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空想垂れ流し 32.慟哭の雨(c)

32.慟哭の雨(c)


 絶望と言うモノが突然やってくるものだと知ったのはいつのことだろう。
 多分、あの時、母が死んだ事を聞かされた時のことだ。
 父から母が死んだ事を告げられた時―――正直理解出来なかった。
 その数日前まではいつも通りに生活していたのだ。話もしたし、一緒に寝たし、お風呂にも入れ―――はしなかった。
 私はもう子供じゃないからと母と一緒に入らずスバルだけが一緒に入った。
 ―――ギンガはもう子供じゃないからね。
 そう言った母の顔に少しだけさびしさがあったのを覚えている。
 後悔があった。そして、それ以上に悲しかった。
 数日後、母が死ぬなど知らないのだから仕方ないことだけれど―――それでも、その時自分はそれを悔やんだ。
 悔やんで悔やんで悔やんで―――そして、自分は母と同じ道を歩む事を決めた。
 母と同じ技を磨き、母の夢を継いで―――それがはなむけになるのだと信じていた。
 まさか、自分の人生の終わりが、母と同じになりそうだとは思いも寄らなかったけど。

 全身が痛い。
 掠り傷程度の怪我も何十と重なれば甚大な痛みをもたらす怪我に変貌する―――そんな事実を今さらながらに確認する。
 嵐の如き、クアットロとトーレの攻撃から逃れ、ギンガとフェイトは一息をついていた。
 周辺を警戒しつつも、荒く乱れた息を整えていく。
 体力には自信があったギンガだが、今回ばかりはその体力にも翳りが見えていた。
 隣を見る。コンクリートの壁に背中を預け、自分と同じように息を整えるフェイトを見やる。
「フェイトさん・・・・・どうですか?」
 どうですか、と聞く自分自身の語彙の少なさに泣けてくる。この期に及んで気の効く言葉も言えない自分が情けなかった。
「・・・・ちょっとまずいかな。」
 答える彼女の言葉にも力が無い。
 シンやスバル、ティアナと分断され、個別に戦わざるを得なくなった起動6課のフォワード陣。その中で彼女達二人――フェイトとギンガはナンバーズ・トーレとクアットロと戦っていた。
 戦力で言えばフェイトとギンガの相性は悪くは無い―――むしろ最高とも言える。
 味方に合わせることが上手いギンガと単身での戦闘能力であれば6課随一とも言えるフェイト。
 どちらも近接型であることも絡み合い、この二人がペアを組んだ場合の戦闘能力は6課どころか管理局でも
有数の近接魔導師の組み合わせとも言える。
 だが―――現状はそんなスペックとは裏腹に芳しくない。むしろ、絶体絶命とさえ言えた。
「・・・・トーレはともかく、クアットロがね。」
 そう言ってフェイトは周囲の空間を見た―――まるで装いを変えた“世界”を。
 同じくギンガも周りを見る。金色の瞳―――戦闘機人としての力を発揮した彼女の目には様々な索敵能力が
備わっている。それこそ赤外線など様々な視覚では認識できない可視光線までも認識できるような。
 だが―――その“眼”を持ってしてもこの“世界”を看破することが出来なかった。
 そこは、あの場所――シンが蒼い鎧騎士に殺されかけ、フェイトが白い鎧騎士に完膚なきまでに敗北した場所。陸士108部隊の一地方都市―――アルセストと言う西方の都市である。
 無論、現在の場所は違う。彼女達が今いるのはミッドチルダ北部の一地方都市―――アーテルスと言うまるで別の場所である。
 だが、彼女達の視界にはその街は映らない。
 空も、家も、道も―――空気ですらも違うのだ。
 台風の影響で本来なら曇天であったはずの空。それが今は朱く染まっている。
「これが、全部幻影なんて・・・・信じられませんね。」
「うん。こんな幻影、私も見たこと無いよ。」
 クアットロの能力とは幻術である。それは感覚すら騙す高度な幻影を発生させる能力である。けれど、彼女の能力はそれだけだ。こんな在り得ないほど巨大な規模で幻術による世界を作り出す能力など無かったはずだ―――大体、そんな幻術など聞いた事がない。
 それに彼女達を悩ますのはそれだけではない。
 フェイトの上空の空間が歪んだ――波紋が広がる、同心円状に。
「・・・フェイトさん・・!!」
 背筋を走る悪寒。一瞬早くソレに気付いたギンガが声を発した。
「もう、見つかったの・・・・!?」
 即座にその場から飛びのく二人。跳躍―――左方に移動。次瞬、何も無い空間から、間欠泉のようにして紅い光が発射―――その数は軽く数十を超える。
「くっ・・・!」
「ギンガ、直ぐに動こう。ここはもう知られてる・・・・!!」
「はい!」
 掛け声と共に走る二人―――ギンガやフェイトの身体には幾つもの火傷のような紅い傷痕があった。バリアジャケットは所々が破れ、傷だらけになっている。
 先ほど発射された紅い光――何度も何度も放たれたソレを避け切れなかったからだ。
 一瞬前に空間が歪むと言う前兆現象が発生し、その直後に発射される数十の紅い光――熱線。単発の威力は
それほどでもないのでバリアジャケットがあるならば防ぎきれない訳ではない。単発なら。
 だが、クアットロはこれを間髪入れずに豪雨のような発射を繰り返す。それこそ避ける隙間など無いほどに。
 フェイト・T・ハラオウンにとっては最も相性が悪いと言って良い相手である。元々彼女は回避を前提とした
近接型である。攻撃力・速度重視の果てに防御力を削り取っていったのだ。長所を伸ばすと言う彼女自身の方針に従って。
 通常なら掠り傷一つ追う事は無いだろう。当たらないのだから。当たったとしてもたいした怪我をすることもない。
 だが、クアットロのその熱線は全方位から放たれる豪雨の如き攻撃。避けようにも避ける隙間が存在しない――故に耐えることしか出来ない。装甲を削った弊害――防御力の絶対的な低下。通常ならば大した怪我にもならない攻撃は、彼女に対してのみ致命的な攻撃になりかねない。
 故に今、彼女は先ほどまでのような水着もかくやと言う出で立ち―――真・ソニックフォームではなく通常の
バリアジャケット―――ライトニングフォームを着込んでいる。苦肉の策ともいえる延命案である。
 そして、ギンガもまた苦しんでいた。彼女もフェイトと同じく、クアットロと相性が悪いのだ。
 彼女の使う魔法――シューティングアーツとは先読みによる戦闘構築を主とする武術である。
 敵が次にどうしたいのか、どうしようと考えるのか、等の戦闘情報を取得することでそれは成り立っている。
 砲撃魔導師であれば、砲撃の方向・種類・弾速・連射速度・精度・特定の状況における判断などから判断する。
 近接魔導師であれば、攻撃の種類・武装・速度・精度・攻撃の傾向・距離などから判断する。
 ここに共通するのはどちらも相手を観察すると言う行動が必要となることだった。観察の結果、情報を取得し、取捨選択する。これがシューティングアーツの基本的な流れであるが故に。
 だが、クアットロの攻撃はそれが出来ない。何故なら彼女は“姿を隠してただ撃っている”だけで狙ってなど
いないのだから。狙う必要も無いのだろう――大規模に雨のように降り注ぐ魔法ならば狙いをつける必要など無いのだから。
 クアットロは狙わない。大体の場所さえ分かれば、そこらへんに向けて適当に攻撃を放てば良いだけだからだ。当たる当たらないはそれほど問題ではないのだろう。ただ、ギンガとフェイトの動きを阻害するというそれだけの意味合いしか、そこには存在していない。
 故に避けられないし予想できない―――する必要も無い。狙わず適当に撃つ―――逆を返せば決して予想
されないように徹底しているのだ。
 攻撃に対する対処法も見つけていないギンガが情報取得など出来ないように。
 敵の姿は見えない。熱線の出所は分からない。その上、狙いをつけることも無い徹底した無差別射撃。情報を
取得しようにも取得できない状況―――シューティングアーツにとっての鬼門である。
 そして問題はそれだけではない。
「はあぁっ!!」
 裂帛の気合と共に振り下ろされた紅い大剣―――インパルスブレード。
 全身を紅く染め上げ、目にも映らぬ速度で追い縋る――猟犬の如く。
 一撃の威力はそれこそフェイトのライオットザンバーにすら比肩するほどの威力である。
 ナンバーズ・トーレ。紅い翼の魔人。
 幻惑から放たれる熱線による無差別攻撃と超高速から放たれる必殺の一撃。
 数の暴力と威力の暴力。組み合わせとしては最高―――彼女達にしてみれば最悪――だった。
 どちらか一人だけなら対処も出来たかもしれないが、現実はそれほどに甘くは無い。絶体絶命―――既に終わりは見えていると言っても良い。
 紅い刃が迫る―――狙いはフェイトの首筋。一息で彼女の首を撥ねるつもりなのだろう。
(諦めるな・・・諦めたらそこで終わる・・!!)
 大剣の姿となったバルディッシュアサルトを握り締め、その一撃を受け止める。
「くっ・・・・ああっ!!」
「ちいっ・・・!」
 紫電が走る。焔と雷の鬩ぎ合い。
 全身の筋力を総動員して、インパルスブレードを受け止める。両者の体勢は鍔迫り合い―――好機到来。その一瞬を逃すことなくギンガの足が動いた。
「ナックル―――」
 唸る刃金。回転するリボルバーナックル。土煙を上げて加速するブリッツキャリバー。一瞬で最高速に到達。
 魔力を集中し、全面に展開。正拳突き――穿ち貫く。
「バンカーッ!!」
 叫びと共に左拳の一撃が放たれる。前傾姿勢となって、全体重を込めた全力の一撃。必殺の一撃とはいかない
までも、必倒程度の威力は込められている。
 鍔迫り合いに集中するトーレはそれを避けられない。ギンガの一撃を避ければフェイトがすかさず攻撃する
だろう。フェイトとの鍔迫り合いに集中したならばギンガの一撃が届くだろう。
 手詰まりの状況―――だが、トーレはギンガを気にすること無く鍔迫り合いに集中する。ギンガの攻撃を
気にする必要など、無いからだ。
 何故なら―――
「・・・・私のこと、忘れてません?」
 ギンガの背後から放たれた声。視界に映りこむ熱量の反応。1,2,3,4,5,6・・・・・瞬き一つの間で視界全てを埋め尽くす熱量反応―――紅い光の雨。
「っ!?」
 瞬時に転進し、右前方に向かって力の限り跳躍―――瓦礫だらけの道路に突っ込むようにして着地、瞬間後方で小さな爆発。振り返れば、それまで自分がいた場所から煙が上がっていた。
「あら、残念ですこと。もう少しで命中するところでしたのに。」
 残念そうに、笑いながら呟くクアットロ―――それまではその場所に彼女の姿などなかった。隠れていたのか、それともこれも幻影なのか。
 どちらにしろ、誘われたと言うこと。ぎりっと奥歯を噛み締め、ギンガはクアットロに突進する。
 加速するギンガ―――十数m先ではフェイトとトーレが未だ鍔迫り合い/膠着状態の様相を呈している。
 クアットロは攻撃をしない―――もしかしたら、そこにいるのは本物ではなく幻影なのかもしれない。
 だが、それでいい。それで十分だった。猶予が欲しかった―――必殺を行うだけの猶予が。
「ブリッツキャリバー・・・!」
 背負い投げの如く身体を前傾させ、カートリッジを連続で3発リロード。跳ね上がる魔力量。
 彼女の考えていることは簡単なこと。I・Sであろうとなんだろうとそこに魔力が絡んでいるのは間違いない。原理や構造は違えども、この幻影は魔法に近い側面を持っているのだ―――現に魔力素の気配だけは消せていない。
 だから、この幻影が、魔法に近い構造なのだとすれば―――壊せるかもしれない。
(幻影ごと―――衝き破るっ!)
「リボルビング―――!!!」
 左手に魔力が集中し、渦を巻く。左腕から張り出した翼の如き積層型トライシールドが、回転し、集束し、
螺旋じれていく。形状変化―――翼は杭へと変わる。撃ち貫く最適の姿へと。
「ステ―――クッ!!」
 左腕を突き出す。クアットロに命中――その姿が消える。予想通りに幻影。気にしない。構わずに
そのままリボルビングステークを撃ち放つ。放たれる“魔法殺し”の杭―――それが魔力素を使用した技術で
あるなら、魔法であろうとI・Sであろうと関係ない―――魔力の螺旋が食い荒らすのは魔力素が構成している
と言う骨組みそのもの。幻影が魔力素を使用しているなら、必ず破壊出来る―――コレはそういう魔法なのだから。
 “手応え”が届く。予想通りにこの幻影は魔力を使用している―――手応えは魔力破壊の手応え。
 ―――空間が割れた。閉じられた箱庭である幻影が壊れる。
「壊せた・・・!」
 壊れた幻影のその先―――現実の世界。そこに、朱く燃え上がる炎が見えた。3対1と言う圧倒的に不利な
状況であっても構わずに突っ込んでいく朱い炎を纏った戦士。
 見覚えのある姿。その出で立ちを見間違えるはずがない―――彼女がそれを間違えるなど絶対にありえない。
 例え100m先の人ごみの中にいようとも絶対に見つけ出す確信があるのだ――間違える訳が無い。
(シン。)
 シン・アスカがそこにいた。こちらのことなど関係無しに戦っている。
「この“詐欺師(フラッドロ)”の結界を壊せすなんて・・・・ゼロ・ファースト、貴女一体どんな手品を使いましたの?」
(クアットロ!?)
 背後から聞こえた声に即座に振り向く。
 知覚出来なかった。気配など皆無。動いた様子も無い――否、初めからこちらの五感は完全に捻じ曲げられているということを考える
 視界一杯に広がるクアットロの右手。避ける暇すらなく、その右手がギンガの額を掴んだ。
「・・・・・揺らしてあげますわ。」
 ぞくりと背筋を震わす悪寒/恐怖。身体を反り返らせるようにして後退――クアットロの瞳と眼が合う。
 爛々と輝く朱い瞳。その瞳の中心に浮かび上がる戦闘機人の証――金色。知覚出来たのはそこまでだった。
「がっ!?」
 頭が後方に吹き跳んだ―――衝撃。視界が定まらない。湧き上がる吐き気。抑えられない。足元もおぼつか無い。膝を突いた。胃が軋む。凄まじい胸焼け―――堪らず嘔吐。黄色い胃液が吐き出された。
「は・・・あ・・・あ。」
 屈辱や恥辱を感じる以前に湧き上がる疑問。理解できない。
「あらあら、吐き出すなんて汚いですわね・・・それとも、ゼロファーストにはそういう趣味でもお有りですこと?」
 軽い侮蔑の口調―――酷く楽しげに。
「あな、たは・・・・つっ!?」
 頭を踏みつけられた―――地面にギンガの顔がぶつかる。埃が口の中に入った。胃液の匂いが鼻に付く。頬に触れる吐瀉物。
「そういうのが好きなら・・・・協力してあげましてよ。こういう風に・・・ねっ!!」
 足に体重が掛かる。顔が潰されそうになる。骨が軋む。
「く、そっ・・・・!!!」
 全身の力を振り絞って足元から顔を外す。地面と頬が擦れる。頬から流れる血。刺すような痛み。
 そのままの勢いで身体を回転させ、右足を跳ね上げる。逆立ちするような体勢でクアットロの顎目掛けて
突貫する右踵。それを予想済みだと言わんばかりにクアットロは身体ごと後退することで回避―――背中を晒し
無防備なギンガに右手を向ける。
「爆ぜなさい。」
 呟き。空間に浮き出る波紋の如き同心円上の歪み―――朱い光が輝き出す。
「ひぎ、あぁっ!?」
 咄嗟に背中にトライシールドを展開―――重要な臓器などの致命的な箇所だけを防御。代償として四肢などの
末端に痛みが走る。爆発。衝撃。吹き跳ぶ――着地しようとして、失敗。足がもつれた。体力が削り取られている。
 転がりながら、着地。肘と膝から血が流れ出る。
「・・・・う、ぁ・・・」
 力無い呟き――声にも力が入らない。膝が笑っている。砕けそうになる腰。
 全身に力が入らない――終わりが見えている。かつて無いほどに明確な終わりが。
(死ぬ、のかな。)
 折れそうになる心―――絶望が肩に圧し掛かる。
 母が任務で死亡した時の状況は数の暴力で攻め抜かれた挙句だとか。同じようにして、自分も此処で死ぬ。
(・・・・何を弱気になってるのよ。)
 痛む身体に鞭を打ち、ギンガは立ち上がる―――その様を見てクアットロが更に微笑むのが見えた。嬲り甲斐があるとでも思っているのかも知れない。
(この、ドS・・・・頭腐ってるわよ、本当に。)
 心中はまだまだ元気に毒づいている――殆ど空元気でしかないが。
『ギンガ、大丈夫!?』
 念話が届く。その方向に視線を向ける。フェイトとトーレの剣戟が見えた。
(やっぱり、フェイトさんは・・・・強い。)
 隙を突かれたとは言え一瞬で打ちのめされた挙句に嬲られた自分と違い、フェイトは未だトーレほどの手練れと剣戟を繰り返している。
 ギンガの見たところ二人の間に実力差は無い―――何らかの処置か訓練によって依然とは比べることすらおこがましいほどに強くなったトーレとフェイトは互角なのだ。
 やはり自分よりも格上なのだ、フェイト・T・ハラオウンは。
 そんな恋敵に悔しさと誇らしさの入り混じった複雑な気持ちを抱きつつ、彼女は笑う膝に力を込めて、腰を
下ろすことを断固として拒否し、思考を開始する。
 問題点の抽出――現況の把握。
 結末は決まっている。ギンガ・ナカジマは此処で死ぬ。
 そして、自分が死んだ場合はフェイト・T・ハラオウンも死ぬだろう。現在、トーレと互角なら、クアットロが
加勢したなら確実に殺される。
 考えるまでもない。それが現実だ―――それだけは避けなけねばならない。でなければ、“彼”が苦しむことになるのだから。
(せめて・・・・フェイトさんだけでも生き残れるように。)
 悲壮な決意/自己犠牲。
 それすら視野に含めて、ギンガは思考を進める。
 フェイトを生き残らせるためにはどうするべきか―――その自己犠牲を。
 現在、予想される最も最悪な未来。それはクアットロの幻術で惑わされた上で、放たれるトーレの必殺必中の
一撃。目にも映らぬ動きから放たれるその一撃は回避など絶無の文字通りの必殺となるだろう。
 現在、フェイトが渡り合えているのは1対1だからであり、2対1になればその時点で勝負は決まる。間違いなく二人とも死ぬ。
(だから、クアットロの幻術さえ破れば、いい。少なくともソレでフェイトさんは逃げられる。)
 つまりこの状況を打破する為には、“可能な限り早く幻術に対する対抗手段”を見つける必要がある。少なく
とも彼らが連携を始める前に、だ。
 それが大前提であるのだが―――
 目前でこちらをニヤニヤと眺めるクアットロを見る。
(・・・・今、あそこにいるクアットロは間違いなく本物。あの性格ならトドメは必ず自分でするに違いない。)
 サディスティックな人間は総じて“自分が嬲る”ことにこそ快感を覚える。自分以外に任せて終わらせる
ことなど決してしない。
 だから、あそこでこちらを眺めるクアットロはまず間違いなく本物なのだ。
 ナンバーズとはいえ戦闘型でない彼女の肉体強度はそれほど強くは無い。はっきりいってギンガならば
一撃で彼女を昏倒させることが可能である。
 だが、ギンガの身体は見るまでも無いほどに傷つき疲弊しきっている―――その一撃を撃ち込む力が最早
存在していない。
 だが、“だからこそ”映える策もある―――そう、一つだけあるのだ。
 脳裏に浮かんだ策は、策とも言えない行き当たりばったりのモノだった。
 それは八神はやてがシンにやらせようとしていたことと似て非なること―――自らを囮にし、クアットロに
近づかせ、倒す。それだけ。
 近づく力は無い。だからあえて近づかせ残された力を用いて相撃ち覚悟で攻撃する。
 通常のギンガならば決して考えないであろう策にもならない策。むしろ、こういった策はギンガではなくシンが望んでやるようなことだろう。惚れた男と似たようなことをして死ぬ―――そんな皮肉めいた運命に苦笑したくなる。
 馬鹿げた話、それを思い出すと少しだけ嬉しい。シンの気持ちをもっと深く理解できる――そんな気持ちを覚えて。
(・・・シン、ごめんなさい。)
 決意を胸に乙女は顔を上げた。瞳には決意と言う名の焔が灯っている。
『フェイトさん―――あと頼みますね。』
 念話による通信。相手には聞かれないように―――振り向くことなく伝えた。
『ギ、ギンガ!?』
 瞳だけをそちらに向ける。こちらを見る彼女の視線と合う―――瞬時にこちらの意図を理解したのだろう。と言うかこの状況ではそれくらいしか打開策が無い状況なのだから当然と言えば当然か―――もしかしたら、彼女の冷静な部分は
自分と同じ結論に達したのかもしれない。彼女はそれを決してやらせないだろうけど。
『ギンガ、絶対に駄目だよ!そんな、そんなのは、絶対に・・・!』
 念話の向こうでフェイトが叫んでいる―――それをギンガは優しげに微笑んで、返事を返す。
『・・・・死ぬつもりはありませんよ。だって―――』
 それは明らかな死の旋律。自分自身でさえ嘘だと思えるような、お粗末な嘘。
『この戦いが終わったら、シンに返事もらわなきゃならないんですから。』
 そこで通信は途切れた。
 フェイトは何も言えないまま、トーレとの剣戟に集中し―――そして後悔する。
 ―――それはあまりにも呆気ない、まるで嘘のような展開だった。
 クアットロがギンガに近づき、トドメを刺そうとするのが見えた―――その時、ギンガが動いた。
 恐らくは最後の力を振り絞っての突撃。左腕に現れる積層型トライシールドが形状変化し、杭となり、現れるはリボルビングステーク。放たれるその必殺。
 近づきすぎたクアットロには回避する術など無い――いや、クアットロには回避する必要など初めから無かった。
 クアットロの右手に集まる一際大きな朱い光。先ほどまでの熱線を収束したのだろう。見るだけで威力の程が
理解出来るほどに。
 そして―――閃光。爆発。昇る塵煙。
 フェイトが確認出来たのはそこまでだった。
 次の瞬間、そこには――――クアットロしかいなかったから。
 ギンガ・ナカジマは、跡形も無く、消え去っていた。そこに彼女がいたと言う事実さえ無かったかのように。
 “嘘”みたいに彼女は綺麗に消え去った。
「・・・・ギン、ガ。」
「・・・・終わりだ。」
 インパルスブレードに力が込められる―――呆けた一瞬その隙を突いて。
「くぅっ!!」
 思わずその一撃を捌ききれずに吹き飛ばされる。彼我の距離が開いた。その距離凡そ10m。
 ―――トーレの瞳が紅く輝く。そして、クアットロがこちらを見た。その紅の中に金色を隠し持った瞳で。
 それを見て、フェイトは確信する―――間違いなく自分“も”此処で終わるのだと。
「・・・・・フェイト・テスタロッサ。ここがお前の終焉だ。」
 言葉にされるまでもなく彼女はソレを理解する―――が、身体はその事実を裏切って突進した。思考は漂白し、何も考えられない。
 ただ、自分の恋敵がいなくなったことが信じられなくて、悔しくて―――果たすべき約束さえ忘れて彼女は突撃する。
 金色の閃光と紅い翼が激突する。
 ―――こうして、絶望は揃い終わり、時計のように廻り出す。

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SOWW

Author:SOWW
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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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