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空想垂れ流し 22.襲撃と休日と(f)

22.襲撃と休日と(f)


 フェスラに連れられて歩く事十数分。街中だったはずがいつの間にか路地裏に入っていき、辿り着いた先―――そこには「定食屋赤福」と大きく朱い文字で書かれた看板があった。
「・・・・・定食屋赤福?」
「ここね、知る人ぞ知る名店なのよ。」
 怪訝な顔で呟くシンを見てフェスラが得意げに呟く。
「へえ、こんなところにこんな店あったんだ。」
「なんか美味しそうな感じがしますね。」
「美味しそうな匂いがする・・・・」
 店構えを気に入ったのか、フェイトは店内を覗きこむ。
 どこかワクワクしているその様子は未知なるものへの好奇心・・・・それと同時に「シンに奢ってもらえる」と言う状況そのものが嬉しいのも関係しているのだろう。それに追随するようにして同じく店の中を覗きこんでいるティアナとスバル。
 匂いを嗅ぎ取れば、非常にいい匂いがする。二人の胸で期待が高まっていく。ついでにティアナは非常にほっとしていた。
(・・・・とりあえず風向きは変わった。あとは食べ終わって、退避する。これでいい。)
 虎穴からの脱出はならずとも出口に向かって身体の向きを変える程度は出来た。とりあえず一触即発と言った空気は変わり、今は和気藹々とした雰囲気である。その事実にひたすらほっとするティアナ。実際、本気で怖かったのだ。
 後ろをとぼとぼと歩くシンを見る。財布の中身を見ながら溜め息を吐いている。
(ごめんね、シン。今度ジュース奢るから。)
 全くもって釣り合いが取れていないのはお約束である。
 ティアナが勝手にシンに謝っている中、シンはトボトボと歩いていた。横にはギンガが連れ添っている。
「何で俺が・・・・」
 とぼとぼと歩きながらそんな皆を見ながら盛大に溜め息を吐くシン。
「ま、まあまあ。」
 彼の傍らに佇むギンガがそんなシンを慰める。
 彼女自身、シンに奢ってもらえると言う状況に舞い上がって、彼の財布事情をまるで考えていなかったコトに多少の罪悪感を感じていた。というよりもシンが奢ると言う状況が想像出来ずどんな反応をするか全く分からなかったと言うこともある。
「・・・・とりあえずこうなったら好きなだけ食べますよ。・・・・・俺の奢りなんだし。」
 呟き、再び財布を見る。ティアナの提案でここに来る事が決定した時、シンは途中のコンビニのATMでわざわざ卸してきた。
 札束―――とまではいかないが、それなりの量である。持てば重量はともかくその膨れ上がったボリュームに誰もが目を惹かれるだろう。
 奢ると言った以上は奢るべきであり、それが当然だ。そもそもこれほど盛り上がった皆を見れば止めるのも気が引ける。
 だが、それでも彼は正直不安だった。
 ―――足りるのか?
 彼自身はあまり金にうるさくないが、それでもこれだけの人数に奢ると言うのは流石に気が引けるというか、どれだけかかるのか不安になる。
 何故ならスバルがいるからだ。シン自身もよく食べる方だが―――それ以上にスバルの食べる量は多かった。
 シンと同等もしくはそれ以上。
 ありえないとは言えないまでも常人からするとありえない量である。
 フードファイター一歩手前。修行次第ではフードファイターに再就職も十二分に可能だろう。
 そんな人間が奢る相手にいるのだ。正直、後が怖かった。
「スバルが・・・・食い過ぎなきゃいいけど。」
「あ、あはははは。」
 何も言えない。と言うか笑うしかない。自身の妹である以上そのことをよく知っているからだ。
「まあ、もう、気にしても仕方ないですけどね・・・・・・」
「シーン、何してるの―――!」
 フェスラの呼び声。入り口を見れば既に前方を歩いていた集団の姿はない。
 いつの間にか全員既に入店し、座っている。
「ギンガさん、俺たちも行きましょうか。」
「そうですね。」
 顔を突き合わせて、頷く二人。
 古びた入り口の前に立ち、暖簾を手でよけて中に入る。店内を見る。古びた外観に準じて内装も古びている。木造仕立ての内装―――いわゆる最近ミッドチルダに増え出している和風の店と言う奴だ。店内にはテーブルが6つ。それとカウンター席が同じく6つ。その先に厨房が見える。厨房ではオレンジの髪をした男性が料理を作っていた―――年齢はシンよりも少し上くらいだろうか。帽子に隠れて顔は見えなかったが。
「――――いらっしゃい。」
「っ―――」
 突然、横から声がした。全く気配を感じなかった。切り替わる思考。日常から戦闘へ。シンは咄嗟に懐に仕舞い込んである待機状態のデスティニーに手を掛け―――起動しようとしたところで思い直す。見えた顔に見覚えがあったからだ。
「・・・・・・グ、グラディス!?」
「君は・・・シン?それにギンガ君かね?」
 そこにはギルバート・グラディス―――シンが“あの”街で出会った仮面の男がいた。
 以前と同じに艶めいた長髪を後ろで束ねている。服装は以前のようなスーツ姿にエプロンと言う出で立ち。
 驚きのあまり、パクパクと口の開け閉めを繰り返すシンとギンガ。
「あ、アンタが何で・・・」
 その返答を聞き、グラディスがふふんと笑いながら、眼鏡の位置を直すように仮面の位置を正す。
「何で、とは失礼だね、君も。」
 芝居がかった仕草で店内を手で指し示す。
「この赤福は私の店だからね。私がここにいることは当然だ。むしろ、君達がここにいることの方が驚きだ。旅行かね?」
「あ、いや部署変わって・・・・」
 呟くギンガ。シンも頷く。その二人の様子を見てグラディスはいやらしそうな笑みを浮かべる。
「ほう。転勤かね?二人揃って?」
「あ・・・ああ。俺とギンガさんの二人共な。」
「仲の良い事だ・・・・まあ、社内恋愛も程ほどにね。」
 一瞬、ピシリ、と空気が緊張する。赤面する二人を睨み付けるフェイト。フェスラはその様子を面白そうに見つめる。
 スバルは現実逃避しているのか、必死にメニューを眺める。ティアナはもはやどうにでもしてくれと言わんばかりに雑誌を読み耽っている。
「な、」
「な、何馬鹿なこと言ってるんだよ、アンタは!!」
 嬉しそうに赤面するギンガの言葉を遮ってシンの叫びが店内に響く。
「・・・・ふむ、何だ、そういう仲じゃないのかね?」
「違うって前も言っただろ!?」
 その横でショボンとするギンガ。「そんなに否定されると悲しくなっちゃいます。女の子だもん。」と顔に書いてあるような表情である。
 そんなギンガを哀れむような表情で一瞬見て、グラディスは溜め息を吐き、呟く。
「ふむ。まあ、どちらでも構わないんだが・・・・」
「いや、だから・・・」
「入り口にずっと立たれているのもおかしな話だ。とりあえず席についてもらえないかね?」
 そう、言われて自分たちが入り口で立ち往生していたことに気づく。
「そ、それもそうだな・・・・座りましょうか、ギンガさん。」
「あ、はい。」
 シンに施されてギンガも中に入り、皆が座っている円形のテーブルに座る。
 シンの隣にはギンガ。その隣にはフェスラ。その隣にはスバル、ティアナと続き、フェイトが座っている。悔しそうな顔のフェイト。ティアナは決してそちらを見ないようにしながらメニューを眺める。スバルも同じく。
 ギンガは何だかんだでシンの隣に座れたのが嬉しいのか、微笑みながらシンと一緒にメニューを眺めている。フェイトの方には目もくれない。フェイトは仕方無しに自分の前に立てられているメニューを手に取り、眺め始める。
 誰も店長とシンやギンガが知り合いだったことを話題には出さなかった―――ティアナやスバルは怖くてそれどころではなかったし、フェイトはシンの隣の席に座れなかったことを悔しがっていてそれどころではなかったし、フェスラは何故か先ほどから厨房の中をじっと見つめていた。
 そこでここまでメニューを眺めることすらせずに厨房を眺めていたフェスラがグラディスに視線を向けた。
「店長、ニシカワさんいるの?」
「ああ、今日はフルタイムだ。」
 フルタイム。そう聞いた瞬間フェスラの唇が釣り上がり、好戦的な微笑みが現れる。
「・・・・そっか、じゃ、私アレお願いできる?」
 “アレ”。その言葉を聞いた瞬間、グラディスの瞳が細まり、緊張が走った―――そして、間断なく言葉を発する。
「了解した―――ニシカワ君、オーダーはスペシャル一式だ。」
「―――了解しました。」
 返答は速やかに。厨房からガチャガチャと音がし始める。にわかに騒がしくなり、心なしかグラディスの顔にも険しさが通り抜けた。
 そんな厨房に漂い始めるピリピリとした緊張感に首を傾げながら、シンは彼らのテーブルの前で注文を待っているグラディスに声をかけた。
「なんでフェスラのだけ初めに頼んだんだ?」
 その言葉を聞いて、目を丸くするグラディス。そして、フェスラとシンの顔を交互に見合わせる。
 グラディスのその様子を見てフェスラが「ふふん」と笑う。
 その笑みで納得したのか、グラディスがニヤリとした笑みでシンを見た。
「そうか、君は彼女がどんな女性か知らないのか。」
「実は今日知り合ったばっかりなの。それで親睦を深めようと、ここに来た。そんな感じ。」
「親睦を深めに・・・・・君も人が悪い。驚かせようと思ったの間違いじゃないのかい?」
 呆れた顔でフェスラに向けて呟くグラディス。それは悪戯好きの子供に呆れたような顔だった。
 再び首を傾げるシン。話の内容がよく分からない。
「驚かせる?」
「ふふ、気にしない、気にしない。それよりもシンと店長が知り合いって言う方が私は気になるな。」
 ずい、と顔をシンの傍に寄せるフェスラ。思わず仰け反ってそれから離れようとするシン。
 ニヤニヤとシンのその反応を楽しむようにフェスラはその体勢を崩さない。
「ん・・・・ああ、俺らはここに来る前に一度会ってるんだ。」
「ここに来る前?」
 その問いにギンガがシンに代わって答える。表情は笑顔。しかし微妙に血管が浮き上がった額が印象的である。その隣で興味深そうにその話を聞くフェイト。どうやら自分の知らない部分の話なので興味深いようだ。
「少し前に転勤してきたんです、私とシンは。」
「へえ・・・・その時に店長に会ったんだ?」
「ああ、そうだ・・・・って、まさかこんなところで会うとは思いも寄らなかったけどな。あ、注文いい?」
「ああ、というよりも私はそれをずっと待っていたのでね。・・・・では何かな?」
 皮肉げに笑いながら懐からメモ帳とボールペンを取り出すグラディス。
 それを見て、シンがメニューを覗きながら注文を始める。
「えーと、俺はカツカレー大盛のラーメンセットで。ギンガさんは何するんですか?」
「わ、私はオムライスをお願いします・・・・・って、何笑ってるんですか、シン!?」
「あ、いや、結構子供っぽいなあと思って。」
「い、いいじゃないですか、好きなんですし!!」
 シンとギンガがメニューについて言い合っているその横。スバルとティアナも注文を頼んでいた。
「私もカレーライス。で、アンタは何するのスバル?」
「うーんとね・・・・私はここらへんかな。」
 そう言ってメニューの半ばあたりを指で丸を描くように指し示す。シンの表情、硬直。ギンガの顔が引き攣る。
 場が沈黙。というよりシンが沈黙する――すぐさま再起動し、立ち上がってスバルに向かって怒鳴りつける。
「ちょっと待て!!何だそのここら辺って言うのは!?」
「・・・・・オムライス大盛に・・・・トマトとチーズのサラダに・・ピッツァマルゲリータ、あとは・・何コレ、あんかけスパゲティに味噌カツ?美味しいの?」
「聞いたこと無いから試してみたいと思って。ほら、シン君の奢りだし」
 聞いてない。まったくもって人のは無しを聞いてない。シンの財布事情など知ったことかとばかりに駆け抜ける。
「いや、聞けよ、人の話!!」
「じゃ、私もあんかけスパゲティ追加で。」
 それに便乗するティアナ。こっちも最悪です。
「アンタら、ちょっとは遠慮しろ!!」
「ま、まあまあ、シンも抑えて抑えて・・・・そういえばフェイトさんは何するんですか?」
「・・・・・こ、これ頼んでもいいかな?」
 そう言ってフェイトが指し示すメニュー。
 そこには「特別メニュースペシャル。値段は応相談」と書いてある。
「・・・・・・スペシャル?値段・・・応相談?なんだこれ?」
「す、凄い気になって・・・・」
 怪訝な顔で呟くシンにフェイトが俯きながら呟く。少し図々しいとでも思ったのかもしれない。そんなフェイトの様子を見て、シンは被りをふってグラディスに顔を向ける。
「グラディス・・・これ、値段応相談って・・・・どういうことだ?」
「ああ、これは少し特殊でね。要するにランチセット“みたいな”ものだ。試してみるかね?君ならば・・・・ふむ、そうだな、Sくらいだろう。ちなみに値段は・・・・そうだな、カツカレーと同じくらいだ。」
 具体的な数字を言われ、もう一度メニューに目を通すシン。思考する。値段の計算。正確な計算ではなく、おおよその概算である。少し真剣な顔で暗算を繰り返すシン。その表情に押されたのか、フェイトが申し訳なさそうにし、シンに声をかけようとしてかけられないでいる。
「あ、え、えーと・・・」
 おどおどとするフェイト。そんな彼女を見て、シンは自身の財布の中身と相談する。黙考。そして溜め息一つ。
 息を吐きながら、フェイトに向かって力無く呟いた。
「・・・いいですよ。フェイトさんも好きに頼んじゃってください。」
 シンの言葉を聞いて、フェイトの目が再び輝き出す。
「じゃ、じゃあ、それで!!」
 シンはその言葉を聞いてグラディスの瞳の奥がにわかに光った―――ような気がした。
 すうっと息を吐き、グラディスが見た目に似合わない大声で叫んだ。
「ニシカワ君、オーダーだ!!カツカレー大盛のラーメンセット、オムライス一つ、カレーライス一つ、オムライスの大盛一つ、トマトとチーズのサラダ一つ、ピッツァマルゲリータ一つ、あんかけスパゲティ二つに味噌カツ、そしてスペシャルSだ!!」
「了解しました、店長!!」
 そんなグラディスと厨房にいるであろう料理人の応対に何か懐かしいものを感じるシン。
(・・・どこかで聞いたことあるような。)
 そうやって一瞬浮かんだ疑念は傍らのギンガやフェスラ、フェイト、そしてティアナやスバルとの対話の中で泡沫の如く浮かんでは消えていく。
 懐かしい。その言葉の意味を反芻することなく。

「ふう、食べた。食べた。」
 フェスラの声が響く。時刻は既に3時を過ぎている。都合、4時間近くも昼食に費やした計算になる。
「・・・・・・在り得ない。」
 ぼそり、とギンガが呟く。テーブルの上にうず高く積み上げられた巨大な皿。その数は20。
 つい数時間前まではその全ての皿に料理が乗っていた光景を憶えている一行はその変化に恐れすら抱いて、呆けていた。

 まず、初めに誰もが言葉を失った。
 フェイトとフェスラを抜いた全員の前にメニューが行き渡り、届くのを待っていた時、フェイトの横にグラディスが料理を持って現れた。持って来た料理。その威容に言葉を失ったのだ。
 先ほどフェイトとフェスラが頼んだ“スペシャル”。それは名前の通りに特別なメニューである。その料理の内容が、ではない。料理の量が、である。
 要するに大食い用のメニューである。俗に言うデカ盛と言う類の料理だ。フェスラがこの店を隠れた名店と言ったのは、大食い好きの人間たちにとってと言う意味である。そんなものがクラナガンの観光ガイドに乗るはずが無い。
 フェイトが頼んだ“S”とはショートと言う意味である。つまりは“短い”。運ばれてきた料理は、故に3つ。カツカレー特盛、チャーシュー麺特盛、ハンバーグ特大。そして健康に気を使ってハンバーグに付け加えられる特盛のキャベツである。
 一杯一杯のドンブリの大きさはミッドチルダに最近増え出した牛丼チェーン店の特盛の凡そ3倍ほど。肉汁溢れるトンカツ。格調高い香りが食欲をそそるカレー。澄み切った琥珀色のスープの熱で温められとろけそうなチャーシューとシナチクと葱、そして縮れた麺。実に基本的な構成でありながらその見た目が醸し出す旨さは食べる前から既に上物を予感させるチャーシュー麺。そして、内から肉汁を溢れさせながらもしっかりと引き締まったハンバーグ。その上にかかる褐色のデミグラスソースの複雑で芳醇な香りが恍惚を引き出す。目算でその大きさは、長径で約50cm、短径で約30cmの楕円形。付け合せに添えられたキャベツ―――うず高い山のような―――が圧巻であった。
 見た瞬間、皆の顔が引き攣った。そして視線が一斉にフェイトに集中した。
 フェイトは呆然と目の前に運ばれてきた料理―――恐らくは彼女の人生で初めて目にしたであろうデカ盛された料理の群れを。
 その瞳に浮かぶ輝きは恐怖―――さもありなん。それは食と言う世界に舞い降りた怪獣である。
「ああ、言い忘れていたが時間制限は無し。とにかく食べ切れば無料だよ。無論食べ切れなかったなら相応の料金をもらうが・・・君の場合は よく知らなかったようなので今回はサービスとして、皆で食べても良い事にしておこうか?」
 その言葉に涙さえ浮かべ、うんうんと頷くフェイト。その光景を見てほっとする一同。この手の店の傾向として一人で全てを食べ切るのが大前提である。考えるまでも無くフェイトには無理だ。と言うかこの場にいる全員が無理だ。スバルですら顔を引きつかせているのだ。
 誰もが思った。ここは魔窟だと。
 だが、次に運ばれてきた料理。それが今度こそ一同の度肝を抜いた。
「では、こちらがフェスラ君が頼んだスペシャル一式の“開始料理”だ。」
 ずどんと置かれたカレー。巨大な皿に小高い丘のようにして盛られたカレーライス。
「全20品の特盛の嵐、その名を“スペシャル一式”―――はたして君に食べきれるかな?」
 不敵に、グラディスが宣言し、フェスラに指を付きつける。その宣言に挑むようにフェスラが不敵に微笑んだ。呟く。
「・・・愚問ね。既にフルコースは制覇しているのよ?あの時は用事があって食べ切れなかっただけ。―――あまり、私を甘く見ないことね?」
 そんな二人の様子を見て、一同は声を上げることすら出来なかった。
 スペシャル一式。定食屋赤福の名物料理にして未だ誰も完食出来ていないデカ盛の満漢全席とも言うべきフルコースである。
 特盛カレー。特盛シチュー。特盛カツ丼。特盛チャーシュー麺。特盛ビーフシチュー。特盛ミートスパゲッティ。特盛シーザーサラダ。特盛カキフライ。特盛天丼。特盛鍋焼きうどん。特盛ざるそば。特盛ハンバーグ。特盛パエリア。特盛温野菜
盛り合わせ。特盛オムライス。特盛サンマの塩焼き。特盛豚肉の生姜焼き。特盛ミックスサンドイッチ。特盛ミックスピッツァ。バケツプリン。
「食べるわよ、店長。料理の準備は出来てるの?」
「無論、完遂だ。」
 フェスラの料理が先に注文されたのはこの為だ。大食い料理を出す以上、そこに停滞があってはならない。それが大食い料理を出す店の誇りであるが故に。
 フェスラがスプーンを手に取り、カレーライスにつけ、口に運ぶ。その動きは淀み無く、ペースを崩すことなく進み往く。
 皆が彼女に合わせるようにして、料理に口をつけ始める。そして漏れる感嘆の溜め息。実に旨い。正直、これなら毎日通ってもいいくらいだ―――その場にいる誰もがそう思うほどに。
 フェイトは恐る恐ると言った感じでまずはカレーに口をつけた。美味しい。加速するスプーン。減らないカレー。
「・・・・・・」
 溜め息が漏れる。とりあえず美味しく食べようと思った。皆が助けてくれるはずだ、と。と言うかそうでなければ無理である。
 フェスラの方を見る。
「今日のカレーは・・・・んぐ、前と味が違うわね・・・スパイス変えたの?」
「分かるかね?ガラムマサラの配合を少し変えてみたんだがね。悪く無いだろう?」
 カツカツとスプーンを皿に運び、淀みなく食べ続けていた。顔色一つ変わっていない。
 既にその半分は消えていた。
(はやっ!!!?)
 目が飛び出すような衝撃を受けた。自分は未だに3分の1も終わっていないと言うのに、フェスラは既に半分を食べ終えているのだ。あの細身の身体のどこにそれが収納されていくのか。人体とはかくも不思議なものである。
 そうこうする内にフェスラが食べ終える。次々に運ばれる皿。その全てが巨大である。
 フェイトの前に運ばれた料理に手をつけ出すスバルとシン。自分たちの料理を食べ終えたようだ。
 フェスラの元に運ばれていく数々の料理。それを見ながらフェイトは思った。
(・・・・・超人っているんだなあ。)

 そうして、今に至る。
 死屍累々。
 その場にいる誰もがもはや動けずにいた。
 皆で取り掛かれば食べ終えれると思っていた、フェイトのスペシャルS。だが、その巨大さは予想外に凄まじかった。
 食べ終えたことは食べ終えている。だが、皆がテーブルに突っ伏し、もしくは椅子に寄りかかり天を仰ぐ姿からは食べ終えた歓喜は無い。あるのは凄まじいまでの疲労と苦しみ。満腹の苦しさである。
 シンは椅子に寄りかかって虚ろな瞳で天井を見ていた。
 フェイトはテーブルに突っ伏して瞑目している。
 スバルはちらちらとフェスラを眺めながら、頭を抱えて椅子に寄りかかっている。
 ティアナはテーブルに突っ伏したまま身動き一つしない。
 その中でフェスラは最後のバケツプリンを食べ終えていた。
 実に4時間以上を食べ続けた。正にその姿はフードファイターである。
「・・・・・まさか、食べ切るとはね。」
 呆れた表情でグラディスはフェスラを眺める。そんなグラディスを見ながらフェスラは再びメニューに手をつけ、中を眺め、口を開いた。
「あ、口直しに五目ラーメンもらえる?」
(まだ、食べるのか!!)
 シン・アスカの内なる叫び。多分、誰もが思ったことだった。
「・・・・ああ。構わないが。」
 流石のグラディスもその言葉は予想していなかったのか、少しだけ声が震えていた。
「・・・・い、いつも・・・・そんなに・・・・食べてるの?」
 途切れ途切れにギンガがフェスラに問いかける。彼女の顔にも倦怠感がありありと浮かんでいる。律儀な彼女は出された料理を残すことが嫌だったので、フェイトのスペシャルSの完食に協力したのだ。おかげで彼女も身動き出来ない状態だが。
「うん?まあ、大体こんなくらいはね。」
 ふう、と息を吐いて、水を飲む。口直しの五目ラーメンを待っているのか、視線は厨房に固定されている。
「・・・・・何でそんなにスタイルいいのよ。」
 ティアナの呟き。誰もがそう思った。

 そして、彼らはそこで午後を過ごすことになった―――と言うよりも身動き出来なかった彼らを見て、グラディスが提案した。ここで休んでいってはどうかと。
 よくあること、とグラディスは言った。当然だろう、とシンは思った。あれだけの料理を食べて、その後普通に行動できたらそれはもはや化け物の領域だ―――目前にその化け物がいるのだが。
 結局食べすぎて動けなくなったシン達以外その日客は来なかった。元々、それほど客の来る店では無いらしい。
 一人、また一人、と眠りに落ちていく。別に一服盛られたとかではない。単純に身体の求める欲求だ。皆、食事と言う名の戦いに疲れていたのだ。
 ただ一人、疲れなど何処吹く風だったフェスラもいつの間にか寝入っていた。
 その光景を見ながら、カウンターに座り、自分で入れたコーヒーに口をつけるグラディス。
 厨房の奥にいたオレンジの髪をし、眼鏡をかけた料理人がカウンターに近づいてくる。
 その手にはグラディスと同じくコーヒーがあった。自分で入れたのだろう。
「・・・・まさか、この世界でまたコイツに会う事になるとは思いませんでしたよ。」
 苦笑しながら話すオレンジ色の髪の男。
「・・・・私もさ。」
 呟き、コーヒーを口に含む。
「コイツを見てると、実感が沸いてきますよ。あれから2年経ったんだなって。」
 目を細め、懐かしむようにオレンジ色の髪の男は話す。
「・・・・・そうだな。もう2年経ってしまった。残り時間は・・・・少ないということだ。」
「議長・・・・・」
 オレンジの髪の男がグラディスに向けて呟いた。
 グラディスはその言葉に返答を返さずにコーヒーに口をつけ、カウンターに置く。視線をオレンジ色の髪の男に向ける。
「ハイネ、君のイグナイテッドウェポンはどうなっている?」
 ハイネと呼ばれたオレンジ色の髪の男の顔が引き締まる。柔和な一般人ではなく、決然とした騎士の表情へと。
 懐からシンのデスティニーに似たバッジを取り出し、A4型の映像を空間に映し出す。
 ちなみにこの映像は特殊な魔法処理がしてあり、使用者の認証を受けたものしか視覚認識できないように加工されている。
 つまり、この場ではグラディス以外には何も見えないと言うことだ。同じく此処での声もシン達の側に届く事は無い。
 彼とハイネがいるカウンターに張られた結界によって音声のみがそちらには届かないようにされているからだ。
 そこに現れるのは3種の武器の映像。鞭。剣。銃。
 強度。重量。使用方法。用途。その他様々な各種データが詳細に記されている。
「聖王協会技術開発部によると後は細かい調整を残すのみと言うことです。」
「・・・・予定には間に合うと言うことだね?」
「問題なく。」
 その返答にグラディスは満足したように再びコーヒーに口をつける。そして、一拍の間を置いて呟いた。
「・・・・・“彼ら”の計画はどうなっている?」
 画面が切り替わる。現れたのはミッドチルダ全域の地図。ところどころに赤い線で×印がつけられている。
「この地図をご覧ください。」
「・・・・・既にかなりの数になったな。」
 地図を見ながら、ミッドチルダ全域に点在する赤い×印を指でなぞっていく。
「以前予想した数量を全てと考えれば、現状70%を超えたと言うところです。」
「ふむ・・・・ならば、そろそろ動き出すな。」
「その可能性は高いかと。」
 その言葉を聞いて、カウンターを中指でトントンと叩きながらグラディスが思案する。
「・・・・・ハイネ、君は引き続き情報を収集してくれ。」
「議長はどうされるおつもりで?」
「種まきをやろうかと思ってね・・・・と、どうやら、ここまでのようだ。」
 そう言ってグラディスがシン達を見る。静寂を引き裂く音。音は徐々に大きくなり、皆の目を覚まそうとする。
 それは通信音。誰かがデバイスに通信しているのだ。
 フェイトが自分の服のポケットに入っていたバルディッシュを取り出し、操作する。通信開始。
 空間に映し出される映像―――そこには6課部隊長八神はやての顔があった。
 心なしかその顔は赤くなり、額には青筋が立っている。フェイトの背筋に悪寒が走る。ギンガの背筋にも。その悪寒が何を意味するのか、起きたばかりの彼女達には分からないだろうが。
「二人とも、どこほっつき歩いとるんや!!!!」
「あ。」
「え。」
 彼女達はその一言でようやく思い出す。自分たちが仕事をさぼって―――と言うか別の人間に押し付けてここに来たと言うことを。

「・・・・・何から何までスイマセン。」
「・・・・本当に申し訳在りません。」
 申し訳なさそうに謝るギンガ。同じくフェイトも頭を下げる。
 あの後、はやてに事の次第がバレたギンガとフェイトはみっちりと数十分間怒り狂う彼女の説教を受けながら、うな垂れていた。どうやら仕事しているシグナムを見て不審に思ったシャマルが聞き出したらしい。
 当のシグナムは涙目になりながらも、「・・・・ローマ字打ちじゃなければ私だって・・・!!」と言いつつ仕事を止めなかったとか。
 今、彼女達がいる場所の前には車があった。見ただけで高級車と分かる黒塗りのロングボディ。後部座席と前部を区切る部分が存在する、いわゆるハイヤーである。
 はやての説教でうな垂れ、急いで戻らなければならないことになった彼女達を見て、グラディスが車を出してくれたのだ。
 流石にそこまで世話になる訳にはいかないと言う一同にグラディスは「なに、また来てくれるなら構わないさ。サービス料だと思ってくれればいい。」、そう言って強引に彼らを説き伏せていった。
 無論、渡りに船なのは間違いない。一同―――特にフェイトとギンガが―――は申し訳なさそうにしていたものの、じきに承諾していた。
「ニシカワ君、この住所は分かるかね?」
 グラディスはそう言ってニシカワと呼ばれたオレンジ色の髪の男―――先ほどまで厨房にいたハイネと呼ばれていた料理人である―――に地図を手渡す。
「ああ、ここなら大丈夫です。分かります。」
 乗るのは機動6課のメンバーであるシン、ギンガ、フェイト、スバル、ティアナ。フェスラはここで別れると言う。方向が違うらしい。
 続々と乗り込んでいく一同。シン以外全員が乗り込み、彼も乗ろうとした瞬間、グラディスが彼に声をかけた。
「シン、いいかね?」
「え?」
 振り向くシン。グラディスはそのシンに顔を近づけ、小さな声で呟いた。
「エクストリームブラストを使いこなせるようになりたいなら、まずは肉体改造から始めたまえ。内功を鍛え、強靭な肉体があってこそ、アレは生きる。君の身体は手に入れた力に比べて未だ脆弱だ。」
 シンの表情が一拍を置いて切り替わる。一瞬、グラディスが何を言っているのか、理解出来なかったからだ。
 エクストリームブラスト。完全に秘匿された情報。六課内においても未だ誰も知らないはずの魔法。
「・・・何で、それを知ってるんだ。」
 険しい視線を向ける。警戒するシン。今にも掴みかかりそうな雰囲気がそんなシンをグラディスは口元を歪ませ笑うだけで答えない。
「アンタ、一体・・・・」
 その言葉にグラディスは答えることなく、足を踏み出す。懐に一歩。右手がシンの腹部に触れる。軽く力を込めた。流れるような動作。
「っ―――!?」
 その動きにまるでついていけず、シンの身体が吸い込まれるようにして後部座席に入り込む。意識の間隙を突く様な動き。シンの背筋を怖気が通り抜けた。それは自分がまるで反応出来なかったことに対して、だ。
「君はまだ気にしなくて良い。大切なのは折角手に入れた力を生かすことだ。違うかね?」
 シンは答えない。警戒を解かない。解けずにいる。そんなシンを見てグラディスは微笑みを絶やすことなく呟いた。
「・・・・・では、また会おうシン。君には期待しているよ。」
 走り出す車。シンの瞳に写る警戒と疑念。それが確信として彼の心に突き刺さる。
 何かが動いているのだと言う、ただそれだけの確信が。

「・・・・・・」
 車内。ティアナは手の中に隠し持った折り畳まれた一枚の紙を眺めていた。それは先ほどシンを車の中に押し込んだグラディスの服から落ちてきたものである。直ぐに拾って返そうとしたが、平って中を見た瞬間、思わず隠してしまった。
そこに書かれていた言葉。「聖王教会治安維持部第19次中間報告書」と。その言葉の上には「極秘」という判子が押されていた。
 折り畳まれたそれを思わず開く。期待していたように複数の紙を折り畳んでいたのではなく、その一枚の紙―――表紙を折り畳んでいただけだった。落胆と同時に不安が湧いてくる。
 聞いた事のない名前。聞いた事もない部署。冗談で済ませれば良い。けれど、冗談では済ませられない。そんな嫌な予感がする。表紙に書かれている目次。そこに記されたある名前。それが自分の記憶を刺激したから。
 “ティーダ・ランスター”。
 忘れない。忘れられない名前。彼女にとっての開始地点(スタートライン)。
 何か、何かが動いていると言う予感―――否、確信があった。それがどんな確信なのか。それはまるで分からないけれど。
 彼女は必ずもう一度赤福に行くことを決める。
 何が始まっているのか。何が進行しているのか。それを確かめる為に。

 夜の闇。帳が降りる。ここは魔が集う夜の闇。世界を牛耳る女傑の集いし闇の底。
『それで、どうなったのかしら?』
 聞こえてくるのは声。気品のある女性の声。
 それに答えるもう一人の女性。夜の闇の中で顔は見えない。分かるものと言えば、風に揺れる金色の髪の輝きと闇の中で爛々と輝く血のように紅い瞳。月光の金。血色の紅。
「別に・・・・予定通りの結果よ。」
 さして面白くもなさそうにその女性は呟いた。口調は普通。どこにでもいる年頃の女性のソレである。
『つまり、シン・アスカは貴方に興味を抱いた?』
 女性の内心を探る気品のある女性の言葉。その言葉に少し顔をしかめながら女性は返答を返す。
「当然よ。アレはあの子の贖罪そのもののような存在なのでしょう?」
『ええ、デュランダルの提示した情報によるとそれは間違いないわ。』
 気品のある女性の言葉に確信が混ざりこむ。
「そんな人間が自分の前に現れる―――本当に最高の悪夢ね。」
 気の毒そうに女性は誰に言うでも無く呟く。
 それは誰かに向けた言葉ではなく、ただ口に出したと言うだけのものだろう。彼女には似つかわしくも無い哀れみが滲み出ただけに過ぎない。
『あら、躊躇うの?あなたらしくもない。』
 驚く気品ある女性。彼女が知るその女性にはそんな躊躇いなどまるで無いと思っていたからだ。だが、女性はその問いを聞くと、一笑に付して、返答した。
「私は私の為になるようにやっているだけ。躊躇う訳なんて無いでしょう?」
『なら、いいのだけど・・・・・あなたはすぐに“影響”を受けてしまう性質だから。』
 “影響”。その言葉を聞いて再び顔をしかめる女性。その血色の紅が細まり険悪な輝きを抱き始める。
「貴女、私を誰だと思っているの?あなたの要望通りにシン・アスカを叩き落してあげるからもう少しそこで待っていなさい。」
 剣呑な感情を隠すことも無くその女性は呟いた。
『では、期待しているわ、貴女のその手腕に・・・・・あまり“引っ張られ”過ぎ無いことね。』
「聞いておくわ、ご主人様。」
 皮肉を込めてそう呟き、女性は念話を切った。後に残るのは闇。静謐で奥深い闇だけだった。

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 プロフィールの写真はスコットランドとイングランドの間にある町の空です。新婚旅行でネス湖行ってきましたが、ネッシーに会えませんでした。
とりあえず気合い入れて頑張ります。更新します。

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