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空想垂れ流し 07.決戦

07.決戦

 シン・アスカとは狂気に塗れることが出来ない人間である。
 彼の心に常にあるのは勝利への渇望では無く、平和への憧憬だ。
 その結果として彼は戦時中にデスティニープランという極端極まりない政策を己が理想として身を任せた。
 けれど、その中にあって彼の心に在ったのは迷いだった。

「戦争を失くす」
「平和な世界を作る」

 デスティニープランとはその為の政策である。
 だが――そこに“幸福”はあるのか?
 人の未来を失くすとはラクス・クラインの言葉だ。本来ならそれは唾棄すべき言葉であるはずなのに、彼は心のどこかでそれを否定出来なかった。
 それでも彼が選んだのは「未来」ではなく、「平和」だった。
 平和な世界。それこそが守るべきモノなのだと決断したのだ。決して迷いが晴れた訳ではなかったが。
 彼が真に狂気に塗れることの出来る人間であるなら、デスティニープランに迷いを抱くはずなどは無く―――あの赤い正義の名を冠した機体に敗れることも無かった“かもしれない”。
 別に、迷いが晴れていれば確実に勝利していたと言う訳ではない―――迷いは刃を鈍らせた。ただ、それだけ。その結果、鈍った一刃は、無限の剣の前に叩き折られた。

 彼は、迷う人間だ。
 迷いは人を弱くする―――だが、その迷いこそがシン・アスカの強みでもある。
 迷い、考え、導き出した結論。それが確固たるモノであればあるほど、彼は如何なるモノであろうとも“喰らい付く”。足掻き、試行錯誤を繰り返す。
 その結果として倒せ無いこともあるだろう。届かないことも在るだろう。
 けれど、彼は決して“諦めない”。
 意地汚く、浅ましく、足掻き続ける、潔さなどまるで無い、その生き方。
 それだけが誰にも真似出来ないシン・アスカだけが持つ強さ。迷いを力に変える力。

「ええ。全力で、邪魔させてもらいます―――“守りたい”なら、倒してみなさい、私を。」
「・・・・・上等だ。」

 言葉とは裏腹に、心中に迷いはあった。彼女への恩を仇で返すと言う迷いが。
 それでも彼は選んだ。その言葉、その態度を切っ掛けとして決別の道を。
 己が力で己以外の全てを守る。
 その願いの前では彼女への親愛など些事でしか無いと投げ捨てて。

 ――決して戦いたかった訳では無い。けれど、自身の目的を邪魔するのなら誰であろうと打ち倒す。
 ――迷いはあった。けれど、彼はそれを自身の深奥に押し込める。

 守る為に。
 力を振るう場所を得る為に。
 前へ前へと駆け抜ける為に。
 駆け抜けるその道。それが現実逃避であり、終わりは無様で滑稽な孤独の死であると知っていて、尚、彼は駆け抜ける。
 その過程の遵守こそが彼の願い。その願いを果たす為に。

 これは、男と女の物語。
 願いを叶える為に走り続けた「女達」と自分を手に入れる為に駆け抜けた「一人の男」の物語。


 そこは決戦場だった。
 施設の名前は訓練場。けれど、今から戦う二人にとって、そこは紛れも無く“決戦場”だった。
 シン・アスカは今、今日支給されたばかりの真っ赤なバリアジャケットに身を包み、静かに佇む。
 赤一色と言ったそのバリアジャケットは彼が以前来ていたザフトエリートの証である赤服を連想させるものだった。
 同じくギンガもバリアジャケットを着こんで瞳を閉じている。心を落ち着かせているのだろう。

『・・・・ルールを一応伝えとくで。』

 マイク越しに喋る試験官八神はやての声がホールに響き渡る。

『時間制限無し。どちらかが動けなくなるか、降参するかで勝敗は決まる。まあ、ルールなんてあってないようなもんや。』

 彼女は言葉を切って周囲を見渡す。
 観客はそれなりに入っており、入場料でも取ってやれば結構な収入になったかもしれない―――そんな馬鹿な考えが思いついては消えた。
 そこは陸士108部隊隊舎内の訓練場である。
 今日この日の為にゲンヤ・ナカジマに許可を貰い、借りている。
 観客の殆どは陸士108部隊の隊員である。

『では、前置きはこんなもんにして・・・・今から十分後。始めるで。』

 淡々と言葉を切るとマイクを置いて、自分の席に戻るはやて。
 声の調子は軽やかでいつも通り。その場にいる誰もが彼女の深奥が塗り換わっていることになど気付きはしない。
 それほどに彼女の“擬態”は完璧だった。
 赤毛の少年と桃色の髪の少女が座っている。
 エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエだ。そしてその後ろには彼らの保護者であるフェイト・T・ハラオウンが座っている。
 それから少し離れた場所――ギンガ・ナカジマが立っている側の近くに彼女の妹であるスバル・ナカジマとその親友であるティアナ・ランスターがいた。
 そして試験官である彼女の周りにはいつもの通りに守護騎士―――ヴォルケンリッターが座していた。
 時空管理局において最強であり異常の戦力の集中を誇る名実共に最強部隊。
 「機動6課」の全戦力がそこにいた。

 ギンガ・ナカジマは居並ぶその威容に少しだけ緊張しつつも、彼女の前に佇む彼を眼にして気を引き締める。
 彼女には彼女の願いがある。それを叶える為にも、彼にはここで“全力の自分”を超えていってもらわねばならないのだ。
 けれど、そんな心中は浮かべることもなく。
 彼女、ギンガ・ナカジマは、不敵に微笑み、呟いた。
 その微笑みは戦乙女の如く美しい。

「・・・・私に勝って、「守れる」ようにはなりましたか?」
「―――ああ。俺はアンタに勝って、守る為に“そこ”に行く。」

 視線は刃。声は毒の如き威力で以ってギンガ・ナカジマの心根を打ちのめす。
 だが、彼女は退かない。媚びない。省みない。
 そんなことをしても、何も手に入らないのだから。

「やってみなさい、シン・アスカ。」
「やってやるさ、ギンガ・ナカジマ。」

 今、此処に、男と女の戦いが始まる。

 フィールドは、崩れ倒れた廃墟。ビル郡が立ち並び、アスファルト舗装された道路が縦横に走っている。
 戦いの展開は予想通りの展開となった。

「はあああああ!!!!」
「うおおおおおおお!!!」

 シンはギンガに対して距離を取る。射撃による牽制と飛行、そして突然行う突進。
 対するギンガは奇をてらうことも無く、ただ前進する。無論回避と防御を怠ることなく。
 追う者と追われる者。
 ギンガはその予想通りの展開に僅かながら落胆し―――シンはその落胆にこそ勝機を見出し、彼女からは見えないように、笑いを堪えきれずに頬を緩め、唇を吊り上げた。
 そう、罠が成功したことを喜ぶ子供のように邪悪な笑顔で。


 ――2週間前。
 ギンガ・ナカジマは、あの宣言の後、一人帰っていった。
 2週間後まではお互いに会わないことにしようと言って。
 平然と自分は頷いた。
 彼女は敵だった。敵である彼女に自分の手の内を晒すことは出来ない―――そう、思って。
 けれど、どこかでナニカが痛かった。胸の奥でしっかりと、ナニカが痛んでいた。
 ナニカ―――多分、それはココロ。彼女を敵に回したことが自分は辛いのかもしれない。味方だと思っていた。仲間だと思っていた。ソレが、裏切られた気がして。
 感傷だ。
 シンは、その想いを振りきって彼女とは別の道から帰路に着いた。その道中、彼はしきりにギンガとの模擬戦について考え込んでいた。
 ギンガ・ナカジマ。
 彼女はシューティングアーツと言う独特の魔法を使うAランクの魔導師である。
 シン・アスカとの模擬戦の戦績は数えるべくもなく彼の全敗である。
 彼の攻撃は彼女にまともに当たったコトなどなく、彼女の攻撃は全て彼を撃ち貫いた。
 近距離特化と言う凡そ魔導師と言う分野において異端と言わざるを得ないスタイルでありながら、その戦闘能力は極めて高い。

 その理由の一つとして、挙げられるのが“回避率の高さ”である。
 無論、フェイト・T・ハラオウンのように眼にも止まらぬ神速による華麗な回避では無い。
 実直その物と言ったプロテクションやシールドなどの魔法による単純な防御である。
 敵の放つ攻撃の内、直撃だけを確実に回避し、致命傷を決して受けない。ただ、それだけ。
 そして射程が短いなどどうと言うこともなく簡単に懐に入り込むと彼女は一撃を放つ。その一撃はすべからく必倒の威力で以って迫り来る。
 判断力、そして洞察力が優れているのだろう。こちらが、何を考えて次に何をしようとするか。それを読み取る能力が非常に高い。
 アロンダイト――大剣を未だに上手く扱えないと言うことを差し引いても、現状の能力ではシン・アスカは奇跡でも起きない限り彼女には勝てないだろう。
 それほどにシン・アスカとギンガ・ナカジマの間の差は大きかった。
 そして、それは今も大して変わらない。


 飛び回るシン。そして追いかけるギンガ。
 シンの動きは、これが3ヶ月前まで本当にズブの素人だったのかと疑いたくなるほどに、速く的確な飛行を繰り返す。
 縦横無尽。ギンガを射線から逃すことなく、上下左右を移動する。その様は正に疾風の如く。
 観客席で見ていたエリオが思わず感嘆を挙げる。

「・・・・凄い。」

 それはエリオ・モンディアルの師であり保護者でもあるフェイト・T・ハラオウンをして、感嘆の溜息を吐かせるほどであった。
 逸材である。その成長速度は彼女の親友である女性を思い出させるほどに。
 彼は“あの”高町なのはと同じく天才と呼ばれる区分なのかもしれない。
 このまま成長していけば、彼女と同じく――エースと呼ばれるような魔導師にもなれるかもしれない。
 故に、無理をせずに頑張って欲しいと思った。
 無理をして、なのはのようには満足に戦えなくなって欲しくない。そう思いながら。

 話を戻そう。
 端から見ても紛うことなく非凡を見せつけるシン。対峙するギンガもこれまた非凡であった。
 以前、ガジェットドローンに使ったように多数のウイングロードを展開し、攻撃の場を広げる。
 今回はそれよりも一歩進んだカタチ。
 この戦いの場は模擬戦である。模擬戦である以上、この場所には限りがある。外界のような距離の限りがない場所で戦闘する訳ではないからだ。
 故にこの場は限定空間。その場において、速く鋭く動くことにどれほどの意味も無い。
 シンを注視し、その動きを探る。
 身体の動きではない。身体の各部位の動きを観察することで、次の動きを読み取る。
 何十回と繰り返された模擬戦でギンガはシンの考え方、思考パターン、追い詰められた場合の対処法等の情報を彼女はあらかじめ殆どを取得している。
 取得している以上、ギンガ・ナカジマの読みは的確だ。
 シンがどう鋭く動いたところでギンガは既にそこに向かっている。

 右へ動けば、自分は左へ。
 左へ動けば、自分は右へ。

 自分から離れるように、けれど射線は外さないように。そう動くシンの動きは悲しいかな、綺麗な円を描くようになり、行動予測があまりにも簡単になる。
 行動予測が簡単になってしまえば――彼女にしてみれば、それは止まっているのと同じこと。

「・・・・」

 ギンガが踏み込む。
 その踏み込みに呼応し、その場から一旦退がろうとしたシンの背中が何か建物にぶつかる。

「くそっ!」

 それはビルだった。もはや誰もいない廃墟のビル。
 それがそこにあることをシンは知らずに退いてしまい、自分自身で逃げ場を無くす――無論、それはギンガの誘導による状況操作。
 ギンガが踏み込む。
 同時にブリッツキャリバーが急加速。
 シンの背筋に怖気が走った。
 紡ぐ言葉は危険を示すものばかり。曰く――逃げろ、と。
 ギンガが左拳を脇に仕舞い込み、構え、突き抜ける弾丸の如く疾駆。
 自身の左足に体重をかけるように踏み込み、その左足の動きに巻き込むようにして全身を突き上げる。
 狙うはシンの左脇腹。即ち五臓六腑の一つ――肝臓。

「もらいます・・・・!!」

 言葉と共にギンガの左拳が轟と唸りを挙げ、疾走する。

「やらせるかぁあ!!!」

 シン、咄嗟に右手で引き抜いたフラッシュエッジをギンガの拳に向かって力任せに叩きつける。
 込める魔力に制御などしていない。ただその一撃を逸らす為だけに瞬間最大出力でぶち当てる。

「くっ」
「うおおお!!」

 衝撃の余波で二人の身体が離れた。
 その距離およそ20m。シンにとっては攻撃可能。ギンガにとっては一足で攻撃出来る距離では無い。
 彼女の足元のブリッツキャリバーが唸りを上げた。

「っ――!!」
『Mode KerberosⅡ』

 右手に大剣の柄から引き抜いた短剣、左手に大剣を変形させたケルベロスⅡを構え、制御出来る最大速度で一気に上空へ飛翔。
 そのままギンガの周りから離れるように飛行すると、左手のケルベロスⅡによる射撃を行う。
 無論、その射撃は攻撃を意図して行ったものでは無い。ただただ、離れる為の牽制。狙いも何もあったものではない。

「―――トライシールド。」

 その魔力弾の雨を前に彼女は右手を掲げ、魔法防壁―――シールドを展開し、疾走する。
 そして、状況は再び元に戻る。
 追う者と追われる者。
 シンにとってギンガの拳は致命の一撃。喰らえば即座に吹き飛び意識を失う危険極まり無い打撃だ。
 対するシンの一撃がギンガの意識を刈り取ることは無い。
 心中でシンは息を吐く。
 状況は絶望的。劣勢にも程がある。例えるなら戦車に向かって拳銃で挑むようなモノ。
 分が悪いどころではなく――勝とうと思う方がおこがましい。
 だが、それは当然のことだ。2週間前までの差。それをたかが2週間―――14日間で埋められるなどとは思っていない。
 真っ当に戦えば負けるのは自明の理。だが―――彼は、決して負けるつもりで戦っている訳では無い。

 彼の願いは唯一つ“守る”こと。負ければそんなもの全て奪われる。
 奇しくも八神はやてがギンガに言い放った――恐らく魔導師としては生きていけんやろうな、という言葉。
 それを彼はしっかりと認識している。
 聞いてはいない。
 だが、そんなこと、考えてみれば簡単に予想はつく。
 自分がBランク試験を受ける。それが、かなりの話題になっていることはシンも朧気ながら知っている。
 わざわざ一人の人間の為だけに、本来ならば年に数回と決まっている試験を無理矢理するのだ。反発も大きいだろう。
 そこで必要と成る時間、準備、資金を考えれば、どれだけ八神はやてが無理をしているかが見えてくる。
 その結果失敗した時どうなるのか、も。

 怖かった。
 自分がどうなるのか――死ぬとか生きるとかの話では無い。
 失敗した場合、折角見つけた目的を完全に奪い取られる話しになるかもしれない。
 そう思うと、怖かった。怖くて怖くて仕方なかった。
 もし負ければ、守ることが出来なくなり、結果自分は安寧として生きていくことになるのかもしれない。二度と戦うことなく。
 それは幸せな人生だ。今、自分が望む人生よりも余程真っ当で幸せな人生だ。
 だが、それで誰が喜ぶ?
 少なくとも自分は喜べない。そんな“幸せ”などこちらから願い下げだ。
 そんなもので自分は決して救われない。救われるはずなど無い。
 だって、自分には何も無い。守る以外に何も無い。それ以外に自分が生きていても良いとする理由は一つも無い。
 死んで無いし、死ぬことも許されない。
 だから、守らなくてはいけない――それはシンの中に根差した衝動。屑である自分が生きていても良いとする衝動。

 だから、考えた。必死に考えた。
 どうしたら、現状を打破出来るのかを、必死に考え抜いた。
 彼に残された手段はただ、勝つことのみ。勝たなければ“守る”ことさえ出来ない無気力に逆戻りする。
 それは、それだけは嫌だった。
 何度も考えた。訓練を重ねた。気絶するまでアロンダイトを振り続けた。開放と収束と変換を繰り返し続けて何度気を失ったか分からない。
 2週間の内、まともなベッドで寝た回数など数度だけだ。その他全て起きているのか、寝ているのか分からない状態だった。
 鍛えた。考えた。そして―――見つけた。一つの策を。

「うおおおおおお!!!」

 ケルベロスⅡを途切れぬまま連射させ、ギンガとの距離をとにかく開かせる。疾風の如き動きに鈍りは無い。
 シン・アスカは、“その時”が近いことを感じ取る。
 自身がここまで身体を張ってかけ続けた“罠”が、身を結ぶ時。それが近いコトを。


 それは残り一週間を切った日のことだ。
 シンは珍しくベッドで眠ることが出来ていた――と言うか倒れて運ばれたところを108部隊の誰かに運び込まれたらしい。
 慣れたモノで誰も何も言わなかった。皆が口々に聞くのは、ギンガのこと。突然、険悪になった二人を108部隊の人間はとても心配していた。
 部隊員でも無いよそ者に対して、部隊全てが優しかった。

「・・・・ザフトじゃこんなこと絶対無かったよな。」

 お人好し、なのかもしれない。この世界全てが。

「馬鹿か、俺は・・・いつっ!?」

 自分の発現の馬鹿さ加減に苦笑しようとして、腹筋がつりそうな程に痛かった。肉体は流石にギシギシと軋みを上げ、動かそうと思ってもまともに動きそうに無かった。

「だ、駄目だ。もう、寝よう。」

 そして、眼を閉じる―――けれど、眠気は一向に襲ってこなかった。

「・・・・・」

 頭の中には何回も見た自分のデバイス「デスティニー」の姿があった。思い描くのはやはり、どうやって彼女に勝つか。それだけだった。
 シン・アスカの持つ銃剣型――“銃剣(バヨネット)”と言うよりも“剣銃(ガンソード)”と言う外見をしているが―――非人格型アームドデバイス「デスティニー」。
 このデバイスに装備されている武装は4つ。
 柄の部分に刺し込まれるようにして収納されている「フラッシュエッジ」
 大剣として使用する「アロンダイト」
 刀身を砲身として利用する「ケルベロス」
 そして刀身を折り畳み、取り回しを改善し一発の威力を犠牲にして連射性能を高めた速射モード「ケルベロスⅡ」
 この4つの武装の内、鍵となるのは間違いなくアロンダイト。あの大剣の一撃のみが彼女にとっての脅威。
 だが、それは彼女も承知のコト。恐らく、そう易々と当たってくれる訳も無い。
 また、アロンダイトは取り回しが悪く使い勝手が悪すぎる。
 コレを使いこなすとすれば、何かの方法で「必ず当たる状況を作り出す」以外に無い。
 彼女の戦闘方法から考えれば行きつく答えは一つ。
 「距離を取って戦い続け、隙を見て突撃する」。コレに尽きる。
 彼女自身の弱点でもある「射程距離の短さ」を徹底的に尽く。そして、隙あらば、アロンダイトによる一撃必殺を敢行する。
 その際に、何らかの方法で彼女の動きを一瞬でも止めることが出来れば―――勝機はまだある―――否、それしかないと言っても良い。
 だが、どうすれば、動きを止められる?
 生半可な方法では無理だ。ケルベロスⅡによる射撃で動きを止められるかと言えば、あれは牽制程度の役にしか立たない。ケルベロスならば可能かもしれないがまず当たらない。
 故に答えは“ケルベロスくらいに威力があって直ぐに撃てる魔法。それがあれば、どうにかなる”ということだった。

「・・・・そんなのあったら苦労しないよな。」

 そう、彼の言う通り、物事はそう単純な話では無い。そんな都合の良いモノがあるのなら、悩む道理は無い。

「・・・けど、待てよ。」

 だから、シンはそこで発想を変えた。そんな都合の良いモノが無いのが問題なのだ。ならば、無いなら―――作れないのか、と。
 シン・アスカの現状。
 つまりギンガ・ナカジマが知るシン・アスカはデバイス無しでは攻撃方法を持たない魔導師だ。
 無論、誰しもそうだと言えばそれまでだが、少なくともギンガはシューティングアーツ・ウイングロードというデバイスに依存しない魔法を保持している。
 これは、差だ。シン・アスカとギンガ・ナカジマとの決定的な差。
 デバイスが無ければ何も出来ない自分とデバイスが無くとも何かが出来る彼女。
 彼女は模擬戦当日もそう思っているだろう。シン・アスカはデバイス無しでは魔法を使えない、と。
 なら――そこを突く事が出来たら?
 つまり、“デバイス無しでは魔法を使えない”という先入観を利用することが出来れば―――それはこれ以上無いほどの奇襲になる。
 それは奇しくも“あの時”の自分と同じコトだ。
 未だ稚拙な魔力をただ垂れ流し炎として燃やし、叩きつけた自分。今思えば、自殺行為のようなものだと思った。
 けれど、あの鎧騎士はよろめいた。何故?大した威力も無かったであろうに。大したダメージは与えていない。けれど“よろめいた”。その理由。
 それは、

「……“知らなかった”からだ。俺が、魔法を使えるって。だから、予想外だったから反応出来なかった。だったら・・・・」

 あの時、シンは魔力を纏った拳で殴りかかった。
 けれど、自分はあの時と同じでは無い。
 あの時はただ垂れ流すだけの魔力を今の自分は完全に制御出来ている。
 制御とは、抑え付けるだけのモノではない。逆に間欠泉のように噴出させることも可能なはずだ。だから、

「く……」

 ぶるぶると震える右手を持ち上げ、毎日繰り返している通りに、そして今までとは少し違うように、ソレを―――収束と開放と変換を“同時”に行った。
 どうして、その時、そうしようと思ったのか。
 「奇襲」という言葉が元々の世界でシンの搭乗機であるデスティニーにだけ取り付けられていた“隠し武装”を連想させたからか。それともただの直感か。
 けれどもそれが答えだ。対ギンガ戦において、恐らく真に鍵となる魔法。
 それこそが、彼が今から“作り出す”魔法の名前。その名を―――

「――パルマフィオキーナ。」

 呟く。同時に左手で右手を掴み、右掌の魔力をそれまでやったことも無いほどの“高密度”に収束し始める。

「……くっ、う、うう……!!!」

 それまで込めていた魔力を10とするなら、今こめている魔力はおよそ100。
 あまりの過負荷に全身の意識をそこに集中し、制御に一心に努める。ガタガタと右手が震え出す。全身から汗が流れ出す。

「・・・・ううううう・・・・・!!!」

 収束は圧縮となり、それまでの明滅とはまるで違う輝きを放ち出し、真っ暗な部屋を照らし出す。
 それは太陽の如き眩い輝き。輝きは凄まじい勢いでその光度を増していき――――霧散した。
 再び部屋の中は暗闇に舞い戻る。
 息を荒げ、シンは呆然と霧散していく自身の魔力を眺め、そして―――最後にそれらを生み出した己の右手を見つめて、口を開いた。

「・・・・いけ、る、ぞ。」

 その呟きと共にシンの意識も霧散した。


「うおおおおお!!!」

 シンの放つケルベロスⅡの魔力弾をトライシールドで掻い潜り、ギンガは次のシンの動きに思考を巡らせる。
 好きな男と戦わねばならないと言う心の痛みと裏腹に、思考は明瞭に彼の行く手を紡ぎ出し、彼女の肉体に行動を指し示す。
 シンが右に動く。その速度は鋭く速い。未だ動きは鈍っていない。そのスタミナと集中力は流石に卓越したモノがある。だが、

(予想通り、過ぎるんです、シン・・・・!!)

 悲しいかな。シンが如何に速度を上げたところでギンガ・ナカジマのシューテングアーツの前ではまるで無意味に帰するのだ。
 ギンガが今シンを追い詰めているのはその卓越した洞察力である。
 洗脳され、ナンバーズとして戦っていた時のギンガには無かったものだ。
 そして、妹であるスバルにもその洞察力は存在していない。
 そして、現在のギンガですら、完全なソレを体得している訳では無い。
 完全なソレ――シューティングアーツを体得したのは彼女たちの母であるクイント・ナカジマただ一人。故にギンガは不完全に、スバルはそれすら知らないでいた。

 では、シューティングアーツとは何なのか。
 それは、立ち技系格闘技――言うなればキックボクシングやボクシングを魔法を使って発展させたモノである。
 それは魔導師としては規格外なほどに、“近距離特化”と言うリスクを背負う。
 魔法とは、すべからく“放つ”ものだ。故に魔法による戦闘は格闘技とはある程度距離を置くことを前提とする。
 無論、近距離を得意とする魔導師もいるだろう。八神はやての守護騎士ヴォルケンリッターのシグナムがその一例だ。
 だが、それでも彼女にも長距離砲撃魔法は存在する。戦術の幅を考えた際に最も求められるのは距離の幅であるからだ。
 近距離から長距離と言う戦闘距離を持つ者と、近距離のみの戦闘距離を持つ者であれば、必然的に前者が有利となるのは自明の理。
 ではそれを覆すことは出来ないのだろうか?
 無論、その答えは否だ。距離と言うものは絶対ではない。
 何故ならば、一撃が届かないのなら“届く距離まで近づけば良い”。一撃を避けられるのなら“避けられない状況を作り出す”
 それがシューティングアーツの発案者クイント・ナカジマ――ギンガとスバルの母親の見出した答え。
 シューティングアーツとは、それを覆す為にクイント・ナカジマが考案した、凡そ全ての魔導師の天敵と成り得る“武術”である。
 ローラーブーツ、ウイングロード。他に類を見ない――と言うか誰も好んで使用しないそれらはその為の鍵である。
 スバル・ナカジマは未だその深奥を知らず。ギンガ・ナカジマは未だ体現すること叶わず。
 シューティングアーツ。その全貌は多くは知られていない。
 だが――もし、それを体現するならば・・・稀代の砲撃魔導師高町なのはであろうとも苦戦は必死であろう。
 繰り返そう。
 シューティングアーツ。それは魔導師の天敵。即ちそのコンセプトは“魔導師殺し(カウンターマギウス)”。
 その前で、シン・アスカの高速など烏合の衆も同然。
 飛び回る彼を叩き落とすなど障害物を生かし、彼を追い詰める術を持つ彼女にとっては造作も無い。
 現に先ほどからシンはギンガの一撃から辛うじて逃げているに過ぎない。
 機動6課の面々も同じように思っているのだろう。同じく陸士108部隊の面々も。終わりは近い。誰もがそう、確信していた。

 ――戦っている張本人であるギンガ・ナカジマと審査官である八神はやて、そしてシン・アスカを除いて。

 八神はやては、不敵に微笑んだままだ。
 ギンガ・ナカジマは未だ警戒を解けない。
 その理由。それは、彼の――シン・アスカの目が未だに死んでいないからだった。
 未だギラつく彼の瞳は燃え盛る炎の如く、こちらを睨み付けている。

 ――胸が苦しい。あの瞳で射竦められるとどうしようも無いほどにココロが痛む。この場から逃げ出したくなる。
 以前の模擬戦ならばこんなことを思いはしなかった。彼を撃ち抜く拳の感触は、彼を強くしようとするための拳だった。純粋にそう思っていた。けれど、今は違う。
 私は彼を叩き落とす為、絶望させる為に、此処にいる。
 それが悲しい。本当に辛い。だが、

(そんなこと初めから分かっていた。分かりきってたことだ・・・!)

 放たれるケルベロスⅡの乱射を巧みに避け、ウイングロードを疾駆しながら、ギンガは僅かに顔を歪め心中でのみ叫んだ。
 そうだ、分かっていたことだ。シン・アスカと敵対するなら、こうなると。
 自分はそれを織り込み済みで彼と敵対したのだ。
 だから、振り切れ。情けは無用。審査官である八神はやては今もずっとこちらを見ている。手加減しないかどうか、を。
 ギンガははやてと一瞬だけ眼を合わせると決然と不敵に微笑んだ。

「・・・・手加減なんか、しない・・・・手加減なんか、するもんですか・・・・!!」

 ケルベロスⅡを変形し、シンはアロンダイトに切り替え、突進する。
 突然、リズムを狂わせられたギンガの動きが鈍る。考え事をしていたのも関係しているのだろう。
 アロンダイトが迫る。それを上空に跳躍し、くるりと回転。
 彼女の上下が逆さまになり、既に展開していたウイングロードを足場に再び跳躍。向かう先はアロンダイトを振り下ろした状態のシン・アスカ。
 リボルバーナックルを振りかぶり、撃ち抜く。シンも同じくアロンダイトを振りぬいてそれを迎撃。
 弾ける魔力。そして状況は鍔迫り合い――この場合はぶつかり合いの方が正しい――に移行する。

「はああああ!!」
「うおおおおおお!!」

 裂帛の気合と咆哮の叫び合い。
 紫電と火花が舞い散る。赤の魔力と紫の魔力がぶつかり合う。拳と剣の力は互角――だが、ジリジリとギンガの左拳が押されていく。

「ううううおおおおああああ!!!」

 砕けろとばかりにシンが叫びと共に更に力を込める。
 釣り合っていた均衡が崩れる。
 全身全霊を込めて、シンのアロンダイトが“振り切られた”。
 凄まじい金属音を伴い、ギンガの左拳が後方に勢い良く弾かれた。

「―――うそっ!?」

 驚きの表情を表し、ギンガは咄嗟に後方に跳躍し、距離を開ける。
 これまでのどんな模擬戦でも自分の拳は彼に届いた。また彼の剣は一刀足りとも自分には届かなかったはずだ。
 確かに、こうなるだろうとは思っていた。二週間という時間は彼が成長するには十分だとは思ってはいた。だが、いざソレを見せられると驚愕が勝っていた。

 彼の剣は彼女に今、届いた。
 彼女の拳は今、彼に届かなかった。
 シンの瞳が鋭くなる。一瞬ギンガの眼に浮いた驚愕。それを見逃さなかった。

「行くぞ・・・・!!」

 シンが突進する。ここを勝負処と判断し突進する。その判断は正しい。
 これまで一度も退くことなど無かった彼女が“退いた”。それは、彼女にとっても予想外の事態なのだから。

「シン・・・!!」
「ギンガさん――!!!」

 稚拙な剣戟。けれどそこに込められた気持ちと迷い無く振るわれる剣はどんな技巧に勝る剣戟よりも、“彼女には”輝いて見えた。
 先ほどとは打って変わって守勢に回るギンガ。その剣戟の中で迂闊に攻撃などしようものなら即座に倒される――そう、直感して。
 ことここに至って、彼女は、認識を改める。
 シン・アスカは既に弱者ではない。自身を食い荒らさんばかりの強者だ。
 そこに込められた想いは本気。馬鹿げた願いを叶える為に紡ぎ挙げた想いは心の底から本気なのだ。
 本気の想いに対しては、本気で応える。
 ――そう、手加減など真実不要。全力を出し、その上で彼に敗れる。その願い。それは決して叶わないものではない。それが、今此処に見えた。朧気ながら確信を持てた。
 だから、

(全力で、貴方に挑みます。シン・アスカ―――――!!!)

 もし、彼がここで自分に叩き潰され、絶望に落ちると言うのなら、自分は全身全霊でその責任を取ってみせる。
 もし、彼がここで自分を超えて、はるかな高みへ羽撃(ハバ)たいていくというのなら、自分は是が非でもそれに追い縋る。
 馬鹿で無謀と嗤われようと、胸の想いは止まりはしない。
 退く道など非ず。在るのは彼を想い従うこの道のみ。
 それは通常の女人が抱く恋とは懸け離れた苛烈極まりない恋慕。
 だが、恋する乙女は、ギンガ・ナカジマはそんなコトに気付きはしない。
 何故ならば、恋する乙女は常に猪突猛進究極無比。その理に従うなら、周りが見えないなど至極当然であるが故に―--!!

「ナックル―――!!」

 ギンガのリボルバーナックルが紫電を伴い、回転する。

「アロン―――!!」

 シンのアロンダイトが炎熱を伴い、赤熱する。

「バンカー――!!!」
「ダイト―――!!!」

 三度、拳と剣が激突する。
 空気が帯電し、衝撃が旋風となって周囲を駆け巡る。
 退かぬ女と男の鍔迫り合い。

「シン・アスカアアアアッッ!!」
「ギンガ・ナカジマアアアアッッ!!」

 両者が、自身の得物を“振り抜いた”。
 瞬間、爆発が起きた。爆風が吹きぬける。その場にいた皆の髪を揺らし、空気が振動する。
 片方が押しやられる訳ではなく、互角であるが故にぶつかり合いによって空間に留まった魔力が行き場を失い爆発した。
 その衝撃で二人の距離は再び離れた。
 そして―――シンの瞳が変わる。
 何かを狙っているような瞳から、何かを決意したような瞳へと。燃える炎は、射抜く矢となり、ギンガを見つめる。
 そして、ギンガもそれに気付く。彼が、何かを仕掛ける気なのだと。

「・・・・アスカさん、狙っとるな。」

 八神はやてがシンの瞳の色が変わったことに気付き、呟いた。

「はい。恐らく次の一合に勝負を賭けるつもりなのでしょう。」

 シグナムもそれに続く。
 歴戦の勇士たる彼女もまたそれに気付いていた。

「・・・・シグナムはどうなると思う?」
「・・・言いにくいことですが、ギンガの完勝ではないかと。」

 主が執心する人間に対する態度ではないかとも思いながらシグナムは返事を返した。
 けれど、恐らく自分の意見はここにいる大多数―――否、全ての意見であるとは思っていたが。

「ヴィータは?」
「あたしも同じ。見込みはあるけど、まだ早いぜ、アイツには。」

 あっさりとそう言い放つヴィータ。
 後方のシャマルも同じく頷き、犬の姿のままのザフィーラも頷く――と言うか、ワンと吼えた。恐らく「私もだ。」と言いたいのだろう。

「やっぱ、そう思うんやな。」

 はやては、自らの家族でもある彼らの意見を聞いて、そう答えた。
 その口調には諦めと寂しさと・・・・そして、少しだけ期待が込められていた。

「主はやては・・・・違うのですか?」

 シグナムははやての言葉に込められたソレに気付き、怪訝な顔で聞き返す。

「私は・・・・もう少し、見てるわ。まだ、分からんよ。」

 だが、はやてはソレについての返答を避けた。まだ、答えるべき時期ではないと。

「主はやて?」
「はやて・・・?」

 シグナム。ヴィータ。
 二人が同時に怪訝な顔をする。
 はやては、それに取り合うことなく観戦に集中する。
 ―――シン・アスカはギンガ・ナカジマを超える。
 その一抹の期待に賭けて。

「・・・・・行きます。」

 シンが、呟いた。
 これまで、基本的には逃げに徹していたシンが真正面から突進してくるというのだ。
 先ほどのように流れが向こうにある訳ではない。一度流れが切られた以上、現状はそれまでと同じく距離を取るのがベストだと言うのに。
 そして、その呟きと同時、ギンガが構えた。
 その構えは、これまでとは違う構えだった。右手を下げ、左手を顎の辺りにまで上げ、僅かに身体を前傾した構え。ボクシングで言えばデトロイトスタイルに近い。
 今のギンガに油断は無い。手加減も無い。突進してくると言うのならば、簡単なことだ。
 正面からカウンターで撃ち貫くのみ。故にこの構え。これはギンガにとって最もカウンターを放ちやすい構えである。

「・・・・・」

 無言でシンが走る。速度はこれまでで最高。振りかぶったアロンダイトにその速度を上乗せして一刀の元に切り伏せるつもりなのだろう。
 だが、甘い。
 如何に最高の速度とは言え、直線的過ぎる。そんな攻撃はカウンターを合わせてくれと言っているようなモノだ。
 落胆が生まれる。
 シンはその表情を見逃さない。落胆すると言うことは彼女は“罠”に気付いていない。
 速度を緩めることなく、シンは突進する。

「―――アロンダイト。」

 言葉と同時に刀身が赤熱し、振りかぶったソレを叩き付ける。
 そしてアロンダイトが振るわれるよりも僅かに速く、構えたままのギンガが身体を動かし始める。
 シンの肉体に一撃を撃ち込む為にタイミングを計り、そして交差に向けて全身を動かす瞬間―――違和感を感じ取る。

(――変だ。)

 別に何があったと言う訳ではない。強いて言うなら虫の知らせ。そんなレベルだ。そんな小さなレベルで何かが伝えている。
 危険だ、と。
 それは近づくことでシンの瞳の内面に気付いたからか。シンの瞳の内面に確かに見える。“罠に嵌めた”愉悦に。
 そこで気付く。
 シンの右手が既にアロンダイトを“掴んでいない”ことに。
 彼は両手で振りかぶり、両手で振り抜く振りをしながら、ギンガがカウンターを始める僅かに数瞬前に右手を離していた。
 左手一本で振りかぶったアロンダイトは狙いを保つことなど出来ず、既にあらぬ方向に向かって振り抜かれ始めている。
 そして自由になった右掌が、しっかりとギンガに向けて狙われていた。

「っ――――!!?」

 ギンガは、“見た”。シンの掌に集まる赤く輝く小さな光球を。
 魔力を変換し収束し、自身の限界まで圧縮し、そして生まれた魔力球の一部分のみを開放させ、間欠泉のような勢いで炎熱の魔力を撃ち放つ。
 それが今、正にギンガの眼前に展開されている。
 カウンターを狙っていたのはギンガだけではなかった。
 シンもまた彼女がカウンターをしてくると読み切って、それにカウンターを合わせる腹積もりだったのだ。
 罠とはこれだ。彼は身体を張って、彼女の意識をアロンダイトにのみ集中させた。シン・アスカの切り札はアロンダイトしかない。そう“思い込ませる”為に。
 シンの口が開く。今、打ち放たれるそれこそが、シン・アスカがこの2週間で作り上げた近接“射撃”魔法

「パルマ―――フィオキーナ!!!」

 朱い光球が爆ぜた。威力は申し分無い。それはその名の如く、“掌の槍”として彼女を貫くだろう。
 だが、ギンガ・ナカジマはその只中にあって、未だ諦めてはいない。
 繰り返すが乙女とは猪突猛進究極無比。
 この程度の障害で終る訳にはいかない。何故なら、彼女もまた“切り札”を出していなかったのだから。
 そして、シンがその魔法を放つ寸前、ギンガが叫んだ。

「ブリッツ――キャリバアアアアッッ!!」
『Calibur shot, Maximum.Cartridge overload!!』

 ブリッツキャリバーが応える。言葉の意味は一つ。それは一人の女が全身全霊を放つ為に決めた言葉。
 リボルバーナックルが回転する。カートリッジが高速で3発連続リロード。
 彼女の身体はそれまでよりも更に一歩踏み込み、左腕を振りかぶるような態勢へと無理矢理に移行する。
 身体を前傾させた、背負い投げのような構え。それは身体ごと全身の全ての力を叩き付ける全力の一撃を意味する。

「リボルビング――――」

 言葉を紡ぐ。自身の切り札。
 洗脳されて敵となり最愛の妹と殺しあったその怒り。
 二度と負けないと誓ったその信念。
 そして、初恋であるが故に限りを知らないその恋慕。
 それら全てを織り交ぜた一撃。それが今、全てを穿ち貫く。
 それはスバルですら見た事が無い、この数ヶ月でギンガが編み出した新たな魔法。
 背負い投げでもしようというほどに前傾した構え。

「ステ―――――ク!!!!!!」

 叫びと共にギンガの左手に収束し、回転し、形作られるソレは正しく杭(ステーク)。
 その正体は積層型シールド。つまり、トライシールドを幾重にも張り出して形状変化させ、回転させたモノ。
 カートリッジをリロードすることによって魔導師は一時的にその魔力量を増加させることが出来る。
 だが、リロードした瞬間の魔力量は吹き上げるマグマのように、落ち着いた状態の魔力量よりも少しだけ大きい。
 ギンガはそれを利用して攻撃の瞬間にリロードを連続で行い、魔力量を極端に上げたのだ。
 瞬間的な量のみの話ではあるがはそれは凡そオーバーSランクの魔力に匹敵する。
 それによって形作られる杭(ステーク)。それは回転し螺旋の流れを生み出し、魔力の流れを強制的に拡散させていく。
 その前では如何なる威力の魔力砲撃であろうとも、螺旋の流れの前に穿ち拡散し、用を為さない。
 シンの放ったパルマフィオキーナもその前に拡散し、意味が無い。迫り来るその拳を押し留めることすら出来ない。

「くっそおおおおっっ!!」

 我武者羅に魔力を注ぎ込むシン。だが、右手から噴出した朱い間欠泉はその流れを粉砕され、無意味に他ならない。
 絶望感が押し寄せる。
 負ける。
 自分は此処で負ける。

(こんなところで俺は終るのか。)

 そして、拳が到達する。
 ――瞬間、脳裏で何かが弾け散る音がした。同時に胸の奥で、何かがドクンと鼓動した。


「・・・・終わりだね。」

 フェイトは観客席で小さく呟いた。
 終わってみれば、結果は当初の予想通りにギンガの勝利。実際にギンガは最後こそ危うかったがそれでも力押しで彼を倒した。
 その差は本当に紙一重。あの一瞬の攻防の天秤が僅かにでも彼に傾いていればギンガの勝利は無かっただろう。
 それは膝を付き、息を切らしている彼女を見れば一目瞭然だった。

「・・・ギンガ?」

 戦いは終った―――はずだ。あの後シンはギンガの一撃を喰らい、吹き飛ばされた。
 如何に非殺傷性設定とは言え、あの一撃は死にはしないにしても相当の痛みを伴うはず。だから、彼女は直ぐにでも救護班が駆けつけると思っていた。
 だが、当の本人であるギンガが未だに彼の方に視線を向けている。そして、バリアジャケットを解く気配が無い。
 そして、親友である八神はやても同じくそれを止めようとする気配が無い。

 ――あの瞬間、フェイトからは角度の関係で見えなかったのだが、シンはギンガの拳が当たる瞬間、自身の飛行制御を完全に解除していた。

 パルマフィオキーナほどの威力の攻撃を支え無しで放てば当然使用者の―――シンの肉体は放出方向とは逆に吹き飛んでいく。
 限界まで膨らんだ風船に針を刺せばあらぬ方向に飛んでいくのと同じ理屈だ。
 あの瞬間、シンはそれを行った。
 拳が当たった瞬間、自身の飛行制御を完全に解除し、パルマフィオキーナの勢いそのままに後方に自ら吹き飛び、地面に激突した。
 その為、殆どの人間がギンガの一撃によって吹き飛んだと勘違いしたのだ。
 ギンガは吹き飛ばされた方向を見据える。
 まだ終わってなどいない。
 シンはリボルビングステークを避けられないと悟るとその威力を少しでも“殺す”為に、自ら後方に飛んだ。
 地面に叩き付けられる衝撃とギンガの拳。そのどちらが致命的かを一瞬で判断し、躊躇など一切無く実行した。
 その判断。その行動。諦めることが無い為に行うその無茶苦茶。
 八神はやては笑顔を隠しきれない。
 シグナムは驚きを隠しきれない。ヴィータもまた同じく。
 その無茶苦茶は、あの、化け物に相通じるものがあったから。
 シンが激突したことで上がっていた噴煙が晴れていく。
 そしてギンガはそこに見つける。
 自身の思い人を。

「・・・・シン。」

 シン・アスカが幽鬼の如くそこに立っていた。

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