に反応し、弾かれるようにして、その場を飛び退くスバル。
 瞬間、地面が“崩壊”した。
「!?」
 スバルの顔に驚愕が浮かぶ。
 崩壊に驚いてではない―――崩壊させたモノに驚いて、だ。
 曲線めいたライン。刃の煌き―――重さと鋭さを兼ね備えた質量兵器。それは、紛れも無くブーメランブレード。
 先ほど自分の一撃を捌いたセッテの得物だった。違いが、あるとすれば、ただ一つ。
「紅い・・・」
 スバルの呟きの通り、ソレは紅く輝いていた。刃を奔る炎の曲線。そして、その周囲を覆う空気の揺らめき―――陽炎。
 空気を侵すほどの高熱が、刃から迸っているのだ。
 それは一本だけではない。彼女の周囲を漂う、4本の紅い刃―――ブーメランブレード。
 セッテの血色の如き紅の瞳と同じ色。それが刃から迸り、周囲を侵しているのだ。
 彼女の髪が暴風に揺れる――高温によって生まれる上昇気流。その只中にあって、彼女の身動きは平静そのもの。
 周囲に浮かぶ紅の刃と相まって、神々しささえ感じさせる姿。
 スバルの脳裏に警告が浮かぶ―――本能の奥底。魂の底から。
 ―――死ぬ。
 まず、間違いなく。
「・・・・っ。」
 それでも構えたのは殆ど反射行動に近い。勇気も度胸も何も無い―――ただ、彼女はそれまでの練習通りに構えただけに過ぎない。意思など篭らぬ反射行動。
 ―――セッテが動く。浮かぶ四本の剣の内、二本を掴み―――踏み出す、瞬間、声がした。
『セッテ。それはいけないな。』
「・・・ドクター?」
 声の主は、彼女達の造物主にして、父親でもあるジェイル・スカリエッティ―――無限の欲望。
『それを使えばキミが死ぬ。それは、いただけない・・・キミはまだ死ぬには何も知らない。』
 優しく、強い声。彼女達にとっての絶対の声――安心するココロ/周囲の陽炎が消えていく。瞳の色が、紅から金色へ。
 ずぶり、ずぶり、と空間に“落ちていく”四本のブーメランブレード。
『そう、それでいい。帰って来るんだ、セッテ・・・・・無限の欲望はもう生まれる寸前だ。キミは役割を果たした――十分だ。』
「・・・そうですか。」
 その言葉を聞いて、顔を歪め、微笑む―――安心した笑顔。まるで親に褒められたことを嬉しがる無邪気な子供のように。
「ドクター、門(ゲート)を開きます。」
『ああ、待っているよ。』
 スカリエッティの返答。
 その言葉を聞くと、セッテはしゃがみ地面に手を当てる――右手を中心に生まれる転送魔法陣――黒い孔が開く。
 黒い孔――世界を繋ぐ暝い孔。
 そこに“落ちていく”セッテ―――まるで、その黒い闇に引きこまれるように。
 後には何も残らない。
 影も形も、気配も匂いも、何もかも。
 誰かがそこにいたと言う存在証明全てを消し去って、セッテはその場を去った。
 あとに残されたのはスバルのみ。
 ―――背中を伝う嫌な汗を止められなかった。
 彼女の背後からティアナの声が聞こえる―――その声に少しだけ安堵を感じながら、彼女は前を向く。
 何にしてもこれでシンの元へいける―――無茶ばかりする同僚のことを思い出しながら、彼女は思考を切り替えた。
 闘いは、まだ、終わらない。
 ―――そして絶望は回り出す。螺旋模様に、狂狂(クルクル)と。

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SOWW

Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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